第14章、ロッドの指導⑩
え?こんな時間に投稿? 何してるんだ、自分は??
朝の明るい空に、空気を震わせ、蛍光色の花が咲く。そして、ほんの一瞬だけ宙に留まり、静かに消えていった。
「…花火が上がったな、始まるぞ。」
ギアはフードを被り直し、ギアは腕輪に向かって話しかけた。
『作戦通りにね、ギア。』
腕輪にはめ込まれた石がイーラの声を発した。
「もちろん。」
ギアは簡潔に返事を済ませると、石に触れた。すると、石は赤から青に変色し、それきりイーラの声は聞こえなくなった。
ギアは杖を握り直すと、さらに森の奥へと進んだ。
ロッドが告げた最後の課題とは、かくれんぼだった。
ギアとイーラが隠れる側、ロッドとロッドの魔獣たちが探す側に分かれ、制限時間内にギアとイーラの両方が見つからなければギアチームの勝利となる。しかし、その制限時間は二時間もあり、強敵ぞろいのロッドチームは、どこからどう見ても有利だろう。
そのため、試合開始の前に、ギアはロッドと交渉した。その結果、ロッドチームの中に一匹だけギアチームの協力者、つまりスパイを入れることになった。
交渉だけで労力をかなり消耗し、ギアはどっと疲れてしまった。しかし、負けた場合は、修行期間が延期となるというのだから、そんなことも言ってられない。
(もしかして…こちらを疲れさせるために、交渉をちらつかせたのか?)
交渉で疲労させる作戦、そう思うのも仕方ない。なぜなら、ルール確認の際、ロッドの方から「このままじゃ、アンタたちが不利だけどいいの?」と交渉の余地を見せたのだ。そして、ルール変更にギアが乗り気になると、何だかんだ文句をつけ始めたのだ。
深いため息を吐き、気持ちを入れ替える。
(取りあえず、かなり奥まで逃げてきた…けど、これからどうしようかな…。ひとりでできることって、意外と少ないからなぁ。)
別行動をしたのにはワケがある。二人一緒にいると魔法の幅は広がるが、いざ見つかった際の対処が心許ないと判断したためだ。
ギアとイーラの作戦は、こうである。片方はできるだけ遠くまで逃げ、注意を引き付ける役、もう片方はスタート地点の付近で隠れ、機を狙ってロッドらを出し抜くいくつかの方法を実行する役になる。それぞれの役割に明確な違いを作ることで、己の役目に集中できるようにしたのだ。
(…誰か来る。)
近付いて来る気配。ギアが警戒する中、ここに来るまでに仕掛けておいた罠が発動したのだろう、高い悲鳴が上がる。
(ヌヌ、ミミ、ポポあたりが引っ掛かったかな…。)
罠に掛かりそうなメンバーの姿を思い浮かべながら、移動するギア。
「見つけたぜ!」
刹那、ギアは魔法を使って木の上に跳んだ。すると、先ほどまでいた場所に、ダニエルが飛び掛かっていた。
「おっ、やるなぁ。」
ダニエルは楽しそうに笑った。
「だが、オレだけじゃないぜ?」
「やっほ。」
すぐ隣から声がして、ギアは横へ顔を向ける。
手がギリギリ届かない距離に、いつの間にかリリがいた。
「~~~っ!!」
瞬間的に風魔法を使って、リリを吹き飛ばす。
「あ~れ~。」
何とも気の抜ける声を発しながら、そのまま吹き飛ばされるリリ。
「つっかまえたっ!」
声が聞こえるのと同時に、何者かに突き落とされ、地面へ墜落するギア。
「危ないわ。」
地面に激突する前に、クラーラが風魔法を使い、ギアとギアを突き落とした犯人であるコリンは、ふわりと着地した。
「怪我はねぇか。」
「…。」
声をかけるダニエル。ギアは尻もちをついた体勢のまま、コリンに噛まれている袖をじっと見ている。
三匹が訝しんだ次の瞬間。
「えいっ。」
愛らしい声と共に、ぼふんと煙を上げてギアの姿が消えた。
「ざんねん、あたしでした!」
そんな捨て台詞と共に、煙の中を高速で駆けていく小動物がいた。イーラである。
実は、ギアに変装して囮となっていたのだ。
「待て!」
「あらあら。」
「わ~!待て~!!」
出し抜かれてなお楽しそうに追いかけるコリンらの姿を、上空から眺めていた者がいた。
『…どうやら、ギアさんに変装していたイーラさんだったようです。』
ツーデルトの報告に、ロッドは「ありがとう、そのまま追いかけつつ泳がせておいて」と指示を出した。そして、言葉を掛けていた、鳥の形に切られた紙をポケットにしまった。
(スパイが誰か見つけておきたいわね。)
ツーデルトやダニエル、コリンあたりが怪しい。ギアが彼らの優秀さを認めているからだ。
次にスパイになっていそうなのは、ルージ、リリ、ヌヌだ。ギアやイーラととても仲が良いからである。
(意外性を狙っていたら、この他の子たちだけど…あまり関わっているのを見たことがないわね。)
スパイの目星を付けている中、ロッドに近付いて来るものがいた。
「ロッド!」
ルージである。ロッドはその姿を見てにっこり笑った。
「どうかしたの?」
「あっちでミラベルが眠ってるんだ!井戸水に眠り薬が仕込まれていたみたい!」
「あら。じゃ、起こしに行きましょうか。」
ロッドが立ち上がる。
「ところで―――ルージもそれで眠らせたの?」
ぴたりとルージが止まった。
「…。」
ぼふんと煙が上がって、その中から箒に乗ったギアが一目散に逃げていく。
「あら、アタシに何かするつもりで来たんじゃないの!」
ロッドはケラケラと笑いながら、箒に乗ってギアを追いかける。
「やめた!」
ギアはフェイントを入れながら逃げ、ロッドからどんどん離れていく。
「んじゃ、こっちから行かせてもらうわ!」
ロッドの言葉を合図に、ギアの前に飛び出してきた動物がいた。ツーデルトだ。
ずっと通信し、互いの状況が分かる状態にしていた。そして、ロッドの元にギアが現れたため、ツーデルトはロッドと事前に打ち合わせていた通りに、ロッドの元に駆けつけたのだ。
「うわっ!!」
ツーデルトが突然飛び掛かって来た衝撃で、ギアはバランスを崩し、箒から落ちる。ツーデルトに腕をがっしり掴まれているため、墜落する心配はないが、これでギアはゲームオーバーとなる。
「はい、おしまい。あとはイーラだけね。」
ロッドはそう言ったが、ギアはニヤリと笑って諦めていない様子を見せる。
「まだ協力者がいます。」
「あら、ここから挽回できるくらいの協力者なの?」
「ええ。」
ギアは勝つ自信があるようだ。ロッドは、家の真上に浮かんだ巨大な砂時計を見上げた。
どんなところにいても制限時間が分かるようにと浮かべたものだ。
「でも、まだ二十分もあるのよ。イーラとその協力者はアンタなしでも逃げ切れるの?」
「ええ。」
ギアは迷いなく答えた。
ロッドは少し考えて、ポケットから紙を取り出した。それに向かって話し始める。
「ダニエル、コリン、リリは戻って来てちょうだい。他の皆はそのままイーラちゃんを追いかけて。」
『了解。』
『はぁーい。』
『りょうかい。』
ギアのわざとらしいすまし顔を見て、それからツーデルトを見るロッド。
「お前もここにいて、ギアを捕まえていてちょうだい。」
「かしこまりました。」
すぐに三匹は戻って来た。
あと一・二分もすれば、イーラを捕まえたという報告も入るだろう。
しかし、それから五分が経過した。
(意外とかかっているわね…。)
おっちょこちょいな者ばかりが残ったせいだろうか。だが、クラーラがいるというのに。
嫌な予感がして、ロッドは再び紙に向かって話しかけた。
「応答して頂戴!皆、何かあったの?」
『こちら、クラーラです。ごめんなさい、ロッド様。見失ってしまいました。』
『ごめんなさーい!』
『もう少しかかるかも~。』
『もうちょっと待っててね~!』
何のトラブルも感じない返答だった。しかし、ロッドはやられたという顔をギアに向けた。
「アンタの協力者…―――クラーラだったのね。」
ギアは内心、まずいと思ったが、「さあね」と返した。
ロッドは、ギアやツーデルトら魔獣を自らの近くに集めると、魔法で瞬間移動した。
瞬きの間に、クラーラの元へ。
「わわっ!」
「あらあら!」
「逃げろ!」
驚く二匹と焦るギアを余所にロッドは、イーラを乗せて走るクラーラを、植物を操って捕まえてしまった。
ロッドもギアも、ため息を吐く。
「ふう…これで全員捕まえたわね。ところで、ヌヌたちは?」
「道中、合流した直後に眠らせました。」
植物に絡まりながらも、いつものにっこり笑顔で答えるクラーラ。
「そう。ツーデルト、回収してきて。」
「はい。」
ロッドはイーラとクラーラの拘束を解いた。
「あーん、悔しい!絶対に捕まらないと思ったのに!」
イーラの言葉に、ロッドは笑う。
「おしかったわね。」
「アンタたちの負け」と言いかけたロッドは、ギアの顔を見て驚いた。
ギアはしてやったという満足げな表情だ。
「…俺たちの勝ちだな、イーラ、クラーラ。」
「ええ!」
「嬉しいです!」




