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子供のお手伝い

 昼食を食べて、午後は文官達のお仕事のお手伝いだ。

 最近は妹のマリエッタも、いっしょにお昼寝とか言い出さなくなったので、あっさり抜け出せたが、妹の成長を喜びながらも、一抹の寂しさも感じる。

 僕に妹はいなかったが、リアル妹がいる友達によると、そんないいものでは無いらしい。

 マリエッタに「お兄ちゃん嫌い」とかいわれたら、軽く死ねる。

 いやいや、マリエッタがそんな事言うわけないし。

 いやな考えを振り払い、僕はいつも文官達が事務作業をしている部屋へ向かう。

 部屋に入ると、忙しく立ち回る文官達の姿と、場違いに小さな机が目に入った。


「ぼん、遅いですよ」

「やっと来たか」

「早く手伝って下さい」

「はいはい、お待たせしました。どれから片付けて行けばいいですか?」

「これ、頼みます。先月分の請求書です」


 最近ご無沙汰だけど、前から手伝いはよくやっていたから、何をすればいいか聞くまでもない。

 僕はその伝票の山を机に、載せてもらい、パソコンを横に置いてもらった。


「ぼん、『ぱそこん』なんか持ち込んで、どうしたんです」

「まさか、『たいぴんぐ』の練習ですか?」

「手伝わないのなら、自分の部屋でやってくださいよ」

「これは本来、こういう事に使うための魔導具ですから、この程度の伝票、あっという間に片付けて見せます」

「ほんとですか? まあ、片付けてくださるんなら何でもいいです」

「ええ、任せてください」


 僕が大丈夫と請け合うと、皆はそれぞれ仕事に戻っていく。


「アンジェリカ、伝票をお願い。僕が次って言ったら、伝票をここへ置いて。終わった伝票は、屋号毎の箱に入れていってね」

「振り分けなくてよろしいのですか?」

「大丈夫。上から順番に処理しても問題ない」

「……かしこまりました」


 彼女にも何度も手伝ってもらっているが、今回はちょっとやり方が違うから、ざっと説明ししておく。


「じゃあ始めようか」


 僕はパソコンを起動させ、表計算ソフトを立ち上げる。

 前は固定行で、計算も固定という、表計算とも言えない代物だったが、今は違う。

 速度が速くなったので、縦横スクロール出来るようになったし、セルの大きさも変更できる。

 ソートやフィルター表示だって出来る。

 何より、関数やマクロが使えるようになったのが大きい変化だ。

 関数やマクロは、この間作ったコンパイラを少し手直しして組み込んだ。

 僕の作ったコンパイラは、一旦仮想マシンコードに変換した後、ネイティブのシーケンスにするタイプのコンパイラで、表計算ソフトに組み込んだ方は、仮想マシンコードに変換するところまでは同じだが実行は、仮想マシンコードをひとつずつ読み込んで実行する、インタープリタ方式を採用している。


 ネイティブのシーケンスコードにしなかったのは、ソースコードデバッガが作りやすかったからだ。

 仮想マシンというのは、実際には存在しないハードを仮想的に作り出すことだ。

 要はソフトでエミュレーションして、あたかもそのハードが存在するかのようにするのが仮想マシンと言っていいだろう。

 エミュレータと行ったほうがわかりやすいか。

 ファミコンエミュレータなどはファミコンがなくてもファミコンのゲームが動かせるというものだが、この場合モデルとなる実機があるため、エミュレータと呼ぶが、実機がなければ仮想マシンと呼ぶ。その程度の違いしかない。

 実際のCPUを模すこともできるし、『ぼくのかんがえたさいきょうのぱそこん(笑)』だって実現できる。


 そして仮想マシンコードなら現実にあるものに縛られる必要はないから、実行行とかのデバッグに必要なデータなど、余計な情報を入れられる。

 これがネイティブコードならそうはいかない。

 必要無い情報は失われるから、デバッグするのであればそのデータをどこかに保存しておいて、必要に応じて変換しなければならない。

 また、途中で止めたり再開したりといった操作もネイティブコードでは面倒な手順が必要になるが、仮想マシンなら自由自在だ。

 その分実行速度は遅くなるが、マクロの実行程度なら十分だ。

 そんなこんなで、最低限の機能は実装できたと言えよう。


 僕はまず、必要なデータフィールドを決め、各項目を入力していく。

 伝票に記載されているのは、屋号、品目、数量、価格、納品日、担当者名などでそれが一枚につき数行から数十行記載されている。

 これを屋号別で振り分け支払額を計算していくのが僕の仕事だ。

 今までだと屋号別の棚に伝票を振り分けてから、紙に転記していったけど、ソート機能が有るから、それが不要となったのはありがたい。

 何しろ僕は棚に手が届かないから、アンジェリカの振り分けが終わるまでは何もすることが出来ないからだ。

 今は入力している間に振り分けができる。

 すぐに作業が始められるということだ。


 僕は伝票を見ながら、必要な項目を入力していく。

 屋号や品目担当者名など何度も入力が必要なものはリスト化し選択入力ができるようにしておく。

 数字入力にはテンキーがあればよかったのだが、まだ作ってもらっていない。

 一体型にしたせいで、テンキーが右側にあると、ホーム位置が左に寄ってしまうのが嫌でテンキーは付けなかったが、純粋に数値入力する場合はやはりあったほうがいいかな。

 今度作ってもらおう。

 シーケンスを組むのに数字入力はあまり必要ないが、文官たちならあったほうがいいだろう。


「……次」

「もうありません」


 そんな事を考えていたら、入力が終わったらしい。

 僕は一旦保存して、データをソートする。

 これで屋号別品目別請求リストが出来上がった。

 僕はそれを印刷して近くにいた文官に声を掛ける。


「終わったので確認してね」

「おー、ぼん、終わったか。たすかった……って、まだ一刻も経ってないじゃないか!?」

「えー、ぼん、早すぎ」

「あれって、一人だと三日はかかる量だろ?」

「ほんとかよ」

「なんだなんだ、ぼんがまた何かやらかしたか!?」


 おい、最後のやつ。

 またとはなんだまたとは。

 ちなみに一刻とは向こうで言えば二時間にあたる。

 異世界は一日を一二時間としているからね。

 あまり細かく区切っても正確な時間は魔導具を持っている貴族か、裕福な人達くらいしか意味がないので、こんな区切りになっているのであろう。

 ちなみに一刻は一二〇分だ。


「……屋号別の金額も品目別の金額もちゃんと出てる」


 文官の一人が伝票の記載が少なそうなのを選んで確認してそういう。


「うそだろう!」

「俺らの一二倍以上の作業速度!? ありえないから!」

「ますますぼんが化け物じみてきたな」


 おい、化物とか行ったやつ。明日覚えてろよ。たっぷりしごいてやる。


「驚くことではありません。この『パソコン』を使いこなせれば、誰だってできるようになります」


 僕はパソコンの画面を見せて、品目別にしたり、納品日別にしたりと色々操作してみせる。


「おお、表がこんなに簡単に作れるなんて」

「計算も一瞬だ」

「これが『ぱそこん』のちから」

「じゃあ、今度はこれをお願いします」


 僕は別の伝票を受けとり、処理していく。

 別の文官は僕の処理した伝票の確認作業だ。

 夕食の時間までに、とんでもない量の作業を終わらせてしまっていた。


「俺達六人よりぼんの処理した分のほうが多くね?」

「なんせ一二倍だからな。俺らあと六人いてぼんと同じってか」

「これが子供のお手伝いだと? というか俺達のほうがお手伝いレベルじゃね?」

「明日ぼんにお願いする仕事ないぞ」

「ていうか俺たちも仕事ないぞ。面会依頼と公爵様の用事を何件かこなせば終わりだから、一人いればよくね?」

「そうなんですか? なら明日は一人だけ午後から本来のお仕事をして、あとは『パソコン教室』ですね」


 このペースでできればみんなの仕上がりも早そうです。


「じゃあ、解散。明日一人寂しく働く人を決めておいてくださいね。賞品のエール券はみんなの平均点で渡しますので、心配しないでください」

「こりゃあ、仕事するほうが得かそれとも『ぱそこんきょうしつ』へ行くほうが得か」

「とりあえず一杯やって考えようぜ」

「おお、そうだ。『えーるけん』があったんだ」

「さっさと後片付けして飲みに行くぞ」

「おー」


 みんな仲良しでいいな。

 僕以外の貴族の子供といえばマリエッタしかいないからな。

 先生の子供達はとっくに成人しているし、カイゼルさんのところは結婚しているものの、まだ子供はいないらしい。

 一代で消える公爵家に仕える貴族は稀だ。

 仕えるにしても、王やどこかの貴族の臣下を借りる出向扱いがほとんどのため、家族ぐるみでの付き合いなどもまずない。


 陪臣たちは基本元王族、つまり親戚のため気安いが、貴族と平民の壁は厚く丈夫だ。

 同じ年頃の子供が陪臣にいれば遊び相手として連れてくるものだが、僕とマリエッタは第三夫人の子供で父上が歳を重ねてからの子供なので、陪臣の方もそれなりの歳になってしまい、子供達はみんな成人している。

 陪臣たちは流石に貴族みたいに何人も奥さんを娶らないからね。

 遅くに生まれる子供なんていないのだ。

 また、一代で消える家のため、若いものは陪臣になりたがらない。

 自分より主人が先に死んだり引退してしまったら、その後どこかで引き取ってくれるかわからないからだ。


 僕はともかくマリエッタには寂しい思いをさせている。

 なんとかしたいのであるが、領地の収入が増えないと新しい人が入れられないし、若い人を呼び込むには、将来を約束できるほどの力がなければならない。

 今の僕には到底出来ようはずもない。

 せめて僕がこの領にいる間はできるだけ寂しい思いをさせないようにしないとな。

 僕はマリエッタの待つ食堂へと急いだ。


 ゲームのエミュレータは、導入手順がめんどくさかったり、元々ゲームマシンやゲームソフトを持っていなかったので、やりたいソフトもそうないしで結局手つかずのまま。

 どうしてもやりたければプロジェクトEGGで買えばいいやとか、いつでもやれるかと思うと後でいいかと結局放置。

 まあ、昔のゲームは懐かしいですけど、絵と音はかなりしょぼい出来。

 ゲーム難易度も今とは比べ物にならないくらい理不尽にムズいものがあったりと、じっくりやろうと思うととてつもない時間を食われそうなのもあって、お金払ってまで苦行することもないよなぁと。

「ザナドゥ」とか「ウィザードリー」とか、たまにやりたくはなるのですが、思うだけですねw


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