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第七話 四大属性

「プルルン!」

 水色のプルプルとした、小さくて可愛いモンスターが俺の前に飛び出して来た。


「第一村人キタ――ッ!!  おいお前、スライムだよな!?」

「プルルン、プルルン!!」


 話しかけても会話できるわけがないのだが、おそらくスライムの威嚇――敵対行動が期せずして会話をしているみたいになった。というか……


「えーお前めっちゃ可愛くね!? 一家に一台必要な可愛さじゃない!? あーなんで俺はモンスターをペットにする機能を付けなかったんだ!!」


 気付いたら俺はスライムを手に持ったまま叫んでいた。指先でモチモチ揉んで、頬っぺたでスリスリ堪能し――ついでに名前を付けようかと思った矢先。


「ブルルン、ブルン!!」


 ガッ――というあからさまに攻撃をくらった声が聞こえて、その後ゴンッ――という鈍い音が反響した。残念ながらどちらも、俺の口と後頭部が出した音だった。


「いってぇなおいスライム!! 少しは俺に転生の喜びを――」


 言い終わるよりも先。先ほど同様に変形したスライムの攻撃が俺の眉間を弾く。

 今度の俺は、ギッ――という音を発したようで、これ以上攻撃をくらうとガ行を制覇してしまう可能性がある。


「そっちがその気なら……悪いが俺も容赦しないからな!!」


 ガとギまでの恨みを込めて、俺のアイアンソードが敵モンスターを薙ぎ払った。……余計な忠告かもしれないが、俺のアイアンソードというのは決して下ネタではない。

 腰の鞘に武器を納めた俺は前方に『スライム結晶』というアイテムがドロップしていることを確認して。……ふと、重要なあることに気が付いた。


「そういえばこの世界――HPゲージが()()?」


 ユミルの瞳、視界の中、そしてスライムの頭上。ならばおそらく俺の頭上にも、体力を示すHPゲージはないのだろう。攻撃を当てた時に数値が出た様子もなかった、ということは。


「死んだらゲームオーバー、だな。逆に言えば、立ってる限り生きているわけだ」


 シンプルで分かりやすく、むしろ生きている実感が得られる仕様だった。それにそもそも、この世界の人たちの命は百分率で表せるようなものではないのだ。

 俺は心臓の鼓動をこの体に刻みながら、ドロップしたアイテムを拾い上げた。


「『結晶』系は一番メジャーなドロップアイテム……チュートリアルの確定ドロップか。もう少し奥まで行けば集団でエンカウントできるだろうから、まあ、話はそれから始めようか」


 話し相手もいないダンジョン内でいったい何の話を始めるのかと。

 今度こそ本当に日本昔話ですかという声に聞き覚えはあるが、いやいや。

 俺が誰だか、もうお忘れですか。


「…………はいそう、スキルの開発者ですよね!」


 答えを待ってみたが案の定、誰も答えてはくれなかった。よって自分からカミングアウトしたわけだが、何を隠そう俺はスキルの開発者なのだ。

 そんな俺が始める話と言えば――つまり、そういうこと以外にはない。


「どうしても欲しいスキル――()()()()()()があるんだわ。かなり後発なんだから、それぐらいの製作者アドバンテージ……〝チート〟くらいは、許してくれるっしょ?」


 何と言っても四年の遅れを取り戻さなければならないのだ。俺だってボスモンスターと戦いたいし、何よりエイルにドヤ顔で言ってやりたい――ほらな、と。

 だからこそ、眼つきの悪い俺にピッタリなあのスキルは何としても手に入れなければ。


 そう思うほどに加速する歩調。アジリティ型の特徴を活かした軽やかな移動は、一分もしないうちに〝第一分岐〟まで俺の体を運んだ。


「運命の分かれ道……でもないな。チュートリアルじゃ変わらないっしょ」


 ソードを倒して選んだ右の道はやはり簡素なダンジョンで、山も谷もないまま、俺の視界はもう最奥(さいおう)のビフレスト――ゴール地点を捉えたわけなのだが。


 そのビフレストの手前に俺のお目当て、プルプルのやつらがいた。


「おはようございます俺の周回相手。しっかり頼むぜ?」


 接近する俺の声に応えるように、スライムは体をブルブル震わせながら――変色した。

 横一列に並んだ、赤青緑黄のモンスター。

 こいつらは無視しても問題はなく、おそらく奥のビフレストまで辿り着ければクリアになるのだろう。

 多くの挑戦者はそうやって上手く戦いながら離脱したのだろうが……そう。


 俺はここで、最強のスキルを獲得する。


 第一、俺みたいな性格のやつは(すべか)らく『ただのチュートリアル』というものが嫌いなのだ。

 最初のステージはストーリーの重要地点であってほしいし、ラストではキーパーソンが暗躍していてほしい。隠しアイテムなどあればもう言うことなくて――

 ――だから。このまま平凡なチュートリアルでは終わらせない。

 そう心に誓って俺は――腰のソードを抜きながら四色のスライムと対面した。


「バチバチ――!!」


 瞬間、黄色のスライムが空中を裂きながら俺の胸部に殺到した。


「来たな雷属性、さすがに速いか!!」


 俺は右肩を前に入れ半身になってスライムの通り道を開ける。特大の静電気を纏ったような音を伴って、スレスレを通った黄色の弾丸は側面の木にぶち当たった。

 と思いきや、スライムはその弾性を利用して逆サイドまで跳ね返り、さらに跳弾して俺の背中に再び撃ち放たれた。


「うおっマズ――!!」


 俺はとっさに上半身を回転させる。慌てて構えたソードは僅かに遅れてしまったが……その時。

 ギュンッ――と何か大きな力に引っ張られるように、俺の右足が地面を()()に蹴っていた。


()()()()()()()……!! なるほど初めて体験した、これが〝スキル〟を使用した戦闘か!!」


 間一髪、セットしていたバックステップに背中を引かれ雷スライムはアイアンプレートをかすめて過ぎ去った。――が、油断はできない。

 今度はバックステップで下がった先に緑色――風属性のスライムが張り切って突撃してきていた。

 しかし雷スライムより動きは遅い。俺はステップの勢いをそのまま腰に流して回転し、ソードの()の部分で風スライムをぶっ叩きに振ったのだが。


「ピュルルル――!!」

「ぐッ――突風に逆らってるみたいに、()()!!」


 風スライムを中心に逆風――攻撃力デバフが吹き荒れており、気合とは裏腹にかなり弱い打撃になってしまった。

 また想定以上に攻撃後の硬直を余儀なくされ、俺の足はその場に張り付けられる。そのスキを逃すまいと突っ込んで来たのは赤色の火属性スライムだ。


「メラメラボン――!!」


 ふざけた鳴き声での体当たり。だがその威力は決してふざけたものではなく。


「いっ……つぅ。さすが火属性――攻撃力バフは伊達じゃないな!!」


 ゲチンッ――と火花散るソードと火スライム。あまりの威力に俺の両手首は額よりも上へ。

 嫌な予感がして肘と肘の間から見た先には……青色に(つや)めく水属性がいた。


「ポチャリンコ――!!」

「ごふッ――――」


 一秒前まで仰け反っていたはずの俺はボディーブローを打たれたかのように腹を抱え込んでいた。というか、俺の腹には水スライムが突き刺さっていた。

 ……これはまずい。

 俺はスキルに任せて後方へと距離を取るべく大きく跳び退る。ついでに後転までして雷スライムの攻撃範囲外までは逃げることができたが……。


「さっきのバックステップ、いや今現在ですら俺の()()()()()()。これだから厄介なんだ、水属性の敏捷(びんしょう)(せい)デバフは……!!」


 風属性は自身への攻撃にデバフをかける。言い換えれば防御力アップとも言えるが、水属性の場合は『攻撃が触れた対象』の速度を低下させる。

 どちらが強いということはなく、状況や相性によっても決まってくるが……しかし。

 相性という話をするのであれば、アジリティ型の俺は速度を殺されればただ貧弱なだけになる。よって水属性との相性はすこぶる悪いということになる。


「ああなるほど……体験した(わかった)よ。これが【属性】を使った戦闘、百聞は一見に如かずとはよく言ったもんだ。たしかにこりゃ――()()()()()()()()()()()()()()


 けど、安心しろよカラフルスライムくん。


()()()()()()はちゃんと遊んでやるさ。まあ、半日もあれば足りるだろ」


 引けた腰を押し戻し、下向きのソードを構え直して。

 チートスキルを賭けた、俺とスライムの天下分け目の耐久戦が開戦した。

もし良ければ右下のブックマーク↘、下↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、ランキングタグ↓クリックよろしくお願いします。……お願いしますね!!!


では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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