第14章、ロッドの指導④
遅れてばっかですみません。
「それではギアさん、次の課題をお伝えさせて頂きます。次の課題は…」
「…。」
「若いものたちの世話をすること、です!」
「…説明がほしい。」
ギアは、ツーデルトの様子から、またろくでもない課題が出されることを予想していた。予想は当たった。
(一体、何の修行なんだ…。)
しかし、意味のないことをロッドが指示するはずがない。
(…嫌がらせ、だったらどうしよう。)
それはあり得る。だが、やはり違うだろうとギアは思う。ギアの修行を手伝ってほしいとルウシャから頼まれ、それを承諾した以上、ロッドはギアに修行としての課題を出すはずだ。
(…ロッドは、意外と仕事で手を抜かないんだよな。)
自分の魔獣と戯れていたり、凝った食事や軽食を作っていたり、時間を気にせず自由に過ごしているように見えて、ロッドは、やるべきことはきちんと行う。墓守として墓地の様子を定期的にチェックし、アリシアーレンを始めとする魔女たちから何か依頼があればそれをこなし、それを怠ることはない。
ゆえに、このよく分からない課題にも、何か意味があるのだろう。
「魔獣の中でも、まだ若いものたちはいつも遊び足りないのです。遊んであげてください。」
「…そうか。」
(きっと、何か意味が…っ。)
ギアが心の中で葛藤していると、ロッドの魔獣が集まってきた。
「わぁっ、一緒に遊んでくれるのー?」
「あそぼ、あそぼ。」
まず、ヌヌとリリがギアの膝に飛び乗った。
「あー…。…何する?」
ヌヌとリリのワクワクした様子を見て、ギアはひとまず考えるのをやめた。
「取りあえず、外に出よ。」
「たぶん、ダニエルたちがいるから。」
ギアの腕の中にいたミミとポポがそう言い、ヌヌがギアの肩に飛び乗り、リリがギアの胸ポケットに飛び入った。行け、との圧を感じる。
「分かった。」
ギアがそれに従い、外に出ると、ツーデルトも飛んで付いて来た。
さて、外に出てみると、狼のダニエルが、犬二匹と共に駆け回っていた。
「あっ、ギアさんよ。」
他に引きよりやや遅れて走っていた雌犬の方が先にギアに気付き、それによってダニエルと雄犬も気付き、ギアに駆け寄る。
「よっ、ギア。どうしたんだ?」
ダニエルが挨拶すると、犬二匹も話し始める。
「昼食ぶりだね。」
「おいしいごはんを、ありがとうございました。」
人懐っこい様子の雄犬と、おしとやかな雌犬。
それぞれ、コリン、クラーラという名の兄妹犬である。
「いや、ツーデルトが言うには、君たちの世話が次の課題らしくってさ。」
ギアがそう告げると、ダニエルら三匹はニカッ、ニコッと笑った。ふさふさの尻尾が揺れる。
「それじゃ、遊ぼうぜ。」
「何して遊ぶ?!」
ダニエルとコリンがすっかり乗り気になった。
「鬼ごっこしようよ!」
「えー、あんたたちに有利すぎ!」
コリンの提案にヌヌが不満を返す。
「んじゃ、かくれんぼ!」
「「いいね。」」
コリンが別の提案をすると、今度はミミとポポが賛成した。
「ギアさんがおに、ということで。」
「分かった。」
ギアが承諾すると、ギアに乗っていた者たちは一斉に降りる。
「ロッドの結界が張ってある範囲までだぞ。墓場はなし、家の中はあり。」
ダニエルがルールをきっちり設定する。
「そんじゃギア、50数えて、その後、合図…小さな花火かなんかを上げてくれ。」
「OK。それじゃ、数えるよ。」
ギアが目を瞑ると、気配が遠ざかっていく。
「1、2、3…。」
「…48、49、50。さて、花火を上げるんだっけ。」
杖を取り出し、小さな花火を上空へと放つ。
「どこから参りますか?」
後ろから声がして見てみると、ツーデルトが止まり木に留まってギアを見つめていた。
「あれ、ツーデルトは隠れなかったんだ?」
「ええ。わたくしはこのような遊びに興じる年齢でもないですし、本日はギアさんを任されておりますから。――さ、ギアさん、お手並み拝見です。」
ツーデルトはそう言うと、ギアの肩に飛び乗った。
「ということは、魔法を使って探していいんだね?」
「無論です。ですが、まあ、魔法を使わずとも見つけられる者もいることでしょう。」
隠れるのが下手な者もいるのだろうか。それを言えば、逆に、隠れるのが上手い者もいるということだ。
(魔法を使って早く見つけてしまおう。)
ギアは自らの聴力を魔法で向上させた。
「この近くにはいないな。少し移動しよう。」
遊びに混じっていない者の音も拾ってしまうため、音の主が誰なのかを聞き分けながら歩を進める。
「ほうほう、聴力を上げましたか。」
納得した声を出し、それからしばらく、ツーデルトは黙ってしまった。
ツーデルト黙っている間に、何匹も見つけることができた。
まずはミミ。草の生い茂っているところで寝こけていた。
次はヌヌ。木の洞に隠れていたが、そこの家主が帰って来て、追いかけ回されていたところを発見した。
次はポポ。倒木と地面の間にできた空間で、小腹が空いたとその辺の草を食べていたところを発見した。
次はクラーラ。ギアから少し距離を取りつつ、その背後をずっと追っていたようで、上手く隠れ続けていたが、やがてギアがずっと付き纏う音に気付き、身体強化の魔法で追いかけ、捕獲した。
さて、残るは三匹。ダニエル、コリン、リリである。
「おかしい…一通り探したのに見つからない…。」
ギアと、ギアに見つけられた者たちは、休憩のためロッドの家の居間に集まっていた。
「ふふふ…。ダニエルとコリンは、クラーラ同様、一工夫しなければ見つかりませんぞ。」
「うふふっ。」
ツーデルトとクラーラが意味深に笑う。
「ヒントほしい?ギア。」
ヌヌも堪えきれない様子で笑った。
「…いや、もう少し自分で探す。まだ家の中は見ていなかったから家の中を―――」
話している途中でギアは見つけた。居間に飾られた置物に堂々 紛れていたリリを。
「…リリ?」
「…ん、見つかった。」
(こんなに分かりやすいところに…っ、何で今まで気付かなかったんだ…っ!)
ギアはとても悔しい気持ちに襲われた。
何とリリは、数々(かずかず)の動物を模した置物の中にぽつんと混じっていた。
「おや、変身を解いてしまったのですか。」
ツーデルトがさして驚いた様子も見せず、リリに話しかけた。
「うん。疲れたから。」
極めてマイペースな回答に、ヌヌは苦笑する。
「あーあ。あのまま変身してたら、最後まで見つからなかったかもしれないのに!」
「あら、ヌヌ、あなたヒントを教えようとしていたでしょう?」
「だって、ヒントをあげた方がハラハラドキドキして楽しいかもって思って!」
魔獣たちの話に、ギアは察する。
「そうか、リリは魔法を使っていたから、すぐに分からなかったのか…!」
魔獣たちはうんうんと頷いた。
「せいかーい!」
「魔法は禁止してないよ~。」
「だからもっと頑張って探さなきゃ~。」
さすがロッドの魔獣。ただの遊びでも、高度なことをしてくる。
「よし、魔法を使ってると分かったんだ。探し方を変えれば見つけられるはずだ。」
ギアはいつの間にか遊びに熱中していた。
「わたしたちはここで待ってますね。」
「ふぁいと。」
ツーデルト以外の魔獣をその場に残し、ギアは外に出る。
「さて、次はどうお探しするおつもりですか?」
ツーデルトが興味津々といった様子で訊ね、ギアはそれに答える。
「魔法の痕跡を辿ろうと思う。」




