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閑話 侍女見習いアンジェリカ王都へ行く4

 本日四話目です。お間違えなきよう願います。


 後宮に戻ったアルカイト様ですが、王妃様は不在だったため、応接室で暇つぶし中です。


「これだったら子供会で遊んでいた方が良かったかな?」

「なんなら戻りますか?」

「颯爽と帰ったのに、出戻りとか恥ずかしすぎます」


 なんと。

 悪魔にも羞恥心が有ったのですね。


「では、私と今後についてお話ししますか?」

「そうだね。話していれば考えもまとまるかもしれないし」

「まず、アルカイト様は、今回の状況についてどうされるおつもりなのですか?」


 彼の事ですから、すでに何らかの考えが有るはずです。


「やることは簡単だよ」


 簡単と言い切りやがりましたよ、この悪魔は。


「こっちの事など構っていられないくらい大変な状況に追い込んでやればいい」

「それは簡単に出来るものなのですか?」

「去年までなら難しかったかもしれないけど、運がいいことに、今は闘うための武器がある」


 運が有りませんでしたね。

 あの王孫達は。

 こんな幼い子供が大悪魔だなんて誰も思いませんからね。


「今はというのは、あれですか?」

「ええ、『パソコン』がこちらの切り札となります。まあ、ちょっとした嫌がらせもしますが」

「嫌がらせですか」

「おばあ様を通じて、おじい様に厳重注意していただきます」

「国王様がその様な事をなされますでしょうか?」

「しますよ。当然の抗議ですし、おばあ様もおじい様も僕に甘々ですから」


 うわあ、ジジ馬鹿ババ馬鹿を利用しやがりましたよ。


「冗談はさておき、王の仕事のひとつが貴族間の調停ですからね。正式に申し出られたら対応しない訳にはいかない。しかも正当性は僕らに有る。厳重注意とまではいかなくても、彼らがやった事実は公的な記録に残る。子供をだまくらかして秘密を聞き出そうとした恥ずかしい記録がね。それはすなわち貴族として王族としての傷になる。王子たちは対応にさぞかし苦労するだろうね。あの王孫たち、無事に済むと良いのですけど」


 無事に済むはずがありません。

 親族の失態はその当主の責任。

 それが貴族の常識です。

 自分は知らなかったではすみません。

 当主には監督責任があるからです。

 だから子供は厳しく育てられますし、うかつな行動を取る子供はデビューできないし、叙爵もされません。


 叙爵されれば、本人が当主となるので、影響は限定的ですけどそれでも親族であるという事実はなくなりませんので、叙爵は慎重に行われます。

 デビュー前の子供であればまだ挽回の機会が与えられるでしょうがデビュー後となれば、一度の大きな失敗が致命傷となりかねません。

 あのふたりが二度と社交界に出てこないとしても私は驚きませんね。


「無事に済むとは思っていませんよね?」

「まあ、あれでは貴族になる方が不幸でしょう。ここでうまく貴族になれたとしても、後でもっと大きな失敗をして、地位どころか命も失いかねませんからね。あの迂闊さではそれも遠くない未来に」


 こんな化け物がいる貴族界から早々に退場できて幸せだったかもしれませんね。


「それにしても想像以上に後継者争いが激しくなっていたのですね。田舎に引っ込んでいたらわからないことでした」

「第一王子と第二王子の争いがですか?」

「いえ、第一王子派と第二王子派の争いです」

「派閥ですか?」

「ええ、家もそうですが第一王子と第二王子は基本、領地に引っ込んでいますからね。裏で動いているのはそれをささえる貴族たちです。おそらく王孫たちもそんな貴族たちにそそのかされたのでしょう。第一王子も第二王子も今は王都に滞在していないはずですし、僕がこちらについたのは四日前で、この会に出席すると決まったのは今朝です。あまりにも行動が早すぎます。これは後宮にネズミでも居るのかな?」


 ネズミって間諜ですか?


 基本後宮内でのことは外へ漏らさないことになっていますが、こっそりやる分にはわかりませんからね。

 後宮に居るのは貴族の令嬢やその親類だけですから、どこかとつながっているのは間違いありません。すでに有名無実となっていてるのでしょう。

 後宮には第一王子と第二王子の母親もいますから、そちらの線からの漏洩でしょうか?


「まあ、おかげで一泡吹かせられたので、良しとしましょう」


 幼い子供と侍女見習いしかいない場所で、情報を得るというのは、本来ならすばやく優れた対応だったのでしょうが、そこにいたのは訓練された侍女見習いと、それを訓練した悪魔でした。

 半人前の貴族もどきなど一捻りです。

 敵の敗因は悪魔と知らずに手を出したことでしょう。

 敗因って、すでに向こうが負けるものと思っていますね、私。

 訓練されすぎでしょう。


「王孫たちはそれでいいとして『ぱそこん』でどうやって戦うのですか?」


 確か『ぱそこん』は魔導具、つまり下級の魔石を使っているので、武器としては使えません。

 それだけの出力が得られないと聞いています。

 魔石を中級に換装して戦うとでも言うのでしょうか?


「こちらも簡単だ。僕のというか父上の派閥に入らないと『パソコン』を売らないだけです」

「それだけですか?」

「それだけです」

「そんな策で大丈夫ですか?」

「問題ありません」


 彼はそう言い切ります。

 『ぱそこん』は確かにまったく新しい魔導具ですが、しょせん魔導具です。

 それが有るのとないのでそんなに変わるものでしょうか?


「『パソコン』があれば、文官仕事の効率が二倍から三倍になります。魔導士爵ならさらに効率が上がるでしょう。どうなると思います? 自分の二倍も三倍も働く文官が自分の隣りにいたら。それが『パソコン』のせいだとしたら。しかも仕事が出来るということは出世も見込める」

「私も『ぱそこん』が欲しくなります」

「でも、派閥に入らないと売ってもらえません」

「なら、派閥を移動して…って簡単には移動できませんよね?」

「もちろん、そんなことをしたら裏切り者ですからね」

「じゃあ、派閥は増えないじゃないですか」


 派閥が増えないと力を増やせませんし、相手の力も削れません。


「現在無所属の貴族は派閥に入ってくれますから、派閥は増えます」

「中立や対立している貴族を取り込むつもりですか?」

「全部の中立対立貴族を取り込めば、約三分の一の貴族が取り込めます。十分戦える数です」


 本気で王位を狙うつもりですか?

 私は恐ろしくなりました。

 やろうと思えばやれる事実に。


「しかも仕事の効率が上がれば領地経営に余裕が生まれます」

「前にアルカイト様がおっしゃっていた、お金儲けに人が割けるというやつですか?」

「そうです。『パソコン』を導入した領地は貴族に余裕ができるし、うちでもやっている『財務諸表』が簡単に作れるようになる。より戦略的な領地運営ができるようになるのです。『どんぶり』勘定では到底太刀打ちできません」

「でもそれではその領地が富むだけではないのですか?」

「富というのは富んでいるところに集まるものなのですよ。富が富を呼ぶといいますか。富があればやれることが増える。やれることが増えれば、富を得るチャンスが増える。逆もしかりです」

「つまり『ぱそこん』を活用する領地だけが富、その他は衰退するということですか?」


「領地経営というのはある意味競争ですからね。競争に負ければ衰退するのも当然のこと。そして競争に勝つには人をどれだけ効率よく使えるかにかかっています。『パソコン』はそれを劇的に改善します。特に魔導士爵は仕事がなくなるでしょうね。ひとりが十倍とかの仕事をされたら、仕事が増えない限り九人は仕事がなくなるってことですから」


 悪魔です。いえ魔王です。

 貴族社会をぶち壊す魔王がここにいます。


 魔導士爵は独立採算との話ですから、このままでは食えなくなる貴族が大量に出てきます。

 まあ、シーケンスを組むだけが魔導士爵の仕事ではないので完全に仕事がなくなる訳ではないでしょうが、収入は大きく減じることとなるでしょう。


「そしてこれを領地の商人にも適用します。財務諸表ってそもそもが商業のためのツールですからね。商人の採算性が上がれば、採算性の低い商人はやっていけませんからね。当然なんとか手に入れろと、上を突き上げてくるでしょうし、それでも対応できないと潰れるか、他領に移籍する商人も出てくるでしょう。それを禁じれば民に不満が出てきます。第一王子派と第二王子派はどうするんでょうね」


 本当にどうするんでしょう。


 この魔王に睨まれて無事に済むとも思えません。

 ただ冥福を祈るだけです。

 あっ、まだ死んでませんでした。

 私としたことが、気が早すぎましたね。

 ちゃんと死んでから祈りましょう。

 私は彼と敵対した運の悪い方々の行く末に思いを馳せたのです。



 よく訓練されたxxといえばフルメタル・ジャケットですが、元ネタの映画を見ていなかったので、このセリフを言ったのはずっとハートマン軍曹だと思ってたのですが、全然別人のセリフでしたw

 割とあちこちで見かける表現ですので、どの作品が元ネタか誰のセリフかよくわからずに使っていることがあります。

 この作品内でも、いくつかパロってる台詞があるかと思いますので、探してみてください。


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