TURN2:高みの視点
「ふ~~~っぶねぇ」
いいつつ御堂は腕を引き踵を返す。
「…」タマコはぼーっとそれを眺めているのみだ
「火縄さーん終わったよー?」
「火縄タマコさーん?」
「あ!」
「もー、またぁ?」
あきれ声である。
「くやしい~~、B-でこれって…」
「Bクラスはみんな化物かよぉ~」
「なーに言ってんの御堂君相手に十分の結果よ」
「むしろ最後はちょっと焦っちゃったわ」
「え~~うつみん先生どっちの味方なのさ~~?」
「いやね、下手に実力が拮抗してると怪我しちゃうでしょう?」
「相手が強すぎても運動適正が測れないし、結構むずかしいのよね」
「ちぇ~~知ってはいたけど…納得いかないなぁ」
不満たらたらなタマコの様子を満喫したのだろう、
御堂はどこかさわやかな笑顔で
「じゃ俺はこれで^^」っと片手をあげた。
「御堂君ありがとね、あと、一応保健室に寄っていってね」
「全然だいじょーぶっすよ、ノーダメっすから^^」
「いいから」
「へーい^^」
と言って御堂は体育館の出口に消えていった。
「火縄さんも、試験終了おつかれさん、今日はもう帰っていいわよ。」
ほっといたらずっと出口を睨み続けかねないタマコに対して、内海先生は声をかける。
「うつみん先生は今日はおそいの?」
「いや?あと二人測定したら、データを処理して私も帰るわ
あー、もしかして乗っけてほしい?」
素早く意図を察する内海先生にタマコは図星とばかりに肩をすくめる、
「雨具もってきてなくて…」と申し訳なさそうに続けるタマコ。
その反応に内海先生もやれやれと言った感じだ。
「乗せてもいいけど、後1時間ぐらいかかるわよ」
「さすがうつみん先生!ありがとう!!……とぉ…実はもう一人乗っけて欲しくて…」
歯切れ悪く続けるタマコにまたも素早く先生は応じる。
「日ノ下さんね、分かってるわ」
思考を全て読みきられてる驚きに口をぱくつかせるタマコ、
「もしかして先生、心が読めるの・・・?」とやや本気の疑惑を口にした。
「あなた程わかりやすいとね」
タマコの反応がおもしろかったのだろう、先生はクスっと微笑んだ。
対して全く面白く無いという面持ちでタマコは「むむ」と眉をひそる。
「頭が単純すぎて、あんなに攻撃を読まれちゃうのかな、
今日の日の為に密かに練習していたカポエイラまで使ったのに…」
内海先生の軽口をどこか真剣に捉えているタマコの様子は
どうやら先程の御堂との試合を反芻してのものらしい。
その様子に内海先生はしまったと苦笑し、細くしなやかな腕に巻かれている時計を一瞥した。
「まぁ良いか」そんな独り言を呟き、脚を組み直した。
タマコはそんな先生の一連の動作に見惚れていた、
同性も羨む無駄無くスラッとした足とそのモデル並のラインは扇情を越して芸術だ…
きっと触れれば、きめ細かくシルクのような滑らかさなのではと益体もない事を考えていた。
「御堂君は違うのよね…彼はあなたの目の動き、捉えている物を的確に把握することができるのよ」
タマコの愚痴に律儀に答えてくれようとしている内海先生に内心を悟られないよう正面を向き直り、
誤魔化すように相槌を打つ…
「目?」
「そう、特段、特殊な事をしているわけじゃないわ、相手がどこを見ているかなんて顔の向きや動作で
推察するのは誰だってできるものね、私が腕時計を見た事をあなたが知っていたり、あなたが私の脚を凝視したりね」
タマコを咎めるように語尾が強調されているのは勘違いでは無いだろう、
「そ、そんなにジロジロ見てたわけじゃないんだけどなぁ…攻撃箇所の事ね!」
内心を深堀されるとまずいタマコは自然、上ずった口調で早口になってしまう。
その反応に、本当に何を考えていたんだか…と先生は嘆息まじりだ。
「まぁ、そこが御堂くんの驚異的なところなのよね…、
さっきの測定中彼は常にあなたの両目のみ追っていたわ、
人の眼球運動とその対象の位置関係を完全に把握して動いてたわね。」
「私の視界を盗んだってこと?…チートじゃん…次はサングラス持ってこよ」
「高水準の動体視力があってこそできる芸当だから、単純にあなたが優位に立てるとは言えないけれどね」
「それに…勝敗を見る測定じゃないのよ?再計測の機会があってもサングラスの使用は認められないわ」
「はぁ…なんにせよ私じゃどうあがいても超えられない相手っていうことかぁBクラスは遠いなぁ~」
いっそ自分の落ち度で思考が読まれたのであればまだ改善の余地が合ったのだが、
ただ相手の規格が違い過ぎての敗北という事実は一層タマコを落ち込ませる事になってしまった。
「Bクラスにそんなに成りたいの?この時代、別にクラスが高ければ就職先が増える訳でもないし…、
そもそも女の子で運動適正がCクラスというのは、それでとんでもなく凄い事なのよ?」
「やー就職は別に…そもそも私大学過程に進む気ないし…ただ友達と同じクラスに成れたらなぁ…て」
ただ単純に友達と一緒に授業を受けたいだけと素直に言う所が
実にタマコらしいと内海先生は和やかな気持ちになった。
きっとその友達がDクラスだったとしても同じようにDクラスに成りたがるのが想像できてしまう。
とはいえCクラスがBクラスに上がる事と同様にCクラスがDクラスに下がる事も困難ではあるのだけれど。
「あまり思い詰め無いことね、高校過程までDクラスだった男が大学過程でAクラスに成るなんて前例もあるんだから。
それに、良い事…ではないけど、あなたの異常脳波は解析しきれていない訳だし。」
「うん…」
ふいにタマコの顔に陰りが見え、内海先生はしまったと発言を後悔した、
彼女の抱えるデリケートな事柄に触れてしまった為だ。
「まぁ運動適正Aクラスなんて人並みをはずれすぎて、憧れるものじゃないわね、
殺しても死なない現代の怪物なんて言われる程なんだから」
「そうだよね!ありがと先生」
いつも通りの様子に内海先生は内心胸を撫で下ろし…この子は暗い顔よりも
はつらつとしているのが似合うと率直に感じた。
「あら、そろそろ次の測定の準備をしないと、乗せてほしかったら、1時間後に職員室に来てちょうだいね」
腕時計を一瞥した内海先生は床に放置されているクリップボードを拾い何か記入を始めた。
「ん、わかりました!ではまた後ほど」
そういってタマコは体育館の出口に小走りで消えていった、
内海先生はそんな姿を横目に、ああ、そういえば日ノ本さんの手伝いをするような事を言っていたのを思い出し。
落ち着きの無さに呆れつつも、どこか温かい気持ちで見送るのだった。