第14章、ロッドの指導⑤
この章はまだまーだ続きます。
ギアは杖を振り、光の粒子を生み出す。何度か振っているうちに、出てくる光の粒子が増えていった。
(こんなものか?)
そして、杖を指揮棒のように動かし、光の粒子を操る。
「さあ、見つけ出せ。」
光の粒子が美しい列を成して、空中を駆けて行く。
ギアはそれを追いかけようとして、一歩踏み出した。
その瞬間、光の列が解け、粒子がキラキラと輝きながら消えていった。
「はっ?!」
ギアは驚いて杖をもう一度振る。「探せ」と命令するが、やはりすぐに解けて消えてしまう。
「んんん…?」
ギアはうなる。自分は解除をしていない。そして、自然に解除してしまうような状況――例えば、魔力切れや魔法無効化の装置などもない。
変わらず聴力を上げる魔法も使用しており、気になる音は全くない。
(どちらも魔法自体は発動している。ただ、魔力探知の魔法は、使い続けようとすると駄目になっているんだ…。)
冷静に状況を分析し始めたギアは、ある考えが浮かんだ。
(誰かに魔法を妨害されている? 魔力探知の魔法を勝手に解除されている…とか。)
「…。」
ギアは再び杖を振る。また、光の粒子が出て、列を成す。次の瞬間、ギアはこっそりもう一つ魔法を使った。
(最初に出した列を操るフリをして、別なのを出してみよう。)
ギアは、自分にしか見えないよう細工をした光の粒子を生み出した。
「…。」
当然のように、最初の光はかき消される。そして、もう一つの方はというと。
(当たった!)
自分にしか見えない光の列が、ギアの腰よりやや低い位置にある“何か”の周りをぐるぐると回っている。
ギアは、“それ”に速攻で杖を向ける。
「見つけたぞ!姿を現せ!」
ギアの杖の先から出た煙がモクモクと“何か”を包んだ。そして、徐々に煙が消えていき、中から長い毛に覆われた四足歩行の動物が姿を現した。
「よっ、なかなか楽しかったな。」
そんなことを言いながら、現れた狼――ダニエルは、ニカッと笑った。
「ダニエル…。」
ギアは茫然とした。コリンの方だと思っていたのだ。
「よく分かったな、オレが透明化しているって。」
「あ、ああ。魔力探知の魔法を使おうとしても勝手に解除されるから、誰かが傍で解除しているんだと気付いたんだ。ツーデルトはこの遊びに参加してないから、他の誰かが傍にいるってことだろうと思ってさ。それでいて、姿が見えないから、透明になって俺たちの後を付いて来ている可能性を考えたんだ。」
考えを話すと、ダニエルは愉快そうに頷いた。
「ああ、当たりだ。」
その楽し気な様子を見て、ギアは困ったように笑う。
「器用なことをするなぁ。この分だと、コリンも何か細工をしているんだね?」
「ああ。あいつはツーデルトと同じくらい…下手をするとオレたちの中で一番 頭が回るから、もっと考えて魔法を使った方がいいぜ。」
ギアは、ダニエルの発言を意外に思った。ギアの中で、コリンは、遊ぶのが大好きでいつもハイテンション、それでいてダニエルを兄貴分としてとても慕っている、子供っぽい印象が強いからだ。
「そうですね。下手をすると、夕飯の準備を始めるのが遅くなってしまいます。…そうですね、あと四十分までにギアさんがコリンを見つけ出せたらギアさんの勝ち、そうでなかったらコリンの勝ち、と致しましょう。」
ツーデルトが時計を見上げ、制限時間を設けた。
「四十分か…。」
今のダニエルの言葉を聞いていなければ余裕だと思っただろうが、ダニエルの言葉をツーデルトは否定しなかった。何より、最後まで残っているという事実が、コリンの賢さを物語っている。
(これは…大変だ。)
「それじゃ、オレは皆のところで待ってるぜ。頑張れよ、ギア。」
応援の言葉を残し、ダニエルは中に入って行った。
「さて、ギアさん、頑張ってください。」
ツーデルトにも応援され、ギアは意気込む。
(こうなったら、全員見つけるぞ!)
そう、やる気を出したものの。
「ギアさん、残り十分となりましたよ。」
ツーデルトが親切にも残り時間を教えてくれる。
だが、コリン探しは難航していた。というより、ギアは完全に手詰まり状態になっていた。
「どうしたものか…。」
ギアは一人 呟き、ため息を吐いた。
「コリンはなかなか意地の悪いことをしますね。」
慰めの言葉だろうか。ツーデルトも苦笑交じりで呟いた。
「はあ…。」
ギアはため息を吐きながら、やけくそになって杖を振る。ダニエルの時と同じように、魔法の痕跡や魔力そのものを探知する魔法だ。三重にして、二つは自分以外に見えないようにしてある。どの光も消されることなく、進んでいく。ここまでは何も問題がないように見える。が。
どれもあらぬ方向へ飛んでいくという、大問題があった。
正常に機能していれば、全て同じ方向に飛んでいくはずである。だが、この三つの光の列は、どれもおかしな方向へ飛んで行ってしまうのだ。
(まただ…。)
何度試しても同じ現象になってしまう。ギアは自ら魔法を解除した。
「…ギアさん、疲れてしまいましたか?」
ツーデルトがギアの顔を覗き込む。
ギアは、自分の身体がふらふらと揺れていることに気付いた。
「あれ、おかしいな…。」
言われて気付いたが、頭もどこかぼーっとしていて、視界もどこかはっきりしない。
「んー…?」
かくれんぼを始めてからおよそ二時間程度が経っている。あちこち歩き回り、時に走り、魔法も多用して、かなり疲れた。疲れた…が、それにしては身体の不調が著しい。遊び始める前には昼寝もしていたというのに、これほどまでにふらふらするのは異常だ。
「何だ…?」
ふらふらする頭を自らの手で支え、ギアは一生懸命 頭を動かす。
(いつからだ?あんなに寝たのに、なぜ…。)
「あと五分です。」
ツーデルトが告げる。
コリンを見つけ出し、何とか勝利したいものだが、如何せん、頭が働かない。
(眠気だけでも何とかして…。)
かくれんぼの後には、夕飯の支度が待っている。寝ている場合ではない。
ぼーっとする頭とぼやけた目を覚まそうと、ギアは洗面所へ行き、顔を冷水で洗った。しかし、いつもならシャキッと目覚める水の冷たさを感じない。
(あ、れ…?)
温度が分からないことから、ギアは思うように動かない身体に違和感を感じた。
「何か、俺に魔法…がかけられて、る…?」
ギアの問いに誰も答えない。ただ、ツーデルトが一言 呟いた。
「残り一分です。」
ギアは持っていかれそうな意識を何とか奮い立たせ、杖を振る。
(守護、魔法…!)
自分にかけられた魔法を遮断する。すると、途端に頭がはっきりした。
「やられた…!」
ギアは悔しそうに言葉を零すと、もう一度、光の列を出す。それも、今までの二倍の量で。
光は全て、ギアの背中へと回る。
「そこか…!」




