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第16話 勝利の余韻

 ──強烈な暴風が舞い空気が震えている中、男の肉体の成れの果ての灰は異界の暗闇に吸い込まれるように消えていった。

 安堵感とともに白夜のワールドエンドは解除される。纏っていたタキシードは淡い光となって消え、黄金に輝く大魔の篭手は最後に光を発してスッと溶けていく。


「ふぅ……ようやく貴方からもらえましたよ、零人さん」


 白夜が抱いていた感情、それは敵を倒したことへの達成ではなかった。大切な人を危険な目にあわせ、さらに不安にさせてしまったことへの後悔と自身の未熟さに対する苛立ち。


(──今の俺はまだ()()()なんだ、このままじゃいけねぇ……誰かを守れるような人間になると、あの日誓ったことに向かって努力しねぇとな)


「シロ君!!」



 そんな想いを巡らせていると優人達が駆け寄って来る。

それと同時にこの異界術も解け始めて辺りの暗闇は霧が晴れるように消えていく。2人が白夜の目の前まで近づいた時には術が崩壊していつもの住宅街の道に戻っていた。


「シロ君、大丈夫だった!?」


「ええおかげ様で、今回は優人さんの援護もありきのことですよ」


「えへへ」



「沙耶香さんも無事で良かったで──」


 礼を言いかけた時に白夜は沙耶香に抱き着かれた。突然のことに訳が分からず、白夜は赤面した。


「──す!?」


 さすがの優人でもここは空気を読んだようでこの場を後にする。


「僕、零人君の所に行ってるね」


 その場で取り残された2人は優人が去ってもしばらくそのままでいた。白夜は自分の肩が濡れていることに気がつくと、ぎこちなかったが優しく沙耶香を抱きしめた。


「っ……」


「シロ──」


「はっ、はい」



「……アホォォォォ!!」


 抱き着かれた状態からゼロ距離で繰り出された沙耶香の膝蹴りはシロのみぞおちにクリティカルヒットした。


「おごおぉっ!?」


 蹴りをまともに食らったため、白夜は後ろへよろけて腹を抑えた。油断していたため本当に痛かった。沙耶香はまだわずかに涙ぐみながら糸が切れたように先までの不安をぶちまけた。


「マジで心配したじゃん! 私はシロの強さとか分かんないから途中ホントに死んだかと思ったわ!! ビビらせないでよ……」


 沙耶香は涙目を見られないように必死に目線を下に逸らしていた。白夜は不甲斐なく思いながらもその気持ちをとても嬉しく感じる。

 

「すいませんでした、やっぱそうっスよね……」


「──でも!」


 沙耶香はグアっと顔を上げ、恥ずかしそうな表情だがハッキリとした声で言った。


「たっ、助けてくれてありがとう……」


 沙耶香はとても恥ずかしいようで、酒でも呑んだかのように顔が真っ赤になっていた。

 心臓が締め付けられるような感覚を白夜はどこか愛おしく感じていた。

 だがさすがに恥ずかしさが限界突破したせいで沙耶香は白夜の肩を両手で突き飛ばした。


「やっぱ恥ずい!!」


「あははっ、なんか俺もっス」


「んん〜!」



 ──その頃、1人で道を歩いていた優人を零人が発見した。


「お、いたいた!優人〜!」


「あっ零人君……って屋根の上!? 凄いとこいるね!」


「とにかく無事そうだから良かったぜ、術士はやれたか?」


「うん、シロ君が倒したよ!」


「やっぱそうか……さっき一瞬シロの霊力が伝わった気がしたからな」


「そうだ!僕は今日やっと戦いでしっかりと簡易結界が出来たよぉ。式神の大群倒したー!」


「なんか最近お前、悪霊とかの耐性が完全についてきたな……でもなんでお前、まだ呪い使えるんだ? 最初は恐怖心から呪い作ってただろ」


「そっか、う〜ん……なんだろう? 最近は『頑張るぞ〜!』って思ってると使えるようになったよ」


「そうか……じゃあ、もうちっとしたら新しい技を教えるわ。そろそろまたランクアップできるぞ」


「やったー!」


(成長具合が幼児並にパネェな)


 2人が話しているとその後から白夜達もやってきた。白夜はまだ顔の赤い沙耶香を連れてきた。


「あ、お2人とも!」


「おうシロ、沙耶香ちゃんも無事で何よりだ。ところでお前、今日もしかして『カオス・デスティネーション』使ったか?なんか霊力の感じがちといつもより違うが……」


「あっはい、おまけに今日は『グリムリーパーズレクイエム』も使っちゃって……」


「だからか…………ちょっと右腕の袖捲ってくれ」


「え──あっ、はい!」


『──!?』


「シロ! これどうしたの?」


「いや〜、ハハハ……」


 袖を捲った白夜の腕は刺青のような深紅の模様が刻まれていた。その模様は白夜の腕にびっしり刻まれており、波紋や水のように流れる線が皮膚の下に描かれている。


「シロ君、これ……どうしたの?」


「あぁ、このあざはまあ──能力をめっちゃ使った時に出るんですよ。でもおかしいっスね、いつもならすぐ収まるのに……」


「多分だが、今日は能力や霊力ドバドバ使ったからな。感覚が繊細になったんだろ」


「────つまり、アイツがやって来たんですね……この日本に」


「まぁな……どこかはともかく、これだけの反応なら来てんだろ」


 会話についていけずに優人と沙耶香は同じようなキョトンとした表情を浮かべる。すると2人のキョトン顔に気づいて零人は答える。


「ま、シロのこれは問題は特にねぇよ。皆無事で何よりってことで帰るぞ。お前らの親御さんが心配してるだろうしな」


「そだね、じゃ帰ろっ!」


「シロ、とりあえずあんたのことはお父さん達も分かってるだろうけどちゃんと説明しとくよ」


「はい、勿論ッス」


 4人はゆっくりと歩いて優人の家へと向かった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ──戦いが終わり、ちょうど彼らが家に向かって歩いていく映像がとある一室の壁に映し出される。

光源は青く輝く水晶、それが投影機の役割を果たして映像の光を出している。


「んっん〜♪」


 汚れ1つない真っ白な部屋の中は何も変哲もない椅子とテーブルが1セット。テーブルにはまだ温かい紅茶とビスケットが並べられているがそれ以外には本当に何もない殺風景な部屋。

 そんな部屋で机に手を付き、ビスケット片手にスーツ姿のその男は薄ら笑みを浮かべて映像に映る優人を見つめた。


「へぇ、零人も中々面白い子見つけたねぇ──"優崎優人”君か……」


 その男は締まったスーツと対照的に金色の髪をしていた。何よりその男は人間ではない──背中から生えた黒い翼がそれを証明する。その男は、堕天使。


「零人と仲良いみたいで、僕も何よりだね〜」


 彼らが楽しそうに話している映像を見ると男は若干上機嫌となり、鼻歌交じりにビスケットを摘んだ。


「あの子は……もしかしたらダイヤの原石になる存在だね」


 尻尾のように翼をピクリと動かすと男は羽をいくつか落とす。そして映像に気をとられながら男は紅茶を1口で飲み干した。


「……あっちゃ!!」

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