異世界転生してドアマットからざまぁしたい
お飾りの妻、番、契約結婚、獣人、ドアマット、ざまぁを詰め込んで混ぜ合わせた結果がこうなりました。
詰めた箱が穴空いてたみたいで、番要素が消えました。不思議。
幼い頃から、私は自分にずっと違和感を持っていた。
鏡を見るたびに自分の姿を「可愛い」とは思うけれど、自分ではない気がして、いつしか鏡から目を逸らすようになっていた。
家族も大好きだけれど「なにか違う」という違和感が、ずっと私の心を重くしていた。
こんな自分を慈しんで愛してくれる家族に対して、申し訳なくて自分が嫌いになりそうだった。
そして、もうひとつ私の心を重くしていたものがある。それは、私の婚約者の言動である。
彼はとても異性に人気があり、いつでも本能のままに愛を囁いていた。
発情すればどこでも盛るし、それを隠そうともしなかった。
家族や親友に相談しても「それは本能だから諦めよう。もしも嫌だったら、我慢せず嫌と拒んで逃げて」と言われただけ。
結婚しても、惹かれた異性がいれば愛を確かめあう。この国での結婚は、愛を誓うものではなく、生活を共にするだけの契約でしかなかった。
私と彼は国の命令で結婚をする。
でも、私は彼に私だけを愛して欲しかった。
だから、勇気を出して結婚式の前にお願いしたのだ。
「自分だけを愛して欲しい」と。
ーーだが、彼は自慢のひげを揺らしながら、嗤って私に告げた。
「お前のようにゃみすぼらしい雌が、私から愛されようにゃどと思い上がるにゃよ。この婚姻は政略的なものでしかにゃい。お飾りの妻としてでも私の側にいたいのにゃら、少しでも私の役に立つんだにゃ」
(っこのクソ猫!しっぽ掴んで麻酔無しで去勢してやろうかしら!っ、て何で猫と私が結婚?えぇ?)
ーー私は、彼の言葉でようやく前世を思い出すことができた。
自分が以前、人間だったということを、私はずっと忘れて生きてきたのだ。
(えー、私なんで猫になっちゃったんだろ?)
そうして、物心ついてからずっと自分を苦しめていたのが、前世の感覚だったのだとようやく気がついた。
(人間の感覚持ってたら、確かにこの世界とか自分とか家族とか見るたびに何かおかしいなと思うわよね)
なんせ今、目の前で体長2メートル近い茶色の長毛の猫が、白いタキシードを着て二本足で直立歩行をしているのだ。しかも靴まで履いている。
リアル幼児用きせかえ動物人形ではないか。
私も同じく直立歩行で、ドレスを着ている。
長いしっぽは後ろでパタパタ動いているが、ドレスの中だから相手に気付かれていないだろう。
「お前のようにゃ毛並みの悪い雌にゃど、私には不釣り合いだ。分かったにゃら、二度と私に愛されようにゃどと思うにゃよ!」
猫背の分際で偉そうにふんぞり返るデカい猫を見ながら、人間だった頃の考え方を取り戻した私は、
(猫と結婚とか無理ー。獣人とか言ってるけどただの二足歩行者の獣だからねぇ。せっかく結婚するなら、この世界の人間のイケメンに飼われたいなぁ)
などと思っていた。
血統の正しい子孫を残すために結婚させられた私たちだが、もはや私は彼に抱かれる気などない。
妻の務めとして、絡まった毛をブラシで整えるくらいならしてもよいし食事の用意もしてやろう。前世でも猫を飼っていたから、ノミとりだって余裕だ。
だが、夜の生活など想像できないし、したくもない。なんせ猫、やめてくれ猫。私はノーマルだ。夫婦生活には優しさが欲しい。
「ーーっ聞いているのか!」
デカい猫(今日から自分の夫)がうるさいので、私は仕方なく約束をしてやる。
「わかりました。二度とそのようにゃことは申しません。あにゃたの愛を求めませんし、私もあにゃたを愛しません。お好きにゃ方々と愛し合ってください。私は形式上は妻としての仕事させていただきます。今後は私からは話しかけませんし、あにゃたも話しかけにゃいでください。用事がある場合は使用人を仲介にしてください」
夫は私の言葉を聞いてしっぽをぴんと立てた。掃除用のモップのように膨らんで、掴んでやりたくなった。前世の飼い猫はすごく可愛い子だったけれど、夫はなぜか素直に愛でられない。
(クソ猫、警戒しやがった。まあ、夫だと思えば腹立つ行動も、所詮は猫のやることだからって思えば、寛大な心で許してあげられるわよ)
夫婦になったのではなく、デカい猫を飼ったのだと思えばそれほど腹も立たない。夫はふさふさで、見ている分には癒される美猫だが、口うるさいのが欠点だ。あまりにうるさければ、しつけをしてやらないといけないかもしれない。
(もしかして、泣くときはニャーニャー泣くのかしら)
そんなふうに思えば、少し楽しみになった。猫と夫婦になるのではない、私がデカい猫を飼うのだ。
「ちゃんと約束を守ってくださいね、だんにゃさま?」
転生したら異世界で、夫が私を愛してくれない冷えきった結婚生活が始まったけれど、夫も私も猫の獣人で、私としてはデカい猫を飼ってるとしか思えなくなったから、むしろ愛されなくてよかった件。
久しぶり過ぎて小説書き方忘れてます。
読んでいただき、ありがとうございました。