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第八話 スキル・ローディング

 ――言うなれば、問題は聴覚の方にあった。

 もうかれこれ十時間ほどは経っただろうか。ダンジョン内には〝空〟がないので時間の感覚がおかしくなる。しかし同時に空腹に襲われることもなかったのだが。


 バチバチ! ピュルルル! メラメラボン! ポチャリンコ!


 不思議な鳴き声を聞きすぎて、鳴き声ノイローゼになることまでは誰が想像できただろうか。

 ……というのも。

 そもそも俺が今何をしているのかといえば、ただひたすらにカラフルなスライムを避けて、そして斬り倒している。


 いや別に、最初に出会ったあの普通スライムの恨みをこいつらにぶつけているわけではない。

 そうではなくて、何度も言うように俺はスキルを獲得するために戦っている。

 というより、いくつかのスキルはもう獲得していた。


 スキル――【見切り:自身への攻撃速度を減少させて捉えることができる】

 獲得率――【95%:ノーマルスキル】


 最初に入手したのは【見切り】だった。モンスターの攻撃を体から〝三十センチ以内〟の場所で避けることで判定され〝五百回〟を越えた時点で入手できる。

 視覚補助系としては最も基本的と言えるが、序盤の被弾率を下げるためにはマストでセットするテンプレ的なスキルだ。


 スキル――【集中:戦闘継続時間に応じてステータスが上昇する】

 獲得率――【70%:ハイノーマルスキル】


 次に【集中】が手に入った。三十分間戦い続ける――モンスターから『敵対心』を向けられことが入手条件の補助系スキル。

 また集中は一時間を越えた時点で【超集中】へと進化した。


 そして六時間時点での回避数が〝五千〟を越えて、見切りは【慧眼】へと進化。

 他にも【敏捷(びんしょう)補強】【攻撃補強】【属性補強】などの基本補強系は獲得したが、特筆すべき変化は他にあった。

 すなわち、超集中と慧眼のスキルツリーが統合され【天眼】へと進化したのだ。


 スキル――【天眼:周囲の現在情報を全て、減速させて捉えることができる】

 獲得率――【0.01%:オリジナルスキル】


 このスキルを獲得して以来、俺は今までただの一度も攻撃をくらっていない。

 背後まで認識できるというのは不思議な感覚だったが、片目が両目になるように、シンプルに視野が広がったと表現するのが正しいだろう。

 意識を集中させた空間をスローに捉える効果は見切りから変わっていない。

 ゲーム上ではシステムアシストのカーソルが表示されるのだが、リアルなこの世界では脳そのものの処理能力が向上するようだった。


 ――ただ、これはまだ俺の求める〝チートスキル〟ではない。

 五千回ではまだ足りない。天眼のさらにその先――〝一万回〟の攻撃を避けきるその瞬間まで、残りあと二千回――二時間強だ。


「さあもっと来いスライムども! 俺の()は良くなる一方だが、お前らだって増殖してるから疲れ知らずだろ。敵対心上げて行こうぜ!!」


 ――つまり、このスキル獲得法はいかにも俺にピッタリな手段だった。

 挑戦者は通常ダンジョン内で遭遇したモンスターと戦闘をする。それはせいぜい三~五匹で、一回の戦闘で〝避ける〟のは数回だろう。遭遇するまでの時間も安定しない。

 しかしこのカラフルスライムたちは違う。

 一つの属性につき五匹まで、四種五匹の計二十匹が増殖して俺を取り囲む。数秒に一度のペースで攻撃が飛んできて、倒してもまた勝手に増殖するためエンカウントするまでの時間もかからない。

 唯一の欠点と言えば、それでも一万回避けるには十二時間を要するということ。


 この集中状態を十二時間。普通なら音を上げるのだろうが……俺こそは六徹を成し遂げた男。十二時間連続の戦闘など準備体操レベルと言っていい。結果死んでいることは内密に頼む。


 そしてこれは補足だが、このゲームの〝ターゲット方法〟は『敵対心』によって決められる。

 ヘイト値、と言った方が分かりやすいだろうか。つまりそのモンスターにどれだけダメージを与えているか、どれだけ脅威かという数値。

 ダメージを与える、接近する――判定の関数は総合的に判断され、モンスターはどのプレイヤーを攻撃するか決定するというわけだ。


「まあこの状況じゃ、ターゲットされるのは俺しかいないけどな。……もしやモテモテか!?」


 スライムにも性別はあるのだろうか。もし仮に半々の比率だった場合、俺は今までに四千匹ものメスを倒してしまっていることになる。なんとジェノサイドな男なんだ。

 などと、俺はこんな下らないことを考えながらでも戦えるほど強くなっていた。


 人間は外部情報の九割を〝視覚〟から得ているという。敏捷性や攻撃力を上げることに比べて侮られがちだが、実は視覚の強化こそ他の何よりも優先されるべきなのではないだろうか。

 いや、だからこその〝チートスキル〟と言えるのだろう。


「この天眼でも十分にチートだけどな。それでもやっぱ、四年分の遅れを取り戻すには――」


 ――……ん?


 瞬間、俺の視界に何かが映った。

 それは何の変化もなかった十時間に現れた特異点。この戦いに慣れ切った俺を動揺させ得るイレギュラー。

 集中させた意識でスローに捉えたその存在は、見れば見るほど――理解できなかった。


 なぜなら、そこにいたのはあり得るはずのないモンスター。

 製作者の俺でも()()()()()のスライムが、()()()()()()の攻撃を繰り出していたのだから。


「キラキラリン!!」


「なんっだこいつ――()()!? ぐあッ……!!」


 その攻撃は十時間分の蓄積とでも言わんばかりに、俺の胸部を強く打ち抜いた。

 ……どういうことだ、いやそもそもあり得ない。紫色のスライムなんて聞いたこともないし、ましてや紫の属性なんてものは存在しないはず。

 それに尋常じゃないこの攻撃力は――まさか。


()()()()()()か……!! いやでも待て、クリティカル属性の攻撃なんて――」


 言いかけて、エイルの言葉が頭をよぎる。


「シンギュラリティ……? まさかお前、マキナが調整し直した新しい属性か!?」


 目の前で一層の輝きを放つ異色。

 その紫色は、数日前に追加――アップデートされたばかりの〝新属性〟だった。


「キラキラリン……!!」

「っちょ待てお前――!! クリティカル連打はさすがにズルすぎますが!?」


 おいおい神様仏様マキナ様。いったいどういう調整したらこんなバグみたいなスライムが生まれるんでしょうか。

〝クリティカル〟は攻撃毎に1%の確率で発生する、()()()()()()()()()()()

 そんなラッキーパンチをどうだ、このスライムは〝確定クリティカル〟でこのドヤ顔。高次元人工知能が聞いて呆れる調整ではなかろうか。


 ……と。そこまで考えて、俺の脳裏に一つの仮説が浮かび上がった。


「そう――そうだよ。こんな化け物が都会のコンビニ感覚で出てくるわけがない。というか現に、今までの十時間は出てこなかった」


 こいつは八千匹を過ぎてようやく現れたイレギュラー。そして同時に、あの人工知能が調整して生み出した世界の歯車。

 ならばこの()()()――かなりのレアモンスターなのでは?

 先日追加されたばかりの新要素、それも数千匹に一匹の色違いとなれば、これはもう――


「最っっっ高に面白くねぇか!?」


 そう叫ぶよりも先、俺の体は音を置き去りにして駆けていた。

 草むらで遭遇したモンスターが光り、倒れた敵が仲間になりたそうにこっちを見ている。

 そんなサプライズ的幸福を、湧き上がる歓喜を武器に込めて。

 少しの緊張と、大きな興奮に乗せて放つ挑戦者の一撃は。


「――シンギュラリティ・ライズ!!」


 会心的(クリティカル)紫紺(しこん)の玉体を、真っ二つに斬り裂いた。……ただの斬り上げ攻撃だった。

 きっとここにエイルがいたら「中二病乙」と言われ――いや言われないが、おそらく似たような目を向けられるのだろう。

 技にするならばもっと強力な攻撃にしなければ。名前負けなどダサいにもほどあるが、しかし技名自体は俺に合っていて良かったとは思う。……思うよね?


 とそこへ、バチバチ――という元気なやつが突撃して来た。

 遅れてポチャリンコもやって来て、さすがというか相変わらず賑やかな四色をしっかりと両目が捉える、その端で。

 五色目――紫色のドロップアイテムがポーチに吸い込まれるのを確認した俺は。


「……二匹目の色違いなんてどうでしょうかね!?」


 強欲にも、もう一匹を探しながら駆け抜ける残り二時間。

 ダンジョン侵入から丸半日が経とうかという十二時間後――ついに。


「くくく――悪いなお前ら。これが俺の〝公式チート〟だ……!!」


 万戦の果て、史上最強のチュートリアルは終了した。

 やっと辿り着いたスキルとゴール。第零枝(だいぜろし)最奥のビフレストは、俺を待っていたように虹色の輝きを放っていて。



          ――【〝 Congratulation!! 〟】――



 芽吹いた新芽が弾けるようなメッセージとともに、俺はレベル【1】になった。


                ■   ■


 ……そして。


「ぷっぷぷ――チュートリアルに十二時間もかかる挑戦者はぷぷぷ――この四年間であなたが初めてだわ!」


 エイルは瑠璃(るり)(いろ)の綺麗な瞳に相変わらずのぷぷぷ顔で、帰って来た俺をこの上なく楽しそうに笑った。


 ――まあ、分からなくていいさ。


「チート行為なんてのは、バレないに越したことはねぇんだからな」

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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