出会い
「…何か放っておけないの、放っておいたらいけない気がするの!」
「ちょ、エリカ!?」
ぼうっとしている僕の頭の上でそんな会話が繰り広げられているのがわかった。目にかかるほど長かった僕の髪が小さな手によってかき分けられた。
息を呑む音がした。聞き慣れた、あの驚きの音。僕の顔を見てびっくりしたのかな。ぼやける視界では相手がどんな顔をしているのかもわからなかった。ただ、僕の顔に温かい水がぽつり、と垂れてきたんだ。
「な、泣い、てるの?」
震える声でそう聞いた。
「…ごめんね、つい泣いちゃったの」
「ぼ、僕の鱗、怖かった…?ごめん、ね」
違うよ、と言う鈴を転がしたかのような声が心地よかった。
「綺麗な鱗だよ」
温かい手で頬を撫でられたみたいだった。頬がじんわりと熱を持つのがわかった。
「リム、この子のこと運んでくれる?」
「…わかったよ」
身体がふわりと宙に浮いた。どうやら抱き上げられているらしい。僕を持ち上げてくれた人は僕に降り積もった雪を手で軽く払った。その人の温かい体温が伝わってきて少しずつ視界が冴えていった。目がゆっくり開いていく。
「あ、エリカ。この子さっきより意識ハッキリしてきたみたいだよ」
「本当だ。さっきよりちゃんと目が開いてるね」
そうして覗く2つの顔を僕はやっと認識することができた。
僕をお姫様抱っこしてくれているリムと呼ばれていたその人は凄く綺麗な顔をしていた。この綺麗さをそうやってただ綺麗と一言で表していいのかわからない。人間離れしていて今までみたどんな物語の挿絵にいたキャラクターより、ゾッとするほど中性的で美しい顔だった。
そして、不思議なことにリムの性別は全くわからなかった。僕を軽々と持ち上げるくらいには力があって、僕の顔の横にある胸は固くて真っ平だった。それでいて僕の身体を包む腕は男の人みたいに骨っぽくなくて、代わりに滑らかな曲線を描いていた。それは女の人みたいだなと思った。
「どうしたの、そんなに俺の顔ジロジロみて」
俺…ってことは男の人なのかな。
リムの髪の毛は後ろで短く括ってあるみたいで、綺麗な薄紫色で街明かりに照らされてキラキラと輝いていた。
僕がじっと見ていたからか、リムは僕に目を合わせてニコリと笑ってきた。お世辞なんかじゃなくて、本当に綺麗だと思った。