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キーボードは大食いだった

 キーボードはディスプレイのシーケンスを一部利用して作る。

 こちらも一枚の板に基準点を作り、光魔法でキーボードの形を映し出す。

 結界魔法も同じ位置へ板と並行に展開して、負荷がかかると沈むように設定。

 その沈み具合によってキー入力を判別するシーケンスを作り上げた。


「うん、こんなもんか」


 光魔法のシーケンスが利用できたから割と簡単にできたな。

 起動させると手前の板にキーボートが表示された。

 キーは九〇個ほど並んでいる。

 テンキーはない。

 キーをひとつ押すと、その文字が左上に表示される。

 別のキーを押すとそれもちゃんと表示される。

 カタカナキーのところは自国語と精霊語との切り替えキーになっている。

 文字を精霊語に切り替えて、キーを押すと無事にそれも表示される。

 今の所キーリピートとかない。押すたびに一文字づつ表示されるだけのシーケンスを組んでいる。


 キー配置はQWERTY配列を参考にしている。

 自国語も精霊語もローマ字に近く発音にそれぞれの文字がほぼ対応している。

 ならば文字の形が違うだけで、並びは一緒でいいのではないかというのが結論だ。

 本当は使用頻度などで配置を考えたほうがいいのだろうが、僕は研究者でもなんでもないから、文字の使用頻度なんてわからないし、人間工学的に使いやすいキーボードなんて設計できるはずもない。

 それより使い慣れたキーボード配列が一番いいに決まっている。


「うん、ちょっと押し心地が変だけど、まあ使えるな」


 キー配置が似ているから、指もスムーズに動く。


「ちょっと反応が鈍いけど、これは魔導書がバージョンアップすれば解決する問題だし、リピートはまあ反応速度が上がらないと意味がないから後でいいだろう」


 リピート速度よりキー入力と画面表示のほうが遅いのだ。

 リピートしても快適になるわけでもないし。

 そっちを直すくらいなら、押し心地を改善したい。


「少し柔らかめにして押し込んだとき少し重くすれば前に使っていたのと同じ感じになるかな?」


 そうは思うが、これ以上処理を追加したら速度が遅くなって、逆に快適性が落ちる。

 これも高速化されるまでお預けだな。

 これからOS部やコマンド部を追加していくのだ。

 処理速度はどんどん遅くなっていく可能性がある。


「あとはキーボードのデザインも、もうちょっとなんとかしたい」

 今は平面に文字が浮かび上がっているだけだから、ものすごく平面的というかまるっきり平面だ。

 これを立体的な映像にすれば、もっと見栄えが良くなるだろう。

 見栄えは元となるデータがあれば光魔法で投影するだけだから処理に対する負担は変わらないからね。

 キーボードの立体モデルがあればもっとリアルな映像が投影できるんだが、この世界にキーボードトップの実物など売っていないし、僕が手作りするのも不可能だ。


「これもまたお預けですね」


 僕はキーの押し心地を確認しながらぼやく。

 その時。


「うお! …な、なんだ」


 いきなり画面が消えた。


「実行エラーですか?」


 異常時の処理は最低限しか入れていないから、バグがあればブルースクリーンなんて出さないでいきなり実行がストップする。

 デバッグ中に何度か止まってしまったこともあった。


「まだバグが潰しきれませんでしたか。ソースコードデバッガが欲しいですね」


 一行ずつ実行したり、変数の値をウォッチしたり、特定の値になったら停止させたりと、ソースコードを見ながらデバッグできる機能は、今どきのプログラマには必須の機能と言えよう。


「再起動しますか【ブートシーケンス開始】……うん?」


 起動しない。

 通常、エラーとなれば精霊は待機状態になるはずだ。

 起動キーワードで動き始めるはずだが、ディスプレイに光は灯らない。

 無限ループか?


「そんなばかな」


 精霊コンピュータでは無限ループはありえない。

 いや、あるにはあるが、起動条件が整ったら精霊は割り込み処理を開始する。

 ディスプレイ表示もそうだ。

 キャラクタRAM相当の場所にデータを書き込んだ時点で割り込み処理を開始する。

 他で処理していようと、基本、割り込み処理はそれに優先して行われるのだ。

 今は割り込みを禁止する機能は付けていないはず。


「壊れたかな?」


 僕は魔導書の魔石周辺を確認してみた。

 魔導線との接続が切れると魔導書は動かなくなる。

 魔石の固定が甘いと、時たまその様になるらしいことは先生に聞いていたので、魔導書の確認は欠かしていなかったのだが。


「色が薄い……魔力切れか?」


 魔石は魔力が充填されていればされているほど色が濃くなる。

 今はほとんど透明となっている。


「うそでしょう……」


 実験前に魔力は十分充填されていたはずだ。

 それがたった一五分ほどでなくなっているとは。


「バッテリーの消耗しているノートPCですか」


 バッテリーが完全に死んでいるノートPCだと、コンセントから抜いた瞬間死ぬが、そこまで行っていないやつだと、ごく短時間動いて死ぬ。

 最近のノートPCはバッテリーを自分で交換できないやつが増えてきて、バッテリーが消耗していたりそもそも死んでいたりするノートPCを使うケースが結構あった。


「魔石も消耗するって言うけど、これはまだ新品同然のはずなんですが」


 この魔導書を手に入れて二ヶ月ほど。

 初めて手にしたときは新品であったから、消耗したとしてもごく僅かなはずだ。

 確かに実験を繰り返していたため普通に使っている人より充填と放出を多く繰り返しているかもしれないが、子供用だとしても普通数年は使う魔導書だ。二ヶ月程度で消耗するはずがない。


「とすると、そもそも消費量が大きいのか」


 今回追加した機能はキーボードとその周辺。

 当然魔力をバカ食いしているのはキーボード関連処理だろう。


「キーボードの基本処理は、映像の表示部分、キータッチ生成部分、キータッチ検知部分」


 僕はそれぞれで使われている魔法を検証していく。

 映像の表示部分はディスプレイの表示と、キータッチの検出はキャラクタRAM変更検知とほぼ同じだ。


「とするとキータッチ生成部分か」


 キータッチは結界魔法で作っている。

 板の上一センチほど上にキートップが来るように結界を展開している。


「魔法は基本、物理的消費エネルギーに比例して魔力を消耗するんでしたね」


 光というのは実はあまりエネルギーを消費しない。

 白熱電球よりLEDの方が消費電力が低いのは、白熱電球の消費エネルギーのうち光で消費している部分はごく僅かで、ほとんどは熱エネルギーで消費されているからだ。

 魔法の光は熱エネルギーをほとんど発しない。そのため魔力の消費量も少ない。

 それに対し結界はこの世に存在しない力場を生成する。

 この力場は設定した力を常に発し続ける性質がある。

 つまりキー荷重をたとえば四五グラムに設定すれば、ひとつあたり常に四五グラム分の反発力を生成する。

 それが九〇個だから四〇五〇グラムの反発力が常にかかっていることになる。

 これは四キログラムの荷物をずっと支え続けているのに等しい。


「結界魔法がこんなに魔力を食うとは思わなかったな」


 でも考えてみれば当たり前か。

 攻撃魔法に対抗するにはそれに匹敵する強度が必要だ。

 しかしそんな強度の結界を常に張っていたら、あっという間に魔力を使い切ってしまうだろう。

 なので攻撃が当たる瞬間に結界魔法を展開するのが普通だ。

 常時張り続ける場合は強度を落とすとかするらしい。

 今回はその結界を常に貼り続けているのだ。

 魔力も消耗するというものだ。


「指が特定のしきい値を超えたら結界を張るようにすればいいか?」


 指を乗せていない時は結界は必要ないのだからとりあえずはそれでいいはずだ。


「だが割と乗せっぱなしにすることも多いからねぇ」


 ホーム位置に指を常に置くため、指を乗せっぱなしにすることも多い。

 両手の指を置いても最大で一〇個だから、九〇個のときに比べ消費は九分の一以下になる。一三五分程度は持つはずだ。


「最小で二時間程度か。初期の頃のノートPCと同じ程度だが、魔力は簡単に充填できるわけじゃないからね」


 電気ならコンセントに繋げば簡単に充電ができるが、魔力は自然回復に任せるしか無い。人間などの生命体が近くにいれば、体から放出される魔力を取り込んで、回復速度が高まると言われているけど、急速充電と言えるほど早まるわけではない。

 基本肌身離さず持っていれば生成された魔力が勝手に充填されるが、急速に回復させるのは難しい。


 魔素や魔力などと言われるものは大気中はもちろんのこと地中などにも充満しているが、魔石が取り込めるのは生命体の体の中で活性化された魔力だけと言われている。

 元々魔物の体内で生成される魔石だけに、魔石はその活性化された魔力を取り込む性質があるというのが一般的な学説だ。

 その証拠としてあげられるのは、人の体から離して置いた魔石より、手で握った魔石のほうが回復が早いとか、周りに動物や植物などが多くいる環境においておくほうが回復が早いというのはよく知られたことだ。

 人間の場合体内に魔石がないため活性化した魔力は通常そのまま大気中に放出されるが、近くに魔石があればそれに吸収される。

 人間には魔石がないため魔物の体内で生成された魔石を使って魔法を行使するしか無い。

 その魔力が切れてしまえば、結局時間を掛けて魔力を充填する他無いというわけだ。


 ノートPCのバッテリーが切れても、外部電源に繋げば使い続けることができるが、精霊コンピュータでは、そうも行かない。

 消費量が供給量を上回れば、使えない時間が出てくる。

 これでは二四時間戦えないではないか。


「仕方がない。結界魔法は諦めるか。とりあえず板に触ったのを起点にキー入力を検知しよう」


 タブレットだって同じような感じなのだ。

 快適なキーボードの存在を知らなければこんなものと思ってくれるだろう。


「お金と協力者ができたら物理キーボードを作ってもらおう」


 押し心地は物理的キーボードに任せればいい。

 今はまだ動くことが重要なのだから。

 そうと決まれば、キー入力シーケンスからキータッチ生成部を抜いて次はOSに取り掛かろう。


 最近のスマホどころかノートPCまで殆どがバッテリー交換ができないものとなり、なんだかなと思う今日このごろ。

 確かに小型軽量とするためには、バッテリーの着脱機構さえ省略したいのはわかりますが、せめてメーカー修理でも数日で帰ってくるようにはして欲しいもの。

 前にスマホのバッテリーとカメラレンズの交換修理に出したら、数週間帰ってこなかったことがありました。

 まあ、その時は工場のある千葉が台風で被害を受けたせいなんですがw

 人間どこで被害者になるかわかったものではありませんね!


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