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第4話 召喚獣

 優人は鼻歌を歌いながら一人、零人を待ち侘びていた。

 つい昨晩に霊能力者となった優人は朝を迎えるまでの間に自分の中で整理する。そして彼は自分が霊能力を使えるという事実に心が踊ってすっかり有頂天に。


「あ、零人君。おはよう!」


「ふあぁ……お前朝から元気だな」


 目を擦りながらあくびをする零人は一目で昂っていることが見受けられる優人へ修行の提案を持ちかける。


「早速で悪いが、今からちっと屋上行くぞ。この時間帯は安全だしな、簡単な術でも教えよう」


「本当? うわぁい!」


「夜になりゃまた霊力も回復すんだろ。さっさと済ませよう」



 やる気に溢れる優人を連れて零人は屋上へと向かった。階段を上り、屋上への扉を開く。

 その屋上からはまだ赤みのかかった空と上葉町の街が一望できた。


「鍵がなくても屋上に出れるのか」


「屋上が解放されてるって良いよね。フェンスもあるし広いから安全だし」


「確かにここは良い。能力の練習以外にも持ってこいだな」


「でも零人君、屋上は出るのに申請が必要だったり曜日指定があるけど大丈夫なの?」


「問題ねぇ、一応そのために手は回してあんだ。深堀りはしないでくれ」


「……?」



 不思議そうな顔をする優人のことは無視し、零人は指を鳴らし肩と首を軽く解した。


「今日お前に教えるのは召喚術だ」


「召喚術! それってアニメみたいにカッコいいモンスターとか呼べるの!?」


 内容を聞いた瞬間に優人は凄まじい食いつきを見せた。

 優人は少年漫画作品やその類いのアニメ作品などを好んで観ている。そんな優人にとって召喚術の練習は非常に魅力的なものだ。


「勿論だ、喚べる。まずはやり方から教える」


「ほわぁ……!」


 目を輝かせる優人の横で零人は動きを交えて説明を果たす。分かりやすく霊力を流し、優人に全てを見せつつ指導した。

 優人も見よう見まねで彼と同じ動きをトレース。


「能力の中でも魔術を使う時は身体に霊力を流すイメージを持て、霊力が循環したら召喚術の場合は悪魔を喚ぶ事を──」


「えいっ」


「んなァ?」


 零人が指導をしていたその時、先走った優人は既に術を発動させてしまった。直後、地面から三つの魔方陣が展開され、紋様が一直線上に交わり重なる。


 次第に魔法陣は次々に展開され、幾重にもの魔法陣が上空に浮かび上がっていった。


 無数の魔法陣は一斉に白光を放ち、光の中から人影が現れる。空に展開された魔法陣を潜り降り立ったのは白翼を生やした美しい女性だ。


「やったぁ! 成功したよぉ」


「お前これ、天使じゃねぇか」


 困惑した顔で零人は優人に顔を向ける。優人は何が悪かったのかと首を傾げて更に困惑。


「別に違反じゃねぇけど、基本は天使のむやみな召喚はいけねぇ。悪魔もやたらにはダメなんだが、天使の場合は役割上で面倒が多いんだ」


「し、知らなかった。ごめんね」


「つーか初回から天使の召喚に成功ってのは結構な──って、こいつラファエルじゃねぇかっ!!」


 召喚された天使の顔を確認した零人は驚いた。優人は自身の召喚した天使を見つめた。

 そして召喚された当の本人は感激した様子で降り立ったそばから包むように優人の手を優しく握る。


「少年よ。その若さにして私を喚ぶとは、なんという才能! その力を貴方が正しい道に使うことを願います。精進なさい」


「はいっ、ありがとうございます! 忙しいのにごめんなさい」


「いえいえ、問題ないですよ」


 恐るべきスピードで打ち解け合い、優人のペースについていく大天使の姿に零人は唖然。

 その様子はさながら近所の子供と遊ぶお姉さんを見ているようであった。


「それでは、またね〜」


「さようなら」


 召喚は解け、ラファエルの姿は光となって消えていった。消えるその時まで天使は笑顔で優人に手を振って去る。


「まさか、四大天使の一人を呼ぶとはな」


「さっきのお姉ちゃん、偉い人だよね?」


「そうだよ。てかラファエルをお姉ちゃん呼びすんな!」


 優人に零人のツッコミとチョップが飛んだ。


(あの反応、完全に優崎のこと気にいってたなあの人。今の感じだとこいつ天界サイド全員を引き入れられそうだなコイツ……怖っ)


「つ、次は悪魔の召喚を意識して喚べ。流石に天使の召喚が出来んなら悪魔も召喚できる筈だ」


「うん!」


 零人が指示を出した瞬間、風向きが変わった。


 二人の目の前の床に複数の魔法陣が出現し、それぞれが交わりながら更なる円を描く。霊力は紫苑に染まり、稲妻の如く魔法陣に流れて術が完成。


 遂に召喚術が発動し、魔法陣からは瘴気と共に巨大な人影が彼らの目の前に姿を現した。今回の召喚は見事に悪魔を喚び出すことに成功だ。

 しかし召喚完了から間髪入れずに零人の怒号が響いた。


「魔王じゃねぇかァァァァァァァァァ!」


「アホか!? 悪魔のトップ喚んでどうすんだよ! 正確には悪魔じゃねぇが……とにかく無駄に偉い奴召喚すんな優崎。この才能馬鹿がッ」


 零人の発言を聞いた魔王は狼狽えていた。


 見た目はそれこそゲームに出るような魔王。ローブと装飾品を身に纏い、恐ろしい顔と声、巨大な角が生えている。

 しかしその様子からはどことなく人間らしさがあり、凶悪な印象は一切ない。


「もしかして私、誤送信されたの? 自分で言うのも何だけど、間違いで呼ばれるような人間じゃないはずなんだけど……」


「悪い、魔王のおっさん。こいつ才能はあるんだが、昨日能力が覚醒したばっかで上手く扱えてねぇんだ。さっきもラファエルさん呼んじまったし」


「え、ラファエルさんも呼んだの? それ君ぐらいヤバいポテンシャルじゃん! 怖いんだけどこの子!?」


 衝撃のあまり魔王は女子高生のようなリアクションを見せる。

 そんな魔王のお茶目な姿を見ながら優人は謝罪して即座に召喚を解除。


「なっ、なんかごめんね……」


 零人のため息と共に魔王は霊力となって霧散し屋上から去る。



「──召喚って難しいね」


「お前の場合は難しさの意味が違ぇけどな」


 零人は眉に皺を寄せてしばし悩んだ後、喚び出す悪魔を明確にしようと決断した。


「それじゃあ次は簡単で扱い易い悪魔にするんだ。名前を唱えて召喚すれば間違いねぇ、とは思う」


「わかった、何ていう悪魔?」


「『ヴァーレ』って悪魔だ。この悪魔は低級で使い易い」


「分かった! 三度目の正直だぁ」


 優人が声を上げ手をかざすと、名を呼ぶ間もなく魔方陣の中から件の召喚獣が飛び出した。


 現れた召喚獣は体が黒猫に似ている。

 身体の構造のベースは猫。背からは黒い蝙蝠と類似した翼が生え、首元には金色の(たてがみ)が僅かに携えられている。


『ニャァァ』


「お、こいつだな。成功だ」


「わぁ、カッコいい~」


「やっと普通に喚んだか」


 零人は疲れた顔を見せながら次なる指示を召喚主となった優人へ言い渡す。


「簡単で良いが、ヴァーレを動かせるか?」


「うんっ! お手、おかわり、くるり、飛んで円を描いてみて」


 犬の躾のような内容ではあったが、優人はヴァーレを思い通りに動かして見せた。


『ンニャ〜』


「わぁ凄い、出来たよ。良い子だねぇ」


 しばらくの間は戯れるようにヴァーレに芸をさせて出来ると撫でる、これを優人は繰り返した。

 ヴァーレも嬉しそうに撫でられる。


「上出来だ。今はこれぐらいにして、夜になってからまた他の悪魔でも練習するぞ」


「うん!」


 ヴァーレの召喚を解除し、二人が揃って屋上を後にしようとしたその時だった。


 校舎の至る所から始業を知らせるチャイムが鳴り響く。


「ああっ! まま、まずいよ。零人君、行かなきゃ」


「やっべぇ時間気にしてなかった。これって俺ら、遅刻なんじゃねぇか!?」


 事態の深刻さに気が付いた彼らは急いでその場から走り出した。


「やらかしたぁぁぁぁ!」

「やっちゃったよぉぉ!」



 その後の二人は無事、朝のホームルームに遅刻することとなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと、視点の変わり方についていけない部分が。
[良い点] 悪魔召喚と思いきや、天使召喚。 しかもラファエルを呼ぶなんて凄い! というか更には魔王も喚んじゃってるし!? こういうテンポの良いチート能力は読んでいて、 楽しいです。 ヴァーレはヴァー…
[一言] 初めての召喚でラファエル、魔王www やだこの子こわい:( ;˙꒳˙;): 魔王の言う通り/(^o^)\
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