第14章、ロッドの指導⑧
長かったこの章も、そろそろ終わりです。
「勝者、ロッド!」
ルージの言葉を合図に、ロッドはギアとツーデルトにかけていた魔法を解き、それによってギアもイーラにかけていた魔法を解いた。
「見事、最後に完全敗北を避けたわね、ギア。」
ロッドの言葉に、ギアはつんっとして答えた。
「肝心のロッドには、かすり傷一つ付けられていないですけどね。」
ロッドが笑う。
「あんたね。まだ一人前になっていない魔法使いが、魔女にかすり傷なんて二十年早いわ!」
「…。」
「百年じゃないって。よかったね、ギア。さいのう、あるよ。」
観戦していたリリがペチペチと手を叩きながらギアを称える。
「それはどーも。」
ギアは不貞腐れたように、ぶっきらぼうに答えたが、内心は少し喜んでいた。
ロッドが守っているイーラを無力化できたこと。かすり傷をつけるためにかかる、二十年という“短さ”に。
人間から見たら長い年月だが、魔女からしたら瞬きの間のような時間だ。また、魔女は長い時間の中で魔法の腕を極めている。つまり、たった二十年で一流の魔法使いにかすり傷を負わせられるほどの高い能力を持つと、ギアはそう褒められたのだ。魔法の腕で、二十年で一流魔女の足元ぐらいには立てるというのは、魔法使いにとって嬉しいことだ。
「ロッド様を無力化できないからって、あたしを狙ったわね。」
イーラが不満げに呟いた。
「ま、それは仕方ないわね。でも、イーラちゃんも良い判断だったわ。ギアと組んでいた時は、全て自分で解決するか、成り行きに任せるようにしていたでしょうけど、今回は、着地をあたしに任せて、自分の力を使うのは体勢を立て直すことだけに止めたわね。」
「ええ!落とされた時は一瞬ひやりとしたけど、自分の力でできる範囲のことはやって、後はロッド様に何とかしてもらおうと思って。」
自信満々に告げたイーラを見て、ギアは、イーラも成長していることを理解した。
今までイーラは、何でもかんでも自分でやりたがるところや、無茶と言うほどではないが積極的に前に出たがるところがあった。
それが、今日一日でかなり変化している。
「ところで、そっちはどういう作戦を立てていたの? あと、それがどういう判断で作戦にしたのか、説明して頂戴。」
ロッドの問いに、ギアが頷き答える。
「最初に灯りを消して、こちらに有利な状況にしようという作戦です。夜行性で暗闇でも目が利くのはツーデルトだけですから。灯りを消したのは、俺たちが透明化したことをすぐに悟らせないためでもあります。そして、透明化したまま、俺があちこちから攻撃して撹乱させつつ、ツーデルトに致命的な一撃を与えてもらうつもりでした。攻撃する前にロッドに気付かれてしまいましたけど。」
「ええ、それで?」
「ツーデルトには、透明化だけでなく、小型化もしてもらって、俺から少し離れたところに待機してもらいました。」
「魔力探知の範囲外になるよう、遠くにいたわね?」
「ええ。」
「俺がすぐに捕まるだろうことは予想できたので、そんな時のためにも一応、です。思った以上に早く捕まってしまい、ツーデルトは行ったり来たりで大変だったろうと思います。」
そこで、ギアはツーデルトへ顔を向けた。ツーデルトはニコニコと笑っている。
「いえいえ!ギアさんと組めて、楽しかったですよ。」
そこで、イーラが口を挟む。
「魔力探知の範囲外ってことは、結構 遠かったんじゃないの? あたしが、ロッド様が捕まえたギアのところへ向かう途中で強風があったけど、あれってツーデルトの魔法でしょ? どうやったの?」
「私は梟なので、風魔法と相性が良いんですよ。遠くまで風を起こせますし、強い風を起こすのだって、容易いものです。あとは、単純に身体強化ですね。風魔法と身体強化でひとっ飛びです。」
(鳥は…風魔法と相性が良い……。)
その言葉に、ギアはふと引っ掛かった。
(なら、相棒の相性が良い魔法を使わせてあげると、有利になるか…。)
ギアが考え込んでいると、後ろから誰かに激突された。
「ギーア!」
それは、コリンだった。
「なかなか上手くいったね!良かったね、ギア!」
「ああ。ありがとう、コリン。お前たちのおかげで、良い作戦が立てられたと思うよ。」
ギアがわしゃわしゃとなでると、コリンはとても嬉しそうに尻尾を揺らした。
「あら、コリンたちの手も借りたの?」
「皆とかくれんぼをして遊んでいる時に、コリンたちがなかなか見つからなくて困ったんです。でも、そのコリンたちの隠れ方と魔法の使い方がとても為になったので、そのことを今回の作戦に少し取り入れさせてもらったんです。」
ひとしきりギアになでられたコリンは、今度はロッドにすり寄った。
「それは良い学びを得られたでしょうね。ナイスよ、コリン。」
「えへへ~!」
コリンは喜び、駆け始めた。クラーラとダニエルも嬉しそうな顔をして、コリンの後を追い、共に駆け回り始めた。本当に仲が良いとギアは微笑んだ。
その様子を見ながら「さて」とロッドが切り出す。
「今日一日、あたしがあんたに考えて欲しかったのは、二つよ。」
一つ、とロッドが人差し指を立てる。
「まずは、魔獣たちのそれぞれの個性を感じてもらうこと。」
ギアが頷く。
ロッドの魔獣とは、これほどいっぺんに、それもこんなに深く関わったことは今までなかった。そのため、彼らの性格がこんなにバラバラで独特なことを強く感じるのは初めてだった。リリやコリンなどは特に、今までとは印象がガラリと変わった。
「次に、魔獣たちにはそれぞれ魔法の特性があると知ってもらうこと。」
これにもギアは頷く。今までイーラには、どんな状況でも対応できるように、様々な魔法を使うよう指示してきたが、今回のツーデルトと共に挑んだ模擬戦で、魔獣に有利な状況を作り上げること、相性が良い魔法を使わせてあげることを学んだ。
「いい? 相棒の性格も得意・不得意も全部を理解して、相手に歩み寄った行動をすることが大切なの。そうすれば、互いにとってやりやすくなるし、うんと優勢に近付くわ。」
ロッドの言葉に、ギアとイーラは深く頷いた。
そして、一人と一匹は反省した。今まで、何となくの協力しかしてこなかったのだと、だから一方的にやられて負けたのだと、そう理解したのだ。
ギアとイーラは顔を見合わせた。それぞれ、何か決意を秘めた目だ。
(本当、飲み込みが早いわね。)
ロッドがニヤリと笑う。
「あら、あんたたちにはまだまだ学んでもらうことがたくさんあるから、当分は相棒に戻さないわよ。――これから三週間は、みっちり、別な相棒とやることがあるわ。本来の相棒に戻って、調整し直すのはその後。…いいわね?」
「ああ…!」「はい…!」
やる気に満ちた返事が、夜の空に響いた。




