今度こそコマンドプロンプトだと思ったら思わぬ伏兵がいた
文字列表示系の機能をOSに組み込んだから、コマンドプロンプトは格段に楽になった。
キー入力を記録しておき、エンターを押したときに記録したキーコードからコマンドとパラメータを切り出し、内部コマンドならパラメータをセットして必要なシーケンスを起動する。
外部コマンドが指定されたら、メモリエリアにシーケンスを展開して実行。
実行が終了したら、メモリエリアをクリアして終了。
ここでやることはそれだけだ。
「そうだメモリ管理もOSがやるんだった」
空きエリアをコマンドプロンプトが管理するなどありえない。
シーケンスの展開とメモリエリアのクリアはOSの仕事だ。
「またコマンドプロンプトはお預けか」
僕はメモリエリアについて考える。
メモリはHDDのようにセクタとかクラスタなどの塊は存在しないので通常一文字単位でエリアを確保可能だ。
とはいっても管理エリアが必要だから、一文字のメモリしか必要なくても+管理エリア分のメモリが必要になる。
普通、メモリやHDDは空いたところを順次使っていくので、しばらく使ってると虫食いのように未使用領域が点在するようになりメモリがあるにもかわらず大きなメモリを確保しようとすると、失敗することがある。
通常のOSだとガベージコレクションなどを行い、この虫食いをつなげて大きなエリアを確保する仕組みを備えている。
そこで走るアプリも、メモリをリストでつなげて、どんな並びになろうと連続した領域に見えるようにすれば、むやみに大きなメモリエリアをアロケートする必要はなくなる。
しかしここはHDDエリアと違って、データ部分を除き基本精霊語で書き込む。
精霊語で書き込めばシーケンスとして実行できる。
つまりドットデータではなくて文字データを書き込まなければならない。
文字データをバラバラに保存すれば、精霊はそれを認識できない。
コンピュータでもプログラムは基本連続した領域に入れるしな。
とはいってもガベージコレクトは結構めんどくさい処理だし、処理ステップも多くなる。
今のマシンだとそんなことをしたらハングしたと思うくらい遅くなるだろう。
昔のマシンだって、ガベージコレクトが遅くて、標準で備えている言語なんかは実用性に欠けると思って使っていなかった。
気が付かないほどの遅延ならともかく、いつどこでレスポンスが遅くなるかわからないシステムなど使えるかよ。
「となるとメモリ管理もとりあえず簡単なものにするしか無いか」
メモリ位置をアドレス化してメモリの使用エリアと未使用エリアをリストでつなぐだけでいいだろう。
精霊は一行にずらずら書いた人間なら読むのが嫌になるようなシーケンスだって気にしないからな。
「まてよ。……シングルタスクならメモリ管理なんかどうでもいいじゃん!」
また難しく考えてたよ。
昔はアプリが自分でメモリ管理してたんだよ。
空きメモリが自分で全部使えるんだから、OSが気にする必要がなかった。
OSは空きメモリの位置と大きささえ把握していればいい。
「デバイスドライバなんかの常駐プログラムは先頭あるいは後方から入れて、その分空き領域を削ればいい」
使用頻度が高いものなら常駐エリアを作って、予めそっちに書いておくということもできるしね。
その程度のシーケンスならチョチョイで書ける。
あとはメモリクリアとかメモリ関連の共通シーケンスを書けばいい。
特にメモリクリアは必須だ。
向こうのコンピュータなら、未使用領域にするだけでメモリをきれいにしなくてもいいが、精霊コンピュータならきれいにしておかないとそれが動いてしまう。
「よしできた。これで今度こそコマンドプロンプトにとりかかれる」
コマンドプロンプトとは、キー入力を受付け、入力されたデータをコマンドとパラメータに分解し、指定のコマンドにパラメータを渡すのがその役割だ。
キー入力はもう作ってある。
テストのときに作ったシーケンスを利用すればいい。
今はバックスペースやデリート、インサートなどといった編集機能が無いが最低限の機能で済ますとすれば、バックスペースだけ反応すればとりあえずなんとかなる。
インサートとかデリートとか実現しようとすると、結構処理が複雑になるし、今の段階ならこれで十分だ。
とすれば次は入力したデータをコマンドとパラメータに分ける処理だ。
ここは単純にスペースで区切ればいい。
本来ならダブルコーテーションだのパイプやリダイレクトなどといった機能が必要なのだが、これも後だ。
文字列の分解と内部コマンドの判定は簡単にできる。
内部コマンドはOSの機能を呼び出すだけだから、そんなに手間はかからない。
文字処理シーケンスも文字表示関連のシーケンスを作ったときにOSへ組み込んだから、呼び出すだけだ。
あとは外部コマンドの実行だが、こっちも基本、OSの機能を呼び出し、HDDからシーケンスを呼び出し、空きメモリに展開した後パラメータをセットし起動キーを呼び出せばいい。
「OSの機能が充実してくると、プログラムを組むのも楽になってくるな」
OSはよく使う共通プログラムをまとめたものと言っていい。
最近はOSよりも.NETとかのフレームワークが重要になってきているが、それでもOSの恩恵は計りしれない。
全部を自分で作っていた頃に比べれば簡単なOSでもあれば大助かりだ。
「自分でOSも開発しなかったらもっと楽だったんだろうけど」
でも、OSの開発者は世界的な影響力を持つことが可能となる。
ビル・ゲイツが世界有数の金持ちになったのはこのOSなどの基本ソフトを押さえたからだ。
アップルのiOSやgoogleのAndroidはスマホの二大OSになっていて、PCで成功したWindows系OSの他、他のOSは参入する余地もない。
なのでデファクトスタンダードとなるマシンの仕様とOSは僕が押さえたい。
ここを押さえれば、長期支配も夢じゃないからだ。
その点アプリのデファクトスタンダードはひっくり返されやすい。
あれほど隆盛を極めたワープロソフトが今は見る影もない。
表計算だってマイクロソフトに取って代わられた。
ブラウザは順位の変動が激しいし、オンラインゲームなんかは雨後の筍のように現れてはあっという間に消えていく。
アプリ開発というものは長期的な安定収入にはつながらないのだ。
「下級貴族の生活は結構厳しいって聞くからな」
貴族というのは実入りもいいがその分出費も多い。
格に合わせた服装や装備を持たないといけないし、騎士爵だと馬や鎧を用意しないといけない。
もちろん自費だ。
文官でも馬車くらい持っていないと格好がつかない。
歩いて街中を移動する貴族などありえない。せいぜいお忍びのときくらいか。
下級貴族用に馬車をシェアする仕組みがあるらしいが、あくまで緊急に馬車が二台必要になったとかのためのもので、常時使えるようなものではない。
上級貴族なら自分の家の敷地内でも馬車を使う。
「兄様くらいまでなら実家の援助も期待できるが僕は三男だ。それもあまり期待できない」
貴族家は子沢山だ。
なにしろ奥さんが二人や三人は当たり前。
それぞれが一人ずつ産んだって三人の子供がいるし、普通二人以上は産むから、六人兄弟くらいは当たり前で、中には一〇数人というのも珍しくはない。
うちだって上に兄が二人姉が二人、妹が一人だ。
父上は三人の妻を持ち、僕と妹は第三婦人の子供で、母上の実家も伯爵家で他の嫁に比べ高い爵位ではないから立場が弱い。
兄弟たちと敵対しているわけではないが、基本的に母親が違えば顔を合わせることなど夕食のときくらいしか無い。
子供はそれぞれの母親とその実家が中心となって育てるからだ。
しかもうちのような公爵家では、デビューあるいは成人すれば、大抵は家を出る。
すでに二人の兄も王都で仕官したし、姉も一人は嫁に行き一人は実家に出仕中だ。
他の領地持ちの貴族家でも、跡取り以外はデビュー後すぐ王都や他家に出仕するケースもそれなりにある。
僕の侍女見習いであるアンジェリカも実家は母の実家の寄り子の男爵家で、デビュー後まもなくうちにきてたりするし。
男爵家の子供でも女性は爵位を賜れないので、結婚前は実家で花嫁修業するか寄り親や関係のある貴族家のところに出仕し、結婚が決まれば婚家に入るのが普通だ。
とはいえ爵位を賜れない代わりに、女性が平民落ちするのは稀だったりする。
貴族の当主は複数の嫁をもらうため、女性が余りにくい。
余ればどこかの寄り子に押し付ける。
正妻が無理でも愛妾という手もあるし。
この場合自分の家より上の爵位を持つところに行くこともそれなりにあり、下手な下級貴族に正妻として嫁ぐよりいい生活ができるようだ。
逆に男は爵位を得られるが余りやすいと言える。
婿養子という話は殆ど無い。
永代貴族の権利を持っているのは嫡出子である女性のほうで、婿養子は当主になれない。しかし女性も当主になれないから、女性の父親が亡くなれば当主の権利はその子供か親戚に回される。
女性の直系の子供にしか跡継ぎの権利がないから婿養子となれば複数の嫁をもらう訳にはいかない。
嫁が寛容であれば側室を迎えることはできるかもしれないが、側室が生んだ子には継承権がない。
なので娘しかいない永代貴族では、はじめから親戚を養子にして当主の座を譲る事が多いのだ。
そして貴族は子沢山なため、下の方の子供は扱いが雑になる。
僕のおじい様は現国王だ。
王家も子沢山だから、現国王の兄弟姉妹は生存しているだけで九人もいる。死亡も合わせれば一二人の兄弟姉妹がいた。王族とは認められない妾腹の子も合わせれば二〇人を超えるはずだ。
その生存している兄弟姉妹九人のうち四人が男で、三人が公爵の地位にある。一人は辞退して魔導士爵となった。
現国王の正式な子供も一〇人いてそのうちのひとりが僕の父上となる。
そのうち男子は五人おり全員が存命で、こちらもすべて成人し、領地の受領を辞退した一人を除き四人が公爵位を賜っているから、これで公爵家は七家となる。
さらに前国王の弟も二人生存一人引退しているので公爵家は現在八家もあるのだ。
ちなみに引退している前国王の弟は大公と呼ばれている。
現国王の子供のうち五人が男子で、それぞれに六人とか子供がいれば、王の孫は三〇人となり、女子の生んだ子供も合わせると、四〇人くらいは孫がいることになる。
ジジババは孫が可愛いとはいえ、こんなにいては可愛がり方にも偏りが出てくる。
第一第二王子の子供までなら、贔屓されるであろうが、さすがに第三王子の子供のことまでかまっていられない。
だいたい祖父とはこれまで顔を合わせたことはない。
王の子は、親が王となった時点で成人していれば直轄地の代官として地方へ派遣される。
それまでに子供が産まれれば、王と顔を合わせることもあるだろうが、僕は領地へ移動してから生まれ、領地も王都から結構離れているから、会いに行ったり、会いに来たりする事はこれまでなかった。
そもそも王族として認められるのは王の子供、すなわち父上までだからね。
その父の子供である僕の立場は準王族となる。王族(仮)といったところか。
もし第一王子が国王となった場合、父上は傍系王族となり、僕から王族(仮)がとれて、公爵子息にランクダウンする。
公爵は一代貴族なため、どこかに仕官して叙爵してもらえなければ平民に落ちるし、仕官できても父上の役に立たねば援助はもらえない。
父上が王位につけば(仮)が取れて僕も晴れて王子様(笑)なのだが、第三王子である父上にはその目はほとんど無い。
この国に王太子という制度はなく、現王が死亡するか退位する際にどれだけ他貴族の支援を取り付けられているかで次の王が決まる。
バックに付いてくれる貴族がいなければ、王は結局のところ力を振るえない。孤立無援では戦えないのだ。
しかしこれには生まれた順番が大きく影響してくる。
基本、王子達の一番の支援者は、母親の実家と妻の実家、そしてその実家の寄り子や縁戚関係にある貴族家となる。
ここらへんでの力の差は出にくい。
王の妻となれるのは力ある貴族だけだし、王子の妻でも同じだ。
差が出るのはそれ以外の貴族達の動向だ。
母親の実家と敵対する派閥以外はたいてい第一王子の支持に回る。
第二王子がいつ生まれるかもわからないし、もしかして生まれないかもしれない。
そうなれば、出遅れは必至。
後から恭順を示すより先に恭順を示したほうが王となったときの覚えがいいに決っている。
第二王子以降が生まれなかったら致命的な失態になりかねないので、特に対立がなければ第一王子に支持が集中し、第二王子には第一王子の敵対派閥か乗り遅れたあるいは様子見をしていた貴族家が集まり、第三王子以降はもう母親の実家とその寄り子くらいしか支持者が集まらないことになる。
正妻を貰えば多少の巻き返しは出来るだろうが、それは第一第二王子でも同じなので差は縮まらない。
第三王子である父上は生まれる前から大きなハンデを背負っていて、第一第二王子が死ぬか大きな失敗でもしでかさない限り、王にはなれないのだ。
そして万が一があって父上が王になったとしても、僕は第三子の上母親の実家が伯爵家では、侯爵家の係累である兄上たちに到底敵うはずもない。
伯爵家は所詮外様だからね。元々別の国だったところが王国に編入されたため、国内の貴族との関係が弱い。
僕は王の孫ではあるが後継者争いからは、一歩も二歩も引いたところにいるわけだ。
「後継者争いで殺し合うとかなかったのは良かったけど、こんな子供の頃から将来を見据えてスパルタ教育されるとは思わなかったな」
貴族に無能は必要ない。というか害悪だ。
特に上級貴族となれば領民やら寄り子やらの生活を支える義務がある。
そこに無能な貴族がいれば家が、領地が、国が傾く。
王国に大きな損害を与えたとかなれば背任罪で廃爵の上、一家斬首ということだってありえる。
家族が罪を犯せば当主が裁かれるし、当主が罪を犯せば家族もろとも裁かれる。
一蓮托生なのだから、無能有害な人物は存在することを許されないのだ。
教会にぶちこまれるなどいいほうで、突然の病死とかよく聞く話だ。
「有能ならいいが有害と判じられれば致命的だからな。慎重に立ち回らないと」
七歳の子供がこれまで誰も考えたこともないことを実現しようとしているのだ。
大人たちがどう考えるかわからない。
「ちょっとやりすぎたかもしれない」
プログラムロード方式までならともかく、OSともなれば多くの人の研究と努力の結果生まれたものだ。
それを七歳の子供が作り上げたのだ。
気味が悪いと思う人もいるかもしれない。
「というか、僕だって気味が悪いと思う」
小学一年生がMS-DOSとか開発してたらちょっと怖い。
「まあ、今はまだそこまで高度なことをしているわけじゃないから、大丈夫だろう」
今そんな事を考えても仕方がない。
いざとなれば、時間はかかるだろうが、ダウングレードして少しずつ公開していく方法もある。
僕が独立するまで非公開にしたっていい。
これまで僕が考えついたことをこれまで誰も考えついていなかったのだ。
数年で僕と同等以上までたどり着ける人がいるとも思えない。
まあ、同じような転生者がいなければだが。
いないよね?
「うーん、とりあえず進められるだけ進めておこう」
どうせ僕が公開しない限り知られることはないし同じことを考えた人がいても、こっちのほうが進んでいれば、デファクトスタンダードを採れる可能性は高い。
技術は普通、過去の積み重ねがあって初めて新しい技術が生まれる。今基礎理論が知られていないということは、開発までたどり着いている人はいないということだ。
理論もなしにいきなり新しい技術が誕生するには僕のようなイレギュラーがいない限り不可能だ。
「念の為、できるだけ先生から最新の研究成果を聞き出しておこう」
先生というのは基本的にその道の研究者である。
異世界では教員試験とか無いからね。
教師に請われるとなればそれなりに実績を積まねばならない。
元の世界のように学校出たての若造がなれる職業ではないのだ。
僕の先生だって魔導士爵持ちだし、精霊語の研究者としては程々名を知られているらしい。
もちろん第一人者となれば第一王子のところの教師を勤めたりするから、第三王子となれば少し格は落ちる。
まあ、派閥の関係もあるから必ずしも第一人者が第一王子のところに行くわけでははないし、第一人者が教師に向いているわけでもないが。
それでも王家の教師を勤められるのだから、それなりの実績はあるし、他の王家や貴族家の子弟にも教えていたりするから、彼を恩師と仰ぐ貴族も多い。
その爵位以上に力を持っているのが教師という職業だ。
「先生が味方になってくれればいいんだが」
まだ数ヶ月の付き合い。
先生の人となりをまだ把握しきっていない。
味方になってくれれば力強いが、弟子の功績を横取りするような人なら手助けを求めるのは危険だ。
「父上がそんな人を教師に請うとは思えないけどね」
腐っても公爵で王子様だ。いや腐ってはいないが。
そんな人格的に問題のある人を教師に迎えるとは思えない。
いくら貴族が内面を隠すことに長けているとはいえ、不誠実な行いをすれば噂は広がってくる。
実績を作るには長い時間がかかるからその間騙し続けるのは難しい。
不誠実な行いをしなくても有る事無い事噂されるのが貴族社会というものだ。
悪い噂ほど広まりやすいものだし。
特に女性のサロンやお茶会の席は、噂話の宝庫と言えるらしい。
僕は参加したこと無いから知らないが。
ある意味女性社会は男の世界よりどろどろしているという話だ。
実家の位が低いとはいえ伯爵であるし、公爵家の嫁でもある母上はそういったサロンに時折顔を出すし、お茶会も主催したり招待されたりする機会も多い。
というか出席しないとどんな噂話が流れるかわからないから出ざるを得ないらしい。
おおこわ。欠席裁判かよ。
時には根も葉もないことが囁かれ、火のないところに煙が立つ。
それが女性社会らしい。
噂は小さいときに刈り取らなければ、にっちもさっちもいかないところまで追い詰められることもあるらしい。
らしいらしいというのは母や側付きの侍女たちからの伝聞だからだ。
本当かどうか知らないけど、女性の社交はほとんどスパイ活動といってもいい。
情報収集と流言飛語の蔓延による人間関係の破壊。
時には毒殺などもあるらしい。
貴族の半分(いや貴族の三分の二以上は女性だ)がスパイとか、修羅の国だな。
「母上が何も言わないということは先生に問題はないはず」
母上達が悪い噂を聞いていれば先生が先生になるはずがない。
彼は僕の他、兄上たちにも教えている。
「とりあえず信用してもいいはずだ」
信頼できるかどうかは別だが、僕の、いや公爵家の不利益になることはしないだろう。
公爵家に睨まれれば教師を続けて行くことは難しい。
僕が研究結果を盗まれたと父上に言えば、彼の地位はあっさり失われる。
「そうなると精霊コンピュータの存在は先生と父上、同時に話したほうがいいかもしれない」
父上は精霊コンピュータを理解できないかもしれないし、先生は公爵家の利益になるか判断できないし判断する立場にもない。
僕は精霊コンピュータが世界を変えると信じているが、他の人はどう思うかわからない。
単なる玩具、研究としては面白いが実用性に乏しいと判断される可能性もある。
「となるとどこまで完成させたものを作るか、そして見せるかが重要だな」
先生にはメッセージを表示させるだけのシーケンスしか見せていない。
題材には興味を示したが、世界を変えるとまでは認識していないはずだ。
これを世界を変える、あるいはそこまで行かなくても、売り物になる程度の認識を持ってもらえれば、父上も重い腰を上げるだろう。
公爵というのは王の直轄地の代官を務める。
当然だ。
王に何かあれば公爵の誰かが跡を継がなければならない。
王族を保護するための仕組みが公爵家なのだから。
少なくともこの国ではそういう仕組みになっている。
父上も直轄地の代官として領地を預かっている。
王に何かあれば父上が王となる可能性もあるのだから領地経営のノウハウを身に着けておく必要がある。
領地を治めるにはどうすればいいか常に考えているわけだ。
これでお金が稼げるとなれば手を出さないわけがない。
そして僕は有用と認められ仕官され放題となるはずだ。
「まあ仕官先は王直属となるはずだけどね」
公爵家に仕えることもできなくはないが、公爵家は当主である父上が亡くなるか引退すれば消える家だ。
父上が働けなくなり代官の地位を離れれば、父上の収入は国から出る年金くらいしかなくなる。
よってたくさんの貴族を養う余裕はない。
死亡すればその年金さえ出ない。
かといって他のところに再任官するのも難しい。
王孫の価値なんて、いざとなれば公爵家の援助が期待できるところにあり、後ろ盾を失った王孫に価値はない。
しかも現王とはライバル関係にある家の出だ。
公爵が存命であれば、なにかの拍子に王家がそちらに移ってしまうリスクも有り、メリットがないのにリスクだけあるという、面倒な存在なのだ。
再任官の道がほぼない状態で、失業してしまっては立ち行かないわけで、公爵家の子息は王宮に仕官するのが普通だ。
この場合は公爵家のつながりというメリットを考慮され、初めから高い地位での仕官となり、もちろん給料もいい。
公爵家の子息が仕官したら父親の引退後は実家へ仕送りするのも慣例となっている。
なにせ公爵とは元々王の子息だ。贅沢が身についている。
年金だけで足りるはずもない。それまでに稼いだ金額によって年金額が決まるとは言うものの、その額は公爵時代には到底及ばないからだ。
引退後の援助だけでなく引退前でも王都や他貴族とのパイプ役なども期待されているわけだし。
だから優秀で稼げる息子は大事にされるし、いいところに嫁に行った娘には援助もする。
それは将来返ってくるものを期待してのことだ。
「優秀さと有用さを見せつければ父上なら必ず囲い込もうとする」
父上なら、いや貴族の当主であるなら、利益を生む金の卵は逃さない。
「ならばこっちも利用していいだろう」
持ちつ持たれずといえば聞こえはいいが悪く言えば利用し利用される関係だ。
父子の愛情がないとは言わないが、母上に比べれば情が薄いし、父上だってそうだろう。
上に二人も兄がいるし、二人とも成人し、仕官している。
姉も二人いるし一人は結婚し、もうひとりは王宮で侍女という名の婚活中だ。
下の妹はまだ五歳と幼く可愛い盛りだから、父上もよく相好を崩しているが、前世の記憶を持つ僕はいい子ではあるが、理屈っぽくてあまり可愛げがなかったらしい。
嫌われているわけではないが、関心がないわけでもない。
まあ、貴族としては普通の親子関係らしい。
その程度の愛情しか無いから厄介な息子は消されるし、役に立つ息子は大事にされる。
割とビジネスライクだ。
「それはそれでやりやすいとも言えるけどね」
完全に嫌われていて、何が何でも排除したいというのでない限り、やりようはある。
なんというか、コマンドプロンプトより考えないといけないことが多すぎる。
未だに存在するコマンドプロンプト。
とはいえNT系になり、DOSネイティブのアプリが動かなくなってほとんど使うことはなくなりましたね。
9x系でまだDOSアプリが使えるころは、DOSのエディタとかまだ結構使っていた記憶があります。
Windows用のエディタであまり良いものがなかったというのもあるのですが、やはり慣れたものが使いやすいということで、mifesとかvzとか結構遅くまで使っていました。