第17話 大罪を統べる者
生徒達がざわめく教室内で教師の掛け声と共にチャイムが鳴り響く。
「はいじゃあ、ホームルーム終わり。さよなら」
『さよなら〜』
「零人君、帰ろっ」
「りょ……そいや優人、悪いが今日この後空いてっか?」
「特にないけど……なんで?」
「今日はお前に会わせたい人がいてな」
「それって誰?」
「んなぁ……まぁ説明が少し面倒いから、向こう行ってから話すわ。その人は商店街近くにある最近できたカフェにいる」
「ちなみにだけど、その人ってどんな人?」
「んん……特に問題はないが強いて言うなら『今後のことを考えて粗相はするな』ってことか?」
「そ、そう言われると怖いなぁ…………」
──いつも2人の通っている道の向かいにそのカフェはあった。そこはココ最近は学校でも話題になっているコーヒーショップ。
「あの店だ」
「ぼ、僕なんか変じゃない? 大丈夫?」
「そこまで緊張するこたぁねぇよ」
入口の鈴が鳴る。
訪れたそのカフェは小洒落た店だった。
メニューを見る限り手頃な価格の品、カウンターには珈琲を淹れている細身なベテランのマスター。珈琲豆の香りと店内に流れるジャズという大人の雰囲気が漂う喫茶店。
入店すると奥から女性店員がこちらに寄ってきた。
「いらっしゃいませ、2名様でしょうか?」
「3人です。金髪の人が連れなんですが、もう来てますか?」
「はい、それでしたらこちらへ」
店員に案内されたテーブルにはコーヒーを飲む金髪の人物がいた。スーツをビシッとした着こなしているが固すぎない雰囲気はこの空間も相まって大人の余裕のようなものを醸し出していた。
その男はこちらに気付くとゆっくり手に持っているコーヒーカップをコースターに置く。
「おっ、ちょうど良い所に。2人とも待ってたよ」
「この人は、ルシファーさん。地獄の悪魔の代表者で、俺ら七つの大罪直属の上司だ」
(るっ、ルシファー!? 漫画とかに出てくる超偉い人ですじゃん……)
バトル系漫画好きの優人は生のルシファーに羨望の眼差しを向ける。
そしてそれを聞いたルシファーは雰囲気が変わり、焦ったように零人に訂正する。
「ちょ零人、そんな言い方したら優人君が緊張しちゃうじゃん。そこまで堅苦しい感じにされると俺、窒息しちまうぜ? 悪魔だけど」
「そっか……じゃあ優人、この偉そうな人は俺らのパワハラ上司」
「してないしてない! そして温度差凄いな!! 誰がパワハラ上司じゃ、一応マジの君の上司だよ!?」
「ルシファーさんが言ったんじゃないですか」
ルシファーをイジり倒した零人は気が済んだようにフッと息を吐く。
「──と、こんな感じで俺ら大罪の能力者達にいじられてるチャラ男上司だ」
「よっ、よろしくお願いします」
色々優人もツッコミたかったが、ひとまず彼の緊張感は1ミリもなくなった。
(いつもの零人君じゃないね……すっごくグイグイ話してる)
2人が席に着くと珈琲を一口ズズっと飲んでからルシファーは話を始まる。
「2人とも急にごめんね」
「なんでいつもみたいに地獄に呼ばなかったんですか? そっちの方が早いじゃないですか」
「だって、ここのコーヒーが美味しいってSNSに載ってたからさ〜」
「あんたはJKか……」
「いや〜優人君の話は聞いてたけどさ、実際会うとやっぱ優人君凄いねぇ」
「そうですか? へへへ」
「──実際、霊力量とか正直半端ないよ?」
するとルシファーはおもむろにポケットから携帯のような機械を取り出した。霊力量というのは読んで字の如く能力者の霊力の値を示す数値である。
「じゃあ霊力量、測って見る?」
「──え? あっ、はい!」
機械をカメラのように使い優人を映した。そしてボタンや画面を数秒ほど操作した後──ルシファーは唐突に絶叫する。
「へああぁぁぁ!?」
「どど、どうしました? 僕何かおかしいかったですか?」
ルシファーの今までのテンションをぶっちぎって慌てふためき、振動でテーブルのカップがガチャガチャと鳴る。
「ちょ、零人マジでやばいってこの子! レベルがヤバい!!」
「ルシファーさん落ち着いて、店内です。そして話す前に霊力量の基準の説明しないと優人分からないですよ」
「そっ、そうか」
ルシファーは冷静さを取り戻すため、椅子に座って深呼吸しテーブルの上のコーヒーを一気に飲み干した。
「あっちゃ!!」
だが一気飲みしたせいでしたを軽く火傷する。熱さで逆に冷静になれたので舌がヒリヒリしながらもルシファーは説明を開始した。
「──まず霊力量の基準をいくつか言うよ。基本的に一般人や見えるだけの能力者は霊力量が1から10、並の霊能力者は100から300、委員会の能力者なら数千クラス」
霊力量の相場を語るにつれ、徐々にルシファーの手元が震え始めていた。
「そして大罪の能力者はアベレージが1万。零人の霊力量は普段は制限で4000にも満たないけど、霊力を完全解放した時は15600ぐらい……」
「零人君凄い! 羨ましいなぁ〜」
「霊力量じゃ俺は大したことはねぇ。それよりもお前の霊力が──」
ルシファーはゆっくりとその測定器の数字を読み上げる。読み上げる時、ルシファーの声と手の震えは尋常ではなかった。
「現在は18万だよ……」
「────えええぇぇぇぇぇ!?」
優人は衝撃のあまり椅子から落ちかけた。ルシファーも同じく動揺しているが、零人だけは落ち着いていた。
むしろこの結果に納得した様子で平然と言葉を返していた。
「へぇ、やっぱ最大値含めても俺より上だったか」
「いええぇっ!? 零人君知ってたの?」
「正確な量は知らんかったが、何となくの見当はつけてた」
零人の霊力量の1万5千に対して優人は18万。その点が何より優人も衝撃であった。
優人は実戦経験や零人の戦いを目の当たりにしてしたことで霊力が全て実力に直結するわけではないというのは重々承知しているが、それを差し引いても驚愕の事実であった。
「あ、その数値はあくまで俺が体内で自然発生させられる量だ。実際は術の使用ができっからそこは別で考えて良い」
「や、やっぱり凄かった」
優人も少し落ち着き出していたが、ルシファーはまだ手元の機械の算出した数値に目が釘付けだった。
「驚いたよ……まさかここまでとは僕でも想像してなかった。ちなみに大罪も含めて数えると優人君は世界で今、2番目に霊力量があるよ」
「ホントに!? そっ、それじゃあ1位は?」
「閻魔大王様だよ……」
「うっ────や、ヤバいですね……」
「うん、君ヤバいよ。前代未聞の霊力だよ……」
(しかも……大罪の能力者になる前でこれか。凄まじいな)
優人は衝撃と喜びで手足の震えが止まらない。そして実感も湧いていない、まさか自分が零人へ確実に近づいていることに。
だが狼狽えている2人とは対照に依然と落ち着いている零人はルシファーへ単刀直入に聞く。
「で、今日の本題は何ですか? 優人の霊力量測るだけじゃないでしょ?」
「あぁもちろん……今日優人君を呼んだ理由はつまり──『候補生』の話と試験についてだ」
「候補生って何ですか?」
「候補生は7つの大罪に次ぐ、霊管理委員会におけるトップ100位の能力者。その中でも戦闘能力の優れたひと握りは、7つの大罪を継承する。その候補生になるための試験のお誘いさ」
「試験には委員会の推薦か大罪の能力者からの推薦が必須だが、そこは俺がするから安心しろ」
「ありがとう零人君〜」
「ちなみに候補生ってのは、次の大罪の候補でもある……どうかな、この夏に優人君も試験受けてみるかい?」
「はい!!」
もちろん、優人の目指すものは決まっている。そのためならどんな試練も覚悟している。優人は決めたのだから。
──零人達は話を済ませると優人だけを帰らせて2人はカフェに残った。
「じゃあね、零人君!」
「おぅ、また明日」
優人は店を出て自宅へと歩いていった。一方、店内に残っているルシファーはまだ落ち着かない様子で席に座っていた。
「面白い子だったねー優人君、零人もよくあんな逸材見つけたねぇ」
「ホントだよ……正直なとこだと、俺の期待も想像も遥かに超えてます」
「……あっ! そうだそうだ──あの子も日本に来たよ」
「知ってますよ、白夜の『クリムゾン』が昨日の戦闘後に反応してましたからね。あの戦闘があったとはいえ、ある程度の範囲内でしかアレは発現しませんから」
「そっか。じゃその話は置いといて、今度はあの術士の持ち物からまた出てきたよ。────『Arthur』がね……」
ルシファーの雰囲気が先程までと一転して重苦しくなる。零人はその言葉にため息をついて応答する。
「……そうですか、了解しました」
「まぁ、もちろんだけど『Arthur』のことはまだ優人君に言っちゃだめだよ。このことは機密案件だから、決行する直前ぐらいまでは」
「そこら辺の分別くらいついてますよ。ただ教団の存在自体は言いますよ。優人も奴らの対象内ですから」
「ッ! そうなのか、やはり優人君も君と同じ……あれだけの霊力量や資質、異質で強力な能力があれば確かにそうか。納得だよ」
「──まあ、あいつが大罪の能力者になればどうせあの全貌を聞くことになるでしょう」
「ははっ、君も変わったね。そこまで人に肩入れするようになるとは」
「──良くも悪くもですよ」
零人は穏やかな笑顔でコーヒーを啜る。店内に香っているコーヒーの匂いと窓から見えた赤い夕焼けは、どこか寂しげで美しかった。





