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第一王子の焦り

第一王子リュドヴィック視点のお話です。


 その報告が上がったのは新年会の次の日であった。


「なんと? ディミトリが領地を返上したといいましたか?」

「はい。今王宮中で噂になっております」


 侍従長が聞いたところによると、昨日第二王子は国王に面会し、領地返上と特別管理領とする申請を行ったとのこと。


「それはまた、急な話だね。昨日まで全くそんな気配はなかったように見えたけど」

「昨日、派閥の殆どが脱退したようです。そのため新年会の酒も料理も手つかずで、宮中の者に振る舞われたとか」

「昨日急にかい? それまで全く気配もなく?」

「はい、それまで普通に派閥の新年会の準備をしていたようですから、ディミトリ様も寝耳に水の出来事かと」

「うむ。一体どのようにすればそのように秘密裏に口裏を合わせられるのだろうね。少数ならともかく一斉にとなるとかなり前から準備していたのだろうか」

「そのように拝察いたします」

「これは会合どころではないね。まずは情報収集しないと。ディミトリと面会予約は取れるかな? ここはやはり本人に聞いたほうが早いだろう。できるだけ早く呼び出してくれ。何だったら私がそっちへいってもいいと」

「かしこまりました」


 侍従長が退室する。

 私は一人部屋に残り、何があったか推考し始めた。


「確かに彼の領地は疫病が流行ったり、経済的に下ぶれてはいたが、いきなり崩壊するほど追い詰められているようには見えなかったが」


 第二王子派閥とは現在は曲がりなりにも協力関係にあるので、多少の情報は入ってくる。

 ただし、人を介してなのでその情報は一月、下手をしたら半年遅れなんてことも珍しくない。


「領地間は結構離れているからね。騎士の護衛がいなければそうそう行き来も出来ない。しかも疫病が流行ってからは行きたがる騎士もいなかったので、情報収集がおろそかになっていたな。そのせいで交易も滞りがちだったし、そこへ救いの手が伸びれば、なびいてしまう者も現れるか」


 それにしてもあまりに秘密裏に、しかも大規模な反抗だ。

 疫病で連絡がつきにくくなっていたとは言え、ここまで秘密裏に行動できるものであろうか?

 しかも疫病渦巻く領地を救う?

 それだけのことをしようと思ったら、いったどれだけの人手と金がかかるか。

 ディミトリが手を出せなかったのもわからないでもない。

 派閥の領地中が同じような状況だっただろうからね。

 そんな事を考えていた時、侍従長が戻ってきた。


「ディミトリ様がご到着なされました」

「入れ」


 扉が開きディミトリが入ってくる。

 いつもの覇気はなく、まるで幽鬼のように近づいてくる弟。

 こんな彼など今まで見たことはない。


「ディミトリ、いつもの元気はどこへ行った?」

「元気? ああ、地の果てか空の向こうにでも飛んでいったよ」


 皮肉にも応える元気はないらしい。


「昨日何があった?」

「大したことじゃない。俺が派閥の者に見限られただけだ」

「大したことじゃないわけ無いだろう? 昨日まで全く気が付かなかったのかい?」

「ああ、間抜けなことに全くね。疫病と経済活動の低下で、ずっと領地に張り付いてたからな。気がついたらこのざまだ」

「兆候くらいはあったろう?」

「まあ、派閥の領地に疫病が流行ってしかも領地で作ったものが次第に売れなくなっていった上に、他から安いものが大量に流入し金が流出した。

 しかし打つ手がなく、人心が少しずつ離れていってるとは思っていた。なんとかしてほしいと要望があっても、どこも同じような状況だから、どうしてやることも出来なかった。そうこうしているうちに疫病も収まってきたし景気も上向きになってきたようで、やれやれと思ってたらこれだ」

「改善していたのにこの状況に陥ったというのかい?」

「ああ、やつはこっそり新麦を配って恩を売ってたんだ。そのせいで疫病は収まり、金銭も貸し出していたようで、それにより景気も上向いたらしい。何とか危機を乗り越えたと思ったらそれはすべてやつの手の平の上だったということだ」


「やつとは?」


「フラルークに決まっているだろ? いや、もしかしたら俺は別のやつにはめられたかもしれない」

「フラルークでなければ誰だというのだ?」

「脱退するときにこういったやつがいたそうだ。『我らが主はアルカイト様のみ』と」

「ばかな! アルカイトとはフラルークのところの息子であろう。確かまだ七つか八つ。そんな者を主君と仰ぐだと!」


 騎士ならともかく領主の常識としてありえない。


「ああ、暗殺未遂のときは七歳だったから今は八歳か、そんなものだ。俺だって最初は耳を疑ったさ。だが考えてみると思い当たることがないわけじゃない。俺たちの息子はたかが七歳の子供に恥をかかされたんだぜ? 暗殺を二度も切り抜けている。詳しい状況は公開されていないが、一度目はアルカイトが毒を見破り通報し、そこに居合わせた第二王妃付きの侍女を怪しんで取り押さえさせたらしいぞ」


 そこまでは私のところに情報が入ってこなかったな。

 第二王妃のところからの情報か?


「気になって王宮内の噂を集めてもらったんだが、その中にこんな情報があった。献上の儀で父上に献上された化粧箱はアルカイトが作った魔導具だと」

「あれが、魔導具だと!」


 私達も遅ればせながら最高級の化粧箱を作り上げ陛下に献上したのであるが、それがただの化粧箱でないとなれば話が違ってくる。


「兄上は俺たちが送った化粧箱を陛下が使っているのを見たことがあるか?」

「そう言えば無いな」


 確かに私達が送ったものは使われず、いつも傍らにおいているのはやつの化粧箱のみ。

 フラルークのことは陛下も好んでいてかわいがっていたからそのせいかと思っていたが、違う理由があったのか?


「あの化粧箱、専売特許をとってたぜ。魔導具としてな」

「馬鹿な! それは専売特許を取れるほどの代物ということだぞ。しかもそれを七歳のアルカイトが作って献上したというのか?」


 専売特許はある一定の収益が見込めないものに、許可は降りない。

 特許料として売上のかなりの割合が徴収される上、登録料として最初にそれなりの額を納めなければならないからだ。


「ああ、特許は公文書で残されるからな。調べたら間違いなくアルカイトの名前があった。もちろん化粧箱本体ではないぞ。画期的な魔導具としての登録だ」


 七歳といえば、普通魔導書に触れることすら許されない年齢だ。

 基礎勉強くらいならさせてもらえるかもしれないが、そんな子供が魔導具を作るなど信じられない。


「しかも笑えることがあるぜ」

「もったいぶるなよ」

「ほんとに笑えるから兄上も調べてみろよ。その特許料がとんでもない額になってやがった。特許料だけで下手な領地の税収を超えてたぜ?」

「特許料だけでだと。ありえん。冗談はよせ」

「冗談でこんなことが言えるかよ。特許料は公文書で残されているから、兄上も後で見てみるといい」


 公文書を偽造しているとは思われないから本当のことなのだろう。


「その支払人は当然登録者のアルカイトだな。領地の上納金もとんでもなかったな。あの僻地で上げられるような額じゃねぇ。特許料を考えても、あの魔導具を売った金が原資なんだろう」


 それだけ魔導具が売れているということは、それを買うことでその出費以上に利益があると見込まれたからであろう。

 買って損したと思うものを買う酔狂な者がいないとは言わないが、少ないだろうね。


「短期間に随分調べたのだね」

「領地返上で父上と謁見した時言われたんだよ。そなたは一直線に進む力はあるが周りが見えていない。時には立ち止まって周りを見渡すがよいと」


 それで色々見回してみたわけか。

 私も気をつける必要があるな。


「こうしてみるとすべてはアルカイトから始まった気がする。息子を撃退し恥をかかせたのもアルカイト。献上品はアルカイトが作ったもの。暗殺をくぐり抜けたのもアルカイト。そしてそのアルカイトの魔導具を売った金で俺の策を躱した」


 すべての中心はアルカイトか。


「それでディミトリ、君はこれからどうするつもりだ」

「そうだな。しばらくは己を振り返っているよ。前の領地は返上したが、今新しい領地を陛下が選定してくださっている。準備ができればそちらに移る予定だ」

「そうか」

「俺の方は心配いらねぇよ。前の領地よりはマシなところがもらえるからな。王には成れないが、俺には分相応だろう。疫病と財政難で苦しんでいるのに残ってくれた派閥の者たちにも、多少は援助できるだろうしね」

「君ならうまくやるだろう」

「俺のことより兄上のほうが心配だぜ。フラルークのところに俺の派閥がごっそり移動した。その上中立領地もかなりが加入したらしい。もうヤツの派閥は弱小じゃなくなってるぜ」

「ああ、油断はしていないつもりだ」


 とはいえ、第二王子派閥の崩壊は予想できなかった。

 相手は思いも寄らない手をとってくる可能性がある。

 気を引きしめていかなければいけませんね。


「気をつけるべきはアルカイトだ。やつはなにかしているはずだが実態が見えない。領地から出たという話も聞かないのに、やつは一体どうやって俺の派閥に取り入った? やつは悪魔かなんかか? まさか夜な夜な領主たちの枕元に現れているんじゃないかと思えるくらい不気味なやつだ。兄上も十分気をつけてくれ。でないと気がついたら俺と同じようになっているかもしれないぞ」


 彼はそう行って部屋を出ていった。


「彼と同じように、か」


 思い当たることがないわけじゃない。

 最近は近隣領地からの商品流入が増えて金の流出が激しくなっていた。

 さすがに新麦を売って古麦を買うようなことはしていないが、フラルークの派閥とは取引しないように通達はしているはずだがそれでも流出は止まらない。

 その影響も多少はあるのだろうが、現在景気は下降気味だ。

 疫病の出たディミトリの派閥とも交易が途絶えたしね。

 ある程度は仕方がないだろう。

 だが本当にそのせいであろうか?

 ディミトリの派閥が一斉に寝返った。

 それがかなり前からの仕込みだとすると、すでに敵の術中にハマっている可能性もある。


「これは本格的に調べさせる必要がありますね」


 まずはディミトリが見たという公文書も他にないか調べさせて、派閥領地にも早馬を飛ばして、不審な取引がないか、不審人物が入り込んでないか調べさせましょう。

 幸いなことに主だった領主は王都に集まっていますからね。

 情報が集まるのもそう時間はかならないでしょう。

 できれば皆が滞在している新月の間に調べられれば皆で対策が打てるのですが。

 私は侍従長を呼び、派閥の各領主に指示を伝えるように命令した。


 ついに主人公の本性がバレましたw

 こっそり動いていても膨大なヒト・モノ・カネが動いている以上、中には迂闊なやつもある程度いて情報は漏れます。

 警戒を強めた第一王子。

 対抗する主人公。

 果たして悪魔に勝利の女神は微笑むのかw


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