第8話 常識というメーター
寝るにはあまりに蒸し暑く、コオロギの鳴き声が所々から聞こえてくる夏の夜。聞こえてくるのは虫の音だけで静寂な闇夜、そして盆に近づくに連れて妖しい気配が辺りからするこの季節。
つまり夏というのは死者のシーズン、悪霊達が蔓延る季節なのである。
そして悪霊達が街の強者達に惹かれて特段多く集まってくるこの上葉町。
それは丑三つ時、1人の男がこの街にやって来た。仕事のスーツとバッグを持ったまま住宅街の坂の上で周りの景色を見渡した。
「ここが有名な上葉町か……聞いてた通り中々ヤバい街のようだな」
男が見ていたのは厳密に言えば景色ではない。街の空気の中で漂っている霊気を見ていたのだ。
──私の名前は川村という、平凡でごく普通のサラリーマンだ。
毎日会社では勤勉に働き生計を立てながら、結婚を前提に交際している彼女と同棲をして生活している本当に何処にでもいるような凡夫だ。
サラリーマンという身分の私であるが、一方で私はただの一般人というわけでもない。
私には霊を視ることができる、俗に言う霊能力者という者なのだ。
それもただの霊能力者ではない。『霊管理委員会』と呼ばれる霊能力者や霊達によって構成された秘密組織に所属している。いわば私は本物の霊能力者。
そこらの霊感がある程度の者やテレビにわざわざ出ているような霊能力者気取りとは訳が違う。
フリーの霊能力者だが、じきにA級の能力者へと昇格する男だ。
ちなみにA級とは、召喚獣の召喚や魔術の使用など一般人からすれば超常現象レベルの霊能力を扱えるランクということである。
男は心の中で一人語りをしていたが(これは彼のぼっち故の癖である)早速バッグから数珠を取り出して腕に装着し、街中にいる悪霊の数や強さを把握すべく観察した。
両手を合わせ、目を閉じ集中して街全体の霊力を感じ取った。
そして霊力を把握し始めて数秒後、彼は驚愕して目を見開き、自分が今調べたその結果を疑った。
「こっ、これは驚いたな。巨大な霊力反応が──それも大きく分けて4つもあるぞ……」
そしてそこ凄まじい霊力を感じた瞬間、身体中に激しい悪寒が走り肩を震わせた。
その霊力反応の対象は彼が今まで遭遇してきた中でもトップクラスの悪霊をも凌ぐほど強大で、とてつもない脅威であることだと理解できた。同時にそれらは自分の手に負える存在ではないということも。
「にしても、これは少々弱ったな」
感じ取ったそれらの霊力があまりにも濃く反応が出ているせいで街に蔓延っているはずの悪霊達の霊力が周辺の空気と重なってしまって見分けが難しい状態になっていたのだ。
これでは敵の正確な情報が特定できない上に、奇襲に対応できない可能性も大いにある。
「今日のところは敵の情報を得るのみにし、明日にでもこの事は委員会に報告せねば。だが事前に視察を行わなければならないな」
川村は革靴でアスファルトの上をカツカツと走り、1番大きく危険に感じた霊力反応のある場所へと向かった。
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「はぁ、ふぅ……ここの辺りから確か霊力が溢れていた筈」
彼は息を軽く切らしつつ、霊力が流れ出ていると思われる目標地点に到着した。
そこは墓地でも寺でもなく普通の住宅街の一角であった。しかしここに来て霊力が溢れかえって悪霊を判別できなかった上に、悪霊の姿はおろか音や気配もしなかった。
でもやはり霊力で満ちているという矛盾した状況となっていたのだ。
ということで川村は一つ、ある仮説を導き出した。
「これだけの霊力を持つ悪霊だ、何かしらの術を発動させ自身の姿を隠しているのか?」
その仮説を思い浮かべると彼は一層周囲を警戒した。
不気味なほど悪霊の気配のない辺りに注意しながらズボンのポケットより、一回り長い数珠を取り出し、万が一の非常事態に備えて身構える。
だが川村はこの僅か1秒に満たない瞬きの時間、戦慄していた。今、感じ取れたのだ。本当に一瞬だけ、静電気が流れるように霊力が空気を伝ったのを。
これは……この霊力量は相当危険だ! 霊力量は先程の時点でおおよそ把握できたと思っていたが、そうじゃあない。敵はおそらく霊力を小さくすることによって莫大な量の霊力を貯め込んでいるに違いない。
もしやこの辺りに満ちている霊力は囮なのか? もしくは貯めきれずにこうやって空気中に流れ出ているのか!?
とにかく異常であることは確かだ。ここは一旦引き上げ──ッ!?
川村が気配を消しつつその場から離れようとした時、どこからが足音が聞こえてきた。
男は反射的に敵に場所がバレないよう宙に霊力を紛れさせて電柱に隠れた。そしてもし敵に勘づかれた時の保険として小声で脚の身体強化の魔術を詠唱し始めた。
だが足音の主──そこに現れたのは1人の少年だった。
その少年の外見は非常に印象的である。薄い金髪、クリーム色に近い毛をした頭。見た目や身長から察するにおそらくは中高生であったが、その幼い顔つきとその雰囲気は独特な物を感じた。
顔つきなどの印象と同じく、小さい子供と勘違いしてしまうような空気感がある。
「こんな時間に何を……?」
川村は詠唱を止め、思わず小声で疑問を呟いていた
不思議には思ったものの、彼の見たところだと人に化けた悪霊や魔物の気配はなかった。それどころか彼からは霊力が全く感じ取れなかったのだ。
そうなると彼は電柱から姿を表して少年に近寄っていった。
子供が夜中にこんな所にいてはダメだ、どこに悪霊がいるか分からない。私は一般人を救うために力を得た霊能力者なのだ、自分の身の安全よりも早くあの子を非難させなくてはならない。
「き、君! こんな時間にどうしたんだい?」
「わっ! あれ……お兄さん、誰?」
その少年──優崎優人は突然声をかけられた事に驚いて、咄嗟に足を引き、その場から走って逃げる準備を整えていた。
まあ……こんな真夜中で大人にいきなり話しかけられたんだ、そんな反応はするよな。
でもそれはこっちも同じだ、何故こんな時間に彷徨いているんだ? 見るからに家出……という雰囲気ではなさそうだが、子供が夜に外出するのは感心できないな。
「ごめんよ、突然なんだけどこんな遅くに何やっているんだい?」
「そっ、それは──」
『ウウゥゥゥ……』
「はっ!?」
少年の背後から5m、振り返った先に一体の悪霊がヨダレを垂らしこちらを睨み、獣のように低く唸っていた。
この散布している霊力のせいで接近に気づかなかった!しかし瞬でも姿が見えたのなら関係ない!
「浄化しろ、彷徨う亡者よッ!」
『オガヤ──』
川村は両手を合わせて合掌する。合わせた手の間からは眩しく輝く白い光が漏れだして辺りに広がっていった。
広がる白の清光に照らされた時、唸っていた悪霊は灰になるが如く崩れて消えていき、除霊された。
良かった。ただの雑魚悪霊だっ──あっ、アアァァまずい! この状況、一般人から見たらただの変態じゃないか! この子が逃げて通報でもされようものなら俺は社会的に殺されてしまう。
そんな心配が彼の脳裏をよぎり不安な表情で振り向くと、優人は川村の除霊に驚き目を輝かせた。
「お兄さんすごい、除霊してたぁ!」
「あ、あはは。あれぐらいの悪霊なら全ぜ──えっ!? 少年、今なんて?」
この子、悪霊も俺が除霊したことも見えていたのか! ということは彼も霊能力者? それともただ見えてるだけなのか?
「僕、優人!よろしくお兄さんっ」
優人は無邪気に笑って右手を差し出した。戸惑いつつも川村も手を握り自己紹介をする。
「かっ、川村だ……今見た(?)通りの霊能力者だ。ところでしょ……優人君はここへ何しに?」
「霊能力の修行だよ」
ここで川村はようやく理解した。
なるほどな。つまりこの優人君は一応霊能力は身につけていて、この異常な霊力に反応して来たのだろう。
だがこの霊力反応が異常と分かっていないということは
まだまだ未熟な証……危険な目に遭わすわけにはいかないな。
川村は目線を合わせるため少ししゃがみ、両手を優人の肩に置き優しい声音で説得を試みた。
「優人君、君はまだ若い。ここはとても危険なんだ。生半可な気持ちで悪霊を相手しては命が危ない!帰るんだ、御家族が心配する……」
ポカンとした様子をしていた優人は首を傾げて「ふぇ?」と声を出した。
仕方があるまい、最後の手段だがこの子を交番まで送るか──て、おいおいおい!!
『『ヴヴヴボォォォゲベズェェェ』』
目をギラつかせた悪霊達の群れが住宅街の狭い道の向こうから全速力で2人のもとへ走ってきた。
奴らはゾンビのように夥しい数を引き連れており道から溢れているほど多く、また川村が今まで見たことないほど亡者共は移動速度が速かった。
ななな、なんだこの数は!? こんなに沢山の悪霊が密集して向かってくるなんて見たことがないぞ! そしてあんなに素早く動ける個体なんて初めてだというのに……あの群れはヤバい、ヤバ過ぎる。
「まずいぞ……優人君、逃げるんだ!」
だが川村が優人に向かって怒鳴ったこの時にはもう、彼らは目と鼻の先まで近づいてきていた。
さらに悪霊の数体がこちらに襲いかかろうと飛び上がって、上からも強襲をかけてきた。
落下してくる悪霊を前に川村は恐怖で硬直した。
ダメだ、今からじゃ術の展開が間に合わない。100%やられる──嫌だ、死にたくない! でもやられる。死ぬ死ぬ死ぬ……
『──オギョッ』
だが飛び上がって襲いかかった悪霊達の顔はぐにゃりと歪み、2人の立っている場所には到達することなく霊体が消滅を開始していた。
目の前にいた筈の悪霊が消え、突然目に入ってくる月光に川村は動きが止まった。
「…………へ?」
何度も瞬きをして目を凝らすと、悪霊達は氷柱のようなダイヤの柱に下から突き刺されていたのだ。
さっきまでなかった金剛柱を呆然と眺めていたが、ハッと気が付いたように柱の根元を観察した。
このダイヤはアスファルトから生えていた。それでいてダイヤは植物の根のように川村の後方、優人の足元へと続いていたのだ。
「お兄さん、ちょっと危ないよ。でも心配してくれてありがとうね♪」
ニッコリと優人は笑うと、迫り来る悪霊達を前に拳を構えた。その表情は戦いを楽しむ者の面構えではなかった。
恐怖に立ち向かうべく、勇気と純粋な正義感を持って立ち向かう戦士を顔であった。
優人が構えを取ると、周囲の霊力の流れが変わった。それは優人から激しく溢れるように霊力が増長を始めたのだ。周辺にあった霊力すらも巻き込んで霊力が変わっていく。
それは優人の体表にオーラが纏ったように、黒くおぞましい力が彼を中心として現れ出したのだ。
「ふうぅ……呪いの拳ッ!」
ただ黒いオーラは呪いと化し、徐々に4つの丸い玉を形成し始め、やがてそれらは二対の『呪いの拳』と成って優人の周りに出現した。
(あと少し……もうちょっと)
まだ優人は攻撃を繰り出さなかった。タイミングを見計らい、正確に悪霊達が拳の射程距離に入った瞬間を捉える。
「ええいやあァァァ!!」
呪いの拳は黒い残像を残しつつ、稲妻の如き速さで放たれる。
拳はたった4つだけにも関わらず、その圧倒的な破壊力と速度をもって悪霊を駆逐していく。
呪いによるラッシュ攻撃は容赦なく敵に襲いかかり、弾けるように悪霊は吹き飛ばされていく。殴られると同時に悪霊は煙のように身体が崩れて消えていった。
次々と殴り倒されて行く悪霊達であったが、前衛にいた悪霊が倒された衝撃により他の悪霊達が後方へと飛ばされてしまっていた。
飛ばされたことで立ち向かってくる悪霊がいなくなった所で優人は両拳を地面につけて片膝をつく。
「聖獣召喚……お願い来て、イフリート!」
その呼び掛けに火焔の獣が答えた。
ペンのように炎が空中で紅蓮の魔法陣を描き、紋章が浮かび上がったと共に雄叫びが響き渡る。雄叫びに呼応して魔法陣が燃え上がり、地獄の炎を司りし聖なる獣──イフリートがその姿を表した。
『グオオォォォオンッ!!』
イフリートの絶叫により空気中の霊力が激しく震え、まるで火の前にいるような熱を肌で感じた。
だが優人はまだイフリートを完全に掌握できてはいなかった。聖獣とは完全に支配できる状態であり続けなければ召喚が解除されてしまう。油断をすれば今にもイフリートの召喚は解除される状況であった。
しかし聖獣とは召喚獣と大きく異なるものがある。それは明確な自我が存在しているということ。
マスターの命令は絶対であるが、己の経験と思考を持って闘うのもまた聖獣の使命であり役目。
──イフリートは自分が召喚されてから1秒にも満たぬ僅かな時間の中で判断し、召喚が解除される前に地獄の業火を悪霊共に向けて放ったのだ。
それは倒れた大木のような横向きの火柱が放たれ、奴らは為す術もなく火炎の渦の中へと飲み込まれて焼かれていった。
悪霊が焼き尽くされると同時に、イフリートは数秒間与えられた役目を果たして消えていった。
だがこの悪霊達のどさくさに紛れ、奇襲をかけてきた者がいた。それは周辺の建物よりも高くまで跳躍していた猿の妖怪。イフリートの火炎の回避とこの挙動から優人は敵を分析する。
(速い、そして多分だけど賢い……霊力はそこまで多くないけど逃がしたらダメ──だから)
優人は右手の拳を緩め、手で筒を作った。そしてその右腕を左の腰に添えて両膝を折った。霊力を手と脚に集中させながら相手への攻撃の隙を伺う。
そして猿が優人に向かって攻撃を仕掛けようとして生まれた隙を優人は逃さなかった。
「幻想刀──」
優人の手の中でパンッと弾けるような音と共にエメラルドの刀が握られた。幻想刀を強く握り締め、霊動術で脚に霊力を送り強化する。
そして優人は爆ぜるが如く地面を蹴り、猿の高さまで轟速で飛び上がった。
猿自身、あまりにも速すぎる優人の姿を捉えることはなかった。既に彼は優人に通り斬られて身体が消滅を始めていたのだ。
さらに幻想刀の刃は呪いを纏い、斬撃はより鋭さを増して黒の閃光が走った。
優人は勢いを殺し、落下しながら幻想刀を月に向けると嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「漫画っぽくキマった〜!」
そう言うと優人はガッツポーズをしながら緩やかに着地した。
「あ、お兄さん大丈夫?」
「あぉ……う」
川村の頭はもう完全に真っ白となっていた。呪いの拳、イフリート、幻想刀、今目撃した何もかもが彼にとって想像を絶する存在であったのだ。
途中からはもはや眺めていることしか出来なくなっていたほど彼は呆然と立っていたのだ。
川村は優人に怯えて震えるような声で質問をした。
「君、さっきは何をしたんだ……?」
「え、普通に悪霊を倒したんだよ?」
いやいや、色々とおかし過ぎるだろ! あんなことがなんでできるんだ。何一つ理解が追いつかなかった。
「さ、最初の柱みたいなのは?」
「錬金術〜! ダイヤはアスファルトで作ったんだ」
え? 錬金術って単体だと石ころ作るレベルの術のはずじゃなかったのか? 霊管理委員会の技術班が装置と魔術併用して使用とかの話じゃなかったのか!?
「あの黒い手みたいのは?」
「呪いの拳って言って、僕の得意技なんだあ」
ええええぇぇっ!! なんであれが技なの!? 恨んでる相手を苦しめたい時とかに使用するトラップとかみたいな役割でしょあれ! あんな直接攻撃で蹴散らせる技じゃないでしょ。
「ていうか、除霊はしてる様子なかったけど……」
「そうなの。僕、除霊がどうしてもできないんだぁ」
「んんん!?」
はあ!? なんであんなのができて除霊ができないの? なんでなんで? 普通真っ先にできるだろ。てか除霊の効果なしであんなにぶっ倒せたの? あいつら除霊以外は特に明確な弱点とか訳じゃないのに!?
「聖獣呼ぶ時とかもだけど、魔法陣とかなんであんな簡単に出せるの?」
「え? 魔法陣って演出じゃないの?」
「いや、あれ術の威力とかベクトルや時間とか細かいことが設定して魔法陣できるだろ?」
優人はう〜んと手を顎の下に持ってきて悩むような顔をする。
「何となくでやってるからわかんないよぉ」
何となくで魔法陣できねぇだろうが! なんなんだコイツ!!
ここで彼はようやく2つの真実を導き出し、理解した。
じゃあこの周りに流れている霊力は全て彼から出てるってことじゃないか! あまりにも多過ぎたせいで近くではこの子が霊力が少ないように錯覚するだけ。
それも第三者からだと悪霊の位置すら判別できないぐらい……めっちゃくちゃあるじゃねえか!
何なんだこの霊能力者の少年は……ん? ていうかこの子……
「君、まさかとは思うけど誰か霊管理委員会の人で知り合いの人いる?」
「うん、零人君と香菜ちゃんとシロくんなら知ってるよ。みんな友達──あ、香菜ちゃんはちょっと違う……かな?」
ままままままま、マジかよおぉぉぉおぉ!!あの7つの大罪の能力者の内、3人と知り合いだとおおおおぉぉぉぉおぉおお!?
しかも『自由者』と『守護者』と『恥知らず』の知り合い! てか、えええぇぇぇぇ!? 『怠惰』と知り合い? それはヤバいそれはヤバい、あの人の交友関係なんて初めて聞いた!!
通りで化け物じみた強さのわけだ……霊能力は多分彼らから教わったんだろう。あんな霊能力を独学じゃ習得なんてまず不可の……いや待てよ?
その3人が知り合いで、「優人」って名前ってことは────
「優人君、君の名字はなんだい?」
「優崎だよぉ、優崎優人」
「ハウッ!!」
や、ややっ、やっぱりあの優崎優人かよ!! 確か霊力量の数値が既に7つの大罪の能力者を超えてた上に『怠惰』の弟子になったっつーので話題だったあの!
じゃあさっきの残り3つあった化け物クラスの霊力反応はあの人達の霊力……
「──報告だな」
彼らに対する恐れから、げっそりした表情で川村はボソリと言葉をこぼし、疲弊した様子でいた。
最後に何とか平静を装って優人の元から立ち去る。
「そっ、それじゃ優人君じゃあね。君の活躍は委員会に教えとくよ」
「え?あっ、うん! ありがとうお兄さん〜!」
「うん、ハハハ……」
はぁ……少し調子こいてた。そうだ、霊管理委員会にはあんな怪物レベルの人達が何人もいるんだ。
候補生や悪魔の上司さん達も含めたら──うぅっ、想像したくねぇ。
その後、川村はナイーブになってしばらくの間は霊能力者として活動を休止してサラリーマンとしての仕事に打ち込んだ。
数年後、これがきっかけで彼は同棲している彼女にプロポーズできることになったのは、また別の話である。





