喧騒
昨日とは違い、明るい街中をリムと2人で歩く。夜とは大きく印象が変わる。そこにはよそ行きの服やメイクを施して歩く人々が溢れかえっていた。皆んな明るく、溌剌とした雰囲気があって自信に満ちているのが分かる。
多くの屋台はそれぞれ甘い香りと香ばしい香りが混ざり合って独特の香りを醸し出している。皆んな手にはカラフルでキラキラした丸い物体を串刺しにした何かや、お皿を持ち壁に寄りかかりながら茶色い物体を食べながら周りにいる人たちとお喋りをしていて、テーブルの上でしかご飯を食べたことがない僕にとって、それは衝撃的な光景だった。
「イェル!ワッフル食べてみる?」
とある屋台を指差してリムがキラキラした目でそう聞いてくる。それを見つけたリムの機嫌が良くなるのを感じたので好きな食べ物なのかな、と思った。
「わ、わっふる…た、食べたい…かも」
「よし、食べるね!すみません、ワッフルください」
屋台にいた店員さんにとって魔法で男性的な姿になっているリムは非常に魅力的に見えたらしく、明らかに彼女が頬を赤らめたのが分かった。どう見てもワッフルの上には必要以上に様々なものが盛り付けされており、リムは「ラッキー」としたり顔で笑った。
ワッフルの上にはアイスクリームにベリーのソース、生クリームにチョコレートチップなど盛り沢山で見てるだけで楽しくなった。食べ物を見てワクワクするのは昨日のアイスクリームで2回目だ。
リムと一緒に壁に寄りかかりながらプラスチックにのった1つのワッフルを半分に分けながら食べた。想像以上の甘さで自然と顔が緩む。それに夢中になっていると先程より明らかに人が多くなっているのがわかった。
「イェル、パレードが始まるよ」
そう言われて僕は上の方へ目線を移した。
大きな戦車がゆっくりと進んでいて、それは花で彩られていてピカピカに磨かれている。小さな家くらいのサイズがあって後ろの方で見ている僕たちでもそれの存在が確認できた。戦車以外にも高さもある大きな車、馬車のような形をしたおしゃれな乗り物、見たことがないものばかりだった。
「あ、王様だ!」
「万歳!万歳!ノア王万歳!」
「ザムエラ王女…なんて美しいの!」
周りの人々が一層騒がしくなっていき、それは熱狂に変わる。どうやら僕らの国、アルカ帝国の王様、ノア・ミダース・アレキサンダーと、ザムエラ・ミダース・アレキサンダーがパレードに姿を現したようだった。
「あれがノア王…」
そう言ってリムは上を見つめる。絵画でしか見たことがなかった人物が実際にそこにいた。大きな乗り物の上に乗って夫妻は手を振り続けている。
本当にこの世に存在したんだ、とその存在に心が震えた。
「ぼ、僕、王様なんて、初めて見た…!」
僕の独り言が歓声に飲み込まれていく。豆粒ほどしか見えないのに、王様とお妃様と同じ空気を吸っていると思うとすごく不思議な気持ちになってワクワクするのがわかった。