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第22話 候補生試験Ⅱ

 鬼火の青が結界によって増幅した結果、霊力は真っ白な光となって激しく輝いた。その優人の蹴りは一晴の霊能力者としての人生で初めて謁見する光景だった。

 7つの大罪の能力者達の戦闘も見てきた彼にすら、優人という存在は規格外であったのだ。自分が今、審査をする側の人間ということも忘れてただ圧倒されていた。

 ようやく絞り出せた声は震えていた。



「う、うわあ。災害じゃないですか……」


 一晴が引き気味に眺めていると優人がトテトテと2人の元へ戻ってきた。一方で一晴の横で優人の一撃を閲覧していた零人は軽く頷いて「よくやった」と言わんばかりの表情だった。



「一晴さん、次もいいですか? この式神、消えちゃったみたいなんですけど……」


「え? あ、はい。次出しますね。──1撃でやられるような式神じゃないはずなのに」


 一晴の二つ返事で球体型の式神2号機が同じ地点の地面から這い出てきた。

 唯一これが試験という意識のある優人は律儀に止まって次の技の説明をする。


「それじゃ次は呪いと錬金術使いますね」


「はい…………え? あっはい」


「お願いします!」


 優人はくるっと背を向けて式神の方へ近寄って行った。

 そのタイミングで一晴は零人に近づいてコソッと耳打ちをする。


「零人様、呪いや錬金術は私が知るに直接戦闘には向かないはずなのですが……」


「ハハハッ! まあ見てろって。あれがあいつ、優人の原点にして最強の武器だ」


「ぶ、武器ぃ?」



「すぅっ……」


 式神の眼前に立った優人は大きく息を吸う。目を瞑り瞑想状態に達することで普段よりも強く、速く、正確に術の発動を可能にさせる準備を行う。

 優人は頭上に拳を上げ数秒間の停止、そして唐突にその場で跳ねた。体が若干前のめりとなって傾くように足を浮かせ、宙でその体を捻りながら上げた右の拳を式神付近の地面へ叩きつける。


「錬金術ッ!!」


 その刹那、優人の拳は爆ぜた。膨大な霊力がその手に収縮され、ダイナマイトのように瞬間的爆発を引き起こす。

 地面は拳の接触と同時に宝石の光沢を放ち、色鮮やかで煌びやかな深緑が周辺の光を乱反射させる。

 地面から植物の根のように式神の付近全体に張り巡らされ、緑宝石の道は真下で鋭利な数本の槍へと変貌して球体の中心へと突き刺さる。


「蝶のように舞い蜂のように刺す」とは言うがそれは『水のように広がり雷のように突き抜ける』ような攻撃であった。エメラルドの槍はガラスが割れる音をたてながら式神の内部を貫通した。



 ──だがここで優人は追撃を止めなかった。

 地へ触れた拳とは反対の手、こちらを地面に密着させ倒立腕立てをする要領で優人は華麗に式神の真上に跳び上がった。


 槍に刺され固定された式神の真上から押し潰すように、身体の中から眠っている無数の漆黒の力──呪いの拳を引きずり出し全身全霊のラッシュを決め込む。



「うおおぁぁぁぉやあぁっ!!」


 この幼い少年の体から出るとは到底思えないようなどす黒い拳は式神へ到達する寸前、蒼の炎と様々な宝石の装備がなされて呪錬拳へと昇華される。

 純粋な呪いの雨は球体であった式神の姿を徐々に歪んだ円へと変えていく。

 表面がボコボコで歪な円盤は地面に殴りつけられていくほどに、金属音のような甲高い衝突音がこの空間に響いた。


「もうちょっとぉぉぉッ!!」


 呪いの黒い拳は溶けるように消え、優人の愛刀『幻想刀』が挨拶をしている。

 鋭く輝くエメラルドの刃は呪いが消えたと同時に優人の手の中へ収まって、斬りつける相手を求める。


「シュゥッ!!」



 優人は円を通り過ぎた手前に降り立っていた。

 その一瞬だけ、銃を発砲するよりも速くに腕は振られて、式神は両断されていたのだ。

 ──綺麗な断面はその深緑の刃の切れ味を物語る。



「──えへへっ、どうでした?」


 緊張感を解いた優人は笑いながら2人に笑いかける。だが一晴の目は焼き魚のように白くなっていて、話し方も動きもカクカクしていた。


「ユ、優人さん。会員登録は……シューりょうデす。転送術デ──候補生試験会場ヘト、オ送り致しマシタ」


 思考が切れて案内ロボットになった一晴は頭の中が現状に追いつかないながらも優人の足元に魔法陣を作り、転送術を発動させた。


 優人の周りが黄色の光で包まれていき、だんだんと身体が消えていく。転送前に優人は零人に向かって元気良く手を振る。



「あ、零人君! 頑張ってくるねー!!」


「おう、頑張れよ!!」


 光が弱まったと共に優人は試験会場へと転送されていった。零人は子を学校に行かせるような心境で優人を見送った。

 そして役割が終わった一晴は気が緩んだ途端、壊れた人形のように笑い始める。



「ハハハハ、すごいですね、優人さん。ハハッ、僕の修行はなんだったんだ……」


「ま、あいつの呪いに関しては術式の問題だしな。あいつは大術式、『呪術式』の能力者だ」


「えっ!? ということは零人様と──あれ?」


 まだ優人のステータスを表示したままであったウィンドウ画面をチラッと視界に入れた一晴は驚いた。


「どうした?」


「え? あっい、いえ! なんでもありません」


(おかしいな、優人さんの除霊能力が数値0になっていたけど……どうせ測定不能とかだろうな)


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「──ここが、会場かぁ」


 優人は人が50人弱ほど集められた広場へ転送された。広場といってもバーチャルチックな空間で上も下も黒い空間、何ヶ所かに人が分かれていた。

 そして人々はモノリスのようなオブジェクトにそれぞれ分かれて集合している。


 集まっている人達は優人が見ても分かった。当然ではあるが、全員が相当な実力者なのである。

 空気から感じ取れる霊気やオーラ、肌を伝って第六感へ訴えかける感覚からすでに違っていた。


 と、周囲の人間を観察していたら脳内に例の機械チックな女性のテレパシーが流れた。


『ようこそ優人様、候補生試験へ。これはテレパスアナウンスです』


「わっ! あ、はい。よろしくお願いします」


『今回は優人様は大罪枠の候補生試験を受験になりますので、前方向の「(まんじ)」という文字の場所へと行ってください』


「卍なんだ……って、大罪枠って?」


『受験者の皆さんが転送されてきた瞬間に私達が判断して試験の組み分けをしたのです。内容はそれぞれで異なりますが、学校のクラス分けのようなものですので判断基準等に大きな差はありません』


「そうですか、あっ! 卍ってあそこかな?」


『それでは優人様のご健闘をお祈りしております』



 卍と印されたモノリスの前には3人ほど優人と同じ受験生が立っていた。

 黒いローブを全身に纏ったシャーマン風の男、格闘家のような格好の男、マントを羽織り魔法使いらしい杖を持った女が何かを話し合っていた。


「あそこかな?」


 優人はゆっくりと歩いていった。すると向かいながら優人の耳にその3人以外の周りの話が聞こえてきた。軽く雑談をしていたようで、その内容が入ってくる。


「聞いたか? 今回の試験、なんと大罪直々の推薦者がいるらしいぜ」


「マジかよ!? ソイツってどんな化け物だそりゃ?」



『お伝え忘れていましたが優人様、規則により零人様からの推薦や他の大罪様との交友関係などの情報はお控えください』


「はい、わかりました」


(零人くん達から推薦されるのはやっぱり珍しいことなんだ。僕の他にもいるかなぁ?)



 そしてモノリスの前へ到着し、話していたその人物たちと接触した。

 向かって来る優人に気が付いたようで格闘家のような男が早速話しかけて来た。


「あ、君が最後の大罪枠かい?」


「あ、はい。アナウンスで言ってました」


「今、俺たちはお互いの能力とかを説明してるんだ。大罪枠の試験はチームでのクエスト、その中でも仲間と協力して敵を倒し戦いに貢献した者が合格だ。もちろん、蹴落としたりしようものなら即失格らしい」


「は、はい! わかりました。」


「お、見た目はちっと幼いけど、しっかりしてんじゃん」


(まずいよぉ、零人君やシロ君たちとの戦った時みたいにはいかなそう。呪錬拳とか当てちゃわないように気をつけないと……)


 優人の頭には昨日の光景がこびりついていた。

 自身の霊力が解放された時の威力とその脅威、自身の実体干渉能力の高さゆえの恐怖があったのだ。


「それで君の得意な技とかは?」


「えっと呪いと錬金術です!」


「「「…………んん!?」」」


 話し合っていた3人は声を合わせて驚いていた。

 優人はすでにその反応自体には慣れていたが、この後のコメントを直接言われるのは初めてで戸惑った。

 

 今度は話を聞いていた魔法使いの女が優人に対し、小さな子供に話しかけるように困りつつも聞いてきた。



「あ、あのね君。えっと、相手は魔獣なんだ。だから対魔獣用の能力とか」


「はい、今の2つです」


「はえ?」


 女は優人にあまりに真っ直ぐな目で答えられたので目を開いて固まった。

 そこにシャーマン男が説明するように割って入ってきた。


「あの、君。その2つは対人戦には効くけど魔獣に対してはあまり効果が期待できないんだ」



 それは通常、()()()()()()()の話だ。

 だが実際、優人の呪いや錬金術の力を持ってすれば魔獣はおろか聖獣すらもその戦法で戦える程の実力がある。しかしこれは本当に優人だけの戦法であり、霊能力者のセオリーとは逸脱しているのだ。

 だがこの時優人は──


「そ……」


(そうなの!?)


 彼らの言葉をまんまと信じた。

 というのも、優人は零人や自分のように『霊力と実力は必ずしも比例しない』という普通の霊能力者とは異なる常識が頭にあった為に、自分よりも弱い彼らの言葉を優人は素直に信じのだ。

 そして試験という緊張の場にいる事で霊力の判定などは全く見えていなかった。

 なぜなら優人はピュアだから。



「あの、でも僕は……除霊できなくて──」


「──え? どういうこと?」


「あの、何故か僕は除霊できなくて……」


「え……」



 ──この時、3人は偶然にも心の中で同じことを考えていた。彼らは霊管理委員会の候補生受験者達、ただ「使えない奴」という認識に至る前にこの状況から、とある回答を導き出していた。



『これ、試験の一部だな』


 その思考がシンクロすると3人はアイコンタクトでテレパシー会話を始めた。


『なるほどなるほど、つまり()()()()()()()()()()()この子を守りながら戦うってことか』


『霊管理委員会は聖人や心正しい人間に力を与えている……己だけでなく他の者も守れる者である必要がある、ということか』


『そうだよね、よく見たらこの子霊力もあんまりないみたいだし、そういうことだよね』



 この現象のトリックは優人の霊力の多さ故に起こっていた。

 優人の霊力に3人ともすっぽり覆われていたせいで、そもそも霊力に気づけなかったのである。

 汗臭い部屋で餃子を食うように、空気に優人の霊力が紛れて他の霊力が不可視の状態にあったのだ。



「あ、でも鬼火や召喚術なら……」


「え、そうなのか? えっと……あ、じゃあ後ろで援護射撃を頼むよ」


 先程まで困り顔をしていた優人の表情が一気にぱあっと晴れた。


「はい! 一生懸命頑張ります!!」



『うわっ……ヤバいこの子、なんか尊い!!』


 3人は早くも2度目の思考シンクロをしていた。

 電流が流れたように優人の幼さゆえに感じる尊さを体験したのだ。

 そして再び彼らに女性の脳内テレパスが入ってくる。



『皆様、試験が始まりますので試験本会場へと転送致します。ご武運を』


「わっ────」


 4人は会場へと飛ばされた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 4人は体感のタイムラグなく、試験の会場へ転送された。そして試験開始の合図もなく候補生試験は始まっていた。


『ギャシャァァァァッ!!』


 四足獣の体をしていながら全身を覆う羽毛、鳥の鋭い爪が備わった足、気高さすら感じる鷹の顔と背中に生えた大きな翼。

 その体躯はドラゴンに匹敵する程あり、大型トラックの3から4倍はある大きさを誇っている。


 伝説の生物として知られている『グリフィン』である。

 叫びながらその口からは吹雪のブレスが放たれ、会場は冷気に包まれていた。



「おいおい、マジかよ!」


「さすがに初めてね、このレベル……」


「霊力も桁外れだな、さすがに試験と言えども侮れない」


 死線を潜り抜けてきた優人は、過去の経験から理解した、このグリフィンは聖獣よりも弱い強さであると。


 優人は緊張でも寒さでもなく、内に秘めた闘争心によって体が震えた。

 戦いの猛者だけが感じる武者震い、歓喜とはまた違った奮い立つ感情が優人の中から押し寄せてくる。


 そして今、優人が1番先にイメージを頭に浮かべた。戦闘、霊能力、勝利、それらを連想させたのは優人が憧れる存在。

『世界最強』の霊能力者の事を何よりも早く考えたのだ。



(こういう時、零人くんなら……たぶんこういうよね)


 自ら出せる今の実力、現在置かれているこの環境、これから対峙しようとしている相手の強さ、それら全てを加味し理解した上で──優人は笑いながら慣れないその言葉を叫んだ。



「──無双の時間だッ!!」

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