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第17話 ジュラ紀の麒麟

 熱帯雨林の中から飛び出している土の丘で猛獣達が叫び声を上げていた。

 それは人類が誕生するはるか前に地球の頂点に君臨していた最強生物──ティラノサウルスが2頭、優人の目の前でその巨体を揺らしていた。



「みぎゃああぁぁ!!」


 そして優人は『それ』の迫力と感じる脅威に、目が飛び出しそうなほどの勢いで絶叫を上げた。

 耳に刺さるような高音が未開拓のジャングルに木霊した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ──そこは蒸し暑く、見渡す限りエキゾチックな緑が広がるジャングル。そしてそのジャングルから僅かに盛り上がって顔を出している土色の山に、青い光で紋章が描かれている魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣の光の中から優人と零人が飛び出した。優人は元いた場所との気温と湿度の差で顔をしかめた。


「うわぁ……あっついねぇ」


 それもそのはず、気候はおろか土地や生態系も元の世界とは異なっている。

 端的に言えば2人は現在一時的に『異世界転移』を行っているのだ。しかも一般的に馴染みのある異世界転移ではなく……


「ここの世界は今──ジュラ紀真っ只中だからな」



「そっ、そうなの!?」


 優人は「ジュラ紀」という単語を聞くと瞬きと共に目を激しく輝かせる。

 優人の中にあるピュアさとは少年的な純粋さの要素も含んでいる。つまり小学生男児が好きそうなロボットや恐竜の話が大好きということ。当然、恐竜黄金期のジュラ紀の疑似体験は彼にとって刺激的なものだ。


「正確には()()()()ジュラ紀。そもそも地球みてぇな環境かすらも分かんねぇんだ。生態系や世界史も異なるし、物理法則すら未知の世界だ。そんな未知の危険世界だから今日はセーブポイント作りに来た」


「セーブポイント?」


「この世界に来る時に転送される場所で、異世界でも頼りになるゲーム並の安全地帯。だが今転送されたここはまだ仮の状態のセーブポイント。俺はこれを設置する術を使ってセーブポイントを今日中に完成させる。それまでの30分は自由行動でいいぞ」


「いやったー! じゃあ行ってきま──」


「その前に忠告2つ」


「ワウゥッ!」


 ジャングルへすぐに走り出しそうになった優人の首根っこを掴んで零人は重要事項だけを簡潔に伝える。零人は右手の人差し指を立てる。


「1つ、ここの生物はざっと観察したけどおそらく知能はまだ高くないが肉体ある()()()()()。霊能力で倒せるとは限らないから注意だ」


「りょうかいっ!」


「そして2つ、霊動術以外は使うな。万が一お前が霊能力を使ったことで霊力が放たれて生態系を変えかねない、それは委員会の規約違反で罰則を受ける」


「ひぇっ……」


「俺はここから動けないが何かあればテレパシーで情報を伝える。それを踏まえたうえで行ってこい」


 零人の忠告で少しだけ不安になってきた優人だったが、やはり好奇心は止まらなかった。再び脚は動き出し、優人はジャングルの中へと突っ走った。


「じゃ、じゃあ行ってきま〜す!」


「行ってらー」



(どっ、どうしよぉ。襲われた時は呪いで対応しようとしてたのに……)



 ──原始の森の中を散策すること10分、優人はまだ恐竜どころか動物にすら遭遇していなかった。

 優人は肩を落としてとぼとぼと草を掻き分けて進んで行った。



「意外と恐竜っていないのかなぁ?」


 そんな風に考え事をしながら湿った土の上を歩いていると突然の段差で思わずよろけた。


「わわっ! びっくりしたよぉ、何だろうこれ────はっ!?」


 その段差は窪みができて水が溜まっていた。そして凹んでいた形は、あのティラノサウルスの足跡そのものだった。

 足跡はその先まで延々と続いていた。


「すすっすごい、本物の足跡だ!」



『どうだ、何か見つけたか?』


 不意に脳内へ直接、零人からのテレパシーが届いた。優人はお目当てのティラノサウルスの手がかり発見で大いに喜んでいた。


「うん、ティラノサウルスの足跡見つけた! 多分この先にいるよ」


「そいつは良かったが気をつけろよ、見に行くなら慎重にな」

 

 忠告通り、優人は気配を消してそっと足跡を辿っていった。草が揺れるのは最低限に留めて正確にティラノの跡を追っていく。

 そしてついに


「わっはぁ〜!!」


 優人は喜びのあまり木の影に隠れながら感嘆の声を漏らした。

 その場所にあったのは家1軒ほどはある大きい岩。

 そしてその隣で同じ大きさ程の恐竜──全男子憧れにして恐竜界のキングオブキング、ティラノサウルスがイビキかいていた。

 その巨大なフォルムと脚の形を見て一発で分かった。


 しかしそのティラノの身体には少々不可解な点があった。


「毛むくじゃら?」


 ティラノサウルスの体表には少しどころかフサフサの体毛が生えて、全身を覆い尽くしていた。

 身体の形や顔立ちはティラノサウルスなので何とか分かったというような感じだが、特徴的な爬虫類の鱗がなかった。


『おぉ……ティラノサウルスか。あっ、お前の視覚を共有させてもらってるぜ』


「零人君も見えてる? あのティラノサウルス……本物?」


『本物っつーか、最近の研究発表通りの姿だな。俺らの世界のティラノも鱗じゃなく羽毛が生えてたって言う話だが、この世界のティラノサウルスもそうみてぇだな』


 恐竜映画でよく見た、あの爬虫類チックな鱗の肌は目の前のティラノサウルス(リアル)には何処にもなかった。

 子供達が憧れたあの恐竜王も所詮はフィクションの産物であったのだ。


 ガッカリしている優人は少し暗くなった。眺めているティラノも心無しか姿が少し暗く見えていた。


「って、あれ? 何かおかし──」


 確かにティラノサウルスは暗かった、物理的に。大きな影に覆われて暗く見えていたのだ。

 優人が振り返ると後ろには巨大なティラノサウルスがこちらを鋭い眼光で見つめていた。


「いぃやああぁぁぁ!!」


 後ろにいたティラノサウルスはその巨体と顔を上げて、喜びを全身で表現するように空に向かって咆哮した──



『クルック〜』



「………え?」


 優人は衝撃的な光景を前に自分の目と耳を疑った。

 その巨大な体から想像できない弱々しい声が聞こえたのだから。

 例えるならそれは海外の映画を下手な日本語吹き替え版で見るような感覚に近かった。

 恐竜王に似つかわしくない迫力に欠ける叫びに優人はポカンと口を開けた。


『そーいや、ティラノの声帯は鳩とそっくりとも言ってたな』


「うっそォッ!? こんなティラノサウルスやだよ……ってそれどころじゃなかった!」


『……ッッ!』


 すると優人達が騒いでいた内に寝ていたティラノサウルスも眠りから覚めてしまった。目をパッチリと開けて優人を睨んだ。


『ホォ〜!!』


 理想と違うとはいえ本物のティラノサウルス、挟み撃ち状態で絶対絶命。

 命を失っては仕方がない、零人の忠告通りに優人は霊動術のみを使用する。霊力を脚にのみ集中させ、最大出力の身体強化で走り出す。



「うわあぁぁぁ!!」


 人間離れしたそのスピードは初速で時速50km、普通乗用車が道路を走る際の速度に匹敵。さらに瞬間的に放たれた優人の一蹴りはあまりの威力で優人自身をツバメの如く低空飛行状態へとさせた。

 ジャングルに生えていた優人周辺の草木はその風圧で優人に道を作っていた。


「ああぁぁぁぁ────ってあれ?」



 だがティラノサウルスはすぐそこまで追いかけて──来なかった。優人のことは間違えなく追いかけている、しかし一向に追いつく気配はなかった。


 優人は後ろを振り向くと、もう既に距離が離れたティラノ2頭がのっそのっそと歩いて来るのが視認できた。

 動きが圧倒的に()()()。その進む一歩一歩はデカいのだが、全くスピード感を感じない。それどころかもう2頭は疲弊しているようにも見えた。


「クルック〜」


「ホ〜ホ〜ホッホ〜」


 優人は驚き過ぎたため逃げることを止めて立ち止まった。

 恐怖もあったが正直なところ、優人は映画のようなスリルあるチェイスも想像していたのだ。

 ──だがそれは叶わなかった。


『ティラノサウルスは身体がクソ重過ぎて動きが遅い。時速約20kmの移動速度、自転車と変わらないからお前は走るだけでも逃げれる』


 確かにこの距離でもティラノサウルスは凶暴で危ないと分かってはいるものの、優人はすっかり恐怖心は失せてしまった。

 そして涙目になって再び恐竜王から逃げる。


「こんなのやだあ〜!!」



 その悲しい現実を直視たくないがために、優人はジャングルの奥へと走っていった。

 その時に流した涙は、全ての男児の夢だった。



『そういえばお前は転送術は使えるのか?』


「使えるんだけど遠いとこは無理なの。失敗することあるし、元の世界だったら僕の部屋に帰ること以外は成功しづらくて……」


『キメラ式転送術か。そんぐらい出来てれば上等、元々転送術は1年ぐらいで習得するもんだ』


 ちなみにキメラ式と言う訳は召喚獣または魔獣のキメラの一部の固有能力で、『絶対帰巣』という自分の住処に必ず帰還できる能力。

 そして20年の研究と零人の協力で完成した中級レベルの魔術である。



『それじゃこの後はテレパシーが途切れ途切れになるからな、なるべく自分で対応してくれ。もしヤバいことがあれば全速力で俺の所に』


「はーい!」



 ──そのまま森の中を突き進むこと数分、優人は開けた大きい水場へ辿り着いた。見たところジャングルに降った雨水が溜まって巨大な天然の水飲み場となっているようだ。


「うわあぁぁお! 凄い、本物だあぁぁぁぁ!!」



 反対側の水辺にはブラキオサウルスやステゴサウルスなどの草食恐竜達が水を飲んでいた。それも図鑑通りの姿の恐竜達。彼らが視界に入った瞬間、優人は歓喜で震えた。

 優人はこの光景に大いに感動し心が安らいだ。だがこの熱帯雨林の中で動き回ったせいで彼の喉は乾いていた。



「暑いし、僕も飲もうかな……」


 優人が水を飲もうと池に近寄ろうとした時、池の向こう側から恐竜の叫びが聞こえてきた。


『ブエェェェ! ブェェェァァ!!』


 頭を突っ込んで水を飲んでいたステゴサウルスが、なんとドラゴンに襲われていた。そのドラゴンは圧倒的に巨大で、ステゴサウルスの身体を半分以上口の中に入れて噛み付いていた。


「なんでドラゴンがいるのっ!?」


『言っただろ? 生態系が違うって。ま、ここのドラゴンはブレスも吹かないし飛行型と陸上型の単純タイプしかいないし、普通だろ』


「いや違和感しかないよ! あっ、ステゴ……」



 ドラゴンはステゴサウルスにかぶりついたまま、その大きな翼を広げて空へと連れ去ってしまった。その全長は優人が目撃した生物の中で最も巨大な姿であった。

 バハムートやエイグをも凌ぐ巨躯に優人は呆然としていた。


 その竜を目で追っていた流れで空を見ていたら、向こうの空の方ではプテラノドンが3頭とそれを追いかける龍がいた。


「だからなんでドラゴン!? でっ、でも……やっぱりカッコイイ!!」


 飛んでいた龍は西洋のドラゴンの姿ではなく、日本や中国の絵で見かける雲龍など蛇のような図体をしている龍。

 遠くからでも分かるほどの巨体、しかし背中にはしっかりと竜の翼が生えていた。

 プテラノドンと龍との夢の共演は何枚でも写真に収めたいほどの芸術作品と言っても過言ではない。


 だが優人は喉の乾きが気になっていた。


「とりあえず水分補給補給……」



 優人が手で水をすくおうとすると、水を飲んでいた草食竜達は水浴びをするために池の中へ入っていった。

 その一気に恐竜達が入水したためか水面が大きく揺らめいた。



「ッ!!」


 優人は咄嗟に警戒し、水から10メートル離れた場所まで下がりそこで待機した。

 それは本能的、生物的に──とてつもなく()()()予感がしていたのだ。

 噴火寸前の火山の火口を覗くような恐怖に襲われる。


 水面の揺れは収まるどころかさらに勢いを増し、水が少しづつ溢れてきた。そして水面が段々と暗くなっていく……


 ザバァァッ


『オォォォォォォンッ!!』



「ひいぃぃぃぃぃ!?」


 その池の下から、池の外に露出させるにはギリギリの大きさの口を持った『()()()()()()』が水面下から飛び出した。


 大きく空いた口は池の中にいた草食竜達を全て()()()にしたのだ。

 先程見たドラゴンが優人の見てきた中で最大の生物といったが、それを軽々とこの水竜は超えてきた。

 そもそも何故これほどまでに巨大な生物が池の中にいるのか、そもそもこれは池なのか──この池の下の空間はどうなっているのか。考えただけでも優人はゾッとした。


『ンンン……』


 そしてモササウルスはその鰐のような口を閉じ、今度は静かに水中へと沈んでいった。

 その動きは亀が甲羅に頭を入れるよう……この水飲み場が彼にとっては餌箱とでも言わんばかりに戻っていく。


「はわわ……」



 恐怖と様々な考えが優人の頭をぐるぐると回ったが、腰を抜かしてしまって地面へヘタリ込み、声も出せないような状態になっていた。



「や、やっぱりここのお水飲むのは止めとこ……」


 優人にとってはティラノサウルスに追いかけられるより遥かに怖かった。こっちは想像以上に怖い。

 腰がまだピクピクしていたが優人は立ち上がってジャングルの中へ戻っていく。



 ──その後優人はある程度ジャングルの中を探検し、恐竜達を存分に見ていた。といっても大半は草食竜のみ、肉食竜も見に行こうとしたが、ティラノサウルスのように期待を裏切られたくはなかった。

 なので図鑑通りの姿をしている草食恐竜を見て回っていた。

 そこらを歩いていれば普通にブラキオサウルス達が木の上の草をムシャムシャと食べていた。何より温厚な彼らといるのは落ち着いた。


 そんな風にジュラ紀の世界を堪能していると、時間は数時間ほど経過してしまっていた。



「一応、そろそろ戻らないとね」


 ぼんやりとしながら零人の元へ帰ろうと考えていると、優人は目の前の何かにぶつかった。


「わっ、何これ?」


 目の前には黄色と茶色の斑点模様の毛が生えた細長い棒。これが何なのか分からず数秒見つめ、ようやくこの物体が脚だと分かると優人は脚の根元を追って上を見上げた。

 そこにいた生物とはキリン、そこら辺に生えた草を貪りながらキリンは優人をじっと見つめた。



「君が1番、ここにいるのは違和感あるね……」


 キリンはしばし鋭い眼光で優人を見ていた。警戒されているのか、襲おうとしているのかは分からず優人は身構えた。


 しかしキリンはフッと力でも抜けたようにピリピリとした雰囲気を無くし、長い首を優人の前に垂らして頭を下げた。



「……? と、友達になってくれるのかな?」


 優人はひとまず足元の草を毟り、そのキリンに食べさせながらその頭を優しく撫でた。


「よしよ〜し……わぉっ!」


 キリンは優人の手に持った草に向かって、口の中から長い舌をニュルンと出して口内へほうばった。

 撫でられているそのキリンは喜んでいるように見えていた。

 食べ終わった後でも優人に頭を撫でさせている。



「君、可愛いね。名前でも付けちゃおっかな〜。そうだね、君は……ミリー! なんてどうかな?」


 キリンは優人にその頭を軽く擦りつけた。

 優人はなんとなくであったが、ミリーがその名前が気に入ったような気がした。


 ミリーは頭を上げ、優人の服の首元を口で咥えて自分の背中に乗せた。

 その乗り心地はとても良く、毛も触っていて気持ち良かった。



「乗せてくれるの? ミリー」


『キューン』


 ミリーの鳴き声はとても可愛く愛らしかった。元の世界のキリンの鳴き声は知らなかったが、優人にはそんな事どうでもよかった。



 すると突然、ミリーは勢い良くジャングルを疾走し始めた。

 振り落とされないように優人は手に持っていた草を錬金術で変化させ、ミリーの背に簡易的なシートを取り付けた。

 紐をミリーの腹にちょうどいい具合に付けて座る。だがミリーは背中のシートを気にすることもなく走り続ける。


 100mほど走ると徐々に優人の目線が上がっていった。段々と地面が離れていき、走る際の振動も弱まっていく。


「これ、もしかして……」



 そしてついにミリーは強く地面を踏み込み、ジャングルの上まで跳び上がって宙を飛び始めた。


「すごい! ミリーが飛んでる!!」


 優人は嬉しさでミリーの背中を撫でた。飛んでいると優人は最初にこの世界に来た時の丘と、そこで立っている零人を発見した。



「ねぇミリー、あの山の方に行って貰える?」


 優人は丘の方を指さした。

 反射的になったことで指示が伝わるか不安だったが、ミリーは迷うことなく優人の指さした零人のいる方へと向かって行った。


 地面へ接近し、零人の顔がしっかりと見えるようになったところで彼を呼んだ。


「おお〜い、零人く〜ん!!」


 零人は呼び掛けに気がついて優人とミリーを見ると、とてつもなく驚いた様子で叫んだ。


「優人ぉ!? お前それ──」



 だがミリーが地面にゆっくりと着地したその時に奴らはやってきた。


『クックー』


『ホー、ホー』


 さっき目をつけられたティラノサウルス達が優人を追いかけてやって来たのだ。優人はミリーから降りると困った表情で2頭を見る。



「来ちゃったよ……どうしよう〜」


 ミリーへの愛着が沸いた分、奴らへの優人の関心は耳かきの綿毛程度まで急降下していた。正直、面倒にも感じていた。

 だがそう考えている、ミリーはゆっくりと近づいていった。



「み、ミリー!? 危ないよ、戻って!」


 するとミリーは前足を軽く曲げて踏ん張り、頭を軽く降ろす。



 ──その時だった、ミリーの(ひずめ)からはそれぞれ三本の強靭で悪魔のような爪が飛び出るように生え、背中の両端からドラゴンのような漆黒の翼が突き出した。

 ミリーの前足付近の地面は少しづつビキビキと割れ始める。


 そしてミリーは口を開けると、そこには無数の鋭い牙が生えていた。ミリーは凶暴な口をガッパリ開くと、威嚇するようにティラノサウルス達に向かって咆哮する。


『グルギャアアァァァァァ!!』



「みぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」



 優人は今日で最も大きな叫び声を上げ、目が飛び出そうなほど驚いて後ろにつんのめった。


「ミリー!? えっ、どど、どうしたの? うえぇぇっ!?」


『フッ!』


 ミリーは痰でも吐くかのように炎のブレスはティラノサウルスの羽毛に向けて放った。全身が体毛で覆われているティラノサウルス2頭はあっという間に火が回ってオロオロとしていた。


『ポオォォッ!!』


『ポゥポゥッ!!』


 2頭は大慌てで森の中に消えていった。その逃げる背中には王者の風格なんてものはどこにもなかった。

 強者の威嚇に怯える敗北者の背中に過ぎなかった。


「ミリー、凄かったよぉ!」


『キュンッ!』



「おい優人、このキリンどこで拾った?こいつは……麒竜(きりゅう)だ」


「それなぁに?」


麒麟(きりん)っつー中国とかの伝説の生き物の1種だ。今回のセーブポイント作りも、後日にコイツを捜索するための任務だったんだが……もう用済みになっちまったな」


 唖然とする零人にミリーは頭を下げた。優人はミリーが零人に謝っているように見えた。


「零人君にごめんなさいって言ってるのかな?」


「あながち、そうかもしれねぇな。麒竜は知能が高い生物らしいからな」


「ミリーいい子だねぇ」


 褒められたミリーは嬉しそうに優人に頭を擦った。



「随分お前に懐いてるな、本当に安心したぜ」


「どうして?」


「こいつらは結構警戒心の強い生物でな、危険性や能力を調べるためになるべく生け捕りにしたかったんだ」


 それを聞くと優人は慌てた様子で零人に質問する。不安になって声も小さくなった。



「ミリーは何か酷いことされるの?」


「されねぇよ、むしろめっちゃくちゃ良い環境の施設で飼育される。検査の一環で健康診断もするし、ストレスにならねぇような配慮もある」


 優人はほっとしたように肩を下げた。


「お前名義で幻獣登録しとくから定期的に見に行ってやれ。場所は惚樽(ほたる)市にある」


「ほたる市って……隣町じゃん!」


「えっ、そうなのか!? 越して来てから上葉町の周りには行ってねぇから知らなかった」


『キュッキュー!』



「ミリーっていったか、お前……まさか会話を理解してたりすんのか?」


 零人に話しかけられた途端、ミリーは足元に生えていた草を貪り始めた。


「あっ、完全に理解してんな……」


 ミリーは知らんぷりするように草をムシャムシャと食べ続けた。



 ──異世界から帰還した2人はその後、無事ミリーを惚樽市の施設へ送り届けた。

 ミリーは主を見つけ、新たな家も手に入れてご満悦のようだった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 後日、地獄でルシファーへの報告にて……



「セーブポイント作る途中で優人君が本題の麒竜発見!? なにそれヤバ谷園の杉村さんじゃん! って熱!!」


 ルシファーは零人からの報告を聞くと驚いて紅茶を腕に零して火傷をしたそうな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワンダーのある話ですねぇ。
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