第30話 シャインオブビーチ
「イベント用のオーブ、仕掛け忘れちゃったんだ」
「……え?」
優人の理解が追いつくのに、数秒ほど要した。
なぜなら言われた通りにその目的のオーブを持ち帰ったのだから。
「か……香菜ちゃん、僕たちオーブ持ってきたよ」
純白の光沢を放つオーブを香菜に差し出すと、香菜はそのまま球を受け取り、優人がフリーズした時間と同じぐらいの時間動きが止まってからリアクションした。
「……えぇ!!? なんで? ていうかどこから取ってきたの!? これ本物のダンジョンの宝じゃん! あの神殿にまだあったの?」
「うん、あのまあるい扉を開けた先にあったよ」
「丸い扉? そんな物あったの?」
「うん、透真君に案内されてすぐの所にあったよ」
「トラップとかは? そもそも入口入ってからすぐに行き止まりだし、霊力反応なかったはずだよ……」
「壁や罠、俺こわしたー!」
「「うぇっ!?」」
透真はにっへら〜という顔でとんでも発言をしてきた。
香菜の表情からすると、相当な数と難易度のトラップということは分かった。固まって灰になりそうな真っ白い顔で香菜はボケっとしていた。
すると後ろで真っ青な顔をした白夜が香菜の肩をぽんと叩いた。なにかビビっているように震えた声で報告する。
「やっぱりそうっスよ香菜さん。さっきモニターで優人さんたち見失ったのも多分、神殿の未知の領域まで行ったから。そしてお二人はそれをこんな短時間でクリアして最上級のオーブを持ち帰ってきたっていう……」
「そういえば、強そうな魔物いたよー! ゲームとかのベヒモスに似てるの。でも立ってて、頭2つ!」
「そそそ、それ上級キメラモンスターっスよ!! エレメントクラスがファングの!」
「?」
白夜は少し震えながら無理矢理自分を落ち着かせて説明をゆっくり始めた。
手先がまだプルプルしている。
「優人さん、キメラにも種類があるんですよ。色々な種と混ざってる魔獣を総称でキメラって呼んでますけど、そのキメラのファングを倒したんです……エレメントクラスっていう基準があるんですけど」
「えれ……めんと?」
「いくつか特例の物はありますが基本は4つ、魔獣の強さや危険度を示す位があります。低級、中級、上級、特級の順にエレメントクラスがテイル、ウィング、ファング、アームというランク付けがされています」
「じゃあ、僕たちその中でも強いのを倒したってこと?」
「はい……しかもベヒモスタイプのキメラなんて羨ましい」
白夜にそう言われてようやくあの魔獣の凄さを知った。
優人の基準は常に彼ら、大罪の能力者視点であるため、色々と基準が狂っているのである。
「と、とりあえずさあ。イベントの方があるから優人たちも手伝ってくれない……ってあの子は!?」
「へっ?」
透真の姿が一瞬にして消えていた。
いきなりふと気配が消えたが、その興奮した声が会場席の方から聞こえてくる。
「兄者兄者ぁ!」
「はあい、お待たせ」
「「!!?」」
透真はいつの間にか菜乃花たちの座っている席の横で座っていた。
「どわっち!?」
「わわ、びっくりした……」
彼が声を発するまで誰も彼の存在を見失ったのだ。
皆が気がついた時には真一が鎮座している透真の目の前に食事を運んでいた。
「よーしよしよし」
その恐ろしい芸当をした弟の頭を撫で、真一はまだ湯気の出ているアツアツのスパゲティを目の前に置いて食べさせた。
透真は口角を上げたまま、にっこりと笑いながらフォークを口に運ぶ。
「ハフハフ……はひひゃほへひ、ふふあぁい!!」
「ハハ、それでこそ作りがいがあるよ」
そしてまた透真の頭を優しく撫でる。
真一は本当に弟を溺愛しているようで、料理を食べている透真の頭を撫でている時が1番良い笑顔をしていた。
透真の方も兄の上手い料理を食べながら撫でられているのが嬉しいようで、犬のような笑みを浮かべていた。
なんとも温まる光景に会場中がホッコリとした気持ちで包まれた。
「あの2人元魔王と剣聖だとはねぇ……」
「2人が仲良しで良かったよお」
「それじゃ……」
香菜は手をパンと鳴らして食事中の透真に話かけた。
「せっかくだから、透真君にも憑依体の役お願いできる? お兄さんのご飯食べられるし」
「ふぐ、ふぐ!」
口から麺を数本出しながら頭を縦に振る。
そして真一はスイッチが入り、キッチンスペースに戻り腕を捲り上げる。
「よおーし、じゃあ張り切っちゃおうか」
「香菜ちゃん、お手伝いするよ!」
「ありがと♪ じゃあ優人はそれとそれ──」
夏のイベントはまだまだ続いた。
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──幽霊達へのフェスは夜まで続いた。
というより逆に、この日の内に終了したのだ。
あの後、更に気合いの入った真一の品出しペースが早くなり、そこに透真の食欲がプラスされてかなり効率よく順番が回ったのだ。
優人による錬金術での即興像作りや白夜の凶星による曲芸などで会場を盛り上げた。
さらには海賊たちのコントや漫才も大人気だった。
他にも幽霊の声に対応したカラオケマシーンが委員会から届いたのでカラオケ大会なんかも開かれた。
楽しい一時を過ごし、続々と幽霊達は成仏して天国へと旅立ったのだ。
旅立つというよりかは移住というのが相応しいのだろうか。
しかし、幽霊たちはみんな笑顔、手を振り見送られながら、未練の無いままこの世から離れたのだ。
そして結果的にフェスは予定よりも圧倒的早く終了してしまったので、残りの1日は優人達がこの島を貸切にすることとなった。
優人らはこんな良い無人島の貸切サービスに大喜びした。
だがしかし──
「本当に帰っちゃうの?」
魔法陣を展開して真一と透真が転送術の準備をしていた。長距離のため時間を要するので陣は正確にゆっくりと展開されていく。
「あぁ、透真に決められた規則の1つで基本的に夜は委員会本部で過ごさないと行けないんだ。本当になら一緒にいたいんですけどね」
短い時間とはいえ、菜乃花達にとっても1日過ごして友達となった2人が先に帰ってしまうのは物寂しく感じた。
しかし透真は満足仕切ったような顔でニィッと笑う。
「じゃあなマロォ、みんなぁ、楽しかった! また今度ね〜」
「うん、じゃあね!」
「ばいばーい」
「また遊ぼうね〜」
魔法陣は白く激しい光で2人を包み込み、光が消えていくと共に真一と透真の姿は無くなった。
2人が消えたあとに放たれた霊力はまた幻想的で、たんぽぽの種のように小さな玉が4粒ほど空へ飛び星空のように光り散った。
「わぁ、綺麗だね……私こんなに綺麗な霊力初めて見た」
「特に夜だと霊力が光って良いッスよね」
「ふぅ……」
優人は美しい霊力に見とれていたが、ふと反対側の海を見た。
月光と星に照らされた水面はキラキラと、波は静かに語りかけるようにゆらゆらと揺れている。
綺麗な景色、美しいものを見ていると人は考えさせられる。
優人はそんな景色の周りの見渡した。周りにいるのは大切な友人達と大好きな香菜。
今日出会った人々や一緒に戦った透真、美味しい料理を作ってもらった真一達のことも頭に浮かぶ。
──そして同時に憧れであり最も大切な友の顔が優人の瞼の裏に浮かぶ。
やはりどんな時でも優人が目指しているのは零人である。
夜風は考え耽っている優人の薄黄色い前髪を揺らす。
「近づいていきたいな……零人君のいるところに」
優人が波音を聞いて夜空を見ていると後ろからカランカランという高い音が聞こえた。
背後には氷入りのジュースを持った香菜がいた。
「優人も飲む?」
「……うん、僕も飲みたぁい!」
なんか最後の優人の一言、最終回フラグみたいだなあって思いました。
ま、あと10年は完結できないんですけどね笑
ヨホホホホ。
«魔獣のエレメントクラス»
低級:エレメントクラス『テイル』→雑魚スライムや魔獣の幼体程度で、素人でも対処可能。
中級:エレメントクラス『ウィング』→神話でも名前が上がるレベルの魔獣。
上級:エレメントクラス『ファング』→ゲームやアニメで聞き覚えのある魔獣。固有能力や知性がある場合が常。
特級:エレメントクラス『アーム』→怪物やプチ災害レベル。異世界の魔王や大悪魔クラスの強さ。





