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第18話 魔人族

 それは唐突に、優人の携帯がピロリロと着信音を鳴らした。


「あっ、零人君から」


 ベッドの上で漫画を読んでいた優人はページの途中に指を挟んでスマホに手を伸ばした。メール画面には零人からのメッセージが送信されていた。


『優人、明日空いてたら北の方にある村に来て欲しい(転送はする) ちょっとボランティア的なことするんだがOKなら返事くれ』


「なんだろ? まぁもちろん零人君の頼みなら行くよ。『了解!』っと……ふぁぁ、なんか眠たくなっちゃった。そろそろ寝なきゃ」


 漫画をパタンと閉じて優人は眠りについた。それが優人に残っている最後の記憶だった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……う〜ん、ふわぁ? あっ!!」


 優人は目が覚め、薄目を開けると朝日の眩しさに手で目を覆った。

 目をぱちくりとさせ、周りを見渡すと辺り一面に木が生えていた。

 というより、優人自身が森にいたのだ。

 その森の中は優しい朝日と植物の深緑がまるで絵に描いたような美しい景色だった。外だというのに屋内のような安心感と安らぎ。

 しかし植物そのものは見たところ日本に生息している類いのもの──優人は森のどこかにいるであろう零人に声をかけた。


「零人君、せめて着替えさせてよぉ……」


「へぇ、起きてからすぐに状況把握できたか。まぁ大丈夫だ、催眠術で寝てる時に着替えさせてからこっちに転送したからな」


「プライバシ〜!」


「ハッハッハ、」


 ムスッとした顔を浮かべる優人を連れて2人は数分ほど森の中の獣道を歩く。

 生い茂る木々の間をすり抜けて優人達が辿り着いたその場所は山の一角、削ったような小さい谷の中に1つの集落があった。


「わぁ! 人里が近くにあったんだ」


 周りの森は日本とは思えないほど、のどかな村だった。

 空気が美味いとはよく言うが本当に澄んでいて爽やかな風が吹いていた。

 田んぼや畑は綺麗に整えられ、村の家の付近に流れている川は水すらもないように見える透明度で活きの良い川魚が泳いでいる。


「逆にどこだと思ったんだ?」


「誰も帰ってこない密林とか魔獣だらけのジャングルとか……」


「ククッ、まぁ俺が連れて行きそうな場所のチョイスだな」


 田んぼや畑を見ると、農作業をしている人達がいた。ただその者達は皆、普通の人よりも小柄で少々耳がとんがっていた。


「あっ! ようこそいらっしゃいました、遠い所からすいません」


 小道の先から1人の男性がトコトコとやって来た。若々しい顔と動きをしているが、声から推測するに中年ぐらいの農家である。


「大罪の『怠惰』の零人様と優人様ですね、お待ちしておりました。私は林山正成(はやしやままさなり)と申します。本日は遠くからどうも」


「こちらこそ、今日はお邪魔します」


「お邪魔します!」


「例の場所はここから少しの所ですのでご案内致します」


 挨拶を済ませると零人は恐る恐る林山に1つ尋ねる。



「はい……えっと、失礼かもしれませんが林山さんはどの種族の方ですか?」


「ん? 零人君、それってどういう──」


 ポカンとしている優人に林山は慌てたように説明をする。


「私はドワーフとゴブリンの混血です。といっても、血はだいぶ薄くなりましたが」


「えっ! ドワーフとゴブリン!?」


 典型的な日本人農家の恰好をした男性から飛び出したファンタジーなワードに優人は食いついた。


「少し昔話でもしましょうか。この村は昔、とある2つの種族がやって来たのです。その種族がドワーフとゴブリン、()()()()からやって来た我々の祖先です」


「魔人族もいたの!? カッコイイなぁ〜!!」


「ハハ、カッコイイ……ですか、照れますねぇ。ゴブリンやドワーフというとダサいとよく言われるもので」


「そんなことないよ羨ましいもん!」


 男性は思いがけない言葉が嬉しかったようで顔から尖った耳の先まで真っ赤にし、軽く咳払いをして話を本題へと移す。



「ま、まぁそんな彼らは工学技術などに秀でていまして、この村の水道や配電システムは彼らの技術で作られました」


「えっ、この山奥で!? やっぱり魔人族って凄いなぁ〜」


「しかしそれには欠陥がありました。そのシステムは生活する人々の霊力を媒介として機能するもの。過疎化で霊力の減少し、もう村では破綻寸前の状態です」



「つまりそのシステムを今日は現代の普通の科学技術のものに変えるために、一時的に霊力を俺と優人が供給するんだ」


「なるほどっ! でも霊力はどうやって供給するの?」


「それはな────」



 ──2人が村に到着してから実に4時間後のこと。2人は霊力で身体能力を強化し、霊動術の同時使用で飛行しながら集落を駆け回っていた。


「ひいぃぃぃ!! 僕達ずっと走ってるよねぇ!?」


『おう、 俺は委員会の依頼ってことで魔術制限解除されたしな。テレパシーどころか聖獣召喚ぐらいなら何回でも使えるぐらいでもいけるぜ〜』


 優人が一生懸命に走る中、零人は同速度で優人の真横を飛行する。霊動術での移動、優人へのテレパシー、そして前方限定の空気抵抗拒絶の魔術を発動。そのまま暇つぶしとして空中で寝そべりながら漫画を読んでいる。


「こっこれ今日中に終わるぅぅぅ?」


『彼らの技術は人間と魔人族の中でも屈指の実力だ、今日でシステムは完全入れ替えが可能らしい。だからあと2時間、休まず頑張ろうぜ』


「うひゃああぁぁぁぁっ!!」


 世界最強(零人)は勤勉に走り回る優人の横で大罪の名に違わず怠惰な態度を貫いて平行飛行している。


 しかし何より、住宅や地面の配管などを整備していた村人達は飛び回る2人を見て驚愕していた。

 と同時に感動すら覚えていた。その感動が彼らの職人魂に火をつける。



「す、凄い……霊力の供給スピードが理想値以上だなんて」


「私達も早いとこ終わらせないといけませんねぇ」



 ──その後、2人は1時間半ほど走り回って作業は完全終了した。


「ふあぁぁ、疲れたぁ……」


 優人は疲労困憊で道に倒れ込み、それと対照的に零人は横で軽く伸びをした。


「お疲れさまです、本日はわざわざありがとうございました。よろしければどうぞ」


「わあ!」


 2人は新鮮な野菜の入れられた袋をそれぞれ手渡された。人参や大根など、どの野菜も大きい上に形が綺麗に整っている。今にでも食べたいと思わせるほど野菜の良い香りが漂ってくる。


「ありがとうございます」


「あっ、そういえば林山さん。さっき言ってた『あの都市』って何のことなんですか?」


「あぁ……今は無き都です。それは水上都市でして、そこもこの村と同じく人口の減少で霊力が不足して最後は沈んでしまいました」


「それって……?」



「──伝説の都市『アトランティス』です」



「えぇッ!?」


「あぁ、あんた達もアトランティスの亜人の末裔だったのか」


「えっ、アトランティスって実在したの!?」


「本当だぜ。ただその話は聞いてたんだが、まさかそのアトランティス出身の一族が……ましてや日本にいるとは思わなかったがな」


「まあ、ですよね。ちなみにアトランティスはかの有名な『ノアの方舟』の上に都市を築いたことはご存知ですか?」


「うぇっ!? なんか凄いこと聞いちゃったぁ! ──あれ?」



 彼らが話している最中、優人と零人の体が淡い光を放ち出していた。そして地面にはいつの間にか転送用の魔法陣が張られていた。


「おっと悪い、時間制限系の転送術だったもんでそろそろ」


「いえいえ、今日は本当にありがとうございました」


「また何かあれば呼んでください、それじゃあ────」



 2人は魔法陣の霊光の中にあっという間に包まれてその村から姿を消した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「──あ、戻ってきた。ただいま〜」



 優人は気がつくと自宅の玄関前に1人、転送されていた。手に抱えた野菜達を霊動術で持ち上げてドアノブを捻った。

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