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特徴

「私なんかが、颯月さんの? そんなはずないでしょう、恐れ多い事を言わないで楓馬」

「ええ? いやまあ確かに、正直綾那はアイドクレースじゃ人気ないと思うけど……でも颯月さん、骨みたいな女より豚みたいな女の方が可愛いって言ってたからなあ」

「うん、颯月ってちょっと変だよな」

「え、ちょ、嘘でしょう、ちょっと待って? 私ってそんなに? ゴリラは言われ慣れてるけど、豚の免疫はまだないよ? なんて恐ろしい国なの、リベリアス――」


 綾那が遠い目をして呟けば、楓馬が「いや、でも、細身の女しか居ないのは、リベリアスの中でもアイドクレースだけだぞ?」とフォローを入れる。しょんぼりした綾那を見て調子が狂ったのか、幸輝はどこか気まずげに頬を掻きながら口を開いた。


「なあ、悪魔憑きについて何が聞きてーの? 魔具で抑えなきゃいくらでもマナ吸っちまうし、魔力強いからってフツーの人間に怖がられて面倒くせーし……別にいいモンじゃねーよ?」

「へえ。悪魔憑きって皆、見てすぐに分かるものなの?」

「見た目が変になるからな。それにもしフツーの人間に見えても、この国で『金髪』『赤目』なのは全部、悪魔憑きだろ? すぐ分かるじゃん」

「金髪、赤目?」

「え、悪魔憑きの特徴も知らねーのかよ……俺ら見てなんとも思わなかったのか?」


 幸輝の言葉に目を瞬かせた綾那は、改めて子供達を見た。彼らは揃いも揃って金髪に赤目である。目の色はともかく、黒髪か茶髪の人間が多いリベリアスに金髪はかなり目立つ。


(いや、確かに気にはなっていたけど……あまりに同じ色彩だから、てっきり兄弟か親類なのかと思ってた)


 まさかそれが悪魔憑きの特徴だなんて思わなかった。何せ、綾那の知る()()()()にその特徴は当てはまらないからだ。


「もしかして悪魔憑きになると、皆金髪になっちゃうの?」

「そう、髪は絶対に金髪。目の色も赤に変わる」

「でも、じゃあ颯月さんは? 確かに金髪混じりだけど全部じゃないし、それに目は紫色だよ」

「颯月は……ちょっと、俺らとも違う。変な憑かれ方したんだってよ」

「てか、颯月さんの事は本人に聞けよな」

「そっか――それもそうだね。じゃあ、マナの吸収を抑える魔具っていうのはどれ?」


 綾那が問えば、楓馬と幸輝はそれぞれ己の耳にかかる髪をかき上げて、宝石付きのピアスを見せた。


「これ付けてると、マナの吸収を止められる。ただ、付けてる間マナを吸収できないって事は、新しく魔力も溜められないから……魔法を使いまくって体ん中の魔力を使い切ると、何もできなくなる。だから、魔力が空っぽになる前に魔具を外してマナを吸うんだ」

「じゃあ悪魔憑きの皆は普段、(あらかじ)め体の中に魔力を溜めておいて――それからマナを吸い過ぎないように、魔具を付けて生活しているんだ」

「そういう事。もっと強力な魔具を付ければ、金髪と赤目も誤魔化せるようになるらしいけど――でも俺の角も楓馬の石も、朔の歯も、この変な見た目だけは変わらねえの。だから、無駄だし俺らはこれでいーやって」

「ふぅん」


 魔具というからには、ピアスに嵌った石は宝石ではなく魔石なのだろう。こんな小さな道具一つでマナの吸収を抑えられるとは、不思議なものである。


(うーん……颯月さん、ピアス付けてたっけ? いや正直ゴリゴリに付けてくれた方が、ヴィジュアル系感が増して最高なんだけど。あ、もしかしてあの眼帯が魔具なのかな? 紫色の宝石みたいなのいっぱいついてたし……あれ全部、魔石なのかも)


 ちらりとテラスの颯月を盗み見れば、静真と話し中だろうにぱちりと視線がかち合った。綾那が「何かあったのかな?」と首を傾げれば、颯月が目元を甘く緩ませたため――思わずングッと呻く。


(もうヤダ、本当に心臓に悪い顔……! 宇宙一格好いい! 有罪……!!)


 綾那は慌てて子供達の方へ向き直った。そして、バクバクと激しく脈打つ心臓を落ち着かせるために、ひっそりと息を吐く。すると、一連の動きを見ていたらしい楓馬がふーんと鼻を鳴らした。


「やっぱ、颯月さんの女なんだ。その指輪だって颯月さんのだろ? 石、紫だし」

「いやいやいや、違う、これは違うの」

「なんだよ、お前ムチムチのくせに颯月のこと嫌いなのかよ?」

「は? 嫌う要素ないでしょ、あの顔だよ!? あの顔ってだけで、例え何されたって許せる自信あるよ! ――もう、だから困ってるのに!!」

「颯月って変だけど、お前もスゲー変だよな。変な髪だし、目も……ピンクなんて変なの、悪魔憑きみてえ」


 じーっと間近で瞳を観察する幸輝に、綾那は微笑み返した。最初は目を合わせようともしなかった子供が、今では真っ直ぐに目を見て話してくれるから嬉しくなったのだ。


「ピンクは珍しい?」

「目には、魔力の色が反映されんだよ。水が得意なら青、火が得意なら黄色、風が得意なら緑――ああ、光が得意な静真は銀色、とか。お前って何が得意なんだ?」

「ああ、私は魔法が使えないから――」

「は? も、もしかして魔力ゼロ体質ってヤツ? じゃあ、魔法も分かんないのか?」

「うん。ねえ、悪魔憑きの目の色が赤になるなら、皆の得意な魔法はなんなの? てっきり火なのかなって思ったけど、火は黄色なんだね」


 綾那の問いかけに、楓馬と幸輝はあんぐりと口を開けて顔を見合わせた。


「マジで何も知らねえんだ、お前ホントどっから来たの? 悪魔憑きは光以外、全部使えるよ。その中でも、人によって得意なのと苦手なのに違いはあるけど」

「光を抜いた七属性、全部扱えるって事? それって普通は、いくつぐらい扱えるものなの?」

「フツーの人間は、一つか二つぐらいしか使えないんだってよ」


(まるで、「表」のギフトみたい。まあさすがに、ギフトを七つも八つも授かった神子は見た事ないけど……悪魔憑きと神子って、似てるのかも)


 普通は一、二種類の属性しか扱えないと言うならば――もしかすると七種類も扱える悪魔憑きは、まるで「表」の神子のように嫉妬の対象になるのではないか。

 まあ、必ず派手で容姿端麗に育つ神子と違って、悪魔憑きは見た目が異形になってしまうらしいが。それでも、魔法が全ての世界では余りあるメリットのように思える。


(それに、角が生えていたって、肌が石化していたって、歯がサメみたいだって……悪魔憑きって颯月さんを筆頭に、顔面偏差値えぐくない? どうして親御さんは、こんな将来有望株を捨てちゃうんだろう――私ならこんな息子絶対に手放さないし、将来彼女を紹介されようものなら、「怪力(ストレングス)」使って強めの壁ドンしちゃうかも知れないのに)


 綾那が不穏な事を考えながらじっと子供達の顔を眺めていると、不意に楓馬が悪戯っぽい笑顔を浮かべた。


「なあ綾那、「身体強化(ブースト)」って分かるか? 静真さんなんて光一つしか使えないから、「身体強化」すら使えないんだぜ? 火の初歩的な魔法なのに、ちょっとダセーよな」

「だ、ださいって――」

「ただでさえ静真さんガリガリだから、たぶんもうちょっと大人になったら、俺の方が強くなると思うんだよな。俺は「身体強化」使えるし」

「静真はマジで弱い。颯月は「身体強化」なんか使わなくたって強いから良いよなー。俺も早く騎士になって、体鍛えてーな」

「幸輝は将来、騎士になるの?」


 髪型を真似ている時点でなんとなく察していたが、どうも幸輝は颯月に憧れているらしい。生意気だが可愛い所もあるのだなと、綾那は微笑ましい気持ちになる。


「俺が騎士になるのにあと十年ぐらいかかるとして、そしたらもう颯月ジジイじゃん? だから俺が部下になって、楽させてやろうと思ってよ!」

「ふふふ、十年じゃあまだジジイにはならないよ。でも、騎士団って大人にならなきゃ入れないの? 早くに入って特訓させてもらう訳にはいかないんだ?」

「ん~別に年齢の決まりはないけど、でも、俺らまだ魔力の制御が下手くそだからな。普通のヤツらと生活するには、まだ――」

「制御かあ」


 静真が、「幼い悪魔憑きは自制が効かず、魔法を暴発させる事がある」と言っていたが――それが原因なのだろうか。本当に不自由なのだなと複雑に思っていると、楓馬が真っ直ぐに綾那を見て首を傾げた。


「てか魔力ゼロ体質で、よく俺らの相手しようと思えたよな? 殺されるって考えなかったんだ?」

「――……えっ、私殺されるかもだったの!?」


 事前に「何かあると危ないから」とは聞いていたが、まさか殺す殺さないの話になるほど深刻だとは思っていなかった。楓馬の問いかけに、綾那は目を剥いて肩を跳ねさせたのであった。

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