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婚姻届

 翌朝、雲一つない晴天の日――とは言っても、元々リベリアスに雲はない。晴れているか、雨が降っているかの違いだけだ。

 渚は以前「その割に南部セレスティン領では、海上の上昇気流と水蒸気でしっかり台風だけ発生するの、マジで謎」と首を傾げていた。


 颯月は宣言通り朝一で役所を訪ねて、婚姻届を入手して来たらしい。その帰りがけに街の宿屋――渚と白虎が滞在している宿だ――に立ち寄って、二人を連れて騎士団本部まで戻って来た。


 婚姻届には、当事者の他『証人』欄に二人分の名前の記入が必要だ。

 どうも颯月は、その内の一人分を竜禅に頼んだらしい。残りのもう一人分も、騎士団員の中で記入してくれる者はいくらでも居るのだが――彼はあえて、渚に頼みたいと考えたようだ。

 一応は交際どころか結婚の許可まで下りている状況なのだが、やはり、互いの家族を蔑ろにせず大事にしたいと思っての事だろう。


 また、「表」と同様リベリアスにも挙式の概念はあるらしい。しかし書類に記入して提出するのとは違って、思い立った翌日に式を挙げよう! なんていうのは、さすがに無理だ。

 例えば静真の教会を借りて、颯月と綾那二人だけで神に宣誓するだけなら可能だが――道ならぬ恋でもあるまいし、客だってそれなりに招待したい。


 颯月は自由奔放に生きているように見えて義理堅い性格であるし、きっと、今まで世話になった騎士団員を全て招待したいと考えるはずだ。

 それに、最近打ち解けた国王まで招待しようと思ったら、公務の調整にそれなりの時間を要するだろう。


(颯月さん、桃ちゃんに頼んでイチから私のドレスを作ってくれるって言ってたなあ)


 竜禅が用意したコーヒーとお茶請けと摘まみながら、綾那は目元と口元をこれでもかと緩めた。その隣では、気乗りしない様子の渚が婚姻届を眺めている。


 この場に居るのは、颯月、綾那、竜禅――そして、渚と白虎だ。ちなみに、本日は颯月も急ぎの書類仕事がないからと、一行は執務室ではなく騎士団本部の応接室に集められた。


「はあ……なんか、本当に結婚するんだ――凄い不思議な感覚。まさか四重奏(カルテット)で、綾が一番乗りだなんて……理想の男が()()過ぎて、下手したら一番結婚と縁遠いと思ってたのに」


 渚はたっぷり婚姻届を眺めた後、ようやく証人の欄に名前を記入した。その隣には既に竜禅の名があって、また颯月と綾那も記名済みである。

 これであとは役所へ提出して、書類が受理されれば――颯月と綾那は、晴れて夫婦になる。


 綾那は昨晩、「ついに私も苗字が変わるのか」と緊張していたのだが――その時になって初めて、リベリアスの住人から苗字を聞いた事がないという事実に思い当たった。

 聞けば、そもそも苗字の概念がないらしいのだ。


 ――もしかすると、この世界に住まう生命全てが『ルシフェリアの子供』だからだろうか?

 人類皆兄弟を地で行くとは、なかなかアットホームな世界である。その割に、悪魔の脅威がないと戦争と言う名の兄弟喧嘩をしてしまうと言うのだから、目も当てられないが。


 苗字がないなら家族をどう識別するのかと言うと、リベリアスの住人ならば持っていて当然の身分証明書、または通行証に記録されるため丸分かりらしい。

 例え生活苦の貧困層だろうが、子供の出生証明については無料で手続きできるものだ。生活苦であればあるほど、出生証明はしっかり受けなければならない。

 そうでなければ、お腹を痛めて産んだ子が将来困るだけでなく、働き口もなくなってしまう。家計が苦しい親としては、早い内から子に働いて欲しいに決まっている。


 そもそも、身分証明書や通行証がなければこの大陸では生きられない。何せ、町村に入る事すらできないのだから。

 よほど後ろめたい理由があって産まれた子でない限り、出生証明を渋る親は居ないそうだ。だからこそ、姓がなくとも公的機関が血縁の存在を証明してくれるという事らしい。


 例えば、悪魔憑きの教会に捨てられた子供達だってそうだ。

 彼らは物心つく前に捨てられていて、親の顔もイマイチ覚えていない――朔に至っては赤ん坊の頃に捨てられたらしく、親とは? という状態らしい――と言うが、恐らく役所で調べれば両親の素性を知る事ができるだろう。


 ただ、一度は己を捨てた両親だ。今更再会したところで、静真から離れて親元へ戻ろうとは露ほども思わないだろうが。


「――それで、式はいつ頃を予定しているんです? もちろん披露宴も挙げますよね? スタチューバーとして、家族の晴れ舞台を撮影しない訳にはいきません」


 婚姻届に記名し終わった渚は、それを颯月に手渡しながら訊ねた。その目は「綾を娶るならそのくらいの甲斐性、もちろんありますよね?」と威圧しているようだ。

 颯月は、受け取った婚姻届を大事そうに封筒へしまい込みながら頷いた。


「ああ、もちろん。綾が望むなら、毎年挙げても良いくらいだ」

「……さすがにそれは有難みがないから、やめてください」

「時期については――そうだな、冬頃が良いんじゃないか? 少しでも涼しい方が、暑苦しい衣装もお色直しも楽だろう?」

「セレスティン程ではないにしろ、ここも常夏なんですっけ? 確かに、綾は暑いの苦手だから――となると、早くても二ヵ月後ですかね」

「陽香とアリスも、その頃にはルベライトから戻っている頃だろうしな」


 颯月が言えば、渚は僅かに目元を緩めて「さすがに、その辺りはちゃんと考えてくれているんですね」と頷いた。


「――綾、ついでにあの話を頼めるか?」

「あ、はい!」


 颯月に促された綾那は、椅子の上で姿勢を正した。せっかく渚を呼び寄せたのだから、ついでに維月の件を話してしまえと言う事だろう。

 不思議そうに首を傾げる渚を見ながら、綾那は口を開いた。

実は綾那の苗字、本編中一度も出した事ないんですけど『水沢』と言います。

髪色から連想する魔法属性が入った名字で、名前と合わせた姓名判断で占いながら決めました(笑)

他ヒロイン三人も同様の決め方で、それぞれ苗字の設定があります――が、本編で使われる事がなく完全に死に設定です……。

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