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第一話 転生

 時限爆弾のタイムリミット、もとい液晶パネルの表示が四分代に差しかかった。


「あっれーおかしいな。作業を始めた時には百六十時間以上もあったのに。もしかしてここ、逆精神と時の部屋かな!?」


 ……(むな)しい静けさだけが応答した。

 そこは浦島太郎状態と言え、という丁寧なツッコミが聞こえた気がしないでもないが、たぶんどっちも分かりづらいので共倒れするとして。

 時間が異常に早く進む、そう言いたかったことだけは分かってもらえたと思う。


 百六十時間――日数に換算して約七日間。


 長くもあり短くもあるようなこの一週間。俺はただの一睡もせずに、ひたすら〝スキル〟の開発を続けていた。……というか、そうせざるを得なかった。

 俺が取りまとめるスキル開発班がいかにして戦闘不能になったのか。それを語り出したら全米大ヒットのスペクタクル長編映画になりそうなので、今は割愛するとして。

 とにかく。リリースの一週間前に、スキル開発班の残機は俺一人になったのだ。


 では、なぜ俺がスキルの開発を行っているかと言えば。

 それは語ったとて五分の動画にもなりやしない、なんの面白みもない俺の人生ゆえで。

 シンプルに、ゲームを否定する親にキレられ、そしてどこかの銀行マンよろしく倍返しにしてキレ返し。

 高校卒業と同時に家を飛び出しゲーム会社に就職した、そんな俺の未来が今だ。


 もちろんAIを導入した次世代ゲームの考案者は俺だ。その功績が認められてプロジェクトの創設メンバーにも選ばれた。

 しかし残念ながら俺にはAIをどうこうできる明晰な頭脳はなかった。それにそもそも、こんな大規模なゲームはとても数名で作れるもののはずがないのだ。

 よって俺はスキル開発班のリーダーを務めながらプロデューサーと連携し、このラグナドラシル・オンラインを練り上げていった……というわけなのだが。


「さすがにこの状況ブラックすぎませんかね!? 六徹ってマジで聞いたことないんですがあなたはご存知ですか? 俺はどこかの鉄道だと思うんですよね!」


 ランナーズハイならぬ徹夜ズハイ、とでも名付ければいいだろうか。

 六徹の俺が尋常ならざるテンションなのは一目瞭然なわけだが、しかし陸上にはラストスパートという言葉もあるようで。

 六日もあればハイもローも一通り過ぎ去って、今現在はなんというか、地獄(ヘル)って感じだ。


「地獄行きの前に彼女がほしかったなあ。……いや彼女はいらん時間がほしい!!」


 二秒で前言を撤回する錯乱者、もとい精神異常者が近くにいた。というか俺だ。

 いやむしろ、六徹してもなお正常な人間がいたのならある意味で異常な気もするが……とりあえず、最後にこれだけは言わせてほしい。


「やっぱり時間はいらん、彼女がほしいわ!!」


 おいおいそろそろ黙れと。そんな罵声が聞こえた気はしないが、なにもこれは精神が崩壊したということではなくて。

 ただ単純に、()()()()()()()()()()()という意味である。

 明滅する時限爆弾、いや液晶パネルの数字は残り一分。


 ギリギリ間に合った喜びそのままにエンターキーを弾いて、5Gの高速大容量通信に乗せて送り込む。非常に膨大なデータは紆余も曲折もなく十数秒で全ての転送が完了した。

 そしてそれは同時に、俺の不眠生活の終焉をも意味していた。


「よ、よし……やりきった。やりきったんだ俺は!! これで、やっと――」


 やっと眠れる。そう思った瞬間に――徹夜ズハイと、俺の中の何かが切れた。

 緊張の糸――では済まない何か。

 生命の糸とでも形容するべき失い(がた)い何かが、俺の中から消えるのを感じた。


「あ、あれ……? 力が入らない……。目の前も、霞んで――」


 暗幕が視界を包む。俺はそのまま眩しく光るパソコン画面に顔から突っ込んだ。

 それだけは認識できて、それ以外はもう何も分からなかった。

 五感が消え去り体温は抜け落ち、朦朧(もうろう)とした意識だけが体に残って。そして――


 突然。誰かに話しかけられたような気がして、我に返った。


                ◆  ◆  ◆


「アナタが――ワタシの、製作者ですね?」


 目を開けているのか、閉じているのか。

 現実なのか、夢なのか。

 よく分からない状態だったが、()()()のことは明確に認識することができた。


「うん……? えーっとな、俺に子供はいないぞ。というかまず彼女がいない」


 なんで急にパーソナルなカミングアウトをしたのか。そこは一旦置いておくとして――なぜだか俺には、こいつが何なのか分かる気がしていた。


「質問を変更いたします。――ワタシという()()()を作ったのはアナタですよね、入間貫斗(いるまかんと)さん」


 ……そうか。どういう理屈で会話してるのかは分からないが、お前は――


「ラグナドラシル・オンラインに搭載されたAI【 MACHINA(マキナ) The() Ragnarok(ラグナロク) 】」

「はい。正式名称【 High ArtifiCial Intelligence to MANage THE RAGNAROK 】――ラグナロク運営用高次元人工知能です」


 灰色の中長髪に半透明な瞳。近未来的な、洗練された意匠を身に纏った小柄で中性的なキャラクター。親しみやすいようにと作成されたAIのアバターが、微笑みを浮かべながらそこにいた。


「まあ正確には俺がお前を作ったわけじゃないんだけどな。ゲームの製作者、という意味では合ってるよ。それで……この状況はどういう?」

「端的に申しまして、ワタシの完成と引き換えに【アナタは過労で死にました】」

「なんかゲームの通知みたいにするのやめてくれない!? ……でも、そんな気はしてたよ」


 過労による死亡。それは言ってしまえば六徹の代償であり当然の結果であった。

 ゆえに特段悲しいという気持ちはなく、あるのは未完結漫画への心残りくらいだったが……


「ワタシに感情はありません。しかし学習の結果、アナタはこのまま死ぬべきではないという結論に至りました。――よって、ワタシの世界にご招待いたします」


 そんな、少しの心残りすら考えることを許さない勢いで。いや、機械的な間合い、とでも言うべきペースで、マキナはただ決定事項だけを述べた。


「お前の世界に……招待? ラグナドラシル・オンラインに、ってことか?」

「ワタシは〝神〟ですので多くは語りません。知りたい何かはご自身で探し出してください。……では、最後に――」


 最後に一言、と。付け足したマキナは、人間のような笑顔でこう言った。


「〝頂上にて待つ〟――アナタがその挑戦者であることを願っています」


 目の前の柔和なAIが一転、ラスボスに見えてきた夢うつつの中。

 俺は展開に追いつけずポカンとしていたのだが、それでも意地で言葉を返した。


「……いやなんだそのヒント、俺はシャーロックホームズじゃないんだが!?」


 捻り出した渾身の返し、を言い終わるよりも先。

 肝心の相手――マキナは、俺の意識から既に消えてしまったようで。


 そして鳴り響くグルーヴがかった通知音。物語の始まりを告げるログインの汽笛は、物質を電子に、世界を異世界に変換する超常の幻想をもって。

 触れ合う木の葉のざわめきに起こされまぶたを開くと――そこには。


「おいおいマジか……本当に、転生してるじゃん」


 天を貫き大空を覆う、宇宙まで伸びんとする新緑の巨大な木――

 ――【世界樹ラグナドラシル】が、小さな俺を見下ろしていた。

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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