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魔導書の改良

「人間、贅沢になるとキリがないものだな」


 高速化する方法が思いつかなかった頃にはこれで妥協しようと思ったのに、できるとなればなんとかしたいと思う。


「せめて八ビットパソコン程度まで性能が上がれば、ビジネスに使える」


 そう。

 八ビットマシン程度の性能があれば表計算ソフトが走らせられる。

 表計算ソフトといえば今ではオフィスに欠かせないものとなっている。

 Wordは使わなくてもExcelを使わないビジネスマンはまずいないだろう。

 これができれば事務処理が大幅に楽になるのだから。

 逆にいらん作業を増やすこともあるけどw


「まあ、ここに達するまでに、まずはOSを書かないといけないんだけどね」


 やることは多いのに、手が足りない。

 シーケンスを書けるのはほぼ貴族のみ。

 貴族になることの条件にシーケンスが書けることがあるが逆に言えば書けないと貴族にはなれない。

 叙爵されなくて平民落ちした者なら書けるかもしれないが、そもそも貴族の数が少なすぎて、コンピュータに関わる人を確保するのは難しい。

 今のところ収入を得られる見込みも立っていないのだから、コンピュータの開発は無収入の手弁当ってことになる。

 それにシーケンスを書けてもコンピュータの原理を理解できないとなかなか戦力とはなりにくいだろう。

 誰でも魔導書を入手できればいいのであろうが、一般的な魔導書は危険な魔法も放てるから、平民は手にすることができない。


「とにかく一人でも多くプログラムを書けるひとを確保するには、有用性をできるだけアピールする必要がある」


 先生にメッセージを表示するシーケンスを見せた時も反応が薄かった。

 みんなが興味を引くようなこと、役に立つようなことを見せつけないと、協力者は得られないであろう。

 なにせ僕はまだ七歳の子供なのだ。

 おもちゃのようなことしかできないのであれば、まさに子供のおもちゃとしか見てもらえない。


「それには速度を上げるとともに、なにか使えるソフトを開発したい」


 前に検討した最小セットでみんなの興味を引くのは大変そうであったが、十分なソフトとハードがあればアピールには十分だろう。


「となるとまずはどうやってシーケンスの動作速度を上げるかだな」


 シーケンスの速度を上げる方法はわかっている。

 シーケンスの実行速度は書かれている面積に反比例する。

 おそらく精霊は命令文を文字として認識しているのではなく、図形として認識しているのであろう。

 書類をコピー機でコピーするとき、文字数が多かろうが少なかろうがコピーに必要な時間は変わらない。

 精霊も同じで、文字ではなく画像として読み込んでいるから、面積が小さいほど早くなるのだ。


「方法はわかってる。縮小率を上げればいい」


 最初は八ビットパソコンの百分の一程度の体感速度だったから、同等にするには面積を百分の一にすればいい。

 だが普通に羊皮紙に複写したのであれば十六分の一が限界。

 いや、二十分の一くらいまではできるかもしれないが、それでも性能差は五倍だ。


「羊皮紙に書く限りこれが限界だな。ならばもっと平滑性の高いものに書けばいい」


 そう。

 羊皮紙は羊あるいはその他の獣の皮でできているため、本来獣皮紙と呼ぶべきものだ。

 獣の皮であるわけだから、コラーゲンの繊維があったり毛穴や毛が残っていたりする。

 この凸凹や繊維の凸凹が文字のにじみやカスレを生み出し文字が潰れて読めなくなるわけだ。

 ならばもっと真っ平らな板状のものを使えばいい。


「平でつるつるしたものといえば金属かガラスか」


 平滑性が高いもので真っ先の思い浮かぶのが金属かガラスだ。

 HDDの円盤なんかはアルミ合金かガラスでできている。

 どちらも平滑性は高いが硬い。

 魔導書は厚くて硬い表紙がついているから硬くても問題はないかもしれないが、金属はサビが心配だし、ガラスなら衝撃で割れてしまう。

 紙のようなぺらぺらの素材というとフロッピーディスクなんかのプラスチック系の素材が思い浮かぶが、そんな物この異世界にあるはずもない。

 紙の表面を樹脂のようなものでコーティングすれば多少はましになるかもしれないが、使えるものがあるかわからない。


「どっちにしろ今は無理だな」


 ガラス板は手に入るかもしれないが、それを魔導書と接続する事ができない。

 魔導書は普通、魔導士爵が魔石と魔導線でページをつなぎ装丁するらしい。

 ガラスや金属とつないだ魔導書を作ってもらうとなると魔導士爵に依頼する必要があるが、やってくれる魔導士爵など僕は知らない。

 まさか先生にお願いするわけにはいかないし。

 魔導士爵が見つかったとしても報酬が払えない。

 僕には自由になるお金など無いのだから。

 必要なものは家の者たちがすべて予算の範囲で用意する。


 そこに僕が出せる要求は少ない。


 僕は用意された選択肢の中からいくつかを選ぶしか自由がないのだ。

 とうぜんお小遣いなどもらっていないし、町に買い物に行くことさえ許されていない。

 買い物は出入りの商人が持ち込んだものから選ぶか、好みを伝えて作ってもらうなり探してきてもらうなりするだけだ。

 それもほとんどは使用人が決める。


 欲しいものがあれば、侍女か執事を通じてお願いすることになるが、お金が必要なものは家に仕える文官が許可された範囲内でやりくりするか当主に許可を求めに行くかする。

 大きな金額になれば父上の許可なしには買えないし、許可を得るには説得できるだけの理由がなければならない。


「一六倍速でも使えないことはないのだから、まずは今のままでもいいか。もしプレゼンがうまく行ったらガラス製の魔導書を作ってもらおう」


 錆びない金属があればいいのだが、僕が思いつくとなれば金かチタンかステンレスか。

 まあ、ステンレスも錆びにくいというだけで錆びないというわけではないし、金も合金ではやはり錆びる。

 純金で作るとなればとんでもないお金がかかるだろうし、そもそも純金を生成できる技術があるかわからない。

 ましてやチタンとなればこの世界で認識されているかどうかすら不明だ。


 異世界では金属製品はとてつもなく高価だ。

 鉱脈がそもそも魔物の多い山に多いし、手頃なところに鉱脈が見つかるとは限らない。衛星による地質調査など無いのだから。

 鉱脈が見つかっても手掘りだから効率も悪い。

 精製にも大量の薪や炭が使われるためとにかく高コストなのだ。

 板ガラスも高価ではあるもののそれほどでもない。

 透明なものならかなり高いが、色付きなら程々の値段で買えるはずだ。

 こういった物価に関しては一般的な知識として教えられる。

 文官として仕えるのであれば、物価の把握は必須だからね。

 武官でも爵位を得れば自分で会計を預からなければならない。

 普段買い物に行かない分、こういった教育は欠かせないのだ。


「自由になるお金がほしい」


 僕はそうつぶやきながら、HDDの基本シーケンスを作っていった。


 ビジネスシーンで必須とも言えるExcelですが、個人ユースでは殆ど使っていません。

 メインマシンにはOFFICE製品すら入っていません。

 一応互換品とか入ってますが、こちらもほぼ使わず。

 同人ゲーム作ってたときはExcelで文章や表示するCG、音楽、音声などの指示を書いて、C++のソースコードに変換するツールなんか作ってましたけど、足を洗ってからとんとご無沙汰。

 小説はエディタで書くのでWordも用無し。

 プレゼンなんてする機会もないからパワポなんかもちろん必要なし。

 皆さんは何にExcelを使っているのでしょうか?


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