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眷属狩り開始

「確かに魔石は、魔力ゼロ体質の方のためにあると言っても過言ではないよ。でも、そもそもリベリアスに魔力ゼロ体質の人間が生まれるのは稀なんだ」

「じゃあ――」

「姫は悪魔憑きの私とずっと行動していたから、分かりづらいかも知れないけれど……普通の人は一属性、多くても三属性の魔法しか使えない。例えば「身体強化(ブースト)」を使って重たいものを運びたいと思っても、火属性に適正がない人は使う事ができないんだ。でも『火』の適正をもつ人が(から)の魔石に魔力を込めれば――その『火の魔石』さえあれば、適性のない人でも火魔法の「身体強化」を使う事ができる」

「えっ! じゃあ、もしかして私達でも魔法が使えるって事!?」


 アリスは目を輝かせたが、明臣は頭を横に振った。以前綾那も、全く同じ質問を竜禅にした事がある。しかし返って来た回答は、「魔力ゼロ体質の場合、よくて生活魔法が限界だろう」であった。


 そして事実、借り物の魔石を手にしても使えたのは生活魔法だけ。魔石ありきで「契約(エンゲージメント)」を発動する事はできたが、しかしあれは属性がどうとかいう魔法ではない。

 リベリアスの住人なら――魔力をもつ者ならば誰でも発動できて当然の、ある意味では生活魔法のくくりらしい。


 落胆した様子のアリスは、そのまま続けた。


「そういうものなんだ……でも、だからこそ魔石って価値があるのね? 全属性の魔石さえ揃えれば、皆悪魔憑きみたいなものじゃない」

「まあ八属性揃えたとしても、空になれば意味が無くなるけれどね。改めて八属性分の適正もちにそれぞれ魔力を注いでもらわないといけないし――しかも、魔石の魔力装填は繊細だ。誰彼構わず装填を頼んで、石を割られると……ね」

「なるほど……魔力の装填量を増やそうと魔石を大きくすれば、十万円じゃあ買えないだろうしね。じゃあ、明臣に装填された魔石はどうなるの? 悪魔憑きは赤に染まるじゃない、七属性使えるチート魔石なの?」


 颯月の場合は眷属の呪いが半分だからか、雷属性を表す紫色に染まる。右京の場合――「時間逆行(クロノス)」で子供の姿になっている時は――火属性を表す黄色に染まる。

 ただし右京は元の大人の姿だと赤に染まるし、教会の子供達もまた赤色に染まる。どうもこれは、悪魔憑きの特徴らしい。


「いや、赤の魔石はなんの魔法も発動しないんだ。ただ、生活魔法を使う時の魔力供給源として使えるぐらいだね」

「そうなの? 上手く行かないものね……でも、よく分かった。つまり、氷の魔石が破裂すると氷魔法が発動して、水の魔石なら水が出る――って事ね」


 アリスが導き出した答えに、渚は頷いた。


「そういう事。しかもビー玉サイズなら魔力の内蔵量も知れてるから、効果範囲はそこまで広くないよ」


 小声で「まあ、銃で撃ち出す事によってどのタイミングでどんな効果が出るか読めないし――結構、陽香が危ないとは思うんだけど」と呟いたのは、聞かなかった事にする。

 それにしても、そこまで詳細な実験結果を得ているとは、一体いくつの魔石を破裂させたのだろうか。総額を考えると尚恐ろしい。


 そうして一通り話が終わったところで、ルシフェリアが「ちゅうもーく!」と、明るく気の抜ける声を上げた。


「話をまとめると、とりあえず赤毛の子が戻ってきたら銃の試用をしてー、問題なければ僕が光魔法をかけて、眷属狩りを始める――で良いかな?」

「良いと思いますよ。……どうせなら、トラも連れてきましょうか? それとも、街へ行かせて領主と話をさせましょうか。「これからしばらく森の方が騒がしくなるかも知れないけど、謎の魔物を討伐するためだから安心していい」って……そうすれば、多少は派手に動けるようになるんじゃありませんか?」

「ああ、それは良い考えだね。白虎って、ここでは僕以上に『神様』だから。きっと人間達も素直に納得してくれるんじゃあないかな」

「じゃあ早速、命令してきます。さっさと終わらせて、王都とやらに行きたいんですよね。綾って暑さに弱いから……下手したら、また体を壊しちゃうかも」


 渚は機敏な動きで大樹の根から立ち上がると、周りの意見を聞く事なく、さっさと家から出て行った。

 アリスはぼそりと「だから、なんで皆の守護神を従僕扱いなのよ……怖すぎるでしょ」と呟いたが、渚本人の耳に入る事はなかったようだ。


「――てか、その肝心なトラ……もとい白虎っての。全然会わせてくれないわよね? 大きな猫なんて、陽香辺りが見たら大喜びしそうだけど」

「確かに……右京さんの比じゃあない程テンションが上がりそう。あとは動物アレルギーが発症するかしないかの問題だけだね。そこのところ右京さんは、他の追随を許さないから……」


 陽香は命に関わるほど酷い動物アレルギーもちだが、モフモフした動物が大好きで触りたがる。どう安全に触るかと言えば、綾那の「解毒(デトックス)」でアレルギーを打ち消し続けながら触るのだ。


 右京の呪われた姿は半獣。半分人間だからなのか、不思議と動物アレルギーが起こらない。「解毒」なしで触り放題のモフモフペットとして、陽香から愛されているのは周知の事実である。

 ――右京本人がその扱いについてどう思っているかは別問題だ。


「禅曰く、紹介やら説明やらが面倒だから、森から出て来るなと命じられているらしいぞ」

「だから、扱い酷過ぎるでしょう……いや、でもぞんざいに扱われるのが新鮮で嬉しいって言うなら、本人にとってこの上ないご褒美なのかしら」

「なんとも言えんな――それで創造神、俺らはこれからどう動くのが良いんだ? このまま眷属に掛かりきりになっていても、毒の方は平気なのか」

「うん、まだ平気。今はとりあえず森を片付ける事に尽力して? 危なくなったらちゃんと教えるからさ」


 ルシフェリアは機嫌よく笑いながら、「さて、君はお仕事だから、僕はそろそろこっちに移動しようかな」と言って、颯月の腕から綾那の腕に渡った。

 綾那は「怪力(ストレングス)」もちのため、戦おうと思えば眷属とも戦える。しかし魔法封じがなければ眷属は魔法を使うし、以前のように「転移」された直後を不意打ちで叩く訳でもないため、危険を伴う。


 その危険を防ぐためなのか、それとも綾那の試練とやらに備えさせるためなのかは分からないが――ひとまず、ルシフェリアは今回綾那に眷属の討伐させるつもりがないようだ。

 綾那は目を瞬かせたが、しかしルシフェリアから「君の今日の仕事は、僕に楽をさせる事だ」と言われれば頷くしかなかった。



 ◆



 ――結果を言えば、魔石銃の試用はつつがなく終わった。

 魔石を撃ち出しても銃は壊れなかったし、魔石は着弾すると共に弾けて、しっかりと魔法が発生する。


 渚は、念には念を入れて数十回試して詳細なデータを取りたがったが――陽香が「これ以上ドブに金を捨てさせないでくれ! しばらく眠れなくなりそうだ!」と頭を抱えたため、適当なところで切り上げる事になった。


 そうして銃の用意ができたところで、ルシフェリアは陽香に光魔法を掛けた。すると、一体どれだけ強く掛けたのか、以前綾那が眷属フィーバーを迎えた時の比ではないレベルの眷属が家に向かって押し寄せたのである。

 陽香は身の危険と家の倒壊を恐れてすかさずジャングルの中へ逃げ込むと、颯月、明臣、竜禅がそれぞれ眷属の対処に当たった。


 残された綾那、渚、アリス、そしてルシフェリアは家の二階に待機して、あちらこちらで魔法が炸裂する様を窓からじっと見ている事しかできなかった。

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