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初号機の構想

 今の試作機は、広く売ることを考慮していない。

 しかし初号機は量産機のベースとなることを目指す。

 まあ量産機と言っても、手作りだから沢山作れるわけではない。

 今後発売する時の基本モデルとなる機体という意味でしかないが。

 さて、発売するにあたって、問題点はいくつか上げられる。


 まずはソフトの配布方法とコピー対策だ。

 配布については、とりあえず暗号化で凌ぐこととした。

 BIOSに暗号化復号化のシーケンスを入れ、コマンド実行は必ずそのシーケンスを呼び出す。

 BIOSは通常の手段ではアクセスできないようにするため、暗号化アルゴリズムを解析するのは難しくなるだろう。

 さらにBIOS以外がアクセスできないエリアに暗号キーの保存エリアを確保する。

 これはパソコン側と配布メディアの両方だ。


 配布メディアの作成手順はこうだ。

 まずUSBメモリで配布メディアを作る際の暗号キー保存エリアに適当な乱数で作った暗号キー書き込む。

 その暗号キーで各ファイルを暗号化し、USBメモリにコピー。

 インストール時、インストーラーはこの暗号キーで復号化して、実行される。

 実行されたインストーラーは適当な乱数で新しい暗号キーを作る。

 必要なファイルを自身の持つ初期暗号キーで復号化しながら新しい暗号キーで暗号化してパソコンにコピーしてやる。


 最後にインストーラは、パソコンとUSBメモリの暗号キーの保存エリアにそれぞれのIDと紐付けた新しい暗号キーを書き込み、二回めのインストールではUSBメモリに保存された暗号キーとパソコン側に保存された暗号キーが一致しないとインストールができなくする。

 最後にこれをするのは途中でインストールを中断したときに他のパソコンに入れられるようにだね。これを最初にしちゃうと間違ったマシンに入れたのに気づいてもやり直しはできないからね。


 とりあえずコピー対策はこんな感じで行こうと思う。

 いずれ解読されるであろうが、簡単には出来ないということが、心理的障壁となるはずだ。

 カジュアルコピーという言葉があるように、簡単にコピー出来れば、罪悪感無しにコピーしてしまう人は多いのでは無いだろうか。

 これが一手間かかるとなれば、躊躇する人も出てくる。

 また、最初はどうせたいして売れないだろうから、ソフトにシリアルナンバーを入れて、どこから漏れたかわかるようになっていると言えばさらに無断コピーする人は減るであろう。


 配布メディアは、USBメモリのようなものを考えた。

 大きさは今の一般的なUSBメモリより少し大きいが、中にはコーティング剤を塗られたガラス片と外と繋ぐ魔導線が入っているだけだ。

 これをパソコンに挿すとパソコンの魔石と繋がり、USBメモリが、外部メモリのように使えるようになる。

 配布方法とコピー問題はこれで当分は凌げるはずだ。


 次に考えなければならないのは、キーボードだ。

 今のものも悪くはないが、とにかく生産性が悪い。

 パソコンを作る上で一番手間のかかる部分だ。

 にもかかわらず、キートップは平面の決して打ちやすいキーではない。

 今カイゼルさんが、量産化の研究をしてくれているので、それに期待だ。


 カイゼルさんの課題はもう一つ。

 クリーンルームの作成だ。


 今後、コンピューターの高性能化には高密度化が欠かせない。

 高密度化すればするほど、高速化するし、記憶容量も増える。

 いずれナノの領域に踏み込むことも視野に入れておかなければならない。

 そうなると基板だけでなくインクの粒子すらナノ化する必要が出てくる。


 まあ、今はエラーの無い基板が作れれば良しとしよう。

 四〇九六ページ分でも、速度容量共に今は十分だし。

 ではなぜ更なる高性能化を模索しているのかというと、それはグラフィックのためだ。


 今はまだキャラクター表示しかできないが、いずれ必要になる。

 実のところ向こうのコンピューターの処理能力の多くは、画面表示に使われているといっても過言でない。

 解像度が上がり同時発色数が上がった結果、コンピューターが処理しなければならない画素数は飛躍的に増大した。

 それを補うために生まれたのは一般にはビデオカードなどと言われているグラフィックアクセラレータだ。

 アクセラレータの名の通り、グラフィック処理を加速する装置が今や必須になっている。


 アクセラレートするのは主に3D処理だが2Dにも恩恵がある。

 ビデオRAMいわゆるVRAMといわれるメモリにデータを置くだけで画面表示してくれるだけでもありがたい。

 精霊コンピューターでは画面表示までもが、自前で処理しなければならないのだから。

 本来なら外部装置に任せられる処理をすべて自分でやらなければならないとなれば、処理速度はいくらだって欲しい。

 今の速度はせいぜい初期から中期の32ビットマシン程度。

 ようやくWindows95が動くかどうかというところだろう。

 GUIのOSを開発するには、まだまだ時間がかかるだろうが、絵や図を表示したいという要望はすぐに高まってくるのは間違い無い。

 今から準備しておいて無駄ということはないのだ。


 対応するソフトは無いが、一応表示する機能は実装してある。

 プログラムとしては、キャラクター表示とたいして変わらないからね。

 指定のエリアに色データを書き込めば、対応する位置にドットを表示するだけだ。

 向こうのコンピューターと違うのは、ハードの制限に縛られないということである。

 外部装置が無いハンデが、逆に利点になっているとは、なんたる皮肉か。

 ハード的制限が無いため、表示するだけなら、1×1ドットから数万×数万ドットだろうが、プログラムを書くだけで魔力の許す限り表示することが出来る。


 まあ現実的なサイズに落ち着くだろうが、処理速度と魔力量の問題を解決出来れば、前の世界以上の表現力だって得られる。

 解像度を低めにすれば、今のマシンでもそれなりに動くはずなのだが、いかんせんプログラムを組んでいる暇が無い。GUIというのはプログラムするのも何かと面倒なのだ。

 ドットを打つだけならともかく、線を引く、円を描く、塗り潰す、といった基本的なルーチンを用意するとなると、いくら時間があっても足りない。

 なので、最大の課題は、プログラムを組める人の育成ということになる。

 初号機の構想はほぼ固まったから、あとは細かなところをブラッシュアップしていくだけだ。


 人の問題に比べれば、ささいな問題だ。


 人間を育てるというのは本当に時間とお金がかかるのだ。

 貴族でさえ下級となればちょっと怪しくなるほど。

 裕福な商人なら下手な貴族よりまともな教育を受けている者もいるかもしれないが、彼らはどちらかといえば商売に係る教育が中心になるので、網羅的な知識は得られない。

 ましてや精霊語や魔導具の製法などは貴族が独占していて、平民は作ることができない。

 魔導具の中核部分、魔石や魔導板、それと接続する方法などは、平民の職人には教えられないため、ここだけは最低限貴族が作らざるを得ない。

 カイゼルさんはそれ以外の簡単な部分なら自前で作ってしまうけど、そんな貴族は少数派なのだ。


 実際貴族を働かせるという行為はものすごくコストがかかるのだ。

 なにせ貴族は全国民の一%もいない。

 これは一人の貴族を支えるには百人以上の国民が必要ということでもある。

 貴族が暇をしているのならともかく、増やしてまで仕事をさせる訳にはいかない。

 一人増やすためには百人超の国民が必要だからだ。

 ちなみにここでいう貴族とは爵位を持っている者を言う。

 その子供や夫人は厳密にいえば貴族ではなく、領地もないし俸給はもらえないからだ。


 家にいる侍女のアンジェリカも基本的に給料のようなものはもらっていない。

 衣食住を保証されるだけでも女性にとっては幸いだし、上位の貴族家に仕えるとなれば与えられる衣食住のレベルは実家にいるときより高くなることもある。

 祝い事があれば小遣いなどももらえるし、ときには何かしらの物品が下賜され、その金額だけでも一般の平民より高額になるのだが、名目上は給料としては扱われない。

 一人の貴族がその家族や使用人を支えているわけだから、その分収入もたくさん必要になる。

 平民でもできる仕事をしていたら大赤字だ。


 なので平民の職人でもできる仕事は極力そちらに回さないといけない。

 そして平民にやらせるのであれば部品点数の削減、簡略化、省力化は欠かせない。

 機能より作りやすさを優先する必要があった。


「とすれば、やはり一体型か」


 一体型とは、コンピュータ本体とキーボード、ときにはディスプレイや外部記憶装置まで一つの筐体に収められたパソコンだ。

 今だとノートPCがそれに近いと言えなくもないが、僕がイメージしたのは、昔の八ビットマシンのことだ。

 そのころの八ビットマシンはだいたいキーボードとCPUなどが収められた基盤が一つの筐体に収められていた。

 中にはディスプレイ(液晶ではない。当時はブラウン管だ)を搭載しているものも少なくなかった。


「僕の使ってたMZシリーズなんかもそうだね」


 箱を一つにまとめれば部品点数を減らせるし、一体型なら持ち運ぶときも持ちやすい。

 キーボードの上に蓋をつければそれがディスプレイにもなるし、大きなノートPCと言い張ることもできなくはない。

 昔は膝の上に置けるPCをラップトップPCなどと言ったものだが、中にはあまりに重すぎてラップクラシャーなどと揶揄されたものもあった。

 それに比べればだいぶ軽く作れるだろう。

 何しろキーボード以外はガラス板と緩衝材、そしてインクくらいしか入っていないのだから。


「膝の上で使えるとまでは言わないが、簡単に片付けられるのはいいかもしれない」


 何しろまだできることは少ない。

 シーケンスを書いたり文書を書いたり、文書を印刷したり、簡単な表計算をしたりする程度の機能しかないからずっと机の上にあっても邪魔なだけだしね。

 基本的なデザインはカイゼルさんと相談して決めるとして、外部ディスプレイはどうしようか。

 試作品を使っていてわかったことだが、ディスプレイを魔導具本体から離すとその分魔力の消費が大きくなるのだ。


 魔法の発動位置が魔石から離れるほど、魔力の消費は大きくなり、その増加量は距離の二乗に比例する。

 同じ光量の光点でも二倍の距離が離れれば四倍の魔力を消費するということだ。

 先生に聞いたところ、これは魔法を使う上での常識らしい。

 手元でファイヤーボールを作って標的に向かって飛ばすならあまり魔力は使わないが、離れた標的を直接燃やそうとするとものすごい魔力が必要となる。

 そういった法則があるため、キーボードもディスプレイも近距離にあったほうが魔力的に都合がいいのである。


 もしかしたら結界を使ったキーボードも魔石に近い位置に置くか、魔導板の上に形成すれば、魔力消費を実用レベルまで落とせるかもしれないが、実体がある方がより消費を抑えられるから、薄型マシンが必要になったときに考えよう。

 それはともかく、あえて外部ディスプレイのことを考えているのは、キーボードカバー一体型のディスプレイでは画面が小さすぎるからである。


 せいぜい一五インチかそこら。


 ノートPCなら十分な大きさだが、デスクトップとしてなら小さすぎる。

 今時一五インチのディスプレイとか売ってたかな?

 とか言うレベルだ。

 まあ、これも解決策はある。


 魔石と魔導線でつなぐのだ。


 魔導線で繋げぎそこに魔力を通せば、魔力消費は最小限に抑えられる。

 ディスプレイ本体表面にも魔導書などど同じようにコーティングすれば、魔導書と同じように使えるし、魔導書の表面とは魔石の表面とほぼ同等に精霊が認識するから、ディスプレイの表面で魔法を発動すれば零距離となり、魔法は最大効率で発せられることとなる。

 本体との接続はソフト配布に利用するために考えたUSBコネクタを利用する。

 このコネクタは魔導線をつなげるものであるから、メモリだけでなく、魔導線だって繋げられる。

 魔導線でディスプレイを繋げば、精霊は体の一部として認識するから、マーカーをスキャンして位置決めする必要もない。

 内蔵ディスプレイははずせるようにしておけばいいだろう。


「こんな感じで作ってもらえるようにカイゼルさんにお願いしてみよう」


 僕はエディタを起動し、構想をまとめていった。


 昔は割と一般的だったキーボード一体型PC。今ではほぼ絶滅したかと思ってたのですが、まだ売ってたんですねw

 他にもディスプレイ一体型とか、スティックパソコンとか、コンパーチブルとか、二画面ノートとか、ちょっと調べるだけで変わり種のPCが見つかるかと思います。

 一体型は設置場所がコンパクトになるとか接続コードが少なくスッキリするとか、確かにメリットがあるんですが、機能の一部が壊れると全部が修理あるいは買い替えが必要になる上、パソコンとしての機能が不足したら、他が使えても全部買い換えですからねぇ。

 ノートPCなんかも、全とっかえになることを考えれば、納得出来ないこともないのですが、うちでは今のところ必要なさそうです。


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