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兄上

「なんでこうなった」


 僕はベッドの中でつぶやく。

 その右側にはおばあ様。

 左側にはおじい様。

 その真中には僕。

 まさしく川の字になって仲良く就寝中だ。


「なにがおじい様の私室でちょっと話すだけだよ。ガッツリつかまっちゃってるよ」


 左右から抱きまくら状態の僕。

 王都一日目の夜はなにがなんだかわからないうちにおばあ様に確保されて、今日はおじい様とおばあ様とで取り合いになった上、夫婦なんだから一緒に寝ればいいよね、ということでこんな事になっている。

 なんでも、子供たちはデビューすれば大抵は見習いとして働くため後宮から出て行ってしまうし、息子たちは成人して数年後には代官として領地に赴き、娘は嫁ぎ先に、孫の多くはそれらの領地で産まれるため、孫というものが後宮に居ることがあまりないらしい。


 なにしろ与えられる領地はだいたい僻地だからね。

 そこへ幼い子供を連れて行くのは大変なので、領地へ移動するまで子供を作らない者も多いとか。

 そろそろひ孫ができ始める時期だが、ひ孫まで行くともう関係がうすすぎて、後宮まで連れてくることはないらしい。

 なにせひ孫はほぼ平民になることが決まっている。

 平民を後宮に入れるのはいかがなものか? というわけだ。

 久々に訪ねてきた孫というわけで、もう下にも置かぬ歓迎ぶりだった。


 さすがにおじい様はお仕事があるので、一日中べったりということはなかったが、おばあ様は、ほぼつきっきりだ。

 お風呂と女児服のファッションショーはなんとか逃れたが、親孝行ならぬじじばば孝行と思って耐えた。

 まあ、後宮探検とか結構楽しかったけどね。

 普通ならまず見れないものだし、一二歳以上の男子は入ることもできないからな。

 今のうち見て回ろうといろいろ歩き回ったが、まだ全部見れていないとかどんだけだよ。

 明日も見て回ろう。

 そう思いながら眠りについた。



 翌日も後宮巡りかなとか思っていたら、面会依頼が入っていた。


「父上ですか?」


 自分を後宮に突っ込んだまま連絡一つよこさない薄情な父親だ。

 一言文句を言わなければ。


「いえ、あなたのお兄様よ」

「兄上?」


 と思ったら意外な人物からの面会依頼だ。

 いや、意外でもないのか。

 王都の関係者となれば、父上の他は王都で仕官した兄上くらいしかいないからね。

 侍女を務める姉もいるはずだが、女性はそう気軽に面会や外出などできない。

 

「ええ、二番目のお兄様よ」


 二番めの兄上といえば三年前にデビューして文官見習いとして仕官して、確か今年成人したばかりのはず。

 僕が四歳の時まで領地にいたから一番馴染みのある兄弟でもある。

 一番上の兄様はそのひとつ上なので、三歳のときには外に出ていて僕も殆ど覚えていない。


「フレッド兄様でしたか。三年ぶりですね」

「覚えているの?」

「はい、四歳の時まで一緒にいましたから」

「なら良かったわ。許可して大丈夫ね?」

「お願いします。おばあ様」


 午後のお茶の時間に面会がセッティングされ、それまでは昨日の続き、後宮巡りをすることとなった。



 そして約束の時間。

 男子禁制の後宮に兄上は入れないので、場所を後宮から本宮に移動する。

 本宮には王族の私室やお茶室、食堂などのプライベートな空間と、執務室や謁見の間、控室など公的な空間がある。

 今回は本宮のプライベート空間にある応接室を使用した。

 僕はデビュー前だから公的空間には入れないしね。

 兄上は一応王孫なのでプライベート空間に入るのは問題ない。

 望めば王宮や離宮に住むこともできる。


 とはいえ孫の立場というのは結構微妙だ。

 正式に王族と認められるのは、父上が王になってからだ。

 今はおじい様が王なので直系の子孫であり、父上が王になる可能性もあることから、王族に準ずる存在。准王族として扱われることになる。

 准貴族と同じような立場である。

 それも父上以外が王に就任すれば、父上の立場は傍系王族となり、僕らからは準王族という肩書が消える。

 僕の子供はこのままだと慣例通り平民になるので、准王族とは扱われず、ここへ入ることはできない。


 さて、僕はおばあ様の侍女と僕の侍女見習い、それと女官に案内されて本宮の応接室へと向かう。

 おばあ様が後宮から出るにはかなり面倒な手続きと準備がいるからね。

 気軽に出歩ける立場ではない。


「こちらになります」


 女官がドアを開け、侍女に促され中に入ると、一人の男子が待っていた。


「やあ、アルカイト、久しぶりだね。僕のことは覚えているかい?」

「フレッド兄様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「相変わらずだね、アルカイトは。マリエッタみたいにおにーたまとか呼んでくれると嬉しいのだけど」

「もう、そんな歳ではありませんよ」

「そんなもこんなも、小さな頃からおにーたまとか呼んでくれたことないだろ?」

「そうでしたか?」

「そうだよ。というか、お前まだ小さいな。というか縮んでいないか?」


 兄が立ち上がり僕に並んで立つ。

 しばらく見ないうちに兄は巨大化していた。

 追いつくどころか差が広がっているだと!?


「縮んでいません、兄上。兄上が大きくなりすぎなのです」

「そうか? 確かにここ一、二数年で一気に伸びたからな。関節が時々痛むんだ」


 兄上は今年一五歳。

 伸び盛りだろう。

 父上も大きい方だし、兄上の母親である第二夫人も背が高い。

 背の低い第三夫人系とは明らかに系統が違った。


「父上とはもうお会いになりましたか?」

「ああ、昨日お会いしたよ。僕も今王宮に住んでいるからね」

「それならさぞかし驚いたのではありませんか? 兄上があまりにも大きくなっていて」

「そんなことはないぞ。父上は年に数回は王宮に来るからね。その都度顔くらい合わせているし」

「そういえば、時々王都に出かけていましたね。ちゃんと兄上たちと会っていたんですね」


 食事の時に話題になることもないし、会うこともないのかと思っていたのだが。

 あの顔を見るとそうは見えないが、意外に子煩悩らしい。


「こちらに来ると、必ず呼んでくれるよ。アルカイトが何をやらかしたとか、マリエッタが可愛いとか、まあ、そんな話題ばかりだけどね」


 なに話しているんですか父上は。

 マリエッタのことはともかく、僕のことはやらかしたことしか話していないんですかね。


「しばらく離れていたけど、なんかそんなに離れていた気がしないよ」


 僕の頭を撫でながら席につくように促す。


「まあ、王都での父上の様子を話してあげるから、ゆっくりしていってよ」


 女官がお茶の準備をしてくれたので、それを飲みながら、兄上ととりとめもない話をする。

 父上の様子から、王都での仕事のこと、それからお忍びで城下町を歩き回ったときのことなど。


「兄上は街に下りたことがあるのですか?」

「ああ、何回かね。王孫とはいえ第三王子のさらに次男だと結構気楽なものさ。アルカイトだって成人すれば、どこへだって行けるよ」

「成人ですか。あと七年位ですから、生まれてから今までのほぼ倍ですね」


 成人していないってことはまだ子供ってことだからね。

 どこに行くにも大人の許可がいる。

 父上なんかは王子様だから、成人しているけど好き勝手に移動することもできない。第一王子の三男だから王孫時代もそうそう好き勝手はできなかっただろう。

 どこに行くにしろ護衛やおつきの人がつくからね。


「そう考えれば、長いんだろうが、今はまだ子供時代を愉しめばいい。何しろ僕だって後宮には入ったことないからね。子供の特権だよ」


 兄上は領地で生まれ、一二歳のときにデビューして王都に行ったから後宮には入れなかったらしい。

 後宮に入れる男子は王か一二歳未満の王孫までだからね。

 そう考えれば貴重な機会とも言える。


「そうですね」

「そうとも。僕はおばあ様にもお目通りしたことはないから、正直アルカイトが羨ましいね」

「そうなんですか?」

「ああ。公式の場に出てくるのは第二夫人までで、第三夫人以降はめったに出てこられないからね」


 それはそうか。

 公式行事となれば普通第一夫人が出るし、第一夫人の都合がつかなかったり体調が思わしくないとかなら第二夫人が出る。

 僕らのおばあ様まで出番が回ってくることはまずない。

 公式の場に出られないと息子をよろしくとかの根回しができず、第三夫人以降の息子は、結局王になるほど力をつけることはできないというわけだ。

 後宮に居る女性が公式の場以外で男性と接触する機会は皆無だからね。

 自分の息子とだって気軽には会えない。


「おばあ様はどんな方だったか話せてくれると嬉しい」

「わかりました」


 僕は目が覚めてすぐむちゃくちゃされたこと、後宮を探検したこと。

 一緒にお茶をしたこと。

 王と僕を取り合ったこととか話していく。


「なかなかおちゃめな方だったんだね、僕たちのおばあ様は」

「そうですね。まさか父上をおばあ様が産んだとか信じられませんよ。まあ、おじい様の息子だというのは実感しましたが」

「あはっ、そうだね。父上はお祖父様そっくりだね」


 兄上は笑いながら同意してくれた。


「初めて御尊顔を拝見したときには父上がいきなり老け顔になったかと思ったよ」


 意外とひどいことを言いますね、兄上。

 いや、僕も思いましたけど。


「それに比べ父上の子供はどちらかといえばみんな母親似ですね」

「そうだね。僕もそうだけど、アルカイトはほんと義母にそっくりだ」

「おばあ様にも女の子じゃないかと疑われました。おばあ様の小さいころの服を着てみないかとも。もちろん断固として断りましたけど」

「あははは。それは大変だったね。でもアルカイトの女児服姿か。僕も見てみたいかも。きっと似合うよ」

「やめてください。兄上。もしそんな事になったら兄上にも付き合ってもらいますからね」

「おいおい、悪かった。それだけは勘弁してくれ。第一おばあ様の古着は僕がとても着れるような大きさじゃないだろ」

「無理ですけど、そのときは特注で作ってもらいます」

「わかったよ。もう言わないから。小さくても男の子だもんな。たとえ似合っていても着たくないか」

「似合ってもいません」


 僕は一応否定してく。


「うんうん、そうだね。似合ってないね」


 兄上はそう言いながらも生暖かい目で僕を見る。

 僕が男らしい顔つきになるのはいつのことであろうか。


「アルカイト様、そろそろ夕食のお時間です」


 侍女がドアをノックして退室を促してくる。


「ああ、もうそんな時間か。名残惜しいがまた今度だね」

「ええ、一月ほど滞在すると聞いていますので、またお誘いください」

「次は兄上を連れてくるよ。今日はスケジュールが合わなくてね」

「楽しみにしています」


 僕は侍女に連れられて部屋を出る。

 部屋に戻って着替えたら夕食だ。

 ところで、父上はいつ迎えに来てくださるのでしょうか。

 面会依頼すら入れてくれない父上を恨みながら僕は部屋に戻った。


 王宮は本宮、後宮の他、王子宮などいくつかの建物があります。

 そのため敷地面積はかなり広大です。

 後宮は本宮のすぐ裏手なので、さほど距離はありませんが建物自体かなり大きいので、歩けばそれなりに時間がかかります。

 ヨーロッパなんかだとまだ城に住む人なんかがいるみたいですが、やはりその広さは不便なようで、トイレに行くにも食事をするにもけっこう歩かなければいけないとか。

 一見優雅に泳いでいるようにみえる白鳥も水面下では必死に足をもがいてる(実際にはもがいてはいないそうですがw)と言われるように、貴族も家では必死に歩いているようですw


 明日は本編をお休みして、閑話を一挙五話投稿です。例のごとく12時から1時間毎の投稿ですので、順番等間違えないようにお願い致します。


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