うちにある、なぜかペアの書道の小筆
霜月透子さま、鈴木りんさま主催の企画「ひだまり童話館・つんつんな話」の参加作品です。
ツンツン頭って言われたから、髪をひっぱってやった。
あいかはいつもぼくの気に入らないことばかり言う。
だから気に入らないだろうことを仕返し。
だって、アイツの髪は長くてさらさらしてて、ついさわりたくなるんだ。
ぼくの髪だってちょっと前までけっこう長くてさらさらでさわると気持ちよくてお気に入りだったのに。
気がついたら短くなってた。
長いほうがかわいいと思う。
あいかがツンツンになったらかわいくないと思うから、ぼくだって長かったときのほうがかわいい。
あいかのおばさんも「かわいいね」って頭なでてくれてた。
おかあさんも「こうたの髪はきれいね、まっすぐでいいわね」っていつもいつも。
「アンタ中学入ったらまたツンツン頭になんの?」
学校帰りに愛華が聞いた。
「悪いか?」
僕はぶっきらぼうに返す。
「やっぱ野球やるんだ?」
「そのつもり」
甲子園に行きたい。
そう思い始めたのはいつだった?
夏休み、隣の愛華んちでスイカを食べながらテレビを観ていた。
愛華が「かっこいいな」ってつぶやいたからだ。
蝉の声、スイカの色、愛華の長い髪からほんのり届くシャンプーの匂い。
「ヘアジェル買っておいてくれよ、いつものやつ」
「あ、もう切れかけ? ツンツンに立つやつね?」
大人になって、愛華は僕のおヨメさんになった。
甲子園には行けなかったけど、赤ちゃん抱っこして幸せそうだからいいか。
僕は仕事に行くときだけ、髪を硬めにセットする。
休みの日は髪も自分もリラックス。
愛華はちっちゃいころから、僕のサラ毛が好きだったらしい。
僕たちの子供もずっと、髪を伸ばしている。
ほら、だって。
僕たちの結婚式に互いの両親からもらったんだ。
「胎毛筆」
赤ちゃんの時の髪で作った筆なんだって。