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からかい、からかわれ

「へえ、今度は颯様の姿を借りて『顕現』したって訳か――本物と違って悪魔憑きの特徴がないのは、やっぱ目立つからか? ホント便利な能力だよなあ」

「ふふふ、何せ僕はとっても凄い天使だからね!」

「いや……まあぶっちゃけ、さほど天使らしさは感じねえけどよ」


 陽香の気のない返事に、ルシフェリアは「どこからどう見たって天使じゃあないか!」と言って、小さな頬を膨らませた。


 アリスの撮影補助と同時に彼女の護衛も兼ねているのか、横に控えていた明臣がしげしげと男児を眺めている。

 ルベライト騎士団の制服では浮くという理由からか、彼はキラキラしい王子の容貌はそのままに、白シャツに黒スラックスという至極シンプルな平服姿をしている。

 そんな飾り気のない姿をしていても輝かんばかりの王子オーラを放っているのだから、本当に人間というのは顔の印象が大きい。


「確かに凄いですね、さすがは創造神。今日は颯月殿にそっくりだ」

「――けど、なんでわざわざ颯様? しかもなんでちびっ子? アリスの「偶像(アイドル)」を吸って、天使の力とやらもめちゃくちゃ取り戻してるはずだろ? もう結構、大人の姿に近付いたんじゃあ――ああ、自分で歩きたくないからか」


 問いかけつつも一人で納得している陽香に、綾那は苦く笑った。確かに「歩きたくない」とは言っていたが、しかしルシフェリアは男児だろうが十四歳の姿だろうがお構いなしで、綾那に抱っこをせがんで来た。


 この姿にならざるを得なかった成り行きを掻い摘んで説明すれば、陽香は「あー……十四歳のアーニャが()()だからか」と深く頷いた。


「まあ、あれはあれで可愛かったけどね。師匠が怒ったから痩せるしかなかった訳だけど――」

「そもそも師匠がキレたのは体形じゃあなくて、痩せる努力もせずにいきなり服で隠して誤魔化そうとしたから――だろ?」


 アリスと陽香の言葉に、綾那は遠い目をしながら「いや、何ひとつとして隠せていなかったんだけどね」と呟いた。

 そうしてすっかり目的も忘れて話し込んでいると、綾那の腕の中でルシフェリアが「ねえねえ」と声を上げる。


「なかなか可愛いけれど、もうひと手間くわえればもっと可愛くなるんじゃあないのかな。服や小物はどこに置いてあるの? ちょっと女の子だけで見に行こうよ、この僕が特別に見繕ってあげるから」


 恐らくそれは額面通りの意味ではなく、ただ単に予知を聞かせても問題のない『余所者』のみを選別したいだけだろう。

 そもそも今のルシフェリアは、女児ではなく男児だし――まあ、本人曰く天使は両性具有らしいので、性別など関係ないという事か。


 綾那はここを訪れた目的を思い出すと、ハッと我に返って表情を引き締めた。しかし、ルシフェリアの都合どころか自身に迫る危機さえ理解できるはずのないアリスは、ムスッと不満げな表情を浮かべている。


「ちょっと、藪から棒に何よ? この私が衣装を選んでメイクまでしたって言うのに、ケチをつける訳? 私は『四重奏』の専属スタイリストよ、メンバーの魅力の引き出し方は私が一番分かってるわ。素人は黙っててよね」


 すっかりヘソを曲げてしまったらしいアリスは、強い口調で不快感を露にした。

 彼女についていけ好かないという印象を抱いているルシフェリアもまた、ぴくりと片眉を上げて口元だけの笑みを浮かべている。いつもならばこの辺りで、傲慢だなんだと言い争いが始まるのだが――今日ばかりは、ルシフェリアの方が耐えてくれているようだ。


「なるほど……詐欺師はオネーサンじゃあなくて、明臣のお姫様だったって事か」

「うーたん、さっきから好き放題言い過ぎだろマジで」


 陽香を年相応の女性に変身させたアリスの手腕に、右京は感心するように息を吐いた。その横に立つ陽香が、またしても彼の後頭部をパァン! と叩く。


 ふくれっ面のアリスと右京に制裁をくわえる陽香それぞれに目配せしたルシフェリアは、最後にちらりと綾那の顔を見上げた。

 男児は何も口にしなかったが、そのじっとりとした胡乱な眼差しは、「早く僕の言う通りに、場所を移してよ」と物語っている。


 綾那は眉尻を下げて笑いながら頷くと、アリスに声を掛けた。


「ねえ、アリス。これ以上手をくわえるかどうかは別として、どんなものが集められているのか一度見てみたいな。ほら、今回私は何にも関われてないから、分からなくて……興味があるの」

「え? それはまあ、そうだろうけど――でも、助言してくれるのが天使様だろうが神様だろうが、これ以上増やさないわよ? バランスが悪くなるから!」


「分かったわね!?」と指を差して吠えるアリスに、ルシフェリアは頷きつつも小さな声で「これだから嫌なんだよね、本当に――」とぼやいた。

 ぼやかれている事など気付かないアリスは、まず明臣にこの場で待機するよう指示を出した。続いて右京を手招くと、「明臣が迷子にならないように、ずっと見てて」と絶妙に気の抜ける依頼を出す。


「いや、確かに明臣は放っておけないけど……僕一応、今日は水色のお姉さんの護衛なんだよね。あんまり目の届かないところへ行って欲しくないんだけどな……僕も一緒に行っちゃダメなの?」

「お? なんだうーたん、そんなに女体が気になるのか? 女体が」

「――にょたい」

「今から行く場所は女しか入れないんだぞ? まだ着替えてるモデルだって大勢居るしな――まあ? 見た目十歳児じゃあ? 例え女風呂に入ったって、許されるんだろうけど~?」


 目を丸める右京に、陽香はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。どうやら、散々詐欺だなんだとこき下ろされた事に対する逆襲が始まったらしい。


 王都限定の祭りなのかどうかは知らないが、今までアデュレリア領で過ごしていた右京は、そもそも繊維祭そのものについて明るくないのだろうか。もしかすると、ショーがどういうものなのかも興味がなかったのかも知れない。


 今から綾那達が向かおうとしている衣類の保管場所が男子禁制である事を聞かされた彼は、カッと頬を赤く染めた。


「――はっ、入らないし!! 僕はそんな事をする為に「時間逆行(クロノス)」使ってる訳じゃない! ホンット馬鹿だよね、さっさと行きなよ! ……そんで、さっさと帰って来てよね!? 水色のお姉さんに何かあったら、減俸どころじゃあ済まないんだから!」


 右京はそう吐き捨てて、愛らしい顔をプイッと背けた。横では明臣が苦笑いを浮かべて「まあまあ」と宥めている。


「うん、よし。それじゃあ行こうか? あっちだよ」


 綾那は、ルシフェリアが指差す方向へ足を運んだ。衣類の保管場所とやらがどこにあるのかは分からないが、恐らくルシフェリアの目的地は初めからそこではない。ただ言われた通りに動くのが得策である。


 そうして目的地も分からぬまま動き出す綾那の背に、やや焦った様子のアリスの声が掛けられた。


「えっ、ちょ、衣裳部屋そっちじゃないわよ!? 待って待って、綾那もなんで馬鹿正直にそっち行っちゃうのよ!」

「おうおう、待てってお前ら! 今日の主役を置いてくな、主役を! あたしが居なくて、どう追加の小物を決めるんだよ!?」


 ルシフェリアを抱いた綾那は、焦るアリスと至極まともな意見を述べる陽香を引き連れて、男児の案内に従った。

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