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閑話 侍女見習いアンジェリカ王都へ行く2

 本日二話目です。お間違えなきよう願います。


 今日は昨日に引き続きお仕事です。

 なんでもアルカイト様が、王都の子供会に参加するというので、私はそのお供です。

 子供会というのは、王都の貴族の子女が集まって、顔合わせをしたり、遊んだり勉強したりする会のようです。

 出席するのは子供のほかは母親が付き添う場合が多いようです。

 母親が付き添えない場合は侍女や侍従などが付き添ったりします。


 ここに来るのは四、五歳からデビュー前の一二、三歳くらいまでの子供です。

 デビュー後でも時たま顔を出す者も居るようですけどあまり多くはいないそうです。

 王都ではデビューすると基本的にどこかで見習いとして働き始めたり、女子なら社交と言う名の花嫁修業をしたり、時折行われるパーティーなどへ出席したりと公式の場に出ることも多くなるので、子供会に出る時間がなくなっていくそうです。

 アルカイト様も一応子供ですので、参加する資格はあるのですが、私には違和感ありまくりでした。

 とてもまともとは言えないアルカイト様が子供たちと一緒に遊ぶ?

 うっかり洗脳とかしないと良いのですが。

 残念なことに『はりせん』は持ってこれませんでした。

 領内ならいざしらず、外でアルカイト様をすぱこーんとやってしまうと、不敬罪で捕まるからです。


 悪魔(・・)でも王孫ですからね。


 事情を知らない者からしたら不敬以外の何物でもありません。

 しかし私は神の鉄槌無しにアルカイト様をお止めしないといけないわけで、とてつもなく困難な仕事を割り振られたような気がしてきました。

 ああ、暇な時が一番マシだったとか、何という皮肉でしょう。

 嘆いていても仕方がありません。

 私は私の仕事をまっとうするだけです。


 子供会は王宮の別宮で行われます。

 お部屋からお庭へ直接出られるようになっており、今の時期だと晴れていればお庭で、雨の日は室内でということらしいです。

 今日は晴れの日なので、子供たちは外へ。

 母親たちは東屋でお茶をしながら子供たちの様子を眺めています。

 そんな子供たちの群れに進んでいくアルカイト様。


「やあ、みんな、初めまして。僕はアルカイトだ。仲良くしてくれると嬉しい」


 気さくですけど子供っぽくない挨拶で子供たちの輪の中に入っていきます。


「あーかいとしゃま?」

「アルカイト、まあ、アルでいいよ」


 まだ四、五歳位の幼女に目線を合わせながら答えます。


「あるしゃま! あたしね、りーんしあ。みんなはね、しあって呼ぶの」

「そっかー。シアか、いい名前だね」

「えっへっへ」


 幼女が照れてはにかみます。

 幼女キラーかこの悪魔は。


「あるしゃま、あしょんでくれりゅ?」


 可愛らしい幼女のお願いにもちろん快諾するアルカイト様。

 マリエッタ様にも甘々なので、幼女スキーかもしれません。


「もちろんいいですよ」

「やったー。おねーしゃまありがとう」

「ぶっ」


 思わず吹き出してしまいました。

 なんか、芝生の上を笑い転がりたい。

 私が必死に笑いをこらえていると、アルカイト様が恨めしそうにこちらを見ます。


「えっとね、おねさまではなく、おにいさまだから」

「うみゅ? おねにーしゃま?」

「ぐふ!」


 芝生の上でばんばんしたい。

 幼女にはアルカイト様の性別が区別できないようです。

 いえ、私だって未だに疑っていますからねぇ。

 どこのお姫様かと思うくらい可愛らしいですから。


「おい、どう思う? あれで男だと?」

「男装の少女か? 女装の男か?」

「いや、女装はしてないだろ」

「本当だ。なんだかあの顔を見ていると服まで可愛らしく見えてくるな」

「全くだ。あれで男だとは信じられんぞ」

「前に小説で読んだんだが、後継ぎの生まれなかったある貴族の当主が自分の娘を男と偽って育て、親族との家督争いを収め、後継ぎが産まれるまでの時間を稼いだという話だ」

「なるほど、本来女だが男のふりをしているというのだな?」

「ああ、そうに違いない。あれで男のはずがないからな」

「だが、それは秘密にしなければならないのだな?」

「バレれば骨肉の争いが勃発する。ここは知らぬふりをするのが紳士というものだ」

「そ、そうだな」


 年長の男の子たちの間では、秘密を抱えた男装の少女で決着がついたようです。

 うぷぷぷ。


「……秘密とかないから」


 ひとりつぶやくアルカイト様ですが誰も信じていないようです。


「えっと、もう一度言ってみようか、おにいさまって」

「おにいしゃま?」

「そう、よくできました」

「えっへっへ」

「良い子の君には良いものを見せてあげましょう」

「いいもの?」

「はい。気に入っていただけるといいのですが。では行きますよ」


 アルカイト様はポケットの中から何かを取り出し、つぶやきます。


「『フラワーガーデン』起動」


 とたん、溢れ出る光の渦。


「わー、きれー」


 芝生が花畑に変わり、空からいくつものお花が降ってきます。


「…魔法」


 私は思わずつぶやきました。

 よく見ればそれは少し透けて見えます。

 アルカイト様を中心に半径二メートルほどでしょうか。

 私とアルカイト様と、幼女を巻き込んで、その中を幻影魔法でお花畑に変えたのです。

 魔法は貴族になる可能性のある者にしか教えられませんので、私は魔法の授業から遠ざけられますし、アルカイト様が魔法を予習復習しているときにも私は部屋には入れません。

 そこでアルカイト様が何をしているかはうかがい知ることができなかったのですが、きっとこれはアルカイト様が作ったのだと確信できました。


「えい、えいっ! きゃー。きれー、きれー」


 信じられないことに、降り注ぐお花に触れるたび、一輪のお花が弾けて花びらとなって、はらはらと舞います。

 普通幻影魔法は現実のあるいは非現実的な映像を映し出すだけのもので、人の動きで変化するようなものは見たことがありません。

 私の実家でもお父様が王都の様子を幻影魔法で見せてくださったり、お抱えの魔導士爵たちが作った幻想的な幻影を見せてくださったりしていましたが、範囲こそ部屋いっぱいに映し出されていましたが、触っても透けてしまうだけで、こんな反応を見せる幻影など存在することさえ想像の埒外です。

 それは周りで見ていた親たちや侍女や侍従などのお供たちも同じようで、皆目を丸くしてこちらを見ています。


「なになにー」

「しゅごーい」

「きれー」


 周りにいた幼女たちもアルカイト様の周りに集まってきてはしゃぎまわっています。

 かわいいです。


「アンジェリカ、どう思う、この魔法」

「はい、可愛らしいです」


 私は正直に答えます。


「マリエッタにも喜んでもらえるかな?」


 この『しすこん』はマリエッタ様のためにこんなもの作っていたのですね。


「そうですね。喜んでいただけるかと思います」

「そうか。じゃあ、こんなのはどうかな? 『フェアリーガーデン』起動」


 アルカイト様はもう一つ魔法を起動したようです。


「わー。はね、おはねがあるー」

「あ、あたちもー」


 幼女たちの背中に透明な羽が生えていました。

 いえ、幼女だけではなく私やアルカイト様にも。

 よく見れば私達が動くたびに羽がぱたぱたと動いてとても可愛らしいです。

 アルカイト様が一番似合っているのが皮肉でしたが。


「な、なんだ、あれ?」

「ま、まほうだ。すげー」

「あの令嬢、いや令息のフリしている令嬢? もう魔法を使えるのか!?」


 周りで見ていた男の子たちも大騒ぎです。

 こちらは可愛らしい景色より魔法そのものに驚いているようです。


「なんだこれは? いったい誰が作ったのだ? こんな魔法」

「さぞ有名な魔導士爵が作ったのでしょうね」

「アルカイトと名乗っていましたがどこの家のものでしょう?」

「服装を見る限りかなり位のある家のようですが」


 アルカイト様は家名を名乗りませんでしたからね。

 成人前の子供は貴族名鑑にも名前が載りませんし、お披露目もされませんので名前だけではどの家の者かはわかりません。

 それゆえ、大人たちはどこの家の者か気になっているようです。


「でも、魔導書を持っていませんね? 魔導具かしら?」

「そうですね。表示範囲も狭いようですし、一体どなたが作られた魔導具かしら」

「うちにも欲しいわ。あの子に聞けばわかるかしら」


 作ったのはこの悪魔です。

 まるで天国と錯覚するほどの幻影を作ったのが悪魔だとは何という皮肉でしょう。

 いえ、悪魔だからこそ作れたのかもしれません。

 人に偽りの天国を見せて惑わすのです。


「わーい……あれ? きえちゃった」


 幼女がはしゃぎすぎて効果範囲の外に飛び出してしまったようです。

 範囲は半径二メートルくらいですからね。

 跳ね回っていればすぐに外に出てしまします。


「これは要改善ですね」


 幼女を輪の中に戻してそうつぶやきます。

 幼女まみれになりながら、魔法の改善を考えるとか、人としてどうなんでしょう?

 まあ、幼女にデレデレする男の子っていうのもなんですが。

 そうこうしていると、幻影がすうっと消えていきます。


「あれ、きえちゃった」

「おにーちゃまもっとー」

「おはね、おはねがきえちゃったのー」


 幼女が集まってアルカイト様に詰め寄ります。


「ごめんね。魔力が切れちゃったんだ。今日はもうおしまい」

「えー。もうおわりなの?」

「おにーしゃま、もっとあしょびたい」

「うーんこまったな。魔力の充填にはもう数時間かかるし。……そうだ。アンジェリカ。毛糸とハサミをもって来てもらえるかい」

「毛糸とハサミですか? わかりました。毛糸の色はなにか希望はありますか?」

「用意できれば何でも良いよ」


 何をする気は知りませんが、なにかする気なのでしょう。

 まさかとは思いますがぱんつでも編むつもりなのでしょうか?

 私は訓練された侍女見習いですから、理由を問うこともなしに近くに控えていたメイドに毛糸とハサミを用意させます。


「アルカイト様、毛糸とハサミが届きました」

「じゃあ、それをこのくらいで切って端を結んで……」


 アルカイト様は毛糸を切って輪っかにしてしまいました。

 それではぱんつを編めませんよ。


「これは『あやとり』っていう遊びで、ちょっと見ててね」


 アルカイト様は輪っかにした毛糸を指に引っ掛け、そしてなんとも複雑な形にしてしまわれました。

 しかもそれがどんどん形を変えていくのです。


「はい、お星様…これが『東京タワー』……箒」

「すごーい。どうやってるの?」

「わーい、おほしさまだ」

「おにーしゃま、しあにもおしえて」


 再び幼女まみれになるアルカイト様。


「もちろん良いですよ。アンジェリカ、同じように輪っかをたくさん作ってくばってあげて」


 私はメイドが持ってきたハサミと毛糸でいくつもの輪っかを作って幼女たちへ配っていきます。


「じゃあ、みんなよく見ていてね」


 アルカイト様はさっきやってたことをゆっくりやってみせます。


「あれ? あれ?」

「こう? うにゅー」


 必死に真似しようとする幼女。

 かわいいです。


「できたー」

「わたちも!」


 できた作品を見せ合う幼女たちも可愛らしいです。

 それにしてもアルカイト様はこんな遊びどこで覚えたのでしょう。

 マリエッタ様とやっているところも見たことありませんし。

 周りにいるお母様たちもお微笑ましく見ていました。

 先程の魔法に比べれば全くおとなしいものですからね。


「あれは、女の遊びだよな?」

「ちまちましてるし、僕たちにはちょっと合わないよな」

「やはり、跡取りに仕立てられた令嬢か?」


 幼女受けは良いですけど、男の子にはイマイチのようです。


「男の子向けの遊びかー。野外だしあれが良いか。…アンジェリカ、紙を、そうだね一〇枚ほど持ってきてくれるかい」

「かしこまりました」


 私はメイドに命じます。

 訓練された侍女見習いはいきなりのお願いでも慌てません。

 程なくメイドが紙を持ってきます。


「じゃあ、男の子の遊びはじめるよー」

「男の子の遊びだと」

「女の子が無理しているんだから、優しく見守っていこうぜ」

「そうだな」


 男の子たちはアルカイト様の周りに集まってきました。


「じゃあ、君たちはちょっとみんなで練習していてね。できるかな?」

「できるー」


 幼女たちは元気いっぱい答えて、みんなで教え合いながら『あやとり』の練習を始めます。

 男の子たちはアルカイト様に続いてテーブルのある場所へ移動です。


「じゃあ、この紙を使って『紙飛行機』を作るぞ」

「『かみひこーき』?」

「えーと。紙で作る鳥だね」

「鳥を紙で作るの? そんなの無理だよ」

「しっ! 令嬢が一生懸命頑張っているんだから、否定するようなことはやめろ」

「そ、そうだな。紳士たるもの女性には優しくだ」

「…だから令嬢じゃない」


 アルカイト様のつぶやきは誰も聞いていません。


「ここに取り出したる一枚の紙。種も仕掛けもありません」


 アルカイと様はそういいつつ紙を折り曲げていきます。

 ああ、もったいない。

 植物紙は羊皮紙にくらべて安いとはいえ結構な値段がします。

 子供のおもちゃとするにはもったいない値段がするのです。

 周りで見ていた母親や従者たちも目を丸くしています。


「紙をあんな風にするなんてありえないわ」

「あんなに無造作に扱えるとは」

「やはり上級貴族のようですね」


 アルカイト様はなにかといえば紙を大量に使いまくりますからねぇ。

 私はだいぶ毒されてきていますので、もったいないくらいの感覚ですけど、普通はありえないと思うものでした。


「ここをこうやって、こうで、こう」


 何度も紙を折り曲げ、そしてなんか鳥っぽい形になっていきます。

 あくまでそれっぽいといえばそうかなというくらいで、そんなに似てはいませんが。


「よしできた」

「…どう思う?」

「鳥? びみょうかな?」

「大丈夫。鳥だ、立派な鳥だよ。何の鳥かわからないけど」


 生暖かい眼差しで見やる男の子たち。


「まあ、形はちょっと違いますが、これは飛べるんです」


 アルカイト様はそれを空に向かって放り投げます。


「すげー! 飛んでる」

「くるってまわった!」

「風に乗ったぞ! また上に上がった!」

「ああ、落ちるー」


 結構長い間祇の鳥は空を飛び地面へと落ちていきます。


「魔法?」

「いや、魔法じゃないよ。ちゃんと作れば君たちだってできる」

「ほ、ほんとか!」

「教えてくれ」

「ししょー!」


 今度は男児まみれですね。

 どう見ても男の子に囲まれるお嬢様にしか見えませんけど。


「アンジェリカ、みんなに紙を配って。…みんな準備はいいか?」

「いいぞー」

「じゃあ、まずは紙を半分に折ります。……端と端はキチンと合わせないとちゃんと飛ばないですから気をつけてくださいね」


 アルカイト様はひとりひとり折り方を指導しながら、折り進めていきます。


「…これでおわりです。みなさんできましたか」 

「できたぞ」

「ばっちりだ」

「よろしい。では、飛ばしてみましょう。あんまり力を入れると壊れますので、最初はゆっくり前に押し出すような感じで手を離してください」


 彼の言葉に従い男の子たちは自ら作った『紙の鳥』を飛ばします。


「おー」

「飛んだ」


 あるものはまっすぐ、あるものは旋回しながら。

 またあるものは上昇と急降下を繰り返しながら飛んでいきました。


「飛んだ飛んだ!」


 子供たちは自分が飛ばした『紙の鳥』をはしゃぎながら追いかけて行きます。


「転ばないように気をつけて遊ぶんだぞー」

「はーい」


 男の子たちは元気よく返事して、また『紙の鳥』を飛ばします。

 今度はもっと早く投げて、高く飛び上がってしまった者や、力強く投げすぎて、一気に地面に衝突させる者なども出ましたが、皆楽しそうに芝生を駆け回っています。

 その傍らでは幼女たちが相も変わらず『あやとり』を一生懸命とっていますし、アルカイト様はあっという間に子供たちの心を鷲掴みにしたようです。


 さすが悪魔です。


 まずは信用させそして地獄に叩き込むのですね。わかります。

 この子達の未来に幸あれと祈らずにはいられない私でした。


 オネニーサマといえば言わずと知れた「MAZE☆爆熱時空」が初出と思われますが、こちらは完全に男女の人格が変わるのでこちらの主人公とは違ってまごうことなき「オネニーサマ」w

 こっちの主人公は男女が紛らわしいだけのなんちゃって「おねにーしゃま」なのでお間違えなきようお願い致しますw

 ちゃんと男の子です。

 実は女の子だったなんてことはありません。

 中身はともかく外見は天使(笑)なので、この手のネタは何度か出てくるかと思います。


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