孤児院の書庫
『魔族…今や絶滅の危機に瀕している。私たちと違い、彼らは体内には魔法を使ううえで必要なエネルギー、即ち魔力を保持しておりその姿は異形である。様々な姿形をしているが共通点は魔力を体内に蓄えていることと寿命が長いことである。』
『異形だと生活が不便なため、知能が高い魔族は人間そっくりの姿に変身できるよう進化した。知能が低い魔族は変身ができないが魔族同士なら意思疎通ができる。魔族によっては短いもので200年、長いものは1000年生きる。そのため子孫をあまり残さず1人で生きる魔族も多い。』
『魔族ハーフ…魔族と人間の子供。200年以上前は存在したものの今はほとんどいない。今では先祖返りの魔族ハーフが稀に存在する。ベースは人間の姿だが異形の名残が残っている。が、身体能力等は人間である。魔力も所持していない。』
『近年は魔族ハーフに対する差別が社会問題となっており……』
パタン、と本を閉じた。僕は孤児院の書庫に引きこもるようになって自分の存在を詳しく知る機会を得た。
僕はこの先祖返りの魔族ハーフに当たるらしい。
遠い昔に僕の先祖のなかで魔族と人間で結婚し、子をなした夫婦がいたのだ。が、時間が経つにつれ、魔族の血はだんだん薄れ、人間しか生まれなくなっていく。しかしなんの手違いか、僕が生まれるタイミングで魔族の血の影響が色濃く現れてしまった、というわけだ。
『魔素…空気中に散らばる自然エネルギーである。魔力は魔族由来で魔法を使うことができる力だが魔素は自然由来で魔力を持たない私たちでも道具即ち魔具を使うことで魔法を使うことが可能になった』
『さらに魔素を利用した兵器で魔族とも対等に戦えるようになり我が国の安寧は保たれているのである』
自分が何者か知りたくて魔族やそれに関連する文献をひたすら読んだ。悪く書かれていることが殆どであったがたまに中立的な目線で語られているものを読むと少し安心した。自分が生きていてもいいと言われているような気がしたからだ。
外にも出ず、自分の部屋と書庫を行ったり来たりをする繰り返しているうちに、僕は13歳になっていた。孤児院の先生たちは身体が大きくてかっこいい大人ばかりなのに、ご飯を食べるのを疎かにして本ばかり読んでいたからか僕の身体は小さいままだった。身長もほとんど伸びず、ガリガリ。誰とも関わらなくなった結果、髪も切らず青鈍色のそれは肩くらいまで伸びきってしまいそれとのコントラストで肌は余計に青白く見えた。
「きもちわる…」
鏡で見る自分の姿は骨と皮だけの女の子みたいでひどく気持ち悪くて滑稽だった。
もっともっと自分のことが嫌いになってそれから僕は鏡を見るのをやめた。