イェルについて
僕と同じくらいの年の子たちは、生まれたとき両親にどう迎えられたのだろう。
赤ん坊の柔く、しわしわで、真っ赤な薄くて柔らかい皮膚に母親がキスをして父親は泣いて赤ん坊と母親をいっぺんに抱きしめたりしたのだろうか。
泣き声は大きく鳴り響いて皆んなが口々におめでとうと言ったに違いない。母親と一緒のベッドで眠り、泣いても皆んなに抱き上げられて「よしよし」とあやされて。大切にされていたことだろう。
僕は残念ながらそうではなかった。大きな疾患を持って生まれてしまい、両親と感動の再会をする前に引き離されたことは想像がつく。
僕は人間の両親の子供であるにもかかわらず、異形の姿で生まれてしまった。
生まれたての僕に真っ赤で薄くて柔らかい皮膚は存在しなかった。
その代わりと言わんばかりに大量の固い鱗をびっしりと纏って僕は生を享けてしまった。青く艶めくそれだけではなく、背中には魚の背びれのようなものが等間隔で生えており人間というよりかは魚のようにも見えたという。
両親はそんな僕をそっと孤児院の前に放置してどこかへ行ってしまったらしい。
ぎゃんぎゃん泣き喚く赤ん坊と呼んでいいのかわからない姿をした僕を見つけてくれた孤児院の先生は僕が入っていたその箱の中に一枚の紙切れを見つけた。
『育てられません。どうかよろしくお願いします。名前はイェルです。』
僕が両親からもらった唯一の愛は「イェル」という名前だけだった。