僕が初めて庭に出た日
前までは全身にびっしり体に生えていた鱗は4歳になる頃には部分的に薄くなっていった。
だが、どこまでいっても僕は『異形』だった。薄くなった鱗は下半身だけで上半身に生えた鱗は無くなる気配がない。特に腕や顔に生えたそれはくっきりとしていて周りの子と違う自分が心底嫌になった。
自分が周りと違うのだと気付いたのは皆んなと同じように孤児院の何もない庭を駆け回っていたときだ。
小さい子も大きい子も関係なしに鬼ごっこをしていた。僕はそのなかではまだちびっ子で、その日は人生で初めて庭に出た日だった。
初めて浴びる太陽に固くてなんとも言えない匂いのする土、そよそよとゆらぐ雑草、何もかもが新鮮に見えた。わぁ、と部屋から庭に向かって駆けた瞬間、庭にいた子たちが皆んな一斉に僕の顔を見たのだ。
さっきまでキャッキャしていた朗らかな声が嘘みたいに張り詰めた空気がその場を支配した。
その空気を壊すかのように一人の女の子が僕の顔を指差してこう言った。
「この子、お顔変だよ!」
きっとその子に悪意はなかった。けど変と言われることは当時の俺でも駄目なことなんだとわかった。
そう言われた僕の目からはポロポロと涙が出てきて、この場に立っているのがどうしようもなく恥ずかしくなってしまった。
彼女の声を皮切りに周りのヒソヒソ声が聞こえてきたような気がした。身体の奥底がぐるぐると渦巻くような感覚。僕は靴のまま孤児院のなかまで走った。それ以降外に出たいとは思わなくなっていった。