第4章、祭りと儀式①
今回も「魔女の敵」と「古の魔法書と白ノ魔女」を同時投稿しています。
あちらこちらで空腹を誘う匂いを発する店…。
寒そうに息を吐きながら笑顔で行き交う人々…。
はらはらと舞う雪が引き立てるきらびやかな通り…。
いよいよ祭りが始まった。
「あなたたちは、昼から始まる儀式まで好きにしてていいわ。」
「そうね。ギア、イーラにこの街のお店を紹介してあげて。」
これからアリシアーレンとルウシャは儀式の段取りを確認しなければならないが、ギアは儀式にあまり関わらないため、暇になる。二人の魔女の補佐は、全て神官が行うからだ。
イーラはそわそわした様子でギアを見上げた。
「分かりました。少し出かけてきます。」
イーラを肩に乗せたまま、ギアは通りへ出た。
「ギア、あれ!あれは何?」
「あれはスイーツの出店。ナッツやフルーツが入った人気の店が出してるものだな。」
そう言って店に近付くギア。
「やあ、今年は良い場所をゲットしたみたいだね。」
「ギア。どうだ、魔女様方に買っていくか?」
「そうだな…。これとこれ、あとは…」
「これ!これが食べてみたいわ!」
リスが人間の言葉を話し出したことに、店番の青年は驚いたようだ。
「ああ、びっくりした。リスの魔獣か。」
青年はニカッと笑った。
「それはうちの店のおすすめなんだ。おまけしとくよ。」
「ありがとう!」
青年とイーラが会話しているところに、二人の少女がやって来た。一人は青年の妹で、この店の娘だ。
「ねえ、今、その子が喋ったの??」
「そうだよ。」
「すごい!」
娘がはしゃいでイーラと握手をかわす間、友達がぽつりとこぼした。
「かわいい…。」
イーラは胸を張った。
「当然よ!」
「その首飾りとお洋服、似合うね。」
もじもじしながら少女は会話を続けた。
「あんたのその髪飾りだって、とってもステキだと思うわ。」
イーラは少女の髪のリボンを褒めた。少女は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。これ、私が作ったの。でも、お店ではもっとかわいいアクセサリーを売ってるよ。お父さんとお母さんの方が上手だし。」
「お店?」
「この子の親は、服飾品の店を経営しているのよ。行ってみるといいわ。」
「今年は、出店も出してるの。店よりも手頃な値段で小物が買えるよ。」
二人はその出店のある方角を指し示した。
「ギア、ギア!」
イーラは、勘定をしているギアに尻尾をぶつけた。
「何?」
「次はあっち、あの出店に行きましょ。」
「はいはい。」
ギアは返事をしながら商品を受け取った。
「まいどありー。」
「お祭り、楽しんでねー!」
手を振る少女たちにイーラも手を振り返し、別れた。
「で、見たいのはここ?」
「そうよ!」
イーラはギアの肩から降ろされると、ちょこちょこと歩き回って商品を見始めた。
「何か欲しいの?」
「ん~?あたしじゃなくて、アリシア様に合うのないかなって。ほら、これとかどう?!」
イーラは青色のネックレスの前で飛び跳ねた。
しかし、ギアはそっとイーラを抱き上げた。
「…買わない。あの人はあれ以外のアクセサリーを身に着けたことがない。」
「じゃあ、髪飾りとか…。」
「無駄だよ。前にリボンを送ったことがあったけど、髪には着けなかった。あのネックレスだけ…亡くなった旦那さんからもらったっていう、あのネックレスだけなんだ。アリシアは、あれしか身に着けないし、あれを外すこともない。」
ギアは早足でその場を離れた。
「……ギア?」
イーラはきょとんとした顔でギアを見つめた。ギアはただ、真っ直ぐ前を向いて歩くだけ。
どうしたのかと聞くのも許さない、そんな空気を醸し出して。
「ただいまー!」
「ただいま戻りました。」
店を一通り見てから、ギアとイーラは神殿に戻った。
「「おかえり。」」
二人の魔女は、すでに儀式用の衣装に着替えていた。
白地に金と黒の刺繍が入った上品な服。結わえられた髪には、金の蝶の髪飾りが着けられている。
二人とも全く同じものというわけでもなく、所々、違った意匠になっている。アリシアーレンは、30歳前後の見た目であるため、大人で落ち着いたデザインだが、ルウシャは10代半ばの見た目であるため、若さあふれる可愛らしいデザインだ。
「二人ともステキ!」
イーラはピョンピョンと跳ねて感動を表した。
「ありがとう。でも、イーラの分もあるのよ。」
ルウシャは、同じ模様の刺繍が施された小さな服を取り出して見せた。イーラにぴったりのサイズに作られている。
「ほんと!?」
ルウシャは、喜ぶイーラにさっそく着替えさせ始めた。
そのうちに、ギアはアリシアーレンに声を掛ける。
「…綺麗です、アリシア。」
心の底から思う言葉を、恥ずかしさと共に口にした。
「ありがとう。」
アリシアーレンはにっこりと笑って、ギアに何かを手渡した。
「さあ、あなたも着替えてくるのよ。」
それはギアの分の衣装だった。
「…はい。」
別室に一人移動しながら、ギアは少し悔しく思った。
ギアの言葉に、アリシアーレンが全く表情を変えなかったということは―――
いつまでたっても、自分が、子供としか思われていないことを表しているから。