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エリカの帝国  作者: 西つばき
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透明人間


リムはというと、そんなにぎやかなパレードの様子をどこかぼうっとした目で見ていた。僕の身長じゃあ大人の頭のうえにチラリと王様と王紀の金髪が見える程度で、そんな状態じゃあ飽きもすぐ来てしまい、先ほどの興奮が嘘だったかのように冷めていくのがわかった。

その結果、僕の興味は街そのものへ移っていく。路地裏では酒瓶を振り、泡を放出させて大騒ぎする酔っ払いもいれば、薄汚れた服を着た浮浪者はパレードの喧騒にあやかって落ちていたご飯を拾って食べていた。そんな彼のことが周りの人たちは見えていないかのように知らんぷりして目線も合わせず避けて通る。


「…昨日の僕みたい」


独り言でそう呟く。何か見てはいけないものを見てしまったような気分になって僕はまたパレードに目線を移した。するとリムが何故かこちらを見ていて目が合う。


「独り言だと吃らずに話せるんだ」

「あ、えっ、と……ご、ごめんなさい」

「…いや俺こそごめん。突っ込むことじゃなかった。やっぱり人と話すと緊張するよね。あと、あんまり『ああいう』のは見ない方がいいよ」

「『ああいう』の…」 


リムの言っていることの意味が一瞬わからなかった。よく考えて僕は先程の浮浪者を思い出す。『ああいう』のっていう響きはどこか不快感があって少し嫌な気持ちになった。


「下手に絡まれたら厄介だろ?何か素晴らしい志とか使命感があって助けたいなら勝手にすればいいけどさ…責任も取れないのに関わろうとしちゃダメだよ。俺は自己犠牲してまで『ああいう』のを助けよ

うとは思わないね。……冷たいって思う?」


急な問いかけに頭が真っ白になる。リムの話には僕にとって強烈な説得力があった。僕のことを育てられないと責任を放棄した両親のことが頭に思い浮かんだからだ。でも僕の言いたいことを頭のなかでうまく纏めることができない。自分の意見を周りに言った経験がないからか、そもそもどう言えばいいのかもわからなかったんだ。けど、何も言わないという選択肢は僕のなかになかったんだ。そうしたら後悔すると漠然とだけど思った。


「……で、で、でも、リムと、エリカはッ…」


『ああいう』のだった僕のことを、助けてくれたよね?

僕の頭ではそれくらいの言葉しか出てこなかった。

陳腐なそれは遮られ、リムはどこか悲しそうな困ったような笑顔を浮かべてこう言う。


「それは…ごめん、本当にイェルを助けようとしたのはエリカだけで…俺は違うよ」


その表情はどこか陰があって、あの快活でこざっぱりとした性格のリムは僕が知っているほんの一面に過ぎなかったんだなと思った。でも僕にとってリムも間違いなく、僕を助けてくれた大人だった。それを伝えなきゃと思った。手をぎゅっと握りしめ、僕は顔をあげる。


「……う、ううん、リムも、助けてくれた。昨日、は、僕のこと抱っこしてくれたし、あ、そ、そう!あ、あ、アイスクリームだって沢山くれた!わ、わっふる、も!美味しかったよ!」


いや、食べ物のことばっかりじゃん!と大きな声を出してリムが笑いながら突っ込む。満面の笑みというわけではなかったけどさっきの悲しそうなリムの笑顔はもうどこかへ消え去っていた。


「…でも、ありがとう。悪くない気分。弟ができたみたいだ」


少し照れ臭そうにリムは笑って僕のことを軽々と抱き抱えた。小さな僕は男の人っぽくなっているリムの胸にすっぽりと収まりきってしまう。魔法で姿がちょっと変わっていてもあの瑞々しいオレンジの香りがリムからは漂ってきていた。


「お、弟って、家族みたい」

「それでいいじゃん!これからも俺たちと一緒にいれば!」

「ぼ、僕、いてもいいの?」

「エリカに拾われた時点でずっと一緒なの確定だよ!」

「…………ッ」

「えーーーっ!ちょっと、泣かないでよ!てかイェルかっるい!もっとごはん食べな!」

「………うんッ!」


この時、僕はこれからもリムとエリカと一緒にいれることにひどく安堵した。昨夜人の温もりを知ってしまって、とてもあの孤児院の冷たいベッドには戻れそうになかったから。この人たちに出会えて良かった、と強く思った。


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