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第10話 剣に愛される青年

 早朝、まだ静かなままの住宅街を優人は1人で歩いていた。


「眠いなぁ……最近は起きるの遅かったから5時は辛いなぁ」


 そんなことを呟いた優人は口を大きく開けてあくびをする。その右手では物騒だが幻想刀を握って近所を練り歩く。その幻想刀は以前よりも鋭さを増し、刃は濡らしたような緑色の光沢を発している。

 まだボヤっとしながら歩いている優人は独り言を零す。


「ふわあ……何かちょっと不安だな~」


 何といっても今日は優人1人だけで遂行するミッションなのだ。

 それはテイスティーランドから帰ってきた昨日のこと。



 ──ピロリン♪


「ん、零人君」


 スマホのメッセージ画面を開いた。

 零人なりの冗談で少しふざけたような文面の依頼が優人の携帯に転送されていたのだ。


『明日なんだが俺は仕事で複数の異世界にちょっと出張して来る。その内の1つの異世界から大量の魔獣(虎みたいな四足歩行型)をそっちに転送するから倒しといてくれ、お前なら普通に倒せるレベルだから問題ねぇ。あと、西源寺もシロもこっちに駆り出されるからガチ1人ミッションだ。よろしくだお』



 そしてその翌日である今、優人は苦笑いするようにメールの文面を思い出して呟く。


「だおってテンションでの案件じゃないような気がするけどなぁ……あ、光った」


 優人が通り過ぎると同時に次々と建物の屋根が薄紫に激しく発光した。この間、彼はただ独り言を言いながら歩き回っていたわけではない。


 実はこれは呪いの拳の応用編なのである。優人は今まで戦闘手段の1つとして正面攻撃に使用していた呪いだが、優人はその戦闘において呪いを『発動させるまで時間』を操作することが可能になっていた。

 そこからは優人が試行錯誤を繰り返したことで、魔法陣のように呪いを設置し対象が接近した際に呪いの拳が発動するという地雷技を習得するに至ったのである。


 これに限らず、呪いの拳も初めて呪いを使った時やとても調子の良かった時のように肘のあたりまでは腕が出現するようになったのだ。

 能力が安定したのか、無意識下での制御が可能になったのかは分からないがこれはれっきとした優人の成長の証だ。


(よ〜し、あとは魔獣が来るのを待つだけ──)


「あれ? 君どうしたの、こんな朝早くに道の真ん中で突っ立ってて」


「んん?」


 呪いの設置でぼうっとしていた優人が振り向くと背後には少し背の高い同世代ぐらいの少年が立っていた。彼は優人のことを不思議そうに見ると、優人の右手に握られた幻想刀を指さして首を傾げた。


「あれ? 君さあ、その刀……」


「え? ……あっ!」


(そうだ、これも剣だから持ってちゃ捕まっちゃうんだ!)


 幻想刀を見られた優人は慌てつつも、苦し紛れの嘘でなんとか彼のことを誤魔化そうとする。


「ち、違うよこれ。えっと……おもちゃ、刀のおもちゃだよ! えぁ、ちょっと変わったやつだけど」


 咄嗟の嘘はピュアな優人にとって最も苦手な部類のこと、言葉は噛みまくり嘘も弱い。当然、そんなあからさまな反応で誤魔化せるわけも無い。

 するとその少年は優人の懐辺りに急接近する。そして幻想刀の刀身を舐め回すように眺めながら興奮し始めた。初対面ではあったがそんなの気にすることなく彼は話始めた。


「いやいや、どう見てもこれは刀でしょー! あはぁ〜この刃の感じとか初めてだけど剣だってすぐに分かるよ」


「あっそその、これは──待って、君はこの刀見えるの?」


「えっ、はい」


 優人は以前から1つの疑問があった。幻想刀とは錬金術によって作られている刀、そして錬金術は物質に霊力を流して発動させる。

 つまりは物質を変形させているのだ。

 それを一般人がどう見えるのかは能力者の優人には分からなかった。優人はついでに確かめようとしたがそれよりも確認すべきことがあった。


「君、これ見える?」


 優人は手のひらから小さな鬼火を彼の目の前に出現させた。青い炎がボッと上がると少年は仰け反る。


「わあっ、君やっぱり霊能力者!?」


「うん、そうだよ!」


(鬼火が見えたってことはこの人も霊能力者だね。向こうも僕のこときになってるみたいだし、お話できそう)


 優人が話を切り出そうとする前に彼はグイグイと優人に話しかけた。


「よろしくっ、僕は成宮真一(なりみやしんいち)。君は?」


「僕は優崎優人、よろしくね真一君」


 優人にどこかシンパシーを感じたのか、真一は自己紹介を終えた途端に優人を質問攻めにした。


「この刀ってどこで手に入れたの? ダンジョン? 悪霊? それとも逆にネットとか? 材質はオリハルコンとか? 剣の名前は? 斬れ味は? 特殊効果とかあるの?」


「ちょ、ちょっと待って真一君。一気に答えられないよぉ、順番に話すね」


 真一の態度に優人はタジタジの様子。普段の優人は零人に対してグイグイと行くばかりなので、この手の明るいタイプと接するのには慣れていなかった。


「これは幻想刀って言って僕が錬金術で作ったんだ。エメラルドとかイメージして作ってみたの。斬れ味はいいはずだよ」


「ふむふむ」


「斬った所からは同時か時間差で鬼火と呪いが出せて、出すタイミングとかはちょっとなら調整できる」


「凄い! ねぇ優人君、少しでいいから触らせて、匂わせて、舐めさせて~」


「なっ!? 舐めるのはダメだよ!舌が切れちゃう……」



 食いついてくる真一の相手をしていると唐突に空から轟音が聞こえ、巨大な魔法陣が姿を現した。陣の出現と同時にそこからおぞましいほど多くの魔獣が空から降り注いぐように現れる。

 それらの魔獣達は大半が同じ種のようで青く大きい虎のような姿であったが、数十体ほどはその虎の背に翼の生えた種が混じっていた。


「真一君は逃げ……いや、僕の近くにいて」


 優人が見た限りでは彼にはあの群れに対抗できるレベルの霊力がない。

 一般人の持つ霊力量よりは多いが、使用出来てもそこまで高度な魔術の類いは使用できないだろうと判断した。

 そして優人には無意識の自信があった。彼が自分の傍にいる限りは安全であるという確信があった。



「とりあえ、ずっ!!」


 魔獣達が塊っている箇所に簡易結界を張り巡らせた上に中で鬼火を大火力で燃やした。結界そのものは広範囲で張ったため持久力はない、なので鬼火を一瞬の内に全力で燃え上がらせることによって瞬間的に魔獣共を蒸していった。


 結界の発動時間はたったの10秒程度、しかし中に幽閉された魔獣達は蒸されるか焼かれるかして排除されて結界が崩壊した時点で獣共は霊力となって宙に消滅していった。

 この時点で敵の総数の3分の1は削られていた。


(おっきく作って、広げて……えいっ!)


 錬金術で落下してくる魔獣の付近に巨大なクリスタルを出現させると同時にポルターガイストで結晶を破壊する。

 粉々になったクリスタルの粒は手榴弾の欠片のように弾け飛び、奴らの体を貫いていく。


「──あの、優人君」


「どうしたの、真一君?」


「スペアの刀とかじゃなくても、何か剣とかない? まぁ刃物ならなんでもいいんだけど……」


「えっ? あぅん、あっ! これ使っていいよっ」


 攻撃に気を取られていた優人は真一に錬金術で作った即席の西洋剣を渡してしまう。

 形はまともであったが、少々刃が大きめに出来上がってしまった。しかし真一は喜んで受け取った。


「ありがとう、優人君!」


(あっ! 剣渡しちゃったけど、真一君が危ないかも)


 振り向くと真一は剣を頭の上に持ち上げ、サッと刃を地面に振り下ろした。


「っ!?」



 ──瞬間、突き抜けるような鋭い爆風が優人の脇スレスレを通過する。それは真一が繰り出した『飛ぶ斬撃』であった。


 優人の幻想刀の応用でも斬撃は飛ばせるが、あの方法とは別であった。幻想刀の斬撃は呪いを纏わせることで飛ばせるが、真一の攻撃はそうではなかった。風圧や見えない何かなどでもなんでもなく、ただシンプルに()()()()()()()()

 斬撃によって繰り出された風圧で優人は後方に10メートルほど吹き飛ばされて尻もちをつく。


「いたたぁ──あれ、真一君は?」


 辺りを見渡しても、風圧を繰り出した張本人はどこにもいなかった。

 真一は既に自分の剣圧の爆風に乗って空を飛ぶ魔獣の方へと向かっていったのだ。


「ほいっ、ほいっと〜」


 彼は上昇して行くほど、そのスピードを上げていった。

 真一はオールでイカダを漕ぐように剣を振ることで先程のように風圧によって推進力を得ていた。


 優人は驚きつつも咄嗟の判断で、真一のサポートに向かうべく霊動術で後を追いかけて空を飛んだ。


(あそこは……)


 空を飛んで向かっていくということは、魔獣達からすれば餌が自らやってくるに等しい。優人に関しては霊力量の凄まじいご馳走である。

 魔獣達は向かってくる彼らの上から襲いにかかろうとする。

 だが獣共は愚かであった、どちらが本当の獲物であるのかということを最後まで認識できなかったのだから……



「──えっ?」


 優人が瞬きをした本当に僅かなその時間の間に、そこにいた魔獣共は一体も残さず首を斬られていた。

 首だけになった彼らの表情は変わらずに獲物を見ている顔のまま、自分が斬られたことすら自覚出来ずに斬られていた。


 優人で目の前に剣を握っていた真一は、まだ一撃しか彼らに対して攻撃を入れていなかったようだ。そして真一が剣を振った時、その軌道上には全ての魔獣がいたようで8割の魔獣は消滅した。


「んなぁー全部は一気に行けなかったかぁ〜」


 傷は負っても致命傷は避けられた様子の魔獣達がそのまま地面に向かって落ちてきた。


「──ありがとう真一君、今度は僕の番だよっ!」


 予想以上に霊力が余った優人は屋根に設置していた呪いの拳のトラップを自ら発動させる。

 一面の屋根が激しい光を放つと、その眩しい光の中から黒を纏った呪いの拳達が次々に飛び出してきた。


 残党魔獣共は僅かにでも傷を負っていた。即ちそれは優人の攻撃に瞬時に対応できないということであった。

 拳は落ちてくる獣を殴っても勢いは止まらず、むしろ威力を増しながら魔獣を突き上げていく。


 奴らは唸るように苦しみの叫びを上げた。虎の持つ猛猛しさなど無くなり、猫のように悶えていた。


「そして鬼火で──呪錬拳っ!!」


 呪いの拳は表面に鬼火が現れると共に拳自体が爆発する。

 拳はほとんど魔獣の体にめり込んでいたため、魔獣軍団は呪錬拳の爆発に巻き込まれて討伐された。

 爆破と共に空で舞う霊力は花火のように消えていった。



「真一君、捕まえたよ」


 優人は真一の傍に近寄るとポルターガイストで自分達を支えゆっくりと降下して着地する。

 着地したと同時に2人は似たようなノリでハイタッチをした。


「「いえーい!!」」


「真一君、さっき凄かったね!あんなに剣が上手い人初めて見たよ!」


 真一のあの剣撃は零人などの戦闘上での剣撃というよりも本物の剣士に近い動きだった。使い方もそうであったが、剣を持ってからの一挙一動が思い返せば美しかった。演舞でも見ていたかのように綺麗な剣だった。


「優人君も、あんな凄い魔獣の倒し方してたからさあ。僕もなんか熱くなったよ〜」


 バチバチバチ


 昂ったままの2人の目の前に転送術の魔法陣が現れる。中からズズズと零人が体を出てきた。


「もう片付いたようだな優人」


「零人君お疲れさま、魔獣は全部倒せたよ!」


「おう、それは良かっ──な」


「やぁ零人君」


 零人は真一の方を向くと驚いたのか動きが止まった。一方で真一はニコニコとしながら小さく手を振った。



「お前……『剣聖』じゃねえか」

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