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第二話 アカウント・メイキング

 目が覚めるとそこは……言うなれば、木の根元だった。

 そして同時に、都市の中でもあった。


 何を言っているか分からない、という指摘には激しく同意しよう。まだ錯乱していると思われても仕方がないという認識はある。

 ……だが。今確かに目の前で、巨大な都市と、そしてその都市を覆い尽くすほどの巨木が両立している。その事実はたとえ製作者の俺であったとしても覆せないだろう。

 そう、俺はこの都市を、この巨木を知っている。


 木の名前は【世界樹ラグナドラシル】。直径五十キロメートルにも及ぶ、いったい何億年分あるかという年輪を内包する巨幹。その幹から伸びるのは一本ずつが川ほどもある極太の枝。そして、山脈ほどもある根っこの周りにこの都市がある。


 都市の名前は【挑戦都市ミーミル】。世界樹の()の中にある魔窟(まくつ)――

〝ツリーダンジョン〟へ挑む『挑戦者』が集まる商業都市だ。


「にしてもこいつは……画面越しと肉眼とじゃ、迫力が桁違いだ」


 それはまるで、晴れた日に見る富士山のような。しかと見えるにも関わらず遥か遠くに存在することを理解できるスケール感。ともすれば、今まさに倒れてきているのではないかと思わせるような威圧感。

 青々と茂った新緑の葉は、さながらエメラルドの雲海のように果てしなく広がっていた。

 俺はそんな威容に目を奪われ立ち止まったのだが……さらに息を呑む光景が頭上から降臨した。


 すなわち、光のカーテンとでも言うべき木漏れ日がこの都市に降り注いだのだ。

 若葉を縫って輝く陽光は、まさに天使でも降りてきそうな美しい光景だった。


「歓迎されてるってか? 幸先のいいスタートが切れそうだなこりゃ。……でもこれ以上見てたら首がもげそう!!」


 何事にも良い面と悪い面があるもので。

 死因が〝世界樹の見すぎ〟では、さすがのAIと言えど声を出して笑うだろう。

 そんな事態を防ぐために俺は視線をいつも通りの高さに戻した。

 戻したら今度は、都市の街並みが目に飛び込んできた。


「いいねぇこの新緑とのコントラスト。目に優しく、俺たちの憧れを纏った、まさに王道の都市って感じだ」


 俺たちが憧れたあの都市。それはすなわち中世ヨーロッパ的な、木造と石材が輝く神秘の街並み。柑橘色の屋根にモノトーンの壁。それらを縁取る木目と石畳は何とも言えない懐古の風情を醸し出している。

 どの家からでも物語が始まりそうで、不意に騎士や魔女が現れそうな、そんな理想の都市が目の前に広がっていた。


 俺はそんな憧れを堪能するようにあちこち物色しながら歩いて回る。そして――ふと、通り過ぎようとしたガラスの窓に自分の姿が映ったことに気付く。


 ……もしや、めっちゃイケメンに生まれ変わってたりして――。


 俺はそんな期待を胸に太い木枠のガラス窓を覗き込んだ。


「おう……お前は俺だな。うん俺だ。身長は百七十センチに一センチ足りなくて、どちらかというとブサイク寄りで、特に眼つきが悪くて彼女もいない。うんいつもの俺だ――って何言わせとんねんコラァ!!」


 気付いたらガラスの中の自分にブチ切れていた。きっとガラスの向こうの俺も同じことを言っているに違いないが、どちらにしろイケメンにはなっていない。

 そして同時に、マキナには感情がないということが証明された。あの野郎。

 しかし特筆すべきと言うのか、まさかの部分にだけは変化が表れていた。


 というのも、生前俺は冴えない黒髪黒目の青年だったのだが、そこに多少のコンプレックスは感じていた。華がないのはある程度どうしようもない、ただせめてもの抵抗として〝紫色〟のメッシュを大きめに一束、前髪の右側面に入れていたのだが。

 その紫メッシュが――なんというか、発芽したのだ。


 もっと詳しく言えば、右側面のメッシュはそのままに、いわゆる『アホ毛』と呼ばれる脳天の元気な毛束がご丁寧に紫色で追加されていた。

 つむじを中心に紫色の葉っぱが上下に一枚ずつ。さながら芽吹いたばかりの双葉のような、しかし異常に不健康そうな色の若木が芽を出した瞬間だった。

……いや、不健康そうなのはあくまで髪色の話であって、俺の顔じゃないからね?勘違いしないでよねっ!


 ツンデレムーブを上手く決めて俺は再び歩き出した。今ごろ日本中から苦情が届いていると思うが死んでいるので何の問題もない。

 転生して五分で開き直った俺が向かう先はもちろん、そう世界樹の根本。

 ツリーダンジョンの入り口があるであろう場所へと、時々首を痛めながら、王道が敷き詰められた石畳を進むこと十分。


 根っこの分かれ目を巨人がくり抜いたような、妖精の住処のような世界樹兼建物がその姿を現した。


              ◆   ◆   ◆



「すみませーん、ツリーダンジョンに挑みに来たんですけどー」


 巨大な扉――というか、もはや城門のような入口をくぐって中に入る。

 内部の構造は建物というより、奥から巨人が出てきそうな大きな空洞だった。

 根っこをくり抜いて作った拠点、と表現するのが正しいだろう。天井は高すぎて目視することを諦めたが、とりあえずは行くべき場所を見つけなけれならない。


 俺は一番近くにいた挑戦者と思わしき人に説明を求めた。すると、一階は主に受付カウンター、二階は酒場などの商業スペースなのだと教えてくれた。

 右も左も分からないが、他にあてもない俺は挑戦者の間を掻き分け煌びやかにライトアップされた受付に行くことにした。


「あの人、俺のことを笑ってた気がするんだが。それに装備も強すぎるし……まあいいか」


 産まれて十五分しか経っていない俺にはこの世界のことがまだよく分からない。

 無論、俺が開発していたスキルは熟知しているし、プロデュースしていた大概のことも理解はしている。

 だからここで言う『この世界のこと』とはそういう知識的な意味合いではなく。

 どうすれば『挑戦者』になることができて、どうすればそのように生きていけるのか。そういった〝文化的なこと〟が、まだ何も分かっていなかったのだ。


 だから俺は指さされたカウンターにそのまま向かい、そして。

 座っていた、瑠璃色(るりいろ)のストレートロングの女性に話しかけた。


「挑戦者になりたいんですけど、ここで合ってますか?」

「はい、(だい)(なん)()のダンジョンをご希望でございますか?」


 ……と。爽やかな微笑で俺の質問に答えてくれたのは――まさに天使のような。

 鮮やかな青色の高貴さを瞳に湛えた、美少女だった。

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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