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危険な魔導具とは

 この世の中には危険な魔導具というものがある。

 そう、戦争や暗殺、テロ行為などに使われる魔導具だ。

 魔石さえあれば特定の条件で発動する魔導具は至極便利だ。

 現在は産業革命前のようだが、そのかわり魔導具を使った器具はそれなりに発展しており、冷蔵庫やエアコン、照明など、貴族の屋敷なら大抵ある。元の世界で言うところの家電のようなものだ。


 そして魔導具の中で最も発展著しいのは、戦争や戦いに使う魔導具だ。

 今は他国と戦うということは早々ないが、昔は小国が乱立していたため、争いが絶えなかったらしい。

 現在では多くの国が征服されたり、併合されたり、合併したりで、いくつかの大きな国にまとまり、国同士の本格的な戦いというものは少なくなってきた。

 国力が上がった分、使える魔力が上がり戦力が上がったから、まともに戦うと犠牲者が大量に出るのだ。


 上級精霊の放つ全力の攻撃魔法など食らったら、街が一つ消えるとも言われている。

 ようは、どの国も小型の核兵器を持っているようなもので、うっかり戦争ができなくなった。

 上級精霊を従えられる人がどの国にも数人はいるし、上級の魔石だって困難を伴うが手に入れらないこともない。

 今はもう、兵士が弓や槍を持って戦うのが主流の時代ではない。

 魔導士が魔法でもって戦うのが主流である。


 しかし魔導士の数は少ない。

 貴族=魔導士ではあるが、実際に戦えるかとなると怪しくなる。

 いきなり戦車や戦闘機を与えられたって、訓練なしに使えるはずもない。

 拳銃だって下手に扱えば自分か味方を殺すことになる。

 初めてガン○ムに乗って戦えるのはニュータイプだけだ。

 戦うにはそれなりに訓練が必要で、その訓練を行った者が騎士爵を賜る騎士だ。

 そして騎士として一人前になるにはそれなりに長い時間がかかるしお金や手間もかかる。

 なので訓練の必要のない魔導具というのが考えられた。


 地雷のように上を人や馬車が来たら、爆裂の魔法を発するもの。

 特定の人物が近づいたら爆発するものなど、最近は破壊工作に使う魔導具の開発が盛んであるらしい。

 そういったことを父上と先生は説明してくれる。


「それが僕の魔導書となにか関係が?」

「敏いとはいえやはり子供か。これの危険性に気が付かぬとは」


 父上はどこかホッとしたかのようにそういう。


「これはシーケンスを簡単に作れます。アルカイト様は他の子供より優れたお方ですが、それでもまだ七歳なのです。その七歳の子供でも数ヶ月でこれだけの規模のシーケンスを書いてしまえる。これは脅威です」

「うむ。兵器や武器となる魔導具やシーケンスの開発は、非常に時間がかかる。なにしろ暴走でもすれば、あたり一面や焼け野原になりかねん」


 普通は魔法発動の部分を光魔法に変えたり、使用魔力をわざと少なくして実験するらしい。


「当然テスト時と本番とでシーケンスを分ける必要があるが、この書き直しが結構時間がかかるのはお前も知っておろう」


 父の言葉にぼくは頷く。

 エディタができる前は修正に大変時間がかかったものだ。


「しかしこの『えでぃた』なるものがあれば、修正は容易だと聞く。ならば兵器開発がより早くなりはしないか?」

「確かに、開発速度は加速度的に増していくでしょう」


 シーケンスというのは似たような形や流れになりやすい。

 コピペができればあっという間に組めることもあるし、修正が容易であるならトライアンドエラーで、気軽に試せる。

 今後の発展を考えれば、文法上のエラーを発見したり、もっと書きやすいように、自国語のコンパイル言語を作り、コンパイラで精霊語へ変換するアプリだって作られていくだろう。

 また、よく使う処理をまとめたフレームワークのようなものも作られていくに違いない。


「父上や先生が想像するより何倍も早く効率的な開発環境が作られていくものと思います」


 ぼくは正直に思うところを話す。

 コンピュータが軍事技術とともに発展してきたことを忘れていた。

 普通の人は意識することもないけど、インターネットだって元は軍事技術の民生化だからね。

 砲弾の弾道計算やら暗号の作成と解読やら、コンピュータと軍事技術は切っても切れない関係だ。

 コンピュータやその周辺技術が敵対国に輸出できない事があるのは、コンピュータが軍事に大きく関わっているからでもある。


「これを本当の意味で理解しているのはお前しかおらん。七歳の子供にこのようなことを尋ねるのは酷かもしれんが、これが発展する先をどう考える? 血塗られた未来か、それとも希望溢れる未来か?」

「どちらもありえる、いえ、どちらもあるとしかお答えしようがありません」

「どちらもあるのか?」

「はい。これは良くも悪くも魔導具でしかありません。未来を良くするのも悪くするのも僕たち人間がどうするかによります。魔導具は生活を豊かにしてきましたが、戦いの道具にもしてきました。どちらかにしか使わないなどありえないかと」


 包丁だって人を殺せるし、戦場で一番人を殺したのはスコップだとか本当か嘘かわからないようなことが言われているのも、道具とは結局の所使う人次第と言える。


「なるほど、使い方次第か」

「はい、ぼくはそう思います。ただ付け加えるなら、これを先に手に入れたほうが良きにつけ悪きにつけ力を持つであろうということです。多分何年後か何十年後か、あるいは何百年後かもしれませんが、僕と同じようなことを考えつく人が出るでしょう。いえ、他国ではもう思いついている人がいるかもしれません。そして同じようなことができるようになっても、遠くに広まるには大変な時間がかかります。僕たちがそれを知った時には、この国が巻き返すことはほとんど不可能になっているでしょう」


 デファクトスタンダードを取られたら巻き返すことは難しい。

 特にOSなどの基本部分ならなおさらだ。

 そしてコンピュータの普及は爆発的に進むであろう。

 元の世界のように。

 コンピュータは仕事を恐ろしく効率化する。

 効率化すれば人が余り、別のことができるようになり、生産性が上がる。


 情報革命の始まりだ。


 本来情報革命を起こすには産業革命が必須だ。

 コンピュータを量産できないのでは、革命になりえない。

 しかし魔導書のコピーは複写の魔法を使えばあっという間だ。

 魔導書自体を作るのは時間が掛かるが、今ある魔導書にコピーするだけなら、簡単に行える。

 専用の魔導具を作るまでもなく今の魔導書でもエディタぐらいであればつかえるのであるから、これを広めるのに時間はいらない。


「……いずれ何処かがこれを作るのであれば、この領この国で作ったほうが主導権を握れるということか」

「はい。登録した者以外使えないようにしたり、暗号化したりすれば、これを複製したり仕組みや原理が広まるのをある程度防げます。そうやって、秘密を守りつつ開発を続けます。性能や機能で大きな差をつければ、同じようなものを他領や他国が作っても大きな差をつけられますし、他領や他国に輸出するにしても、恩に着せることもできれば、性能の低いものを輸出して優位性を保つこともできます」

「七歳の子供が作れるようなものなら、他の国でも作れる。ならばより有利な立場を確保したほうがいいというわけか。……大人でもそうそう作れるとは思えんがな。先生はどう思われます? 他領や他国でこれと似たようなものは作れそうですか?」

「うむ……どこかでブレイクスルーがあれば。例えば四則演算のための単語が判明するとか、彼のように計算させずに計算させる方法を思いつくとか。そうなれば精霊に計算させようとする人が現れるでしょう。そしてさらに複雑なこともさせようと思うかもしれません。精霊にさせられることが増えれば、人はそれをさせてみたくなるのです。もし、テーブルを使った演算という考え方が漏れればすぐにでもブレイクスルーが起きるかもしれませんな」


 ちょっとした思いつきが世界を変える。

 そんなことは何度も起こってきた。


「これには世界を革命する力があります。ならば僕はその先頭を走りたいと思うのです」


 僕は父上をじっと見つめる。

 ここで父上が否といえば全て終わりだ。

 魔導書を取り上げられた今、もうどうすることもできないし、教会に放り込まれれば、精霊語をいじる機会もなくなるだろう。

 いや人知れず病死(・・)ということもありえる。


「……世界を革命する、か。その時私達貴族はどうなっている」


 革命とはすなわち今の支配関係をひっくり返すことだ。


「世界がひっくり返れば世界の有り様も変わります。貴族がいない世界、いえ必要ない世界となっているかもしれませんし、逆に貴族が栄華を極めているかもしれません。どうなるかは神のみぞ知るです」

「そうだな。埒もないことを聞いた。未来など誰にもわからない。わかるとしたらそれは神か悪魔か」

「僕にわかることは、これが完成したら、シーケンスの開発はもっと楽にそして早く、大規模になっていきます。シーケンスだけではありません。事務処理も早く正確にこなせるようになります」


「完成したら? これでもまだ完成していないのか」

「とりあえずの完成ですね。まだまだ進化はしていくと思いますが、多くの人がストレス無しに使えるようにするためにはもう少し研究と開発が必要ですね」

「何が必要なのだ?」

「まずは、シーケンスを書き込む素材の研究ですね」

「素材とは? 普通は羊皮紙に書き込みますよね? それ以外のものを使うということですか?」

「はい、先生。シーケンスは文字を小さくするほど早く処理されるのです。いまの『エディタ』は画面を表示するのに二秒以上かかりますからこれをもっと早くしたいのです。先生はご存知でしたか? 精霊の処理速度は文字数ではなく文字が書かれた面積に反比例するって」

「いえ、初めて聞きました。というか、精霊の処理速度など気にしたこともありませんな。なにしろ大抵のシーケンスはあっという間に終わるのです。二秒もかかるような複雑なシーケンスなどこれまで作られたことがありませんからね」

「やはりそうですか。なら高速化する研究は行われていませんね」

「少なくとも私は聞いたことがありません。アルカイト様は何かお考えがありますか?」


「僕はガラスを魔導書の素材とするのがいいと考えています。羊皮紙は意外と凸凹しているので、インクが滲んだりかすれたりして小さな文字を書くことができません。その点ガラスなら滑らかだし、変形や伸び縮みもあまりしないので、小さな文字を書くのに最適かと」

「ガラスですか。それは割れやすいのでは? 金属ならどうです? こちらは割れませんぞ」

「そうなんですが今度はサビの問題がありまして。錆びない金属となると金くらいしか思い浮かばず、しかもかなり純度を高める必要があります。さすがに高価になりすぎるような気がします」

「サビですか。金箔ならそれほど高くないですけど今度は強度の問題がありますね」

「僕はとりあえず持ち運ばないタイプの魔導具を考えています。頻繁に持ち運ばないのであればガラスのように割れやすい素材でも問題ないはずです。持ち運ぶとすれば、箱の中に入れて緩衝材を詰め込んでおくとかですね。インクの問題も解決しないといけませんし」


 今は横にインク壺をおいて対処しているが、そのうちこれも内蔵ということになるだろう。

 その時はインクではなく、クレヨンみたいな固体の塗料を使いたい。

 中でひっくり返ってインクがぶちまけられたら中のデータがクラッシュしてしまうからね。


「なるほど。まだまだやることは多そうですね」

「はい、まだまだこれからです。やりたいことが多すぎて手がまわらないくらいです」

「わかった。金と人を準備しよう。先生もお手伝いいただけますかな?」

「もちろんです。これは精霊語界いえ、世界に革命を起こすでしょう。それに関わる事ができるなんて名誉なことです」

「アルカイト、何が必要か先生と相談し、あとで持ってきなさい」

「わかりました父上。ありがとうございます」

「礼などいい。私はこれが我が領地、我が国のためになると思うから協力するだけだ。我が領地や国のためにならないことはしないように。それから情報の漏洩には十分気をつけなさい。先生もですぞ」

「わかりました」

「承知しております」

「では、お前がとりあえずの完成と呼ぶところまでは援助しよう。その後はそれを見てからだ」


 父上が部屋を出ていく。


「アルカイト様、これからよろしくおねがいします」

「こちらこそよろしくおねがいします。早速ですが魔導書を作成できる口の固い信頼できる人に心当たりはありますか? あと木工や金属加工などをお願いできるところはありませんか」


 必要なのはまず人手だ。

 ソフトは自分で書けるがハードを作るのは無理だ。

 人を集めてその上で必要なものを揃えていくしかない。

 ジョブズになるためのこれが第一歩だ。


「インターネットは軍事目的で開発された」とよく言われているため、主人公もそのように思いこんでいます。しかし少なくとも当初は、新しい通信技術を実用化するための研究だだったらしいです。

 ただ、開発には米国国防総省傘下の研究所から資金が投入されていたため、軍事利用を見据えての資金投入であったのだとは思います。

 他にも民生品が軍事利用されるという例もあり、日本の製造した民生品が他国の兵器に転用されていたなんて事例は枚挙に暇がありません。

 目的はどうあれ、軍事利用しようと思えばできるものは、軍事利用されると思っておいたほうがいいのでしょうね。


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