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第五話 ラグナロク・クエスト

 羊が百匹、羊が百一匹……と、わんちゃんが著作権を主張しそうな数で声をかけられた。


「ねえちょっとカント、私の話聞いてるの?」

「ん、ああ……聞いてない」

「聞いてない!? そこは普通聞いていたフリをするところでしょう!?」


 甲高い声が脳内に響いて目が覚めた。いやしかし、どれもこれも知っているのだから眠くなるのも仕方がない。

 製作者である俺がチュートリアルをまとめるとこうだ。


 世界樹ラグナドラシルには百本〝枝〟があり、その内部が〝ツリーダンジョン〟になっている。

 ツリーダンジョンとはその名の通り、モンスターの出現する危険地帯。内部は奥に進むほど枝分かれ――つまり分岐しており、その全体像は樹形図のように広がっている。

 枝ごとに内包する〝世界〟が分かれており、ムスプルヘイムなら火属性、ニヴルヘイムなら水属性という具合に、各属性のモンスターが待ち受けている。

 その枝に挑戦できる基準のレベルは『その枝数の二倍』。例えば第十枝に挑むならプレーヤーレベルは20が必要になる――という感じだ。


「ダンジョン内は〝枝〟の中。そう広くはないから三~五人のパーティで動くのが基本よ。もし死んでも命を落とすことはないけれど――〝ユミルの瞳〟を失って、もう()()()()()()()()()()()()()()わ」

「ユミルの瞳……?」


 よだれを垂らしながら聞いていた俺の耳に知らない言葉が飛び込んできた。

 製作者も知らない設定など掟破りにもほどがあるが、失えばダンジョンに入れないと言うからには相当重要なものだろう。

 いったいそれは何なのか、という眼差しをエイルに送っていたら、すっごい嫌そうな顔をしながら解説が始まった。……俺ってそんなに眼つき悪いですか?


「ユミルの瞳は挑戦者の証。ダンジョンに入るための資格と言ってもいいものよ」


 そう言ってエイルは二本の指を目尻の横、こめかみに軽く押し当てながら額の前へとスナップさせて振った。

 すると、どうだろうか。

 突如としてエイルの目の前に()()()()()()()のようなウィンドウが弾き出されたではないか。それはまさに半透明の、緑みがかった極薄の板。ゲーム上のステータス表示をそのまま空中にスライドさせたような、見覚えのある光景だった。


「これがユミルの瞳。世界樹を攻略しようとするあなた達『挑戦者』がチュートリアルをクリアして手に入れるもの。これを持つ者だけがツリーダンジョンに侵入できて、スキルの発動が可能になるわ」


 つまり――〝ユミルの瞳〟とは、いわゆるステータス画面だった。


「『画面』はあっちの世界の用語ってわけか。でもスキルについては説明不要だぜエイル。こう見えて俺、けっこう詳しいんで」


 俺が死の間際まで開発していた〝スキル〟。

 それは、一定の条件をクリアすることで獲得できる特別な能力。攻撃力が上昇したり、ドロップするアイテムが増加したり。このゲームを楽しむうえでとても重要な要素だ。

〝一度にセットできるスキルは三つまで〟――好みの戦闘スタイルに合わせて入れ替えることで、無限の戦略を生み出せるように設計されている。


「詳しいなら当然『スキルはダンジョンの外でも発動する』ってことも知っているのよね?」

「スキルが、ダンジョンの外でも発動する……?」

「なによ知らないんじゃない。例えばあなたが【敏捷(びんしょう)補強】のスキルをセットしていたなら、このミーミルの都市内でも素早く動くことが可能よ」


 おいおいなんだその異能アクションゲーム的な要素は。


「もしかしてあれですか、街中にも敵がいてバトル始まりますか?」

「いや、あのカント。あなた時々意味の分からないことを言うわよね。大丈夫……なわけないか」

「おいそこ諦めないでもらえますかね!?」

「そもそも期待してないもの、諦めてもいないわよ。……これで一通りの説明は終わりね」


 ……なんだかものすごく、嫌な終わり方をされた。

 釈然としない気持ちだったが、しかし基本的な説明が終わったのは喜ばしい。

 やっと回って来たターンに、俺は一つの疑問を投げかけた。


「なあエイル、降臨した神サマはどこにいるんだ?」

「それは私にも分からないわ。神託を下した後はどこかへ消えてしまわれたもの」

「自身の起動とアップデートを伝えに来た、ってわけか。神サマも大変だねぇ」


 エイルはそんな俺の独り言を意味不明だ、的な視線で(とが)めながらため息をつく。

 ただ、やはりこんなやり取りをもう諦めているのであろうエイルは、質問を返してきた。


「あなたの好きな武器は?」

「……ここで選んだやつが最初の武器、なやつか。全部で八種類だったよな」


 俺も思考を瞬時に切り替え、生前の記憶を辿りながら武器を決めることにした。

 たしか物理攻撃武器が六種類。グローブ、ナイフ、ランス、ソード、ハンマー、アックス――それぞれに〝重さ〟と〝攻撃力〟が設定されている。

 例えばグローブとナイフは軽くて素早く動けるが、その分攻撃力が低い。

 ランスとソードは平均的でバランスの取れた武器。ハンマーとアックスは重く破壊力はあるが、素早く動くことは難しい。


 残りの二種類は、魔法攻撃武器――ロッド、グリモア。

 ロッドは詠唱に時間がかかるため隙が大きいが、その分強力な魔法が使える。

 逆にグリモアは短い詠唱で魔法を連発できるが、攻撃力には欠ける。

 この全八種類でラグナドラシル・オンラインの武器は構成されている。


「最初に選ぶならやっぱり〝ソード〟だろ。やっと銃刀法から解放されたんだし」

「……何の法律かは知らないけれど、ソードを選ぶあたり意外と堅実なのね」


 言いながらエイルは初期装備【アイアンソード】をカウンターに置いた。俺はそれをありがたく受け取って腰に差したが……一つだけ残念なことがあるとすれば。


「初期武器には【属性】が付いてないんだよなあ」


 この世界にある属性は四つ。【火属性】・【風属性】・【雷属性】・【水属性】がそれぞれ有利不利の相性をもって(よん)(すく)みを形成している。


【火属性】は攻撃力上昇(バフ)、放つ軌跡は赤色。

【風属性】は攻撃力下降(デバフ)、放つ軌跡は緑色。

【雷属性】は敏捷性上昇(バフ)、放つ軌跡は黄色。

【水属性】は敏捷性下降(デバフ)、放つ軌跡は青色。


 各々の〝武器〟が一つの属性を有していて、攻撃時に属性ごとの色を発光する。


「〝バフ〟は自分だけを強くできるが、デバフ〟は敵全体を弱くできる。そこら辺を考えて属性を選ぶんだけど――」

「無属性しかないわよ、贅沢言わない」


 エイルは「もらえるだけ感謝なさい」と、さらに俺の胸に【アイアンプレート】を押し付け装備した。

 エイル曰く、この世界では『上半身の防具が全身を守ってくれる』そうで、足を斬られようが腕を殴られようが、上半身の防具に当たる判定になっているらしかった。


 また防具も武器と同様に、重ければ重いほど防御力が上昇して動きが遅くなる。

 このアイアンプレートは〝30%カット〟の防具で、防御力は低めだが比較的早く動ける防具だろう。


 つまりこのゲームは攻撃力・防御力・敏捷性のバランスをせめぎ合い、スキルで戦略の幅を広げる〝戦闘スタイル構築ゲーム〟なのだ。


「じゃあ最後に、あれを見なさいな」


 全ての説明を終えたら伝える決まりになっていると、エイルは近くにあった壁を指し示す。目を移すとそこには【Quest】と大きく書かれた板――クエストボードが鎮座していた。

 大小様々な形の紙が貼りつけられた大きな板。その中の一枚に目を凝らすと、依頼者の名前と依頼内容が書き込まれているのが見て取れた。


「あれが今後、あなたもお世話になるクエストボードとクエスト。けど今見てほしいのはそっちじゃなくて……もう少し上の()()よ」


 そう勿体ぶってエイルが指さす先にはクエストボードよりも一回り小さな、しかし威風を放つ別の板があった。吸い込まれるように顔を上げると――そこには。


【ラグナロククエスト:〝――頂上にて待つ――〟】


 どこかで聞き覚えのあるセリフが、四年間、俺を待っていたかのように掲げられていた。


「見えるかしら? あれこそ挑戦者の最終目標にして最大の謎。どこかの誰かが依頼した、最初で最後のラグナロククエストよ」

「……ああ、知ってるよ。そいつはきっと、俺たちを待ってるんだ」


 そうだろ神サマ。なんでお前が俺を転生させたのかは分からない。どういう学習の結果なのかは知ったこっちゃないが……そのセリフを言って消えたんなら、そういうことなんだろ。

 だったら製作者として、責任は果たさないとな。


「決めたよエイル。そのクエスト――ラグナロククエストは、俺がクリアする」

「なっ、はあ!? まだチュートリアルすら終わってないのに、ラグナロククエストをクリアするですって!?」

「同じことだよ――チュートリアルも、大それたクエストも。ただ目の前のことを楽しんで、気が付いたら辿り着いてるもんだ。そう思わないか?」


「いや思わないかって、何をさも当然のように……。四年遅れの完全攻略者なんて……はあ。やっぱりあなた、ちょっと頭おかしいでしょ」

「おう、ちょっとで済むとは驚きだ。それによ、ちょっとおかしいくらいが面白いだろ?」

「……そのにやけ顔、頭痛の元ね」


 エイルは理解できないと額を押さえる。


「わお酷い! いやしかし、眼つき以外で罵倒されるのは逆に嬉しいまである」

「……失礼、あなたの存在が万病の元だったわ。訂正して謝罪するわね」

「いや訂正できてないし、そんな謝罪は不名誉すぎるが!?」


「ふっ――ぷぷ――。本当に、おかしな人ね、あなたは」


 エイルは俺を見つめながらそう言った。それは愉快なという意味かもしれないし、非常識だということかもしれない。きっとどちらでもないし、どちらでもあるのだろう。

 ただ、今ここにある間違いのない真実は。

 エイルが本当の意味で笑ったような気がして、俺は嬉しかったということだ。


 そして、これが俺の最終目標――ラグナロククエストのクリアを決めた瞬間だった。

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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