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第29話 遺跡でトレジャーハンティング

 大災害を引き起こしかけた優人は海賊船に乗せてもらい、島を通る石の道に近づけるギリギリまで船を寄せてもらった。


「よっと」


 優人は船からピョンと飛び移ってジャングルの真上を走る石の道に降り立った。

 そのすぐ先には強烈な霊力を放ちジャングルの木々に囲まれた巨大な神殿があった。

 遺跡の構造はマヤ文明のピラミッドに近いタイプで、外観は全て石で出来ているが、とても精巧な造りにも関わらず何千年もの年季を感じる神殿だった。



「みんなぁー! 送ってくれてありがとね〜!!」


 優人が笑顔で別れの言葉を言うと満身創痍の海賊達が最後の力を振り絞り笑顔で手を振った。

 すでに皆が先程の大爆発をガードする為に多大な霊力を結界に投じたのだ。

 そして優人の霊力や爆発による威力などを計算すると彼らが消費した霊力はとんでもない霊力量であった。


 ゾンビ化して肉体があるとはいえ、急なオーバーワークで何人かはもう霊力不足で医務室のベッドで倒れていた。


「そ、それじゃあ気をつけてなあ……」


「はぁーい!」


「ハハハ、子供を楽しませるのが俺らのしご────」


『『『船長おォォォォォォォ!!』』』


 船長は特に霊力の過消費が酷かったため自身のゾンビ状態が限界を迎え、霊魂が肉体から離脱してしまった。

 だが彼は最後まで最高のキャスト、エンターテイナーだった。


 船長のゾンビ体が青い顔をして甲板に寝そべる。

 そしてキャプテンは失神する前に優人を見送りながらボソッと呟いた。


「次あう時は、ちゃんとした肉体ないと転生しちゃうな」


 ちなみに霊は霊力が完全に無くなると霊体を保てなくなり、自動的に転生してしまい、ある意味本当の死が訪れてしまう。

 船員達が急いで船長を船の中へ運ぶ。


「キャプテン、戻りましょうか」


「あぁ、霊力回復しないとマジでキツイわ……」


 グロッキーになりながらも船長は今日も仕事を務めた。


 優人はその勢いのまま神殿の中に突っ走っていった。

 ウキウキと、本当にアトラクションに乗る子供のように急いで入口に入っていった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方その頃、浜辺の会場は大賑わいで香菜や白夜は皿の片付けで大忙し、菜乃花と政樹は料理を堪能し、その料理を作っている真一は額に汗をかきながらフライパンを回した。

 だが忙しい反面、会場では霊達の方も大盛り上がりで中々順調。優人の映像を見てはしゃいでいる者もいた。


 そんな中で香菜は思い出したかのように白夜へ補足を入れる。


「あ、そうだシロ君」


「はい?」


「あの神殿ね、実は本物なんだよ。東南アジアのジャングルであったこの世界に現存する『最古のダンジョン』。委員会はあそこを神殿ごと移動させて訓練場にしてるだけなの」


「ていうことは……」


「優人が下手に何かしたら、封印が解ける可能性が高いんだよ」


「うん、ありそうッスね。優人さんはそういうの引き寄せる人ですから」


 2人はコソコソとその話を喋っていたが、食事していた政樹は逃さず内容を聞いていた。

 そして悟った表情で料理を口に運びながら思う。


(アイツ絶対やらかすやん)


 だがもうどうでもいいやという気分で楽しく食事を続けた。

 最近政樹は自分がどうこうしようと変わるわけではないと妙に何か吹っ切れたのだ。

 ちなみに理由付けであるがこの中で霊力や能力が最も小さい人物は無論、政樹である。


 そしてその心の声を密かに聞いていた人物もいた。


『政樹君、なんかごめんね』


 現在、菜乃花は霊力こそないものの軽い霊能力の練習でテレパシーを練習中である。

 たまたま発動してみたら、入ってきたのはなんとも悲しい心の声。菜乃花はその心の中を見てしまったことに申し訳なさを感じていた。


 つくづく、政樹は可哀想な人間へとなっていく。



 ──優人はついに石の道を超え、最古のダンジョンである神殿の中へ潜入した。


「うわぁ、荘厳だあ」


 石造りの遺跡であり、中は動物の石像や壁画が綺麗に残されておりなんとも不思議な場所であった。

 神社仏閣を巡っているような神聖な雰囲気、不気味さもあるが優人の気分はすっかりトレジャーハンターだった。


 そして優人が通ろうとすると、近くに置かれているゴリラや虎の石像の頭に鬼火が灯る。


「うわっ!?」


 いきなりボッと青い炎がついたのでビクッと仰天する。

 中の空間は外から見るよりも案外広く、神殿の奥からは妙に涼しい風が入ってくる不気味な空間でもあった。



「うーん……」


 奥へ段々進んでいくと外の光は完全に遮断され、鬼火に照らされていても先は薄暗く3、4m先が何も見えなくなっていた。

 ゆっくりと慎重に足を進めていく。


 だが進んで行くのに比例して神殿の奥からの風は強まっていった。そして霊力が段々と濃くなっていく。

 闇の奥では何があるのか分からないとなると優人でも怖くなっていく。


 そして奥からトントントンと謎の音が響き、冷たい風は音を立て始める────



「マロォォー!!!」


「うぎゃぁぁぁぁああああ!!?」


 闇の中から少年が飛び出して優人の胸に飛び込んだ。


 それは真一の弟であり狂犬の名を持つ透真だった。突然飛びつかれた優人は絶叫しながら彼に押し倒された。

 倒れると驚きのあまりに腰を抜かして涙目になった。


「お、おどかさないでよぉ……」


「え? どうしたんだー?」


 口を開き、不器用に口角を上げながら透真は首を傾げた。自分が原因になっているとも知らずに。

 透真は優しい性格だがその笑顔だけは不気味なところがあり、一見すると狂っているような表情をしているので突然現れるのは刺激が強いのだ。


 突然の登場に驚いたものの優人は1人仲間が増えたことでとても安心した。

 零人の付き添いがなかった分、今回は少しだけ心細かったということもある。


「あれ? そう言えば透真君、これって競走じゃなかった?」


「あー! それそれー、そのことー!!」


 ハッと思い出して勢いよく透真は飛び跳ねた。飛び跳ねながら優人に現状を伝えた。


「この神殿、2人じゃないと行けないとこあるんだ。そこ手伝ってくれー!」


「了解だよー! それってどこ?」


「こっちこっち!」


 すると透真は犬のように手をついて四足歩行で走り出し、優人を案内した。狂犬と呼ばれるだけあり、その移動速度は優人の全力疾走並の速さであった。



「──はぁはぁ、っ! これって……」


 数分間神殿内を走っていった先には、大きい扉のような石のオブジェクトがあった。

 大きな円型の扉で円の真ん中には正方形の穴が空いていた。その中心からは薄ぼんやりと赤い光がバリバリと音を立ててその穴の中で光っていた。


(ゴブリンさんやドワーフさん達の村に行った時みたいな霊能力を使った装置だ! でも凄い……多分これ、すっごい昔のものなのに霊力が全然ある)


 さらにその扉の前には小さな祭壇があった。

 その上にちょうど扉の穴に入りそうな箱が置かれている、明らかに扉のキーとなるに違いない物体。

 その大きさと形状は優人も知っている玩具の1つだった。


「ルービックキューブだ」


 古の時代に作られた正方形の物体、それはルービックキューブだったが見たところだと明らかにただのルービックキューブではない。

 それぞれのマスが白や銀、金や深緑など色とりどりの宝石や貴金属で作られたルービックキューブだ。

 そしてなんとそれは一般的な3×3の仕様ではなく6×6のルービックキューブだった。


 明らかに宝物のようなルービックキューブは祭壇の上にポツンと置かれている。


「マロ、これ!」


「何か書いてあるね」


 その祭壇には何やら複雑な文字が書いてあった。

 日本語でも英語でも中国語でもないその文字は優人の記憶の中にある言語と1つも当てはまらなかった。


「これなんて読むんだろう?」


「『門の先、潜りし者は知と武の覇者。じきに合わさる壁、潰れる前に真実の姿で訪れよ。門に黄泉の力が加わる時、黄金の光が覇者を照らすだろう』」


「えっ!?」


 なんと透真はその文字に指を当てて、祭壇に記されている内容をスラスラを読んであっさりと解読した。


「透真君なんでわかるの!?」


「これ、ベトナム語だ! 俺は30くらいなら言葉読み書き出来るんだぁ!」


 透真の狂気の笑みと幼い話し方からは想像できないが、彼はとても良い教育を受けている上に中々の秀才のようだ。

 そしてそのまま文の内容を噛み砕いて優人に教える。


「えっとー、マロは扉に霊力ながしてて! 俺は壁が挟まらないうちにルービックキューブ終わらせるーからお願い〜」


「えっ、壁に挟まる!? えっとどういう……」


「とりょっ」


 透真はルービックキューブを祭壇からスッ引き抜いて手に持ってしまった。

 その時に周囲の壁からガコンという音が鳴った。そしてその重たい音が鳴った途端に壁が動き始めて徐々に2人に迫ってきた。


「うわあぁ! 潰されちゃう」


 優人はとりあえず透真に言われたままに扉に張り付いてその石へ霊力を流し始めた。

 だが壁の迫ってくるペースは一向に変わらなかった。


(どうしよう、何とかに逃げなきゃ……えっ!?)


 不安の中、優人はぱっと透真の手元を見た時にその光景にギョッとした。


 透真は恐ろしく速い手捌きで6×6のルービックキューブを回していたのだ。

 その体の霊力の流れを見たが、肉体時間加速術を使っているわけでもないのに残像が見てるほどの速度で手を動かしている。

 そしてその目の動き方からルービックキューブの面の変化をしっかりと確認出来ているようだった。



「す、スゴイ……」


 だが無常にも壁は迫り来ており、間隔が5mを切ろうとしていた。

 だがしかし、まだまだかなりの時間的余裕を残しながら透真はルービックキューブを完成させた。

 そのタイムはなんと40秒たらず、驚異的な速さで難なくその試練を突破した。


「うんしょー!」


 そして記された指示通り、透真はルービックキューブの金の面が自分達に見えるよう扉にはめ込んだ。


「わあぁぁ……!」


 パァと黄金の光が扉から溢れるように周囲を照らし、石の扉はスッとその姿を消した。


「マロー! やったやったぁ」


「凄いよ透真君、あんな難しそうなのを簡単に解けたなんて」


「ひゃへへー」


 扉の先はトンネルのような造りで筒状の通路が続いていた。広さは大人3人が入っても余裕あるスペース。

 ここで優人は1つ彼に提案をした。


「ねぇ透真君。せっかくの競走だし、どっちがこの先に早く行けるか勝負しない?」


「おっ、やるやるー! 俺、負けない」


「オッケー、じゃあすぐに行くよッ。よぉーい……ドン!!」



 ──優人のスタート合図と共に2人は雷のような速度で飛び出して通路内に突っ込んでいった。


 お互いに足を強化して低空飛行するように並行して通路を駆けていく。

 優人は肉体時間加速術とポルターガイストで加速飛行、透真は足から直接衝撃波を生み出しながら飛んでいる。


「ッ! ねぇあれ……」


『キャァァァァ!』


 優人達が並行飛行していると、通路の先には無数の魔獣がいた。

 虎のような体と蛇の頭を持った獰猛そうな魔物の群れがその先で待っていた。

 トンネル内だがその魔獣達は結構な数が集まっており、その魔獣達全体が接近する2人を凝視して舌舐めずりをする。


「わわ! ぶつかっちゃう……」


「ま、マロやばいぃぃぃ!!」


 だが2人の心配は魔獣達の遭遇よりも()()()心配であった。

 2人はスピードを一切緩めないまま彼らの上を突っ切った。


『ギシャァァァ!!?』


 優人は幻想刀を手に握り、透真は己の手の指全体を爪の如く硬化させて構えた。


「「うぃやあぁぁぁ!!」」


 彼らは己の刃で通り過ぎる魔獣共を次々に斬り裂いていった。

 そいつらは実体化はしていないタイプの魔物のようで、彼らの攻撃が当たると直ぐに霊力に戻っていった。



 何よりも優人達が感じたその爽快感はなんとも言えなかった。

 疾走感と冒険心、トレジャーハンター気分になって2人は飛んでいく。


「いやっほうぅー!!」


「うっひぃゃー!!」


 更にポルターガイストや衝撃波で体のスピードを加速させ、魔物を次々に殲滅させながらその通路をいきなり抜けた。

 その過程で通路内の蛇魔獣は全て駆逐されてしまった。


「ん出たあぁぁ!!」


 ──通路から飛び出すと2人はとても広い部屋のような空間に到達した。


 神殿の中だが目の前には2本の大きなジャングルの木が生え、その木の間に大きな祭壇がそびえている。

 そしてその祭壇の中心には白く光る大きなオーブがあった。抱えて持つ必要があるほどの大きさの球体が宙を浮遊していた。


「アレがお宝!?」


 香菜の言っていた優人お目当てのオーブだった。

 2人は先程のポルターガイストや衝撃波による飛行を続け、競走していたことも忘れてお互いに喜びのグータッチをした。


「イエーイ!」


「イヒャー!」


 だが突然、神殿内に巨大な獣の雄叫びが響いた。その咆哮で中央の気は揺れ、オーブも微かに震えた。



『グルアアァァァ!!』


「!?」


 目の前には突如、地面から非常に大きな魔獣が現れた。

 牛のような角、肉食獣のような顔が2つ、筋骨隆々で巨大な体が1つ。それは俗に言う『ベヒモス』という名の怪物だ。

 片方の頭は口から赤い炎、もう一方は口から青い電気のブレスを吐いて侵入者を威嚇している。

 その怪物は己の丸太のような腕を広げ、気合いを入れているように力を入れた。


 しかし、そんな魔獣ベヒモスなんかよりも優人は先程からあることを気にしていた。



「大変、大変!!」


 2人はまだ、飛行しているままだったのだ。

 そもそも2人は着地などのことを考えていなかったので加速するだけして今はもうどうしようもなくなったのだ。


 もはや加速し過ぎて下手にポルターガイストも発動できない状況だったが、優人は1つだけ最前の打開策を思いついた。

 目の前に巨大な獣が現れたことにただ感謝した。


「──いいや、もう行っちゃええ!!」


「えひゃひゃひゃひゃぁぁああ!!」


 スピードを落とすことも止めて優人と透真はベヒモスへと一直線に飛んだ。


 2人は拳を前に突き出し、無防備だったベヒモスの腹に強烈なパンチを放った。


『バアアァァァ!!?』


 ベヒモスは反応が間に合わず自身の腹を思いっきり殴られ、体がくの字に折れる。

 さらに衝撃でベヒモスの舌や目が、漫画のように飛び出しそうになっていた。

 さらに運が悪く、距離感を誤っていたために腹部のガードは1ミリもしておらず、2人の威力を全く殺せなかった。


 2人はちょうどよかったと言わんばかりに、殴ったベヒモスの腹に乗っかる。


『ガ、バォァ────』


 倒れるベヒモスを可哀想なことにマットレスにして2人は着地した。


 それと同時にベヒモスの大きな霊力が空気中に解き放たれた。

 ベヒモスは実体ある魔獣だったようで息絶えてからも消滅はせずに伸びていた。


「それじゃあ、お宝だあっ!!」


 優人は中央まで走って、お目当てのオーブをひょいと取り上げてゲットする。

 オーブの獲得と共にゴゴゴという音が神殿で木霊した。


 そして部屋の天井は開かれ、外からの太陽の光が神殿の中を照らした。


「クリアだぁ!!」


「マロォ!!」


 2人は飛び跳ねてハイタッチをした。

 喜びで数歩スキップし、2人ともその勢いで再び衝撃波で飛んで天井から元の会場へと向かった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 優人と透真は神殿から脱すると一目散に飛んでいって会場へと舞い戻る。

 2人が到着すると会場にいた幽霊たちからは大きな歓声が上がった。


「お疲れ様!」


「2人とも頑張ったね」


「観ている方も楽しかったよ〜」



「えへへ、ありがとうございます」


 幽霊達からの言葉に満更でも無さそうに優人は答え、透真も狂ったような笑顔を浮かべていた。

 そして霊達の中から苦笑いをしていた香菜がやってきた。


「優人おつかれ……」


「ありがと香菜ちゃん!」


「ごめんね優人……ちょっと言いにくいんだけどさ」


「うん?」


 香菜はモジモジしていたが、申し訳無さそうな表情になって両手を合わせた。


「イベント用のオーブ、仕掛け忘れちゃったんだ」


「…………ふえ?」


 それはあまりにも意外な一言。

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