第10話 蠢く異変
ある放課後、優人と零人はいつものように学校を出て帰る途中であった。いつもと変わらずに2人は他愛のない話をしながら歩く。
そんな時に校門の付近から少年の声が聞こえてきた。
「優人さぁん、零人さぁん!」
道の向こう側から走り寄ってくる赤髪の少年が2人の名前を呼んでいた。
「あ、シロ君!」
「シロじゃねぇか、んなに慌ててどうしたんだ?」
それは2人の共通の年下の友人であり零人の同僚、7つの大罪の『強欲』の能力者である新川白夜。
白夜が彼らから親しみを込めて"シロ”と呼ばれており、中々定着している。犬を連想させるそのアダ名のように白夜は2人の目の前まですっ飛んで走ってきた。
「この街が今エラい大変なことになってるんですよ!!」
「え!? 何が──」
「待て。ここは人も多い……お前ら、場所を移そう」
「はい、零人さんお願いします」
「じゃあ、そこの自販機の前に行け」
3人が自動販売機の前まで歩いた時に零人が魔法陣を展開する。
零人の発動したのはスキャナーのように宙を自ら動くタイプの魔法陣。それに3人の体が接触すると接触面から体が一瞬にして転送される。人気のあまりないいつもの通学路の途中にある空き地に彼らはテレポートした。
「ひとまずシロ、落ち着いてから話せ。少しづつでいいが細かく」
「……はい」
零人は空き地のベンチに倒れるようにドサッと腰掛けると白夜にその本題について尋ねる。
「とりあえず……状況は?」
「少しヤバいです、この街にいる悪霊達の数と強さが。それには原因があるんですけどその原因っていうが──主に香菜さんなんです」
「え、香菜ちゃんが?」
「間接的にいえば優人さんも原因なんですが……」
「うそぉ……」
「事の発端は皆さんの林間合宿です──まず零人さんと優人さんという悪霊を倒す存在が街からいなくなってしまったことで悪霊が溢れました。今まで御2人が一気に奴らを倒していたので問題はありませんでしたが、むしろそれは引き寄せる効果もあったみたいで逆効果に……」
「まぁまぁ……それは想定内で俺も予測はしていた。だがそれを差し引いても異常だろう……この街は霊の集結地でもねぇのに溢れかえるほど増えたのは、西源寺が関わっているんだろう?」
「はい、香菜さんは常にこの町に"強い悪霊”を通さない結界を張っているんですが御本人が街から離れてしまい、その結界の恩恵がほとんどなくなっていました。そのおかげで1週間ぐらいは戦いっぱなしでしたよ……」
「そんな大変だったなら俺らを呼べば──」
「それができないぐらいの数だったんすよ! 昼間でもお構いなくでましたし、学校行きながらやってると悪霊退治でいっぱいいっぱいになりましたし。まぁ、ヤバそうな奴はひとまず制圧できました」
「大丈夫なの? シロ君がそんなに苦戦するなんて……」
「えぇ、この前お2人がアンラマンユを退けて頂いたお陰で他の悪霊も一緒にいなくなりました。加えて香菜さんと零人さんには昨日、大暴れして頂いたので悪霊はいなくなりました」
「あぁ…………あれが少しは役立って良かったよ、2度と御免だけどな」
「──でもシロ君は僕達がこの町に帰って来てからもずっと悪霊と戦っていたんだよね? なのに僕も零人君も強い悪霊がいたなんて気がつかなかったよ」
「そう言われりゃ──」
昼間でも活動ができるのはそれ相当の霊力持つ悪霊や魔獣だけ。だがそれほど巨大な霊力を放つ存在がいれば2人が気付かないことなど、ほとんどありえないのだ。特に零人がそんな霊力を感知しないなんてことは違和感があり過ぎる。
「それが今日伺った理由です。昨日委員会を通じて調査したのですが──おそらく術士が関与しています。しかもそいつは以前俺が地獄送りにした術士の兄弟のようで」
「そうか……はた迷惑な兄弟がいたな」
「その兄弟は以前から委員会のブラックリストに載っていた異界術の兄弟です。弟が現在この町に潜伏しているということが判明したと言っていたので、お2人や香菜さんにも協力して貰いたいんです」
「分かった、俺もすぐに探しにいこう。俺は捜索しつつ解析やら追跡の準備をしておく、優人はシロと行動だ。仮に兄弟で能力の系統が似てんならシロと相性が抜群だからな」
「うん、シロ君お願い!」
「はいっ、お任せ下さい」
彼らは二手に分かれて走り出した。優人と白夜は住宅街を疾走し、零人は民家の屋根に飛んでいった。
────3人が術士の捜索を開始したその頃、優人の自宅にてある異変が起きていた……
「嶺花、沙耶香いるか分かるか? ちょっと聞きたいことがあってな」
優人の父である仁は妻の嶺花に尋ねた。すると嶺花は不思議そうな表情で首を傾げて答える。
「さやちゃんなら……さっき部屋に行きましたよ?」
「えっ? おかしいな、今ちょうど部屋に行ってきたんだが……」
仁が沙耶香の部屋を訪れた時、部屋の中には娘はおろか誰一人部屋の中にはいなかった。ただ……窓から吹く風が部屋の中を舞っているだけ。
──魔の手はすぐそこまで届いていた。





