第三話 受付の女神
受付にいたのは、まさに天使のような。
鮮やかな青色の高貴さを瞳に湛えた、美少女だった。
……だが、少しコミュニケーションに齟齬が生じているようで。
「あ、そうじゃなくて、今から挑戦者になりたいんですけど……手続きとか必要ですか?」
俺はこれ以上なく丁寧に、一輪の花を扱うような柔和さで自分の意図を伝えた。
会話とはキャッチボール。こちらが優しいボールを投げれば自ずと優しいボールが返ってくるとどこかの偉い人が言っていた。
だから俺は最高に優しいボールを投げた。……のだが。
「えっ今から挑戦者に……? ぷ、ぷぷぷ――ではまず、こちらの書類にお名前をぷぷ――お書きくださいませ」
……あれ? なんかめっちゃ笑ってるよねこれ。
目の前の可憐な美少女は、口の端を波打たせて必死に笑うのを堪えているようだった。と言うより、真顔とぷぷぷ顔を高速で入れ替えていた。
そういえばさっきの人にも笑われたような気がする。
「あのー、俺の顔に何か付いてますか?」
「いえ、特にそういうことはぷぷぷ――ございませんわ。ここにお名前をぷ、ぷぷ――お書きください」
……キャッチボールはどこへ? した投げで山なりにパスしたらメジャーリーグみたいな豪速球が返って来た気分なんですが。
だが、なるほど。君がそういう態度ならばこっちにも考えがある。
「そのぷぷぷってやつ……もしかして屁こいてますか? もしくは喉に虫が住んでます?」
「――なっ!? 乙女に向かって、お、オナラだなんて言わないでくれる!? それと喉に虫なんているわけないんですけど!!」
「あれ、キャラ崩れてるけど。それが素なの?」
「……ですわ」
おいおい、取って付けたように語尾だけ言いやがったぞこの女。
だがしかし、さすがに理由も分からず笑われたのでは気分が悪い。試みた反撃が思ったより効いたところで俺は、効いたついでに聞いてみることにした。
「あのさ、なんでそんなに笑ってるのか教えてくれない?」
「いや、だってぷぷぷ――今さら挑戦者になりたいとか時代遅れすぎるでしょう?それにその顔で挑戦者だなんて、ぷっ――笑わない方が無理よ! ……ですわ」
いやもうその語尾意味ないですわよ?
この子につられて俺のキャラまで崩壊したが、とりあえずこの美少女は聞き捨てならないことを二つ言った。
一つは、挑戦者になるのが『今さら』だということ。そしてもう一つは――
「顔のことは言わないでもらえますかね!? てかそれ何にも関係なくない!? 美少女だからって何言っても許されると思うなよ美少女!!」
おかしいな、美少女の枕詞で美少女が出てきてしまった。もっと罵詈雑言を吐く予定だったのだが。
「美少女美少女ってうるさい男ね! 褒めるのか貶すのかハッキリしてよ! ……ですわ!!」
そして語尾については、もう開き直ることにしたようだった。
ならば……というわけではないが、こちらも開き直り一時休戦することもやぶさかではない。
「な、なあ美少女さん。ここは引き分けにして落ち着かないか? 君だってお嬢様キャラに戻りたいだろうし、俺だって聞きたいことがたくさんあるわけよ」
「……ええ、そうですわね。初対面で笑ってしまって、ぷぷすみませんでした」
おいおい、傍線がなければバレないとでも?
恐ろしく速い『ぷぷ』は、たぶん俺でなくとも見逃しはしないだろうが。
破棄されたかにみえた停戦協定は、俺の寛大な心によって一命を取り留めた。
「ってかそもそも、ぷぷってなんだよ!! ……変なツッコミさせないでくれる?」
「あの、はい……? 何の話でしょうか?」
「そりゃもちろん、なんで挑戦者になるのが〝今さら〟なのかって話だろ! あともう猫被っても意味ないぞ美少女!」
いや、当然そんな話ではなかった。だがこれぐらい強引に話を戻さなければ、このまま痴話喧嘩をし続けて結婚してしまいそうだっただろう。うん、それはそれで悪くない。
「ヒッ――なんか今背筋がゾワッとしたのはあなたのせいね!? それと、私には美少女ではなく〝エイル・ラグナリア〟という名前があるのだけど!!」
「エイル・ラグナリア……ね。それならエイル、その寒気は君の被害妄想だ。うん間違いない。ただ自己紹介には名乗り返さないとな。俺の名前は……カントだ」
入間貫斗――それが俺の、生前の名前。
珍しくはあれどバリバリの日本人ネームだ。中世ヨーロッパ世界にどれほど馴染めるかについてはあまり自信がないが、二十年も付き合ってきた名前を変えることはもはや不可能。ならばここは、気持ちカタカナ風に名乗るのがいいだろう。
「それでエイル、なんで挑戦者になるのが今さらなんだよ」
「あなたは挑戦者というより暗殺者という眼つき……いえ、なんでもないわ。というか、そんな当たり前の質問をしないでくれる? 【世界樹ラグナドラシル】の攻略が始まってもう四年。いくら先日シンギュラリティ・デイがあったといっても、今さらなのは明らかでしょう?」
「攻略が始まって、四年……だと?」
耳を疑う時間の歪みを告げられて、俺はただその言葉を繰り返すしかなかった。
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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―