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第6話 リバースエイジ

 ある日の昼下がり、零人はパン屋のバイト帰りに住宅街の道をふらっと歩いていた。

 その足で遊びの誘いのために優崎家に向かっていた。


「うし……今日もよく働いたぜ。このあと優人とゲーセンかどっか行くか」


 その時、道の後ろから息の上がった香菜の声が聞こえてきた。



「零人君、大変なことになった〜!」


「ん? 西源寺じゃねぇか」


 香菜は毛布でなにかを包み大声で叫びながら走ってきた。


「どうした? てかその毛布のやつは……」


「はぁ、はぁ……これ───」


 香菜は中身を包んだ毛布を剥がしてそれを零人に見せる。毛布は全て剥がされその中身が露になる。

 零人はその中身を見るや目を点にして驚愕した。



「はぁ!?」


 体育座りの姿勢をした、小さな男の子がいた。

 小学二年生ぐらいの男の子だが、その顔はいつも見慣れたあの顔だった。


「優人がちっちゃくなっちゃったあ!!」



「ぁぅ……」


 小さな優人は零人を見ると可愛らしい声で首を傾げながら聞いてきた。


 優人のトレードマークであるクリーム色の髪の毛ではなく、綺麗な黒い髪をなびかせて。


「お兄ちゃんだあれ?」


 その場に数秒間の静寂が流れる。

 零人は時間が止まったかのようにその間は固まり、そして解除と共に本音を解放する。



「二次創作漫画かよおおぉぉぉぉぉぉ!!?」


 久しぶりの絶叫ツッコミで、零人は喉が潰れかけた。



 ──深呼吸をして頭を強制的に冷静にすること10分が経過した。

 まだ動揺はしていたものの、ようやく零人が落ち着いてきた。


 2人が慌てふためいている間、幼い優人は無垢な表情で2人を見ていた。


「それで西源寺、優人はなんでこうなったんだ?」


「えっと、さっき優人と一緒に化け狸の妖怪を倒しに行ってたんだけど……化け狸が消える寸前に術かけたみたいで」


「なんだ、びっくりしたな。てことは、術が解けなくてテンパったまま俺の所にきた感じか?」


 零人に言われると、ハッと顔を赤くして香菜は恥ずかしそうに答える。


「そ、その通りでございます……」


「はぁ……じゃあ俺が今から解くけど──ん?」


 零人が術を発動しようと目線を下に下げると、ショタ優人が零人の服を引っ張っていた。

 ショタ優人は零人に上目遣いで、まるで子犬のようなキラキラとした純粋な目で彼にねだった。


「あの、お兄ちゃん。よかったら……一緒に遊ばない?」



「──!!」


 零人の脈が一瞬にして加速し、顔が真っ赤になる。

 上目遣いされた瞬間に心臓を針で刺されたような感覚と全身に電撃のような感情が疾走する。


 ショタ優人におねだりされた零人は即座に術の使用を断念した。



「──化け狸の術の効果時間は限りがある。ほっとけば今日中には解除される」


「……うん、私も賛成」


 それは2人の感情が完全にシンクロした瞬間である。

 2人がこの状態の優人を見て感じたのは、極めてシンプルな考えだった。


『『めっちゃ尊い……』』



 零人と香菜は優人を連れて近場の公園に向かうことにした。

 だが……


「俺が優人を連れていく」


「いやいや、私が連れてきたんだから私が──」


「決定事項だ、優人は俺が手を繋いで連れてく」


「へえ〜、私に楯突こうと?」


 どちらがショタ優人と手を繋いで歩くかという下らない論争が繰り広げられた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 結局、ジャンケンで勝った零人が優人と手を繋いで公園まで連れていった。

 その間、後ろから香菜は零人に凄まじい殺気を放ちながら付いてきた。


 到着すると早速、公園に集まっていたの同年代の子供達と優人は混じって鬼ごっこをしていた。

 楽しそうに公園内をグルグル走り回ってキャッキャと笑っている。


 今の優人は同世代ほどの他の子供達と楽しそうに遊んでいた。

 そして今度は一時停戦した2人は公園のベンチに座り、優人の尊さをしみじみ感じながら座っている。


「あの子、私の彼氏だよ」


「あの子は俺が育てた……」


「尊いねぇ……」


「尊いわー」


 ほんわかとした表情で惚気話をしながら零人と香菜は親のような目線で温かく優人のはしゃぐ姿を見てた。


(優人と子供が出来たら……こんな感じになるのかな)


「おー、頑張れ。お前らの子供はとりあえず俺にも可愛がらせろよ」


「フフッ、優人と私が独占するから無理──って何ひとの思考読み漁ってんだ?」


 香菜は振り向くとコロッと表情を一転させる。怖い顔をしながら死神の大鎌を振り上げ零人の頭上に刃を構えた。

 目のハイライトが消え、瞬間的に闇堕ちした香菜に焦りながら零人へ諌める。


「わっ、悪い悪い。冗談だ冗談……」


 焦った零人の表情を見ると、香菜はふと思ったことを口に出す。



「……零人君って前とはだいぶ印象変わったよね」


「すまん、ちょっと悪ノリが過ぎた」


「まぁ……確かにそうだけど、今は本当に普通に驚いたよ。前はそんな感じじゃなかったし」


 2人が何となく話していると零人達の元に優人がトテトテと歩いてきてニッコリ笑いかけ誘った。


「ねぇねぇお兄ちゃんとお姉ちゃんもいっしょに遊ぼーよぉ」


 2人はまたもや尊いという感情がシンクロして優人に心を奪われた。

 だがこの時、零人はある重要なことを思い出してベンチを立ち上がった。


「てか西源寺。今まで気づかなかったが、優人は記憶も姿も状態も昔のままなんだよな?」


「うん、そのはずだよ」


「──ちょっと悪い」


 零人は優人の前に立ち、召喚獣の魔法陣を展開する。


『ニャー』


 展開した魔法陣からヴァーレを召喚し、零人は呼び出したヴァーレを自分の手のひらの上に立たせその手を優人の前に出した。


「優人、この手の上のやつ分かるか?」


「えぇ? おてての上ぇ?」


 優人は零人の手を見たがキョトンとした様子で首を傾げる。

 幼い優人には召喚したヴァーレが見えておらず、ヴァーレの鳴き声すらも聞こえていないようであった。



「やっぱりな。近くに俺と西源寺がいてもこのヴァーレが見えてねぇ……」


 霊能力は常人には見ることができないが、霊能力者になる資質を持つ者は強い霊能力者や霊力の大きい悪霊がいるとその影響で一時的に霊能力的存在を視認することができる。


 だが優人には召喚獣が一切見えて居ないどころか、霊能力のれの字もないような状態だった。


「──最初に出会った時とはやっぱ違うんだな、霊力も一般人と変わらねぇぐらいで能力が使える状態じゃねぇ」



「そうだよ、だって優人に霊能力の資質を持ったのは小4の時だからさ……」



「──え?」


 零人が後ろを向くと、香菜は目に涙を浮かべ辛そうな表情で俯いていた。


 香菜は語る、優人の過去と霊能力について──

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