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第7話 聖獣

「親玉っ」


「悪霊は霊力の多い者に引かれる習性がある。こいつらが過密してる場所には大体、魔獣や妖がリーダー格としている場合がある」


「それでも、親玉ってすぐに見つけられる?」


「まぁ普通に霊力不足の状態じゃあ困難だが、今は条件が揃った。ちょうど良い」


 零人はその場で立ち止まり、両拳を静かに地面へ合わせる。


「召喚獣の中でも最上位級の存在、聖獣を召喚する」


 零人の触れた箇所から魔法陣の文字と大きな火柱が上がった。

 幻想的で神秘的な鬼火とは対象に、力強さを象徴するような紅蓮の炎が燃え盛る。その炎がまた魔方陣を空中で展開。


 炎によって宙に刻まれる魔法陣の中より、聖獣が出現する。

 その聖獣は巨大な体躯と獣の顔。岩のような鋭い爪が生え、肉体から紅蓮の火炎が湧き出ていた。


「こいつはイフリート、炎を司る聖獣だ」


「かっ、カッコイイ! イフリートって僕でも知ってるすっごい魔物だよっ」


「聖獣は聖書や神話の上で名のある悪魔、怪物。そいつらが融合を繰り返した末に力を得た高位の召喚獣だからな」


「融合……?」


「地域差や時代の影響で、同じ名前の存在が魔獣や悪魔として何体も現れる。根源が同じ存在同士が互いに融合して、こいつらは進化するんだ」


「じゃあイフリートはすっごく強いんだね。ゲームとかでも魔人や獣の姿とかいっぱいあるし」


「そういうことだ。そんな聖獣を俺は月に一度だけ、俺の霊力を使用せず召喚する権限があるんだ」


 二人が聖獣についての会話を交わしていた二人の真上から、複数の悪霊が襲来した。悪霊の奇襲を認知した優人の体は反射的に固まる。


 しかしその刹那、イフリートは背から炎を撃ち放ち悪霊を即座に焼き払った。悪霊は奇声すら上げる余力もないまま灰になったようだ。


「びっくりしたぁ。零人君、気がついてたの?」


「気がついてはいたが、今の俺に使役する霊力はなかった。だが聖獣には自我がある。迎撃や口頭での指示は自分でやってくれる」


「流石は零人君……」


「とは言っても時間制限はあんだ、早く行こう」


 炎を散らして疾走するイフリートの背を二人は追った。


 街中を駆け巡ること数時間、残党の悪霊殲滅を並行しながら敵のリーダー格をサーチ。ついに霊力反応が確認される。


「霊力は散りまくってるが、この反応だ。この先だな」


「あっ! あそこにい……る」


 道の角を曲がった先に反応の発生源はいた。二人が確認していた存在とは、道の真ん中に座る一羽のウサギだった。


 僅かに優人が抱いたその可愛らしさを打ち消すように妖兎は醜い嬌声を発する。


『ギャギ、ギャギギギッ』


 妖が嗤う傍には、道の真ん中で倒れている母娘の姿があった。



「野郎ォ……」


 零人の顔が一瞬にして鬼の形相へ変貌する。彼らが見つめていた先には宙を浮遊する二つの球体があった。

 球体からは焚き火のような弱々しい霊力が揺らいでいる。伝わる霊力の感覚から、優人もその球体の正体を察する。


「もしかしてあの玉は……」


「ああ。これは、あの人達の魂だ」


 事態の深刻さを理解するのに時間は要さなかった。

 優人が接近を試みたが、兎は優人達を見て嘲笑うように人魂の近くに座り込む。


 自分は何時でもこれらを食えると人質を取り、零人達を挑発していたのだ。それは魔獣故の本能的な加虐心だった。


「弄ぶ程度には奴に知性がある……魂を食って吸収する類いの妖か」


「あっ!」


 優人は反射的に声を上げる。直後に二人の横で構えていたイフリートが霧散化して消滅した。


「召喚時間切れだ。俺の使用出来る霊力も残りは僅か」


 敵に戦闘の意思がなく、人質を取られた状態にあるのは零人にとって相当な痛手であった。


(下手な攻撃はあの人らの魂に傷を付けかねない。だったら俺の霊力じゃなく──)


 零人には現状の打開となる唯一の妙案を思いつく。その作戦の鍵となるのはまさに、零人の隣にいる優人だ。


「優崎、召喚獣を出せ。なんでも良いから早くッ!」


「い、いきなりそんなの……」


「召喚さえ成功すりゃあ良い、俺が使役する」


 他者の命の選択を前に、優人は怖気付いていた。自分の行動で他人の生死が分かれる、その重圧ゆえに落ち着く事が出来ない。

 兎は舌なめずりをし、(よだれ)を零しながら親子の霊魂に食いかかろうと隙を伺う。


「自分を信じろ優崎優人。お前は強いんだからよォ!」



 零人が発した言葉は躊躇(ためら)っていた優人の背を押す。その希望の力は霊力となって霊力の魂から噴き出した。


 霊力が手に収束し、地面に無数の紋章が刻まれ始める。溢れ出す霊力の鼓動に昂る優人は己の願いを叫んだ。


「──お願いします。僕の所に来て!」


 彼の肉体に(みなぎ)った霊力は放出と共に昇華される。白い輝きを生み出し、黄金の光が地面で魔法陣を編む。


 魔法陣は展開して更なる金光を誕生させる。複数の光は空に打ち上げられ、顕現する閃光。


 夜空を一瞬にして照らす光、その中から一頭の巨大な竜が顔を出していた。

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