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第28話 アイランドサマーアンドベンチャー!?

「うわあぁぁ……この道の上から見てもキレー!」


 優人は浜辺から突き出るように出現した石の道『ロードオブリメインズ』という体験型アトラクションのようなものに挑戦していた。


 その道の幅は人が2人入る程度で右に青海、左にジャングル。

 沈没船のオブジェクトやエキゾチックなジャングルはさながらアクションゲームを想起させるような物があり、少年心に溢れている優人はうはうはなテンションで疾走していた。


 だが潮風を感じながら楽しげに走っていると、その先で突然道が無くなった。


 その代わりとして木製のリフトが足場の代わりとなって並んでいたが、1個1個のリフトの間隔が広すぎた。普通に行ったら間違いなく海へドボンのコース。


(わわ! えっと、流石に飛んじゃったらダメだよね?)



 飛行するかどうしようかと優人が迷っていた時、頭の中に香菜の声がテレパシーで聞こえてきた。


『この先はリフトを渡って海賊船に乗ってね。ただ途中で海賊たちがいるけど、彼らは障害物。一応ゾンビ化させてあるけど呪いとかで攻撃しないで! 彼らも霊管理委員会の職員だからね』


「うん、それじゃ障害物競走頑張るね!」


『ガンバレゆうと〜』


(あ、そうだ!)


 テレパシーで会話している間にも優人は走り続けてとうとう道の境界が目の前まで来た。


 優人は残りの道を全力疾走することで助走をつけ、タタタと一気に駆けると脚を霊動術で強化し跳び上がった。


 走幅跳の要領で飛んだ優人はポルターガイストで自身の軌道を整える。


 この時に石の道の端が数メートルほど崩れてしまったが優人自身は問題なく跳ぶことに成功した。


「攻撃じゃなくて、移動ならいいよね」


 優人の脇腹からそれぞれ1本づつ呪いの拳を出す。

 腕までキチンと生み出して自分の体に流れている霊力と接着することで黒腕は第3、第4の腕となった。


 リーチが伸びたところで優人はリフトの柱に掴まりながら振り子のように進んでいく。


 ポルターガイストで調整して体を安定させながら奥に見える古びた海賊船へ向かう。


 ───その様子を会場にいた香菜たちは宙に浮かんでいるモニターで確認した。


 優人の技術とその霊能力の発想に会場の幽霊たちは驚き楽しんでいた。


「あんなことできるのか、霊能力者は!」


「私も生きてるうちにやってみたかったなぁ、会社とかさぁ」


「ポルターガイストの制御なんてどうやるんだ? 幽霊の俺でもできないのに……」


 幽霊といえども、彼らは霊能力とは生前無縁だった一般人。

 修行は抜きとして、負の感情や強い怨み、或いは霊能力のセンスがなければ普通は術やポルターガイストなどは使えない。


 体が霊力で構成されているので、一般人からしたら霊力は上がったように思えるが生前の溢れるパワーに比べたらどうって事ないのだ。

 幽霊歴が長いか生前に霊能力を少しでもかじったことのある霊ならば、飛んだり壁を通り抜けたり瞬間移動もできるが、基本は霊力の無駄なので彼らも人間と変わらずに歩いている。



 一方でこの会場のモニターの反対側でもザワザワとし始めた。

 会場に充満する様々な料理のいい匂いが皆の腹を空かせ、ヨダレを垂らさせていた。


 奥で真一がすでに多くの料理を作っていた。彼は本物の料理人にも劣らない手際の良さでオーダーを回していった。

 和食から洋食まで豊富な品々がテーブルに湯気とともに置かれている。


 何よりも素晴らしいのは真一の料理のレベルの高さである。

 食材は宙に投げられた瞬間に切られ、調味料はあっという間に入れるがとても丁寧に入れていることも分かるような動作、両手にそれぞれフライパンを持って食材をフランベにしていく。


 足りない腕は魔術で補い料理をするというなんとも異色な調理風景。

 その一挙一動がパフォーマンスとなり、会場を飽きさせずに楽しませている。


「香菜さん、これどんどんいいですよっ!」


「はーい。それでは皆さん、女性はこちらの菜乃花ちゃんのほうに。男性は飯塚君のほうにお願いします!」


 すでに長蛇の列が2人の前にできていた。

 そして列の前にいた霊たちが2人に憑依しようとする。


 憑依の前に2人は律儀に、軽くお辞儀をしてから菜乃花達の体へと入り込んだ。


「ちょっとごめんね」


「少し借りるよ」


 そして2人の幽霊はフッと政樹たちの体に霊魂を入れ憑依する。

 ──すると憑依された瞬間に菜乃花は不思議そうな顔をして目を開いた。


 菜乃花が驚いたのは、自分の体や意識に特に変わった様子はなかったからだ。


「憑依って別に人格とか入れ替わるんじゃないんだ。初めてだから緊張しちゃったー」


 しかし横に座っている政樹が虚ろな目をしていた。そして海の向こうを何か悟ったように見つめていた。


「はっは、入山さんは経験ないと思うけど勝手に憑依してくる霊ほど怖いものはないよ。この人たちは良い人だけど、昔俺に取り憑いた霊とかはイカれてたり自我暴走してたりで……ホント散々だったよ」


 彼は守護霊の事情で不幸体質な上、霊媒体質でもある。全ては守護霊として彼に憑いている『茶碗の神』という疫病神が呼び寄せてくるのだ。


 だが本人はこの事実を知らない。

 なぜならその神は少々、微妙な程度の厄病神のため優人たちが気を使っているからだ。

 守護どころか害すらある霊だがあまりにもその判定が微妙な立ち位置の神なので対応しかねているのだ。


「はい、おまたせーで〜す!」


 2人の目の前には鉄板に乗った熱々のステーキが運ばれてきた。それも最高級のサーロイン。


 焼けた肉、そこから染み出した油とソースが香りのハーモニーを奏でている。それらは悪魔的な食欲の力を帯びて彼らに襲いかかる。


 ステーキ界のベートベンの前に2人、いや4人はナイフとフォークで丁寧に切り口に運んだ。


「っ!」


「わぁっ! すぐ切れた」


 ただナイフを()()()だけでステーキは綺麗に溶けて透明な肉汁が染み出てきた。


 柔らかい肉が唇に触れ、舌の上で華麗に舞いながら口の中へと入っていく。肉を咀嚼し、肉汁の泉を口の中で解放させて己の欲のままに味わった。


 舌の上でその上品で大胆な味を楽しみ、その脂と共に肉がゆっくりと喉に通した──


「美味しいぃ〜!!」


「うっま! い、生きててよかった……」


 肉の味わいに惚れた2人はバクバクとステーキを食らい続けた。

 高級レストランの料理と言われても気が付かないほどの最高料理を前に橋が進んだ。


 味は存分に楽しめている、だがその腹は一切苦しくなるとこはなかった。


 お供え物の原理で憑依した幽霊が霊力にして吸収するため、今は勿論この後も2人は全然苦しくならないのだ。

 香菜の魔術も相まって食物は霊力へと変換され物理的にも満たされることはなく、満腹中枢も麻痺させていた。

 つまりこの絶品料理を2人は半永久的に食べ続けられるのだ。


 これを天国、極楽浄土と言わずしてなんというか?


「ハハッ、お客さんに喜んでもらえてんなら本望!」


 戦闘なんかの時よりも料理をしている真一はその時何十倍も輝いていた。

 常に笑みを浮かべ、忙しくも楽しそうに料理を作り出していったのだ。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 


 優人は順調に海上を移動している……かと思えたが、新たな問題が現れた。


『ひゃっほう、来たぜぇ!』


『悪いが、そういうことになってるもんでなぁ!!』


 海から障害物役の海賊たちが飛び出して来たのだ。

 ゾンビ化して半実体化した彼らは体から水を滴らせ、ボロボロの服をたなびかせ優人の目の前に立ち塞がった。

 手にはサーベル──玩具のサーベルやピストルを持っていた。


 そして彼らは接近ともに優人の呪いの腕の部分に斬りかかってきた。



「もしかして、斬られる!?」


 サーベルの刃が黒の腕に到達して接触した。


 ──しかし斬りかかった海賊は驚いた。なぜならそのサーベルが腕に触れた時に粉々になったのだから。


『ほぇっ!?』


 プラスチックといえども、その玩具はただの物質である。

 優人の場合は実体干渉能力の高さゆえに物も破壊できるが、本来は術が物質に勝っているというのは異常事態なのである。


 予想外のアクシデントにキャストは粉々になった玩具を見ながらオロオロとしていた。


「え、なんで!? 具現化系の術は物質に触れると消えるはずなのに!」


『あぁ優人は現実干渉能力が高いんで、多分本物の刃物でも厳しいと思います』


 モニターで優人の進む様子を視聴していた香菜が申し訳さなそうにテレパシーを送る。

 その報告を聞くと海賊たちは揃って驚いていた。1人は驚きのあまりゾンビの目玉が落ちてしまったのもいた。


『『『なんでやねーん!!』』』


「海賊さんなのに関西弁でツッコミ!?」


 海賊たちはコントでコケるようにそのまま海へと落下した。


 だが海に落ちると皆じたばたして溺れそうになっていた、幽霊生活が長い彼らは自分達が今は霊体ではないということを完全に失念していたのだ。

 ゾンビの体で溺れている海賊達は演技でもなく本気で焦っていた。


「あ! ゾンビ化してんの忘れてた!!」


「体に所々穴が空いてるから水があぁぁぁ!!」


「浮力こいよ、男だろおぉぉ!?」



「みんな掴まって、錬金術ッ!」


(良かった、しっかりと海の中にあった)


 海中で漂っているゴミや石などを期待して優人は術を発動した。


 運が良いことに先程軽く壊してしまった石の道の欠片がまだ近くに漂っていた。海から宝石でできた柱が迫り出してきて彼らをリフトの位置まで持ち上げた。


「た、助かったー」


 そして海賊達は一安心すると顔を赤くして頭をポリポリとかいた。

 あくまでアトラクションのそういう役目だとは言えども襲ったことが恥ずかしくなって彼らはペコペコと頭を下げていた。


「ごめんね優人君、助けてもらっちゃって。あ、この先は俺らの海賊船に乗り込んで神殿の入口付近まで行くから楽しんでいってね」


「あっ、ありがとうございます! やったあー、本物の海賊船だぁ!!」


 優人の純粋で嬉しそうな反応で彼らは物理的に腐った胸の辺りが温かくなった。

 それに加え彼らは普段から子供達の霊を楽しませる仕事を多く任されているのでその時の感覚を思い出したこともあって母性がくすぐられたのだ。


『ヨーホーヨーホー♪』


 そんな話をしていると、なんと沈没船だと思っていた船が()()()()()飛び出したのだ。

 本物の海賊幽霊船が現れた。


 水中からザバッと飛び出した時に船内の水が流れ出し、船体がバウンドしながら浮かんできた。

 そして大勢の海賊たちがその船に乗って愉快な歌と共に雄叫びを上げていた。


「わあぁ、楽しそう!!」


 優人は目を煌めかせながらポルターガイストで空中を移動し、キャスト達と一緒に海賊船へ乗り込んだ。


 だが優人が乗り込むと急に船内が慌ただしくなり、皆がそれぞれの配置について船を動かし始めた。


「野郎共、出航だ!!」


『あいあいさー!!』


「凄おい! 本物のあいあいさー……」


 これはいつも彼らがショーでやっていることと同じやり取りだ。これで興奮しない子供はいなかった。


 映画のようなワンシーンに優人は感動していると、大きな海賊帽子を被り1番海賊らしい体格の良い男が現れた。

 そして気さくな笑顔で優人に話しかける。


「やあ新人君、船に乗ったからには働いてもらうぜ?」


 豪快な雰囲気と優しい対応に合わせて優人もビシッと敬礼をする。


「はい、キャプテン!」


「お、いい声だ。じゃあこの大砲を任せたぜ。霊力を込めて発射するんだ。使う機会はないたぁ思うが、しっかり頼むぞ」


「あいあいさー!!」


 そんな大人と子供のやり取りをしていると船の反対から骸骨の船員が大慌てでやってきた。


「キャプテン大変です!」


「どうした!?」


「かかっ、囲まれました!!」


 そしてタイミングよく海にモンスターが現れた。

 これも完全に仕込みの演出だろうが、流石キャスト歴が長いだけあってしっかりと船内がザワついていた。


(すごいすごい! 本物の海賊ってやっぱりカッコイイなあぁぁ!!)


 そしてそれらが海中から飛び出してその巨大な姿を現す。

 それは優人も1度見た事のある化け物だった。


「あっ、ゴーストシャータイガー!!」


 虎の前足とシマシマ模様を付けた巨大で凶暴なサメ。獰猛さや単純破壊力は当然ながら本物のホオジロザメを凌駕する。


 ポルターガイストを使うため厄介な上に、モンスターの中でもボスクラスだ。

 そして見た目がとにかくB級映画チックで、やられる時は霊力が血潮などの姿となって飛び出すという醜悪な習性があるゲテモノモンスターなのだ。


 そんなゴーストシャータイガーが群れでうじゃうじゃと船の周りを泳いでおり、ゾンビとはいえ生の肉の獲物たちを捉えて離れなかった。


 普通なら特に映画なら慌てふためくところだがみんなそんなことはしない。指示によってなる完璧な連携で皆が対応を始めていた。


(やっぱり海賊は凄いなぁ。やっぱりこの程度のモンスターには動揺しない。でも確かに、前よりも数いないし弱いから当然だね)


 補足だがゴーストシャータイガーは全然弱くない。むしろ前回優人が対峙した奴よりも更に強い個体達が群れとなっているのだ。

 あくまで優人の感覚麻痺である。


 だがこんな状況でも船長は落ち着き堂々と腕を組んで笑っている。

 そして地平線を見つめながら心の中で叫び出していた。


(ヤバいこれ、ガチで来ちゃった!! 俺ら霊能力関係の戦闘はペーペーなんだけど? この船も改造したとはいえ、お古の沈没船だしこれ……もう1回死んじゃう)


 絶望の中へと落とされていた。彼らは対人戦ならまだしも魔物との戦闘経験は1度もない。

 だが優人はそんなことは露知らず、これをアトラクションの一環だと思ってワクワクしながら質問を投げる。


「この船で結界術使える人いますか?」


「ハハハ、それは全員使えるぞ!」


「やったあー! じゃあ大砲でこのモンスターたち倒しますね!!」


「りっ了解だ、おい野郎共! 優人君が倒してくれるそうだから、みんなで結界術張るぞ!!」


『オオォ!!』



(やった! 僕認めてもらえてるっ!)


(強いと噂の優人君なら倒してくれるだろう)


(((よっしゃ、助かった〜)))



「えい!!」


 そして優人は大砲に触れ、自分の精一杯の霊力を流し込んだ。

 この大砲は単純に霊力をエネルギーとして変換し、指向性のある攻撃を生み出す装置である。電化製品に電気が流れるように霊力を流した瞬間に発動する。


 ──だが2つ、誤算があった。

 1つは海賊達が優人の半端じゃない霊力量を把握していなかったこと。

 そしてもう1つは優人の気分が高ぶっていたこと。テンションに伴って霊力は増長し、活発化して暴れ出す。



 一部と言えど優人の膨大な霊力が注がれてあっという間に大砲の弾を作り出した。大砲は本来の想定された威力を凌駕して最強の兵器へと変わった。


 そして今にも爆発しそうなほどの巨大なエネルギー災害が解き放たれた。


 そして放つと同時に優人も海賊達と共に自身の周りに結界を張って万全の状態に整える。

 弾が水面に触れた時、太陽の如き光を放ち、青い海へと着弾した────



「ん?」


「どうしたの? 香菜ちゃん」


「あっ……」


「えっ、ええ!!?」


『うわあああ!!』


 香菜たちのいる会場のモニターから見える海の沖で恐ろしいほど光を放ち、こちらまで風が届くほどの爆発が発生していた。

 波は大きく荒れ狂い、空気を伝って衝撃波の轟音が聞こえてくる。

 モニターも真っ白になって何も映らない。


 海に太陽が落ちたと思わせるほどの大爆発は皆の想像を絶していた。


 会場中の霊達や菜乃花は絶句し、香菜と白夜も流石に驚きを隠せなかった。

 その光景に政樹は思わず、手元のスプーンを落とした。


「あいつ、いつ災害に転職したんだ?」



 当然だが、ゴーストシャータイガーの群れは跡形もなく吹き飛んだ。奴らは何も出来ないままオーバーキルされた。

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