閑話 侍女見習いアンジェリカ王都へ行く1
本日は閑話を五話投稿いたします。
例によって12時から1時間毎の投稿になりますので、前後しないようお気をつけください。
ここは後宮。
私はアンジェリカ。
大丈夫です。私は正気です。
あれよあれよという間に押し込まれた後宮。
もちろん私が国王様の愛人や王妃になったわけではありません。
アルカイト様が後宮にお泊りになるというので、急遽侍女見習いである私も後宮へ部屋をいただけることとなったのです。
後宮といえば、男子は国王様と一二歳未満の実子と孫までしか入ることができません。
あとは女官や侍女、メイドなどすべて女性だけで運営されます。
ここで重要なのは後宮での女性は国王様のお手つきとなる可能性があるため、若くて独身の女性が選ばれるということです。
下級のメイドなどはその限りではありませんが、侍女や女官は貴族家から見目の良い女性が集められているというのは後宮に入ってみてよくわかりました。
すれ違う人すれ違う人がタイプは違いますが綺麗で若い人ばかりです。
私もお手つきになるのかなとちょっと心配になりましたが、成人前の娘に手を出すと、国王様でも怒られるそうなので、私が手を出されることはないそうです。
どなたが王様を怒るかといえば王妃様方だそうです。
さて、身の危険はなくなったとはいえ後宮です。
ここに入れるものは貴族の女性でもごく一部。
本当に選ばれた人しか入れない秘密の花園。
私なんかがいていいのでしょうか?
そう思いながらも、アルカイト様がここにいらしゃるのであれば侍女見習いである私が傍に控えなくていい訳がありません。
アルカイト様といえばとても王孫とは思えないくらい気さくで変な子供ですので、普段王家に連なる者であることなど意識にも登りませんが、こうした扱いをされるとやはり王孫であると改めて思わされます。
王都に到着したときはもう夕刻であったため、食事のあとはそのまま部屋に案内され、就寝となりましたが、次の日はアルカイト様のところへは行かず、後宮での注意事項などを学ばされました。
国王様が出入りする場所ですから当然ですね。
後宮は特別なルールで運用される場所であり、それを知らないで普段どおりに振る舞ったりしたら、あっという間に処刑されてもおかしくありません。
例えば後宮では資格のある者以外国王様に不用意に近づいてはなりませんし、国王様の食べるものや着るものにも触れてはなりません。
場合によっては害する意思があったとみなされ、処刑されても文句が言えないそうです。
私はあくまでアルカイト様の侍女見習いなので、アルカイト様以外にお世話することはできませんし、国王様を始め王妃様にも近づくことはできません。
つまりアルカイト様が国王様や王妃様などと一緒にいるときは、近づけないので、お仕事はありません。
国王様はともかく第三王妃様がアルカイト様にベッタリなので、私の出番は全くありませんでした。
最初に出番が来たのは王都について三日目のことです。
なんでも二番めのお兄様が会いに来ていらっしゃるとのことで、私もお供で呼ばれました。
とはいっても後宮の中は案内がいなければ歩くのもままなりませんし、それは本宮も一緒です。
結局第三王妃様付きの侍女と女官にくっついていくだけの簡単なお仕事でした。
勝手のわからない私にやれることなど皆無なのですから。
その後また後宮まで帰ってきて、食事は国王様と第三王妃様とで摂られるというので、やっぱり私のお仕事はありません。
食事を摂りお風呂に入って寝るだけです。
私、何でこんなところにいるのでしょう?
全く役に立っていない穀潰しです。
しかも流石に後宮です。
侍女見習いの食事も立派なもので、とても美味しいのです。
公爵家でも実家より良いものを食べさせていただいていますが、元々田舎なので、食材などあまり変わり映えしませんし、調味料も塩のほかはいくつかのハーブ類に、野菜や肉を煮詰めたソースなどが主で、手は込んでいますが、バリエーションというものが少ないのです。
それがここでは侍女見習いの食事だというのに、おそらく公爵様が普段食べられているものよりずっと上等で変化に飛んだ食材を使い、スパイスなども多岐にわたります。
さすが王都の食事です。
私達侍女に回ってくるのは、国王様や王妃様方に出された残りをそのまま、あるいは再調理して出されるそうなのでこの豪華さ美味しさも納得です。
身分が下がるにつれてかさ増しされたり、品質の劣る食材でさっと作った料理が追加されていくらしいのですが、私は王孫の侍女見習いでしかもアルカイト様はお客様ということで、私の優先順は王妃様方のすぐ下の扱いとなったようです。
通常であれば私は侍女見習いなので、侍女の下ということになるのですが。
そんな立派な食事を頂いているのに、役に立っていないので、ものすごく肩身が狭いのです。
後宮に住んでいるのに後宮から出ないと仕事がないとか、私がここにいる意味が全くありません。
まあ、後宮を出ても全くやることがない、いえ、やれることがないのですけど。
王宮や後宮での侍女の役割は主人の話し相手を務めたり、服装を選んだり、スケジュール管理したりとか女官に指示を出すとかその程度しかなく、あとは女官やメイドの仕事となり、侍女は手を出せません。
手を出されるのが侍女の仕事と言っても良いようです。
私は成人していませんので、そちらの方も関係ありませんし、本当にやることがないのです。
せいぜい後宮のルールを覚えたり、ここにいらっしゃる王妃様方や侍女の皆さん、そして女官たちの顔や名前を覚えるとか、やれるとすればその程度ですが、うっかり近づくと不敬とされかねませんし、好奇心のままあちこちで聞きまくると間諜の疑いがかけられるというので、教育係の方以外とは必要最低限の用事以外は話さないようにきつく言われているので世間話さえできません。
暇です。
領地から暇つぶしにと持ってきた刺繍セットも、後宮では暗殺に使われる可能性があるとのことで取り上げられました。
代わりに与えられたのは、鈎棒と毛糸。
これから夏に向かうというのに何を作れというのでしょうか?
まあ、冬用のぱんつでも編みましょうか。
公爵様の領地は私の実家より寒い場所にあるので、暖房の入っていない廊下など結構冷えますからね。
今から作っておけば冬をこすのに十分な枚数が作れるはずです。
それができたら靴下かしら。
外へ出ることは殆ど無いのでマフラーや手袋は必要ありませんが、できるだけ体を冷やさないようお母様から言われていますので、冬に向けてがんばりましょう。
あれ、私何しに王都へ来たんでしたっけ?
一応この国では侍女、女官、メイドの順で地位が下がっていきます。
侍女は基本的に主人の身の回りの世話とお話相手が主な仕事で、女官はそれ以外の仕事の主に管理を行いますが一部実働も行います。
メイドは基本的に実働部隊で、清掃、子守、料理などの実作業を行います。
メイド長などは管理も行いますが。
さらにその下で汚れ仕事や肉体労働などする下働きなんかもいますが、基本貴族やその家族の見えるところには出てきません。
主人公のいる離宮では侍女の下はすぐにメイドになります。
一代で消える家なので人が来たがらず、侍女が女官の仕事を兼ねているってことになってます。
一応女官までが貴族の直系女子で、メイドは傍系ということになります。
下働きも一応傍系ですが、血統としてはだいぶ離れてしまいますが。