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ルベライト騎士団本部

あけましておめでとうございます。

なかなか更新頻度を毎日に戻せませんが……これからも頑張っていきます^^

今年もよろしくお願いします!

 一行は、真っ白に輝く街の中を進んだ。アクアオーラは本当に美しい街だと思うが――しかし、ところどころ倒れた街路樹や、崩れた建物の瓦礫を撤去している者の姿が目立つのが少しだけ残念だ。

 ルベライト所属の騎士を表す青色の騎士服を着た面々と、彼らと共に作業しているのは私服姿の民間人。この領は元々魔物や眷属の被害が多い地域らしいので、やはり騎士や傭兵だけでなく、一般人もこういった襲撃に慣れているのだろうか。


 彼らの表情には疲労の色が濃く浮かんでいるが、悲壮感や絶望感が溢れているようには見えない。どちらかと言えば、「は~、やれやれ、またかよ~」なんて、辟易としている雰囲気だ。

 こんな状態でなければ、もっとゆっくり観光を楽しめただろうに――。


 陽香はついに寒さに耐えられなくなったのか、綾那の背にしがみつくようにしておぶさった。そして、その上に綾那が颯月から借りた外套をぐるぐると巻きつけて、サナギのように体を固定する。


 陽香の細い両足は綾那の腹にしっかりと回されていて、動きづらさはあるが、互いの体温を感じられて安らぐ気もする。お陰で綾那の背中は、まるで二人羽織でもしているかのように膨らんでいる。


(人間湯たんぽだ……まあ、軽いから別に良いんだけど)


 腕にはルシフェリア。背中には、モコモコに着膨れた陽香だ。綾那は苦笑いを浮かべながら、子泣きジジイならぬ子泣き陽香を背負って先へ進んだ。もちろん、いくら軽いと言っても「怪力(ストレングス)」のレベル1を発動している。


「ここがアクアオーラの――というか、ルベライト騎士団の本部だ」


 足を止めた颯月に、綾那は顔を上げた。

 ルベライト騎士団本部は、騎士らの制服と同様深い青色の外壁をしている。雪景色に建つそれは、まるで氷の城――いや、要塞のようだ。

 華美な装飾は一切ない。雪の重みで抜けないようにするためか、屋根はどれも急な角度で取り付けられている。その尖った屋根がより攻撃的というか、近寄りがたい雰囲気を醸し出す。


 綾那は本部を見上げながら、「なんだか、見ているだけで風邪をひきそうな建物」という感想を抱いた。急な角度にも関わらず屋根に降り積もったぶ厚い雪といい、そこから垂れ下がる尖った氷柱(ツララ)といい、佇まいが寒々しいのだ。


「綾は気が進まんだろうが……とにかく入るか。中は空調が効いているはずだから、陽香も復活するだろう」

「確かに、このまま冬眠しそうな勢いですからね」


 呆れた様子で肩を竦める颯月に、綾那は困ったように笑った。

 そして、震えるばかりで言葉すら発しなくなった陽香と――いまだ不機嫌なのか一言も喋らないルシフェリアを連れて、騎士団本部の中へ足を踏み入れた。



 ◆



 颯月の言う通り、本部の中は空調が効いていて温かい。

 彼に先導してもらって受付もとい入口へ行けば、難なく入る事ができた。ルベライトの騎士は廊下を慌ただしく駆けており、まだ事後処理に追われている様子だ。


 陽香は中に入ってもしばらくの間、綾那の背中から離れなかったが――しかし、やがて復活したのかもぞりと顔を出して、サナギは無事に羽化した。


「ああ、(あった)けえ……生き返る……」


 彼女は大きな音を立てて鼻をすすると、ようやく綾那の背から降りた。


「ルベライトって、平均気温いくつなんだよ? まるで冷凍庫の中みたいだよな……うーたんが火ぃ焚いてくれなきゃ、ろくに活動できん」

「確かこの辺りは、夏でも平均気温十度以下だな。今は冬が近いから、恐らくマイナス十度以下じゃねえのか」

「くぅ……それを知ってたら、軽々しく旅しようなんて言わなかったのに――」


 颯月が「真冬は更に下がると思うぞ」と付け足せば、陽香は「じゃあ、これでもまだマシな時期って事か」と息を吐いた。

 そうして廊下を進んでいると、正面に見事な金色が現れる。「時間逆行(クロノス)」を解き、半獣の『異形』を晒した右京だ。

 彼は、膝裏まで伸びたストレートのポニーテールと、大きなキツネの尻尾を揺らしながらこちらへ歩いてくる。切れ長の赤い瞳――その瞳孔は縦に細長く伸びており、ズビズビと鼻をすする陽香を真っ直ぐに見据えているようだ。


 他人の感情、特に怒りに疎い綾那でも容易に分かる。今の右京は明らかに不機嫌だ。

 颯月はおもむろに、陽香の背中をぽんと押した。


「――じゃあ、存分に叱ってもらえ」


「そして、俺らを巻き込むな」と続けられた言葉に、陽香は「マ?」と目を丸める。

 颯月は綾那の手を引くと、陽香をその場に置き去りにして廊下を進んだ。途中すれ違った右京は、颯月を一瞥すると「連れ帰ってくれてありがとう」とだけ言って――すぐさま陽香の首根っこを掴みに行った。


 他に手がなかったとは言え、陽香は何十体と集まった眷属の囮を無策に務めたのだ。その無謀は、決して褒められた事ではないのだろう。こればかりは仕方がない。


「右京さんが「時間逆行」を解くほど、大変な状況だったんですね」

「いや、うーたんは昔からよくルベライトの救援要請に応えていたらしいからな。こっちの騎士は、子供の姿よりも狐の方が見慣れているんじゃないのか?」

「ああ、なるほど」


 確かに、右京自身も言っていたような気がする。『天邪鬼』で苦労する明臣の相手を、「同じ悪魔憑きなんだから、お前に任せる」と言って度々押し付けられていた――と。


 背後から「だって、他に方法がなかったじゃねえかよ~!」と嘆くような声が聞こえてきて、綾那と颯月は顔を見合わせて苦笑した。


「功労者の陽香には悪いが、俺らは先に応接室へ向かおう。成も和も禅も、全員集まっているだろうからな」

「はい、分かりました」


 綾那はチラと後ろを振り向いたのち、ルシフェリアを片手で抱え直してから先を急いだ。

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